イーロンマスク 太陽光発電から撤退か 創業理念が消える?

SpaceX上場と自身の報酬が引き金?



米EV大手Teslaテスラ)のイーロン・マスクが、創業以来の理念だった太陽光電気経済への移行から事実上離れつつあるとの分析が広がっている。米メディアTechCrunchが2026年5月23日、マスク傘下のAI開発企業xAI(エックスエーアイ)の事業実態をもとにそう論じた。掘って燃やす化石燃料経済からの脱却を掲げてきた創業者が、自らの別事業でその逆を進めているという指摘である。


きっかけは、宇宙開発企業SpaceX(スペースX)が同月に公開したIPO申請書類だ。xAIはデータセンターの電力を未規制 of 天然ガスタービンで賄い、さらに28億ドル分の追加購入を計画している。テスラがかつて掲げた化石燃料を排除する計画とは正反対の動きだと言える。そしてSpaceXは2026年6月、xAIを取り込んだ巨大企業として史上最大規模の株式上場へと向かっている。

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■太陽光発電から撤退か、マスクの創業理念が消える分岐点

テスラはこれまで4本のマスタープランを公表してきた。細部は変遷したが、一貫していたのは経済の電化という筋だった。マスクは初代マスタープランでこう記した。テスラの根本的な目的は、掘って燃やす炭化水素経済から太陽光電気経済への移行を加速させることにある、と。クリーンエネルギーこそが事業の存在理由だったのである。

ところが、わずか3年前に公表されたマスタープラン・パート3では「化石燃料を排除する計画」を丁寧に描いていたにもかかわらず、足元のマスク帝国はその理念と逆方向に進んでいる。創業理念と現実の事業との乖離が、ここにきて誰の目にも見える形で表面化したと言える。

【自動運転ラボの視点】
EVと自動運転で業界を牽引してきたテスラ。その創業理念が宇宙とAIの陰で薄れていく構図は、自動車産業の脱炭素の旗手が変質しつつある兆候とも読める。理念の行方は業界全体への問いだ。

【参考】関連記事としては「イーロンマスク、無収益で涙目?2027年は完全自動運転実現で巻き返し狙う」も参照。


■xAIが選んだ天然ガス、28億ドルが意味するもの

理念からの離脱を最も象徴するのが、AI開発企業xAI(エックスエーアイ)の電力調達だ。xAIはデータセンターの稼働に、未規制の天然ガスタービンを多数使用している。さらに28億ドル分のタービンを追加で購入する計画があり、AI事業における化石燃料の役割を事実上固定化しつつある。

クリーンエネルギーで帝国を築いた経営者としては奇妙な転換だ。マスクは自社グループ間の取引にも躊躇がない。SpaceX(スペースX)は1億3,100万ドルを投じて1,279台のCybertruck(サイバートラック)を購入し、xAIは過去2年でテスラの大規模蓄電池Megapack(メガパック)を6億9,700万ドル分購入してきた。一方で、xAIがテスラから意味のある量の太陽光パネルを購入した形跡はない。蓄電池は買っても、太陽光は買っていないのである。

なぜ太陽光ではなく天然ガスなのか。背景にあるのはAIの電力需要の急増だ。データセンターを一刻も早く立ち上げる必要に迫られたとき、すぐに発電できる天然ガスが現実解として選ばれた。理念より速度が優先された結果だと言える。ただしこの選択は、クリーンエネルギーを長年訴えてきたブランドとの矛盾を業界に強く印象づけた。

【参考】関連記事としては「テスラとSpaceXが合併?544兆円の帝国誕生で自動運転とAIの覇者へ」も参照。


テスラとSpaceXが合併?544兆円の帝国誕生で自動運転とAIの覇者へ

■宇宙へ向かうマスク、地上の太陽光をどう位置づけるか

太陽光発電そのものをマスクが捨てたわけではない。SpaceX(スペースX)のIPO申請書類に太陽光が登場しないわけではなく、その記述はすべて宇宙に集中している。同社は宇宙こそがデータセンター電力の未来だと位置づけているのだ。

マスクをはじめシリコンバレーの経営者が宇宙太陽光発電に強く惹かれているのは公然の事実だ。SpaceXは、24時間休みなく日射を受けられる宇宙の太陽光アレイは、地上のものより5倍以上のエネルギーを生み出せると主張する。地上のデータセンターが住民の反対に直面するなか、宇宙に巨大なサーバー群を浮かべ、絶え間ない日射で動かすという構想が真剣に語られ始めている。

