自動運転タクシー実用化に向けた取り組みが日本でも大きく動き出している。ホンダや日産、ティアフォー、日本交通などの面々がそれぞれ独自の計画に着手している。
しかし、素直に喜べない要素もある。ホンダはGM勢、日本交通はWaymo──と、米国企業と手を組む形が目立つためだ。米国企業抜きではサービス実現は困難なのだろうか。
記事の目次
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各陣営の取り組みについてまとめてみた。
■各陣営の取り組み概要
本業不調の日産は単独開発は困難に……?
類似サービス含め、国内で自動運転タクシー実用化を目指しているのは日産、ホンダ、ティアフォー、日本交通の4陣営だ。
最初に実証を開始したのは日産だ。DeNA(ディー・エヌ・エー)を開発パートナーに2017年から自動運転技術を活用した新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の開発に取り組んでいる。
2024年2月には、ドライバーレス自動運転によるモビリティサービスの事業化に向けた最新のロードマップを発表した。2027年度にサービス実装を目指す計画だ。
ただ、本業の業績が芳しくなく、自動運転開発に充てる余力が懸念されるところだ。ホンダとの経営統合に向けた動きもあり、まずは本業そのものの改革が必須の状況だろう。少なからず、自動運転サービスに関しては単独での実現は困難と思われる。
GM・Cruise陣営頼みのホンダ、単独で乗り切れるか?
対するホンダは2018年、米GM・Cruise陣営と自動運転技術を活用したモビリティ変革に向けパートナーシップを結び、開発を続けてきた。日本では、3社共同のもと2026年初頭に東京都内で自動運転タクシーを実用化する計画を発表している。
CruiseはWaymoに続き米国2番目となる自動運転タクシーを実現するなど高い期待を寄せられていたが、2023年10月に発生した人身事故を契機にカリフォルニア州で自動運転走行・サービスのライセンスを停止され、事業が暗雲に乗り出した。
多額の赤字に耐え切れなくなったGMは2024年12月、Cruiseへの投資を打ち切り、自動運転タクシー開発を断念すると発表した。ホンダもこの余波を受けることは間違いなく、計画変更を迫られる可能性が高い。
共同開発とは言え、Cruise頼りの部分が大きかったものと思われる。GM・Cruiseが抜けたとすれば、今後どのように事業を継続していくのか。日産との関係含め、今後の方針に引き続き注視したい。
【参考】ホンダ陣営の動向については「ホンダ、自動運転タクシー計画を「白紙撤回」か GM撤退による影響不可避」も参照。
ティアフォーは国内勢の総力で勝負?
ティアフォーは2019年、JapanTaxi(現GO)など5社で自動運転タクシー事業化に向け車両開発やサービス実証を共同で進めていくと発表した。
2024年5月には、東京都のお台場エリアで複数拠点間のサービス実証を行い、2024年11月から交通事業者と共同で事業化を目指す方針を発表した。段階的に区画と拠点数を拡張し、2025年にお台場を含む東京都内3カ所、2027年には都内全域を対象に、既存の交通事業と共存可能なロボットタクシー事業を推進するとしている。
日本発のスタートアップとして、国内勢の力を結集した取り組みに期待したい。
【参考】ティアフォーの取り組みについては「東京に自動運転タクシー!トヨタ車で11月事業化へ ティアフォー発表」も参照。
日本交通系はWaymoとタッグ
タクシー事業者の日本交通と配車サービスを手掛けるGOは2024年12月、米Waymoと手を組み、自動運転タクシー実装に向け東京都内で自動運転実証に着手すると発表した。
サービス実装時期は今のところ公表されていないが、2025年初頭にWaymoの自動運転車を輸送し、有人ドライバーによる実証に着手する。
世界トップクラスの自動運転開発・サービスを誇るWaymoの日本進出だ。日本交通、GOとどのように役割分担し、サービスを実現していくのか要注目だ。
【参考】日本交通グループの取り組みについては「GO、”人間の運転手”いらずの「自動運転タクシー」を容認 Google製の車両配車へ」も参照。
自動運転分野では自動車メーカーが苦戦
このように、ホンダはGM・Cruise勢(とん挫)、日本交通はWaymoに依存するような格好でサービス実現を目指す構えだ。
日産はおそらく単独では困難な状況に陥っていくものと思われる。開発事業者ではない日本交通はともかく、名だたる自動車メーカーが単独では自動運転タクシーを実現できないような状況だ。
自動車業界においてかつては黄金期を築いた日本の自動車メーカーだが、自動運転に関してはやはり米企業の後塵を拝するようだ。
一方、オールジャパン体制で臨む自動運転開発企業のティアフォーにとっては、国内サービスにおいても海外勢がライバルとなる。Waymoのように、世界トップクラスの企業を相手にどのような開発・サービス競争を繰り広げるか、要注目だ。
国内ではこのほか、イスラエルのMobileyeとWILLERが2020年、日本や台湾、 ASEAN における自動運転タクシーサービス提供に向けパートナーシップを交わしている。
当初計画では、2021 年に日本の公道で実証を開始し、2023 年に完全自動運転による自動運転タクシーと自動運転シャトルのサービス開始を目指すとしていたが、近況として音沙汰がないのが現状だ。
■日産の取り組み
ホンダとの関係構築が最優先?WeRideとのパートナーシップによる展開も?
