
国内ナンバーワンの配車アプリ「GO」を手掛けるGO社。その事業は、自動運転社会を見越して立ち上げられたことが同社求人から判明した。
配車アプリ事業の延長線上には、自動運転サービスが存在する。とりわけ、自動運転タクシーのようなオンデマンドサービスにおいては、配車プラットフォームが重要な役割を担う。Uber Technologiesなどと同様、GOは来るべき自動運転時代を見据え、着々と準備を進めているようだ。
GO、そして日本交通の取り組みと戦略に迫る。(記事監修:自動運転ビジネス専門家 下山哲平)
記事の目次
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■GOの事業概要
自動運転関連市場を取りに行く
気になるGOの求人は、パソナキャリアに掲載されたものだ。
▼GOの求人|パソナキャリア
https://www.pasonacareer.jp/job/81215457/
「自動運転企画/日本初の展開【MaaS/次世代事業】」として、自動運転モビリティの社会実装を目指し、海外の自動運転技術ベンダーや国内モビリティ事業者などと連携しながら、新たな事業戦略や連携スキームの企画・検討を進めていくポジションとしている。
会社として目指す姿として、日本の地方都市課題の解決とスマートシティを進めるため、公共交通インフラの在り方から再定義し、都市構造すら変えていくとしており、そのための具体的な施策として、「自動運転を実現するためのインフラをつくる」ことを掲げている。
ただ、いきなり自動運転市場に参入することは難しく、まず関連市場を取りにいくためGO事業を始めた――と、GOアプリ事業を始めた経緯について説明している。

自動運転モビリティの社会実装を目指し、海外の技術ベンダーや国内モビリティ事業者などと連携しながら、新たな事業戦略や連携スキームの企画・検討を進めていくポジションで、市場や技術動向を踏まえた中長期の事業構想、提携に向けた調整・交渉、社内外の関係者との協働を通じて、未踏領域の事業づくりに取り組んでいく。
国内ではほぼ前例のないテーマに構想段階から携わり、実現に向けてカタチにしていくダイナミックな業務で、将来的には組織マネジメントを担うリーダーシップポジションへのステップアップも期待しているという。
パソナキャリア以外では、ミドルの転職(en)にも同内容の求人が掲載されている。Dodaでは、GO事業立ち上げの経緯には触れられていないものの、自動運転という技術革新の波をさらなる事業成長を実現する機会と捉え、自動運転タクシーの実現に向け取り組んでいるとし、自動運転事業推進/責任者候補を募っている。
ウーバーに遅れることなく配車アプリを開発
GO事業、あるいはGOアプリ事業を始めた経緯が自動運転にある――というのは、まさに海外テクノロジー企業と同様の考え方だ。同社、及びアプリの歴史は古いが、自動運転を強く意識したのは、おそらくDeNAのモビリティ部門と自社事業の統合時と思われる。
GOの歴史をさかのぼると、1977年設立の日交計算センターに辿り着く。日本交通において電算システム管理を手掛ける子会社だ。来るべきIT時代を見据え、同社は1992年に商号を日交データサービスに変更している。
21世紀に入り、インターネットを活用した配車システムが進化した。電話回線を使わず、携帯電話に配車用URLを送る「モバイル配車」などだ。この流れは、スマートフォンの登場によって大きく利便性を増していく。
スマートフォンでは、位置情報・地図情報を視覚的に結びつけることが可能になりUI・UXが大幅に増す。日本交通は2011年1月、「日本交通タクシー配車」(2017年に全国タクシー配車に統合)の提供を開始した。
参考までに、Uber Technologiesが配車アプリのベータ版を公開したのが2010年、正式にサービス開始したのが2011年だ。世界最先端のテクノロジー企業と同時期にサービスインしていたのだから恐れ入る。
日交データサービスは2015年、商号をJapanTaxiに変更した。アプリの名称も2018年に「JapanTaxi」に変更されている。
DeNAと手を組み事業をアップデート

