自動運転エンジニア、そろそろ「用済み」?年収ピークはいつ?

技術の「コモディティ化」で



引く手あまたの自動運転開発エンジニア。技術者らの争奪戦は今なお熱気を帯びている。ルールベースに基づく自動運転技術は成熟期を迎えつつあり、上位勢はグローバル化を推し進める段階に至った。


一方、エンドツーエンド(E2E)モデルもレベル2++水準に達しており、自動運転化も視野に収まり始めた。開発フェーズはまだまだ続きそうだ。

しかし、どれほど最先端の技術であっても、遅かれ早かれコモディティ化する日が必ず訪れる。エンジニア争奪戦もいつの日か終わりを告げ、その待遇は変化していくのだろうか。年収はどのように推移していくのだろうか。

自動運転開発のピークについて考察してみた。

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■自動運転開発の現状と未来

2010年代に開発熱が急上昇、エンジニア争奪戦が始まる

2010年代、グーグルによる自動運転開発をきっかけにその開発熱は各社へ広がり、一大開発ブームが到来した。グーグルの初期開発組は、新会社Waymoに残る者と独立する者などに分かれ、スタートアップが乱立した。


開発競争は急過熱し、アップルやテスラといった有力テック企業を巻き込みながらエンジニア争奪戦が始まった。独自技術や機密情報を持ち出すなどし、訴訟沙汰となる例が今でも起こっているほどだ。

ヘッドハンティングされるクラスのエンジニアは、数千万円、場合によっては億超えの高待遇も出始めた。通常の中途採用も2千万円~4千万円が相場となった。日本と賃金水準そのものが異なるが、日本で言えば1,000万円超が当たり前――といった水準だろうか。この賃金水準は今なお続いている。

AI系エンジニアの絶対数が少ない日本でも自動運転エンジニアの待遇は上がり続けている印象が強い。売り手市場が続いており、各種エンジニア全般の待遇は他業種に比べ高水準で、中途採用の求人で700万~1,000万円が相場となっている。1,000万円超を提示する企業も珍しくなくなってきた。

開発トレンドはルールベースからE2Eへ

Waymoら先行勢は、ルールベースに基づく自動運転技術を実用化しており、その技術水準は海外展開を開始する域に達している。自国における横展開は比較的スムーズに行えるが、他国は交通環境やルールが異なるため、改めてデータを収集し、学習し直さなければならない。


自国においても、99%の安全性を99.9%、99.99%……とさらに磨き上げていく必要があるため、開発は今なお続けられている。

このルールベース開発と並行する形で近年トレンドとなっているのがE2E技術だ。カメラなどのセンサー情報をもとに直接AIが認知・判断する仕組みで、より人間に近い応用力のある自律走行が可能になる。ルールベースでは無理と言われるレベル5への道を切り拓くアプローチだ。

Waymoら先行勢が技術を競っていた2010年代、E2Eは実現困難な将来技術扱いをされていたが、AI技術の急激な進化で実現可能性が高まり、一気に開発トレンドとなった。

E2E技術に関しては、早くから開発を進めていた米テスラが「FSD」に活用し、市街地など広範囲でハンズオフ運転を可能にする自動運転レベル2++を北米などで実装しているほか、レベル4相当のロボタクシーも2025年に実用化している。

ロボタクシーはやや不完全な面もあり、フリートの大半はセーフティドライバーが同乗している状態で、実質的にレベル4に満たないとも言えるが、それに近い水準に達していることも事実だ。

英Wayveや中国Momentaなど、E2E開発に早期着手している企業のほか、Waymoらルールベースで先行している企業も軒並みE2E開発を本格化している。

レベル5の実現にはまだ時間を要するだろうが、意図的に自律走行可能なエリアを区切るなどレベル4の段階を踏むことで、E2E自動運転が本格実用化される日は早期に訪れることとなりそうだ。

自動運転開発における「ルールベース」「E2Eモデル」を解説!開発事業者の動向やトレンドも

E2E開発は2030年代にピークを迎える?