Easy Rideの開発などに取り組む日産。厳密には、日産は自社の取り組みに「自動運転タクシー」という言葉を用いず、ドライバーレスモビリティサービスなどとしている。おそらく、走行可能エリア内に細かく複数の乗降ポイントを設置し、各ポイント間の移動を可能にするオンデマンドサービスなどを検討しているものと思われる。
ただ、自由な移動を標榜している点と、こうしたオンデマンドサービスは乗降ポイントが多ければ多いほど自動運転タクシーに近づくため、ここでは類似サービスに位置付けた。
最新のロードマップでは、2024年度に横浜みなとみらい地区で「セレナ」ベースの自動運転車両で走行実証を行い、2025~2026年度にかけて、横浜みなとみらい地区、桜木町、関内を含む横浜エリアでセーフティドライバー同乗のもと20台規模のサービス実証を実施する。
そして2027年度に、地方を含む3~4市町村において、車両数十台規模のサービス提供開始を目指す。サービス開始に向け、すでに複数の自治体と協議しており、準備が完了した市町村から事業開始を目指す方針だ。
自社技術を軸とした取り組みだが、昨今の経営状態を考慮すると事業継続が危ぶまれるのも事実だ。もしホンダと経営統合した場合、自動運転サービスを日産ブランドとして継続するのか、この領域でもホンダと技術をすり合わせて統合を図っていくのか、注目が集まるところだ。
また、パートナーシップを交わす中国WeRideとの共同路線でサービス展開を目指す道もある。WeRideは米ナスダック市場への上場を果たし、海外進出にも積極的だ。
海外企業頼みの構図となるが、こうしたパートナーと組むことで国内サービスの展開で存在感を発揮することも可能だろう。
【参考】WeRideについては「中国WeRide、北京で「有料×完全無人」の自動運転タクシー展開へ」も参照。
■ホンダの取り組み
日産との日本連合で勝負?
GM・Cruise勢と自動運転開発を進めてきたホンダ。当初計画では、ハンドルなどの手動制御装置を備えない自動運転サービス専用モデル「Origin」を導入し、2026年初頭に東京都内のお台場エリアで自動運転タクシーサービスを開始するとしている。その後、中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図り、最大500台までフリートを拡大する具体的な計画だ。
しかし、GMがCruiseの自動運転開発事業を停止し、エンジニアも自社と統合し自家用車向け技術にシフトする方針を発表した。残されたホンダはどうするのか。
単独で事業を継続するには、自動運転技術もサービスノウハウも心許ない。3社共同で開発したという技術を、どこまで自社に持ち込み、落とし込むことができるかにかかっている。
今後、日産との経営統合が実現すれば、新たな道が見えてくるかもしれない。日産は自動運転サービスの領域に早くから取り組んでおり、一定の技術とサービスノウハウを蓄積しているためだ。
ホンダが主導権を握りつつ両社それぞれのストロングポイントを生かすことができれば、強固な日本連合が誕生する。海外企業に依存しない手法で存在感を発揮するためには、もはやこの手しかないだろう。
一方、2025年1月に米国で開催された技術見本市「CES」では、ホンダは独自のビークルOS「ASIMO OS」を搭載した自動運転レベル3搭載新型EVのプロトタイプを公開。そして、ソニーグループとの出資で設立されたソニー・ホンダモビリティは、独自開発した高機能ADAS(先進運転支援システム)を搭載したモデルとして、自動運転時代に向けて開発した「AFEELA 1」を発表し、オンライン予約受付をスタートさせた。
つまり、ソニー・ホンダ陣営が自動運転につながる高機能ADASを共同開発していることから、ホンダとソニー、そして今後経営統合する日産との3社連合での技術開発が進んでいく構図も見えてきている。
【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。