そして2020年、日本交通ホールディングスとDeNAがタクシー配車アプリなどに関する事業を統合する計画を発表した。日本交通とDeNA出資のもとJapanTaxi株式会社をMobility Technologiesに改称し、モビリティ関連事業の強化を図っていく方針だ。代表取締役社長には、DeNA常務執行役員でオートモーティブ事業本部長を務める中島宏氏が就任した。
その後、同年中にアプリ「JapanTaxi」とDeNAのアプリ「MOV」が統合され、「GO」が誕生した。事業としては、配車アプリのほかタクシーやトラックなどの営業車で採用されている次世代AIドラレコサービス「DRIVE CHART」なども提供しており、モビリティ産業のアップデートに取り組んでいる。2023年4月には、社名も「GO」に変更した。
GOアプリは、2025年7月に累計3,000万ダウンロードを突破した。8月には島根県でもサービス提供を開始する計画を発表しており、全47都道府県を網羅している。
【参考】関連記事「JapanTaxiと元DeNAのタクシーアプリ、一本化へ GOが9月リリース」も参照。
日本交通は自動運転タクシー開発勢と共同体制構築
本題に戻るが、GOが自動運転事業を見据えた組織改編を行ったのは、DeNAと手を組みMobility Technologiesを立ち上げたタイミングと思われる。日本交通グループとして果敢にタクシー事業のDX化などを推進していたが、自動運転社会に向けこの流れを強化するには、DeNAのようなテクノロジー企業の力が必要だったのかもしれない。DeNAとしても、モビリティ事業の拡大にはテクノロジーやイノベーションに理解が深い交通事業者の協力が不可欠だったのかもしれない。
いずれにしろ、GOが自動運転事業に本格着手済みであることは間違いない。日本交通は2018年、ティアフォー、名古屋大学次世代モビリティ研究センター、JapanTaxi(現GO)と共同で、自動運転AI「AIパイロット」を搭載したタクシー車両によるデータ収集実験を行っている。
その後、2019年にはJapanTaxiがティアフォーなどと自動運転タクシーの社会実装に向けた協業に着手し、東京都内を中心に実証を積み重ねている。当初計画では、2022年以降の事業化を目指していた。
一方、日本交通は2024年、走行データの収集に関し改めてティアフォーとの協業を開始している。ティアフォーが開発したデータ記録システム(DRS)を搭載した車両を用いて共同でデータを収集し、大規模な共有データ基盤の構築を推進している。
収集したデータはCo-MLOpsプラットフォームにアップロードされ、タグ付けなどの処理がクラウド上で自動で行われるなど、自動運転のAI開発に寄与していく。2025年2月からは東京都内広域での走行データ収集に着手しており、タクシー営業中に得られる大量の走行データを基に自動運転AI開発に最適なデータセットを構築し、自動車業界をはじめとするパートナー各社に提供していくという。
2024年12月には、日本交通とGOが米Waymoと戦略的パートナーシップを締結したことが発表された。東京都内でWaymoの自動運転システム「Waymo Driver」のテスト走行を行う内容だ。第一段階として、米国とは異なる日本の道路交通にWaymoの自動運転システムを適応させていく。
走行実証は2025年4月にスタートしている。東京都心の港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の7区において、トレーニングを受けた日本交通の乗務員による手動運転のもと、日中及び夜間に走行を重ねている。
現在、日本国内で明確に自動運転タクシー実用化を進めているのは、ティアフォーとWaymoだけだ。日本交通は、この両社としっかり関わっている点がポイントだ。
また、DeNAと事業統合を図る以前の2019年にティアフォー勢と自動運転タクシーの開発に着手していることから、この取り組みが一つの契機になった可能性なども考えられるだろう。
【参考】関連記事「トヨタ製「JPN TAXI」を自動運転化!ティアフォーやJapanTaxi、無人タクシー実証を実施へ」も参照。
【参考】関連記事「Googleの自動運転車、日本ではまず「港区など7区」で展開か 日中と夜間の両方」も参照。
川鍋会長も認識を180度転換?
