「自動運転車」を買ったら保険料は安くなるのか

自動運転レベル3が分岐点



自動運転車を買ったら、自動車保険はどうなるのか。


結論から言えば、保険で誰が責任を負うかは自動運転レベルによって変わり、レベルが上がるほど責任はドライバーからメーカーやシステム側へ移っていく。そして保険料が下がる可能性と、これは誰の保険なのかという新たな問いが、同時に生まれている。

背景にあるのは、自家用の自動運転車が現実味を帯びてきたことだ。ただし、2026年現在、個人が購入できる自動運転車は実質的にレベル2止まりであり、レベル3以上の市販車はほぼ存在しない。米Google系のWaymoがロボタクシーで先行し、国内でも日産が2027年度に世界初の自家用レベル4車両の発売を計画するなど、高レベルの自動運転は「近い将来」の話だ。

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■「自動運転車」を買ったら保険料は安くなるのか

「自動運転車」を買ったら保険料は安くなるのか。この問いに一言で答えるなら、レベル次第、である。自動運転には米自動車技術会SAEが定める段階があり、運転支援にとどまるものから、システムがすべてを担うものまで幅広い。レベルが上がるほど、運転の主体はドライバーからシステムへ移っていく。

ここで重要なのは、運転の主体が移れば事故時の責任の所在も移る、という点だ。責任が誰にあるかは、保険の設計を根本から左右する。そのため「自動運転車を買えば保険料が下がるのか」という問いには、保険料が下がる可能性と、これは誰の保険なのかという制度的な問いが、表裏一体で付いてくる。


日産が2027年度に世界初の自家用レベル4車両の発売を計画するなど、自家用の自動運転車は現実味を帯びてきた。「買えるのか」の次に来るのは「保険や維持費はどうなるのか」という実用的な疑問だろう。

【自動運転ラボの視点】
レベルが上がれば事故時の責任はメーカー側へ移る。保険料は理論上下がり得るが、制度設計はこれからだ。買えるかの次は保険はどうなるかを見る段階に入ったと言える。

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■自動運転レベル2は従来通り、保険責任はドライバーに残る

まず押さえておきたいのは、いま市販されている「自動運転っぽい車」の多くが、法的には自動運転レベル2にとどまるという事実だ。レベル2は運転支援であり、システムが操作を補助しても、周囲を監視し、いつでも運転を代われる状態でいる責任はドライバーにある。つまり保険は、今とほとんど変わらない。

象徴的なのが米EV大手Teslaテスラ)だ。テスラは運転支援機能FSDをレベル2と位置づけ、事故時の責任をドライバーに帰属させ続けている。米運輸省道路交通安全局NHTSAの調査文書でも、テスラ自身がFSDを常時注意義務を負う運転者を要するレベル2の部分自動化システムと特徴づけていることが明記されている。名称に「フルセルフドライビング」と付いていても、法的には自動運転車ではない。

一方で、レベル2でも保険料の考え方は静かに変わり始めている。テスラは自社で保険事業を手がけ、車両から得られるデータを使って保険料を算定する仕組みを進めてきた。運転支援の安全性や走行データを保険料に反映させる動きだ。レベルが上がらなくても、データによって保険料が変わりうる。これが、保険料は安くなるのかという問いへの最初の手がかりになる。

■自動運転レベル3で責任が動く、メルセデスが示した先例

自動運転レベル3になると、保険の風景が変わる。レベル3は、定められた条件下ではシステムが運転の主体となる段階だ。作動中に起きた事故の責任は、ドライバーではなくメーカー側へ移り得る。これがレベル2との決定的な違いである。

その先例を示したのが、独高級車Mercedes(メルセデス)のDrive Pilot(ドライブパイロット)だ。メルセデスは、システムが作動している間の事故についてメーカーが法的責任を負う方針を明確にした。事故の責任をメーカーが引き受けると公に示した点が画期的だった。ただし、システムからの運転の引き継ぎ要請にドライバーが応じなかった場合は、責任はドライバーに戻る。

国内に目を向ければ、自動運転レベル3の市販車としては2021年のHonda(ホンダ)のLEGEND(レジェンド)が世界初だった。現在は販売を終えているが、責任の所在をめぐる議論の出発点になった。レベル3では、事故の原因がドライバーの不注意なのか、システムの不具合なのかで責任の向き先が変わる。従来の自動車保険が想定してきたドライバーの過失か製造物責任かという切り分けは、ここで一気に複雑になる。

【参考】関連記事としては「自動運転、日産が世界初「自家用車レベル4」発売へ」も参照。

自動運転、日産が世界初「自家用車レベル4」発売へ

■自動運転レベル4は個人向け保険が未整備

では、システムが運転を完結させる自動運転レベル4ではどうか。結論から言えば、日本だけでなく世界中どこでも同じである。個人が買って乗るレベル4のための保険制度は、まだ整っていない。

制度面の前提を確認しておく。2022年4月に成立し2023年4月に施行された改正道路交通法によって、レベル4は特定自動運行として公道で解禁された。2026年時点では、全国で複数の地域でレベル4の定常運行や継続実証が行われている。ただし許可の対象は、事業者が提供する移動サービスや物流サービスが中心だ。個人がレベル4の車を所有して公道を走るという使い方は、まだ想定されていない。

保険も、この業務用先行の流れに沿っている。国内ではレベル4以上に対応した自動運転システム提供者向けの専用保険が開発されているが、これは被保険者がシステムを提供する事業者であり、サービスに組み込む形で提供される法人向けの仕組みだ。個人ドライバーが加入する自動運転対応の保険商品が確立しているわけではない。日本損害保険協会も、国内外の動向を注視し必要に応じて検討すると述べる段階にとどまる。

つまり、レベル4の車は走っているが、自分が買って乗るレベル4の保険はまだない。これが日本の現在地である。自家用レベル4が市場に出てくる前に、保険制度の設計が追いつくかどうかが問われている。

テスラ ついに自動運転レベル4認定へ 自己申告制度の隙をついたか

■「自動運転車」を買って保険料は安くなるのか、答えはレベルと制度次第

「自動運転車」を買ったら保険料は安くなるのか。ここまで見てきた通り、答えはレベルと制度次第、である。自動運転レベル2なら保険は従来通りでドライバーが責任を負う。レベル3では作動中の事故でメーカー側に責任が移り得る。レベル4は個人向けの保険制度がまだ整っていない。

理論的には、自動運転が普及して事故が減れば、保険料は下がる方向に向かう可能性がある。テスラのようにデータを使って保険料を最適化する動きも、その芽だと言える。だが、保険料が下がるかどうかという損得の話の手前に、これは誰の保険なのかという問いが横たわっている。ドライバーか、メーカーか、システム提供者か。責任の所在が複雑になるほど、保険は単純な値下げ競争では片づかなくなる。

日産が2027年度に自家用レベル4の発売を計画する今、自動車保険は過渡期にある。保険料という一点だけを見るのではなく、誰の保険かという制度全体の組み替えが進む途中なのだと捉えておきたい。自動運転車を買うかどうかを考え始めた読者にとって、保険の行方は、その判断を左右する実用的な論点になっていくだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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