■ティアフォーの取り組み
「生粋の日本勢」でサービス開発へ
ティアフォーは、GO、損害保険ジャパン日本興亜、KDDI、アイサンテクノロジーの5社で2019年から自動運転タクシーの開発・サービス化に取り組んできた。トヨタ製「JPN TAXI」を自動運転化し、新たなモビリティサービスを展開する狙いだ。
2024年の最新の発表では、2024年11月から交通事業者と共同で事業化を目指し、段階的に区画や拠点数を拡張して2025年に東京都内3カ所、2027年に都内全域を対象に既存交通事業と共存可能な自動運転タクシー事業を推進していく方針を発表している。
日本版ライドシェアと同様、まずはタクシー配車が困難な時間帯および経路を対象に自動運転タクシー導入を進めていく構えだ。
日本勢の取り組みとして期待が高まるが、気になるのはパートナー企業GOの動向だ。GOは新たにWaymoとパートナーシップを交わし、自動運転タクシー事業を展開すると発表した。
交通事業者、配車サービスとしてさまざまな自動運転開発企業と協調してサービスに取り組んでいく方針と思われるが、ティアフォーとしては、Waymoの参入により独占的かつ優位に事業展開する道が閉ざされ、過酷な競争を余儀なくされる可能性が高まったと言える。
生粋の日本勢として、Waymoにどこまで対抗できるか。競争を通じて技術がいっそうブラッシュアップされることに期待したい。
■日本交通&GOの取り組み
世界最高峰の開発企業とタッグ
日本交通、及びGOは、ティアフォーとともに自動運転タクシーのサービス化に取り組んでいる。日本交通とティアフォーは2024年7月、ティアフォーが開発したデータ記録システム(DRS)を搭載した車両を用いて共同でデータを収集し、大規模な共有データ基盤の構築を推進するパートナーシップを発表している。
データ共有による自動運転AI開発の加速を目的に、協業を通してデータセットの大幅拡充を図っていく狙いだ。
一方、2024年12月にはWaymoとの協業を発表した。自動運転システム「Waymo Driver」を搭載した車両を日本に輸送し、2025年から都内各所で走行実証を開始する。まずは日本交通のドライバーが訓練を受けながら車両を操作し、マッピングなどを進めていくという。
日本交通グループとしては、現状考え得る世界最高峰の開発事業者と手を組んだと言える。自動運転システムの性能、そしてサービス実績は群を抜いている。
一方、国内開発勢にとってはまさに黒船の来襲だ。同一エリアでWaymoと競合すれば、乗客に技術やサービスを直接比較されることになる。ローンチ前の状態にもかかわらず、いきなり最高峰との勝負が待ち受けているのだ。
自動運転システムの性能そのものではすぐに太刀打ちできないかもしれないが、日本ならではのきめ細やかな配慮など、さまざまな面で新たなサービスが誕生する可能性もある。Waymoにしっかりと食らいつき、競争による劇的な進化を遂げてほしいところだ。
【参考】Waymoについては「Waymo/Googleの自動運転戦略 ロボタクシーの展開状況は?」も参照。
■【まとめ】国内自動車メーカーの存在感が薄くなる……?
ティアフォー以外、単独では自動運転サービス事業が立ち行かない恐れを抱えているようだ。今後も海外勢とのタッグによる国内サービス展開の動きが出てくる可能性も十分考えられる。国内勢、特に自動車メーカーの存在感が薄れていきそうだ。
しかし、海外勢の台頭は悪いことばかりではない。Waymoのように完成度の高いサービスが展開されれば、「自動運転すごいじゃん」と社会受容性が一気に高まることも考えられるためだ。機運が高まれば、国内勢の開発も円滑に進めやすくなる。
2025年中には、各陣営の取り組みが具体化していくことになる。各社の動向に引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)