デジタル行財政改革会議の中で、自動運転ビジネスの早期確立に向け、各府省庁の施策を集中する先行的事業化地域を10カ所程度指定する案が検討されていることが明らかになった。言わば自動運転特区の指定だ。
先行する米国、中国に追い付くためには思い切った施策が必要不可欠だが、特区のような形で自動運転の社会実装を推進することができれば、追い上げ材料として非常に心強いものとなる。
どのような構想が練られているのか。同会議の議論の内容を解説していく。
記事の目次
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■デジタル行財政改革会議における議論の概要
事業化加速に向け先行的事業化地域を選定
冒頭の「先行的事業化地域」案が示されたのは、2025年4月に開催されたデジタル行財政改革会議で「デジタル行財政改革担当大臣 平将」名で提出された資料だ。
▼デジタル行財政改革会議(第10回)議事次第
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi10/gijishidai10.html
▼デジタル行財政改革の更なる深化と加速について
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi10/kaigi10_siryou5.pdf
米国や中国ではレベル4のタクシーが事業化されているのに対し、国内は技術実証段階であり、米中との差が広がりつつあると指摘している。
国内では、100超の地域で自動運転バスなどの実証が行われているものの、運転手を必要としない「レベル4」走行は8件に留まるとし、コストの高さなど事業化に向けた課題が多いとしている。
一方、2023年には2,288件の自動車関連交通死亡事故が発生している。自動運転の普及により約9割の死傷事故の削減が期待でき、円滑な交通を妨げない自動運転技術の普及を喫緊の課題に据えているようだ。
そこで浮上したのが、自動運転の事業化加速に向けた先行的事業化地域の選定だ。レベル4の自動運転バス・タクシーが実証にとどまらず事業として継続可能なビジネスモデルを構築するため、運行形態や走行環境、車両などを集約する先行的事業化地域を10カ所程度指定し、自動運転の普及に向け各府省庁の施策を集中させるという。
自動運転特区の創設か?
特定の政策を優先的に推進するという意味では、「自動運転特区の設定」とも言える取り組みだ。各省庁による支援の一環として各種規制緩和などの措置も取られれば申し分ない。どういったエリアが選ばれるのか、またどういった施策が展開されるのか大きな注目が集まるところだ。
なお、この先行的事業化地域は突如降って湧いた事業ではない。実は、モビリティ・ロードマップ2024の中で触れられているのだ。
同ロードマップでは、2024年度を総括的事業実証ステージ、2025~2026 年度を先行的事業化ステージ、2027年度以降を本格的事業化ステージと位置付けている。
総括的事業実証ステージは、各事業者が技術的には実証された自動運転やデジタル技術を利用した新たな運行管理サービスやアプリなどを事業実証的に導入し、運行の担い手をイメージできるようにするステージだ。
そして、先行的事業化ステージでは、前ステージの結果、先行的事業化の見込みがあるところに集中的に政策資源を投入し、事業継続や広く事業化を進めていくための課題を抽出する。時間を要するインフラ整備などの道筋も検討しつつ、業態にまたがる自動運転車両の活用に係る取り組みも含め、本格的な事業化に向けた施策のラインアップを整え、複数地域での事業化を実現できるようにするという。
有力エリアはどこなのか?
推測だが、選定される地域はおそらくレベル4認可済み、または特定自動運行許可済みのエリアを中心に、実証が盛んに行われているエリアになる可能性が高い。
国土交通省が提出した資料によると、北海道上士幌町、茨城県日立市、東京都大田区(羽田)、福井県永平寺町、長野県塩尻市、三重県多気町、大阪府大阪市(万博)、愛媛県松山市の8カ所でレベル4自動運転が実装されているという。道路運送車両法に基づくレベル4認可を受けている地域だ。
一方、2025年2月開催の同会議で国家公安委員長が提出した資料によると、これまでに全国で7件の特定自動運行を許可したという。レベル4認可に加え、自動運転サービスの許可も受けている件数だ。国内においては、これらのエリアが先行事例と言える。
また、東京都内のお台場エリアや茨城県境町、千葉県柏市の柏の葉、愛知県常滑市、神奈川県横浜市など、自動運転車を用いた実証が長期にわたり実施されているエリアもある。2024年12月末時点で、一般道における自動運転車を活用した通年運行を行っているエリアは19カ所に上るという。
こうした中から、さらなる支援が必要なエリアや他の交通参加者に配慮しやすいエリア、新たなインフラ設置を行いやすいエリア、ユースケースを踏まえ横展開に期待できるエリアなどさまざまな観点から対象を絞り、選定していく可能性が高い。
「特定自動運行許可を取得しているなら、これ以上の支援は必要ないのでは?」――とする見方もありそうだが、大半のエリアはさらなる無人運行の拡大を見据えているはずだ。無人運行を実現したとは言え、それは一部路線であり、インフラ協調なども含めた総体としての自動運転システムはまだまだ改善の余地がある。さらに改善を重ね、運行エリアや条件の拡大を見据えている取り組みは多いはずだ。
これらの中からどういったエリアが選ばれるのか。また、それ以外のエリアで候補となるのはどういったエリアなのか。今後の動向に要注目だ。
【参考】自動運転車の通年運行については「自動運転での通年運行、日本の一般道で「全国19カ所」に 2024年12月末時点」も参照。
自動運転タクシーに対応した規制を取りまとめ
現行計画では、自動運転の初期投資に係る事業性確保に必要な支援を2024年度補正予算などで措置し、2025年度に全都道府県で通年運行の計画策定または実施を目指すこととしている。
