ボッシュ×Microsoftの協業、「OTA」「オープンソース化」がキーワード

ソフトウェアプラットフォームの開発競争が激化



出典:ボッシュ・プレスリリース

自動車部品大手の独ボッシュが米マイクロソフトと協業し、車両とクラウドをシームレスにつなぐソフトウェアプラットフォームの開発に着手することを、2021年3月2日までに発表した。2021年末までに完成させる予定という。

車載ソフトウェアの開発や管理、更新を容易にするソフトウェアプラットフォームは、今後の自動車産業において存在感を大きく増し、まもなく必要不可欠な「自動車OS」として定着するものと思われる。







両者の取り組みとともに、自動車業界におけるソフトウェアプラットフォームの重要性について解説していく。

■ボッシュとマイクロソフトによるソフトウェアプラットフォームの概要

マイクロソフトのAzureをベースにした新しいソフトウェアプラットフォームには、ボッシュのソフトウェアモジュールが組み込まれており、ソフトウェアの開発やコントロールユニット、車載コンピュータへダウンロードすることができる。

ソフトウェアの開発プロセスを効率化するツール開発にも重点を置いており、車載ソフトウェアの開発コストの低減や実装スピードを速めることで、開発者・利用者双方に利便性をもたらすとしている。

ボッシュは、車両のOTA(Over the Air)アップデートに不可欠なE/E(電気/電子)アーキテクチャやコントロールユニット、車載コンピュータに関する深い知見を提供するほか、保有車両の一括OTAアップデートが可能なクラウドベースのソフトウェアモジュールといった専門技術も提供する予定としている。

また、業界全体でコードの再利用やベストプラクティスの共有を促進するため、コードやプロジェクトを共有可能なソフトウェア開発プラットフォーム「GitHub」を活用し、新しいソフトウェアプラットフォームの重要コンポーネントのソースをGitHub上で公開することも視野に入れているという。

■進行する自動車のコンピュータ化
背景に自動車の電子制御技術の進化

こうした背景には、自動車の電子制御技術の進化が挙げられる。従来、アクセルやステアリングなどによる自動車本来の機能は機械的な機構で制御されていたが、近年は電子制御技術の進化に伴い、エンジンをはじめとする非常に多くの装置が電子制御化されている。

カーエアコンやカーナビ、ヘッドライトといった電気機器類はもとより、走る・止まる・曲がるといった自動車本来の機能も、車載向けの組み込みコンピュータECUによって電子制御されているのだ。

昨今のCASEトレンドで状況が一変

搭載されるソフトウェアが年々増しているが、これまでの自動車産業においては、ソフトウェアを更新することなく各車種のライフサイクルを全うできるケースが大半だった。

こうした安定した環境を、ADASや自動運転技術、コネクテッド化といった昨今のトレンドが一変させようとしている。

ADASや自動運転の目となる各種センサーは、自動車の制御と結びつきながらソフトウェアで制御されるが、日進月歩の進化が現在進行形で図られているため、ソフトウェアの更新サイクルは極めて短い。新車販売時のソフトウェアは、車両がライフサイクルを全うする前に時代遅れのものとなり、更新しなければ著しく価値を落としてしまう。

また、自社グループ外の製品を採用するケースも増加しており、ソフトウェア制御における複雑性も大きく増している。独立した制御ユニットモジュールが1つの車両に多数搭載されており、車両に求められる安全基準を担保しつつ、さまざまなソフトウェアを管理する複雑さが顕在化し始めたのだ。

一方、コネクテッド技術により「つながるクルマ」と化した自動車は、車両の状態や走行状況などを遠隔管理することが可能になったほか、スマートフォンと連動し、エンジンの始動やドアの解錠などを行う機能なども付加されるようになった。

「アップグレードありき」がスタンダード化

コネクテッド化によりOTAによる無線更新も可能となったため、アップグレードありきでソフトウェアを搭載し、機能を拡充していくシステム設計も一部でスタンダード化され始めている。

通信技術を活用し、スマートフォンなどの外部機器や端末などと自動車の制御を結びつけるシステムは、ユーザーに大きな利便性をもたらす。しかし、その裏で自動車のソフトウェア依存率はさらなる高まりを見せ、制御システムなどの複雑性がいっそう増しているのも事実だ。

