
自動運転の世界共通ルールが、今月ついに採決の瞬間を迎える。国連の車両規制調和フォーラムWP.29が6月23〜26日の会合で自動運転システムADSに関する世界統一規則を採決し、可決されれば国際レベルでは即日発効する。技術の成熟と規制づくりに積み重ねてきた長い議論が、4日間の会合で一つの結論にたどり着く。
採決にかけられるのは一本ではない。米国や中国などが用いる世界技術規則GTR(グローバル技術規則)と、日本やEU、韓国などが国内法に取り込むUN規則(UN Regulation)の二本立てだ。この規則を作ってきた自動運転専門部会GRVAで、日本は副議長として議論の中核を担ってきた。世界のルールがどの基準を土台に決まるのか。その分岐点が今月に迫っている。
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■自動運転の世界ルール、今月23日からの4日間で何が決まるのか
今月23日から26日にかけて、自動運転の世界ルールが決まる。国連の車両規制調和フォーラムWP.29がスイス・ジュネーブで会合を開き、自動運転システムに関する世界統一規則の採決にかけるからだ。可決されれば国際レベルでは即日発効する。ただし各国が自国の法律に反映する国内規制の整備は、採択後に別途進むプロセスとなる。
この4日間は、いきなり白紙から議論するわけではない。規則の草案は自動運転専門部会GRVAが今年1月19〜23日の会合ですでに採択済みで、6月の会合はそれを正式な規則として確定させる最終ステップにあたる。会期中の採決は24日に行われる見通しだ。長く積み重ねてきた議論が、ここで一区切りを迎える。
決まる中身も具体的だ。規則の核心は「安全ケース」と呼ばれる考え方にある。「時速何km以下で止まれ」といった細かな数値を一律に押しつけるのではなく、自動運転システムが少なくとも有能で慎重な人間のドライバーと同等の安全水準で動くことを、メーカー自身が根拠を示して証明する枠組みだ。さらに開発から市販後までを通した安全マネジメントシステムSMS、自動運転用のデータ記録装置DSSADの搭載なども求められる。何をどう守らせるかという中身まで含めて、今月の採決で固まる。
世界ルールの確定は終わりではなく始まりだ。国際レベルで即日発効しても、各国が国内法に落とし込まなければ路上では動かない。今月23日は、各国の整備競争が始まる号砲と見るべきだ。
【参考】関連記事としては「米国で自動運転の「連邦法」がついに動き出す 爆速普及へ弾み」も参照。
■日本はなぜ「ルールを作る側」にいるのか
日本は今回のルール作りに、当事者として深く関わってきた。舞台はWP.29の傘下に置かれた自動運転専門部会GRVAだ。GRVAの議長はドイツが務め、副議長は中国、日本、米国の三カ国が担う。日本は国土交通省の担当官が副議長を務め、議長ではないものの議論を動かす中核の一角にいる。
日本の関与はGRVA本体の副議長にとどまらない。傘下の作業部会や専門家会合では、日本が共同議長や副議長を務める場面もある。規則の細部を詰める実務レベルで、日本の意見が反映される土壌があるということだ。
加えて日本は「規格を作るだけでなく、実際に走らせている」国でもある。2021年にはホンダ レジェンドで世界初の自動運転レベル3の市販車を実現した。作る側であり走らせる側でもあるという実績が、国際議論での日本の発言に重みを与えている。今回の世界ルール作りで日本が中核を担えているのは、こうした積み重ねがあるからだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、国連が上限時速130キロに緩和!車線変更も容認」も参照。
■世界のルールは「どこの基準」になる?
今回の採決でわかりにくいのが、規則が一本ではなく二本立てだという点だ。採決にかけられるのは、米国や中国などが用いる世界技術規則GTRと、日本やEU、韓国などが国内法に取り込むUN規則の二つである。それぞれ議決の機関も異なり、GTRは1998年協定下のAC.3、UN規則は1958年協定下のAC.1という別々の枠組みで採択される。
なぜ二本立てなのか。背景には、国によって車の安全を担保する制度の根っこが違うという事情がある。米国は、メーカーが自ら基準への適合を宣言する「自己認証」型だ。一方の日本やEUは、当局が事前に型式を審査して認める「型式認定」型をとる。制度の土台が異なる国々を一つの規則に無理やりそろえるのではなく、それぞれの制度に合う形で同じ中身を共有できるよう、二本立てという設計が選ばれた。
重要なのは、二本立てでも中身の方向は共通だという点である。「安全ケース」という土台を世界で共有することで、どの国の基準が世界標準になるかという主導権争いを、対立ではなく共通の枠組みへとそろえていく。世界のルールはどこか一国の基準に染まるのではなく、各国が同じ考え方を土台に持ち寄る形で決まろうとしている。
■米国は備え、中国は準拠へ
採決を前に、主要国はそれぞれの立場で動いてきた。米国は今回の世界技術規則GTRを推進してきたスポンサーだ。米運輸省道路交通安全局NHTSAは今年1月23日に草案への意見募集を公表し、2月23日までコメントを集めた。集めた意見をもとに、6月の採決に向けて米国としての公式見解を固めてきた段階にある。
中国は一見すると独自路線に見えるが、そうではない。中国はこの世界規則の構造に沿って自国の国家標準を策定すると表明し、自国でも意見を集めると明らかにしている。世界の枠組みに準拠する姿勢を示しているわけだ。日本はこのプロセスへの満足を示して成果を歓迎し、複数の欧州諸国も歓迎の意を表明した。
各国がそれぞれの事情を抱えながら、共通の枠組みを軸に足並みをそろえつつある。これが採決直前の実態に近い姿だ。世界の自動運転規制は、ばらばらの各国基準から、初めて共通の土台へと収束しようとしている。
【参考】関連記事としては「中国政府、自動運転の国家安全基準を2027年7月施行へ 日本と世界標準争いが激化か」も参照。
■世界ルール「今月23日」が問う、日本の主導力の真価
今月23日からのWP.29で自動運転の世界ルールが採決されれば、世界の自動運転規制は初めて共通の土台を持つ。これは技術力だけでなく「ルールを作る力」が産業の行方を左右する時代に入ったことを意味する。世界のルールがどこかの一国基準に偏るのではなく、各国が同じ考え方を持ち寄る形で決まる。その設計に、副議長として中核から関わってきたのが日本だ。
ただし採決はゴールではない。国際レベルで規則が発効しても、日本が国内法に落とし込まなければ路上の自動運転は進まない。作る力と走らせる力をどう国内の実装につなげるかが、次の課題になる。今月23日は、日本がこれまで築いてきた主導力の真価が問われる起点でもある。自動運転ラボでも、WP.29の採決の行方を注目して見ていきたい。













