自動運転の覇者へトヨタの逆襲劇 孫正義に自動運転の覇権は取らせない

重要な3つの柱



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

2026年6月1日、トヨタ自動車が約22年ぶりに国内時価総額首位の座を明け渡した。これを抜いたのは、AI投資ブームで株価が急騰したSBG(ソフトバンクグループ)である。AIといえば自動運転は切っても切り離せないテーマだ。これでトヨタの自動運転戦略が終わったわけではない。逆襲の起点はここからだ。

SBGの時価総額は6月1日に一時48.8兆円を超え、トヨタの約45.9兆円を上回った。一方のトヨタは2026年3月期に売上50兆円超という日本企業初の記録を打ち立てながらも、米国の関税で営業利益を大きく削られている。それでもトヨタは、Woven Cityと車載AIという自前の武器で自動運転の覇権を狙う。「AI投資の王者」に対し、「ものづくりの王者」がどう反撃するのか。


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■トヨタの逆襲劇はどこから始まるのか

まず押さえるべきは、トヨタが逆転された事実である。2026年6月1日、SBGの時価総額が一時48.8兆円規模に達し、トヨタ自動車の約45.9兆円を上回って国内首位に立った。トヨタが時価総額の首位を譲るのは約22年ぶりのことだ。長く「日本一の企業」であり続けたトヨタにとって、象徴的な座を明け渡した日である。

引き金はSBG株の急騰だった。6月1日、SBG株は前週末比15%高の8626円まで上昇し、最高値を更新した。直近1年でみれば、安値1835円から約4.7倍に跳ね上がった計算になる。AIへの投資マネーが一気に流れ込んだ結果だ。

ただし、これは株式市場の評価が入れ替わった話であって、トヨタが自動車やモビリティの現場で力を失ったわけではない。むしろトヨタの逆襲は、ここから始まると言える。

【自動運転ラボの視点】
時価総額の逆転は市場評価の交代であり、自動運転の勝敗が決したわけではない。トヨタは売上と生産の規模を武器に、Woven Cityと車載AIで反転を狙える位置にいる。逆襲はこれからだ。

【参考】関連記事としては「孫正義がトヨタを抜いた日 AIの次の主戦場は自動運転」も参照。


孫正義がトヨタを抜いた日 AIの次の主戦場は自動運転

■ソフトバンクグループを押し上げたAI投資マネーの正体

では、SBGは何を評価されて首位に立ったのか。直接 of 引き金は、SBGが5月31日に発表したフランス向けのAIデータセンター投資計画である。最大750億ユーロ、円換算で約14兆円規模という巨額の構想だ。加えて、傘下の英半導体設計企業Arm(アーム)の成長性や、出資先である生成AI企業OpenAI(オープンAI)の新規株式公開への期待が、株価を一気に押し上げた。

SBGは近年、事業会社というより投資会社としての色を強めている。AIという世界的なテーマの中心に資金を張り、その将来性を市場が買った。これが時価総額逆転の構図だ。


自動運転の文脈でも、SBGの存在感は大きい。孫正義会長は、英国の自動運転AI開発企業Wayve(ウェイブ)や、米国の自動運転スタートアップNuro(ニューロ)に投資してきた。外部の有望技術に賭ける投資戦略こそ、孫会長のスタイルである。この点が、後述するトヨタの自前路線との対比を際立たせる。

■売上50兆円でも減益、トヨタを直撃した関税の打撃

時価総額で抜かれたトヨタだが、事業の規模はむしろ過去最高を更新している。2026年3月期の連結決算で、売上にあたる営業収益は前期比5.5%増の50兆6849億円に達した。日本企業として史上初めて50兆円の大台を突破し、5年連続の増収となった。グループ全体の世界販売台数も約1128万台と過去最高を記録している。

一方で、利益は厳しい。営業利益は前期比21.5%減の3兆7662億円、純利益は同19.2%減の3兆8480億円と、いずれも大きく落ち込んだ。営業利益率も10.0%から7.4%へと低下している。増収なのに減益という、ねじれた決算だ。

最大の要因は、米国の関税である。その影響額は1兆3800億円にのぼった。トヨタは販売台数の増加や価格改定で稼ぎを積み上げ、原価改善でも対抗したが、それでも関税の壁は埋めきれなかった。なお電気自動車の販売は前年比約168%増と大きく伸びており、電動化の加速も鮮明だ。

つまりトヨタは、稼ぐ力そのものを失ったわけではない。外的な逆風で利益を削られているだけであり、巨大な売上と生産基盤という体力は健在だ。この体力こそ、逆襲の土台になる。

■孫正義の自動運転投資vsトヨタのWoven City

ここで両者の自動運転戦略を並べてみる。アプローチの違いは鮮明だ。

孫会長の手法は、外部の有望技術への投資である。出資先のWayveは、2025年9月に専用カメラとAIシステムを搭載した自動運転車の試運転を東京都で実施した。日産自動車は2027年度から、このWayveの技術を次世代の運転支援機能ProPILOT(プロパイロット)に搭載する予定だ。もう一つの出資先Nuroも、新興EVメーカーのLucid(ルシッド)やUber(ウーバー)と組み、2026年に自動運転配車車両を発売する計画を進めている。外部の技術を見極めて資金を投じ、その成長に乗る。これが孫会長のやり方だ。

対してトヨタの豊田章男会長は、自前のものづくりとその延長線上にあるDXを軸に据える。その象徴が、静岡県裾野市で建設が進む実証都市Woven City(ウーブン・シティ)である。2025年秋にPhase1がオフィシャルローンチを迎え、トヨタ関係者とその家族ら約360名が入居した。2026年4月には、産業を超えた技術の共創拠点となるWoven City Inventor Garageが稼働を開始している。街そのものを実験場とし、モビリティや車載AIの技術を自前で磨き上げる構えだ。

空のモビリティでも、トヨタの自前志向は一貫している。豊田会長は、電動垂直離着陸機を開発する米Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)に出資し、シリーズCの資金調達で3億9400万ドルを投じる筆頭出資者となった。自動車づくりで培った生産技術を空へ広げる狙いだ。投資で外部に賭ける孫会長に対し、豊田会長は自らものを作りながら覇権を取りに行く。同じ自動運転の未来を見据えながら、両者の進む道は対照的である。

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■自動運転の覇権をめぐるトヨタの逆襲はこれから

2026年6月1日の時価総額逆転は、確かに歴史的な出来事だった。だが、それはあくまで現時点の市場評価である。自動運転の覇権が孫会長に決まったわけでも、トヨタが脱落したわけでもない。

トヨタには、売上50兆円超と年間1128万台という圧倒的な規模がある。さらにWoven Cityという自前の実証フィールドを持ち、車載AIやモビリティの技術を地道に積み上げている。Jobyを通じた空のモビリティへの布石もある。投資マネーの評価ではSBGに先を越されたが、ものづくりの現場で勝負する土俵はこれからだ。

AI投資の王者とものづくりの王者。どちらが自動運転の未来を制するのか、その答えはまだ出ていない。時価総額の勝敗と自動運転の勝敗は別物である。孫会長に覇権を取らせないためのトヨタの逆襲は、ここからが本番だと言える。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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