従来、機械的に制御されていた各種機能が電子制御化され、ソフトウェアによって連動することで自動車は大幅な進化を遂げる一方、無数のソフトウェアによってコンピュータと化した自動車においては、ソフトウェアそのものの適切な管理が求められるようになってきたのだ。

■ソフトウェアを一元管理するプラットフォームの必要性

ADASの高度化や自動運転レベル3の実装、そしてコネクテッド化により、今後の自動車はますますコンピュータとしての色を強めていくことになる。スマートフォンやパソコンなどと同様、各車両をOTAによって柔軟に更新することが求められる時代が訪れるのだ。

こうした際に求められるのが、すべてのソフトウェアを統合管理するプラットフォームだ。今回のボッシュとマイクロソフトの取り組みは、ソフトウェアプラットフォーム、いわば自動車においてOSのような役割を担うプラットフォームを構築することで、各ソフトウェアの更新などを一元管理することを可能にするものだ。

こうしたプラットフォームがセキュアな環境を保ちながらソフトウェアの更新を容易にすることで、自動車のコンピュータ化・コネクテッド化はますます加速していくものと思われる。

■オープンプラットフォームの可能性

今回の発表でもう1つのポイントとなるのが、GitHubの活用だ。両社は業界全体の開発を促進するため、「新しいソフトウェアプラットフォームの重要コンポーネントのソースをGitHub上で公開する」ことを視野に入れている。

これは事実上のオープンソース化と言える。どのレベルの重要コンポーネントのソースを公開するかは不明だが、公開されたソースを通じてサードパーティなどに開発の輪が広がっていくことは間違いない。ハードウェアを意識することなく、プラットフォーム上で動作するプログラムの開発に集中することが可能になり、開発効率は格段に向上する。

また、早期にプラットフォームを公開して開発勢を取り込むことで、シェアを確保する狙いもあると思われる。ソースコードをオープン化することで絶対的なシェアを固めたAndroidに代表されるように、ソフトウェアプラットフォームビジネスにおいては常道となりつつある戦略だ。

世界最大手クラスのティア1サプライヤーであるボッシュがこうした手法を導入すれば、自動車産業の変革に直結する出来事となる。100年に一度の大変革はこうした場面にも訪れているようだ。

■ソフトウェアプラットフォーム開発の動向

自動車分野では、標準ソフトウェアアーキテクチャの策定や確立を目指す動きが21世紀に入ってから活発化している。代表格は2003年に発足したグローバル開発パートナーシップ「AUTOSAR」で、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、ボッシュ、コンチネンタルらの参画のもと、業界標準となるソフトウェアアーキテクチャをリリースしている。

個別の取り組みとしては、コンチネンタルが開発した車載アプリケーションサーバー「ICAS1(アイキャスワン)」が、フォルクスワーゲンの新EV「ID.」に採用されたことが2019年11月に発表されている。

高性能コンピュータープラットフォームとして各制御ユニットモジュールを集約し、車両の機能全体を制御することが可能だ。こうしたプラットフォームの採用によってハードウェアとソフトウェアを分離することで、OTA技術による即時アップデートも実現可能にしている。

ZFも技術見本市「CES 2021」で新開発したオープンソフトウェアプラットフォームを公開したほか、ブラックベリーとアマゾンも2020年12月にクラウドベースのソフトウェアプラットフォーム「IVY」を共同開発したことを発表するなど、各社が開発に力を入れているようだ。

■【まとめ】自動車OS開発競争が一気に熱を帯びる

ソフトウェアプラットフォームがミドルウェアやOSとして機能することにより、各ソフトウェアの管理に利便性や信頼性をもたらすことになる。この「自動車のOS化」に早くに着目したブラックベリーは、業績を大きく伸ばしている。

一般乗用車のコンピュータ化が進み、OTAによるソフトウェア更新を前提としたシステムとなっていくのはほぼ既定路線で、ティア1であるボッシュなどがこの分野に本格注力し始めたことが象徴するように、自動車OSをめぐる開発競争が今後一気に熱を帯びるものと思われる。

しばらくは自動車メーカーや部品メーカーごとにOSが乱立する可能性が高いが、将来的に再編・統合されていくのか、あるいは自動車産業独自の進化を遂げていくのか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転OS、デファクトスタンダードの座を巡る激戦の構図」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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