日本交通とGOで代表取締役会長を務める川鍋一朗氏はこれまで、日本の細い道などに対応できる高性能な自動運転タクシーの実現には数十年を要するとの見解を示していた。
同社人事が運営するYouTubeチャンネルに出演し、「自動運転は歩車分離できない場所やイレギュラーなものに弱く、込み入った道路などを克服するにはまだまだ時間がかかる」「港区の坂や世田谷区の細い道を全部自動運転でいくのは30年かかる」といった旨の発言を行っていた。2021年~2022年ごろの話だ。
しかし、2023年12月掲載の東洋経済新報社によるインタビュー記事では、同年8月にアリゾナ州フェニックスでWaymoを、ミシガン州アナーバーでMay Mobilityの自動運転車を体験するなど、視察やCEOとの意見交換を行ったところ、認識が180度変わったという。
▼東洋経済オンラインの記事
https://toyokeizai.net/articles/-/722831
3~5年後にはタクシー業界も自動運転と向き合う確信を持ち、日本でも5年後の2029年に浸透していても不思議ではなく、今後3~4年で最初の波が訪れる可能性が高いとの認識を示している。
もしかしたら、この際の乗車体験がWaymoとのパートナーシップに繋がったのかもしれない。いずれにしても、日本交通の会長であり、かつ、GOの会長でもある川鍋氏の意向は日本交通の方針ともいえ、注目度が高い。
【参考】関連記事「タクシー業界のボス、日本交通の川鍋会長「自動運転は30年かかる」」も参照。
■自動運転タクシーと配車プラットフォーマーの関係
配車プラットフォームは必要不可欠
各国の規制にもよるが、自動運転タクシーは基本的に流し営業やタクシープールでの待機・営業はできない。配車依頼を前提にサービスを提供するのだ。つまり、配車プラットフォーム・アプリが必須であり、サービスの質を高めるためには、自動運転技術だけではなく、アプリのUIやUXを高めていかなければならない。
多くの場合、「Waymo One(Waymo)」や「ApolloGo(百度)」のように自動運転開発事業者が自前のプラットフォーム・アプリによってサービスを提供しているが、利用者目線で言えば不便な点がある。同アプリにおける移動の選択肢がないのだ。
例えばWaymo Oneであれば、Waymoの自動運転タクシーしか選択肢にないのだ。あるエリアでとにかく移動したい場合、自動運転タクシーでも一般タクシーでもどちらでも良い……とする客が多いが、その両者を探すためには別のアプリも必要となる。不便極まりないのだ。
自前のプラットフォームでは利便性に課題
そこで浮上してくるのが、Uber Technologiesに代表される配車サービス大手だ。すでに市民権を得ているプラットフォームで自動運転タクシーを利用可能にすることで、双方にとってプラスとなる。利用者も使い慣れたアプリで選択肢が増えることになり、三方良しとなる。
事実、Waymoはオースティンやアトランタなど新規エリアではUber Technologiesの配車プラットフォームに乗っかる形で自動運転タクシーサービスを提供している。Uber TechnologiesはWaymoのほか、Avride、Aurora Innovation、Motional、Nuro、米国外ではWeRideなど中国勢とも手を組み、事業展開する構えだ。
日本交通やGOも、Uber Technologiesと同様、自動運転サービスがスタンダードとなる未来を見据え、しっかりと動き出しているのだ。
■【まとめ】アドバンテージを発揮するためには早期対応が必須
日本にもUber Technologiesや中国DiDiが進出しており、将来、自動運転タクシーの配車面で競合する可能性が高いが、その際、GOのように多くのエンドユーザーと接点を持っていることが何よりのアドバンテージとなる。
すでに多くの利用者を有するアプリで自動運転タクシーを提供した方が、自動運転開発事業者も利用者もメリットを享受できる。このアドバンテージを発揮するためには、Uber Technologiesなどに遅れることなく自動運転に対応していく必要がある。
そう考えると、日本交通がDeNAと手を組んでGOを組織したのは、まさに自動運転社会を見据えた動きだったと言えるのではないだろうか。
【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧(タイプ別)」も参照。