もっとも、経済性は楽観できない。データセンターを軌道へ打ち上げるコストを下げられたとしても、宇宙での電力単価は地上のデータセンターの数倍にのぼり、宇宙環境からチップを守るのも容易でも安価でもない。AIの学習を複数の衛星に分散できるかも不透明で、相当部分の処理は地上に残る可能性が高い。TechCrunchはここで皮肉を効かせた。太陽光パネルをトラックの荷台で運ぶほうが、軌道へ打ち上げるよりエネルギーを使わないはずだ、と。完璧を求めて宇宙を目指す前に、地上でやれることはまだ多く残されている、という指摘である。

■テスラのブランドは何に変わったのか

ここで問われるのが、テスラという企業の輪郭である。かつて「EVと太陽光の会社」だったテスラは、いまやマスクの宇宙とAIをめぐる事業群の一部品へと位置づけが変わりつつある。その変化を決定づけたのが、企業の合従連衡だ。

SpaceX(スペースX)は2026年2月2日、xAIを全株式交換で買収した。合算の評価額は1兆2,500億ドルにのぼり、ロケット、衛星、AIインフラ、データ基盤がマスクのもとに一つに束ねられた。5月に世間を騒がせたのはこの合併そのものではなく、その新体制を前提とした株式上場の申請書類が公開されたことだった。合併は2月、申請書類の公開は5月という時系列を押さえておきたい。

申請書類が描き出したのは、もはや従来のSpaceXではなかった。xAIの巨額の資金流出が初めて連結の財務に取り込まれ、2025年通年では49億4,000万ドルの純損失、2026年第1四半期だけで42億8,000万ドルの純損失を計上した。前年に黒字だった企業が、AIセグメントの赤字を主因に一気に赤字へ転落した形だ。さらに皮肉なことに、xAIの大規模データセンターColossus(コロッサス)の演算能力は、マスクが公然と批判してきた競合のAnthropic(アンソロピック)が月額12億5,000万ドルで2029年まで利用する契約になっている。理念だけでなく、競合関係さえも事業の論理に飲み込まれているのである。

テスラ自体の自動運転・ロボタクシー市場での歩みも、この構図と無縁ではない。テスラはなおEVと自動運転の主要プレーヤーであり続けるが、創業者の関心の重心が宇宙とAIへ移るなかで、テスラの位置づけは静かに変わりつつある。自動運転タクシー市場の競争が世界規模で激化するいま、テスラのブランドが何を意味するのかという問いは重みを増している。

■テスラが挑む自動運転、FSD展開とロボタクシー計画

テスラは現在も自動運転技術の最前線に立つ企業だ。完全自動運転(FSD)ソフトウェアの有料サブスクリプションは北米を中心に展開が進み、2026年には一般公道での完全無人タクシー「サイバーキャブ」の量産計画も正式に発表された。マスクが創業した会社の本業は、依然としてEVと自動運転にある。しかし創業者の目線が宇宙・AIへ移るにつれ、テスラの自動運転戦略を実質的に率いる人材や投資の行方にも変化が生じている。テスラが自動運転でどこまで本気を貫けるか、それは創業理念の変質を問う問いとも重なっている。

■消えゆく創業理念、テスラはどこへ向かうのか

太陽光電気経済という創業理念と、天然ガスに依存する現実の事業。その距離は、もはや誇張ではなく数字と契約で裏づけられる段階に入った。テスラの理念は本当に消えたのか、それとも宇宙という舞台へ形を変えただけなのか。評価はまだ定まらない。

確かなのは、SpaceX(スペースX)が2026年6月、xAIを取り込んだ巨大企業として史上最大規模の株式上場に踏み出すという事実だ。公開価格は1株135ドル、想定の時価総額は1兆7,500億ドル、調達額は最大750億ドルにのぼる見込みで、これはサウジアラムコを上回る史上最大のIPOになる。地球上の太陽光から距離を置いたまま、マスクの帝国は宇宙とAIへ巨額の資金を吸い込んでいく。

創業理念が消えるのか、進化するのか。その答えは、軌道上のデータセンターが現実になるかどうか、そこでテスラがEVと自動運転の旗手であり続けられるかどうかにかかっている。掘って燃やす経済からの脱却を掲げた企業の物語は、いま大きな分岐点に立っている。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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