2024年度は、継続事業を含め全都道府県で計99件の事業が採択されており、このうち26件は通年運行を予定していた。
自動運転タクシーに関しては、その社会実装時期を2026年と見込み、新たなビジネスモデルに対応した規制緩和などについて2025年6月までに結論を得る方針だ。
具体的には、自動運転の専門性を有する事業者がタクシー事業許可を保有していなくても運行管理を受託できるようにする運用制度の明確化や、タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方、特定自動運行時に必要な運行管理の在り方、認証基準具体化により自動運転車の製造者が満たすべき安全性能の明確化、事故原因究明を通じた再発防止策などが焦点となっている。
また、道路交通法、道路運送車両法に基づくレベル4走行に係る審査の効率化・迅速化も推進している。従来、約11カ月を要していた審査期間を2カ月程度まで短縮し、社会実装を加速させている。
【参考】自動運転の審査については「大幅短縮!自動運転の審査期間、平均11カ月を「2カ月」に ついに国も本腰?」も参照。
事故原因究明体制も整備
自動運転の社会実装を進めるために必要な事故原因究明体制の構築に向けた所要の体制整備や、ライドシェアのブラッシュアップに係る議論を進めていくことも提案されている。
事故原因究明体制は現状、公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)に設けられた自動運転車事故調査委員会が対応している。ただ、ITARDAはあくまで民間組織のため調査に強制力はなく、事故関係者から必要な情報提供が行われるとは限らない。
運輸安全委員会のように、法的根拠に基づきしっかりと調査できる体制が必須で、議論を進める自動運転ワーキンググループによると、①調査対象とする事故等の範囲と当該事故等の発生を運輸安全委員会が把握する仕組み等のあり方②運輸安全委員会における実効性ある事故等調査の実施③運輸安全委員会の体制等――などについて検討を進めているという。
【参考】自動運転の事故調査については「自動運転車の事故、「国レベルが調査に動く」基準を明確化へ」も参照。
自動物流道路実装に向けた議論も
国土交通省が提出した資料では、自動物流道路の推進にも触れている。新たな物流形態として道路空間を活用した「自動物流道路」実装を目指し、2024年5月に「自動物流道路の実装に向けたコンソーシアム」を設立し、議論を進めている。
具体化はまだのようだが、案としては、自動車専用道路の中央分離帯スペースや路肩スペースを活用して専用走行路を敷設し、自動運転可能な車両(デュアルモードトラック)を走行させる案や、高速道路地下に物流専用のトンネル道を掘削する案などが出ているようだ。
道路空間を変革する大きなプロジェクトとなり得るだけに、議論の行く末に注目したいところだ。
【参考】自動物流道路については「自動物流道の地下部、工費は1km当たり7〜80億円 国がコスト調査」も参照。
■ライドシェア関連の動向
日本版ライドシェアはマイナーアップデートに留まる?
モビリティ関連ではこのほか、ライドシェア事業についても検討が進められている。2024年度にスタートした(厳密には2024年3月)自家用車活用事業、通称日本版ライドシェアは、その導入により多くの地域で配車マッチング率が大きく改善したという(国土交通省談)。2025年1月時点で116地域、841事業者、6352台が参加・導入されている。
アプリなどでデータが把握可能な大都市12都市におけるマッチング率は、約8割~9割の時間帯で改善したという。一方、地方ではそもそも配車アプリの使用率が低く、日本版ライドシェアの利用が低迷しているエリアが多い。現行の仕組みでは、地方の実情に即していないようだ。
一方、自家用旅客運送事業、通称公共ライドシェアについては、この一年間で例年の3倍にあたる69主体が新たに導入し、632地域、777主体、4789台(2025年1月時点)が稼働している。現状、こちらの制度の方が地方にはなじみやすいが、事業性の観点から言うと自治体などの関与が必須でビジネス性はなく、福祉の精神のもと成り立っている。
国土交通省は2025年度から3カ年を「交通空白解消・集中対策期間」と定め、2025年5月を目途にとりまとめる予定の取組方針を踏まえ、地方運輸局などによる伴走支援やパイロット・プロジェクトの全国展開などを通じて「地域の足」「観光の足」確保に向け総合的な後押しを行う方針としている。
日本版ライドシェアに関しては、現行制度の検証・改善を進めつつ、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業についても内閣府と国土交通省の論点整理を踏まえ、法制度を含め事業の在り方の議論を進めていく方針だ。
バス・鉄道事業者に対しては、意欲のある事業者を対象に先行トライアル形式で2025年度中にも参画を可能にする方針だ。Uberなどのプラットフォーマーに対する緩和には今のところ触れられていない。
【参考】日本版ライドシェアの動向については「Uber禁止の日本版ライドシェア、バス会社には「参画特権」検討」も参照。
■【まとめ】官民連携が日本の武器、社会実装面で追い上げなるか
先行的事業化地域がどのような内容になるのか、続報に注目だ。自動運転技術の向上には、反復的な公道実証が欠かせない。Waymoは毎週160万キロ、累計8,000万キロ超の走行実績を有する。百度も自動運転走行が1億5000万キロメートルに及ぶという。
日本国内の取り組みとは文字通りケタが異なるのだ。その差を埋めるのはほぼ不可能とも言えるが、官民連携を武器に効果的な走行環境を整えることで、社会実装の面では追い上げることが可能となる。今後の取り組みに期待したいところだ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧|実用化の現状解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)