このように、ルールベースは一定水準に達したもののまだまだ開発の余地は残されており、トレンドとなっているE2Eは旬を迎え始めた――といったところだ。

精度を増し始めたE2E開発競争が今後激化していくことになると思われ、この領域に向けたエンジニア争奪戦もしばらく熱を帯びることになりそうだ。

では、このエンジニア争奪戦はいつまで続くのか。ルールベースに関しては、前述したとおり先行勢の技術は一定水準に達しており、E2E技術の進化度合いによっては一気に旧式扱いされる可能性も出てきた。

ただ、E2Eに全幅の信頼を寄せるにはまだ時間がかかりそうで、Waymoら既存勢力の間では、しばらくの間E2E×ルールベースの複合型として存在感を発揮しそうだ。

E2Eは、おそらく数年の間にレベル4相当の技術に磨き上げられ、2020年代のうちに複数社が自動運転サービスに着手するものと思われる。並行して、自家用車領域におけるレベル2++の商用化が本格化する可能性が高い。

国際基準などに左右される面もあるが、E2Eを中心にADASや自動運転市場が拡大していくことはまず間違いない。レベル2++で相当数の自家用車から効果的にデータを集め、自動運転開発を加速していくことも想定される。テスラ流がスタンダードとなっていくのだ。

このE2E技術がどのタイミングで成熟期を迎えるかがポイントだ。開発の勢いはすさまじく、2030年前後にはレベル4としてスタンダードな水準に達し、2030年代中にレベル5相当に達するのでは……と思えるほどだ。

このレベル5の水準にいつ達するかが重要なマイルストーンとなる。現在考えられている自動運転の概念において、レベル5は最高峰の技術となる。すべての道路で制限速度を満たす自律走行を実現し、通常レベルの悪天候にも対応できる。人間のドライバーが走行可能な条件をすべて満たす水準だ。

開発ピークとともにエンジニアの待遇も頭打ちに?

レベル5が実現されれば、高まり続けた開発熱は収束に向かう。生成AI同様、2番手、3番手集団もそれほど遅れることなく実用化を開始し、精度の差はあれども目標を達成した格好となる。骨身を惜しまぬ開発体制は解除されるのだ。

エンジニアらの争奪戦も終了し、高待遇が解かれるのもその前後となる。お役目終了となり、開発チームは徐々に縮小されていく。自動運転エンジニア全体の年収もそこをピークに下がっていくのではないだろうか。

どれほど高度な技術も時間とともにコモディティ化し、当たり前の存在となっていく。専門的な自動運転エンジニアは必要なく、一般エンジニアが保守管理する水準となっていく。

幅があるが、その時期は2030年代中に訪れる可能性が高い。AI分野にさらなるイノベーションが発生すれば2030年代早期に、遅くとも2040年より前に訪れるものと思われる。AIが人間の知能を超える転換点「シンギュラリティ」は2045年ごろと予測されていたが、現在の進化速度を踏まえれば前倒しが濃厚だ。自動運転AIも望外な進化を遂げていくことになるだろう。

さらなる高度化に向けた取り組みも

もちろん、レベル5を実現するAIが完成しても、そこですべての開発が終了するわけではない。安全性を踏まえればこの手の開発に終わりはなく、トップレベルの企業ではより高精度なシステム構築を目指す開発が継続される。

ホワイトアウト時などにおいても自律走行可能なODDの拡張、既存の交通ルール、例えば制限速度を大幅に超えた走行における安全な自律制御、死角すらも検知可能にするパーセプション技術など、進化の道は延々続くのだ。

■【まとめ】開発当事者としてシンギュラリティを迎えよう

技術がコモディティ化すれば、最先端を目指す開発企業やプロジェクトは減少し、トップクラスのエンジニアの需要も減少していく――という流れは避けられない。レベル5が完成する頃には、開発企業そのものの淘汰も相当進んでいる可能性も考えられる。

ただ、市場の拡大期にはさらなる高待遇も見込まれる。ピーク後も、最先端技術の開発に取り組んできた経験値を新プロジェクトで生かすことができれば、高年収は継続される。

AI領域の動向は予測が難しいが、その価値はなお高まり続ける。開発当事者としてシンギュラリティを迎える――というのも、格別な経験になりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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