自動運転中に「手放し&酒酔い」。米で死亡事故、「免責」判決も?

フォードの「ブルークルーズ」が稼働



自動運転車が走行中に起こした事故の責任の所在はどうなるのか。自動運転の実用化が進むにつれ、各国で議論されている問題だ。こうした中、米国で部分自動運転機能が作動中に起きた死亡事故の刑事責任について、波紋が広がっている。


2024年3月にペンシルバニア州の高速道路上で衝突事故が発生し、2人が死亡した。2人をはねた人物は飲酒運転をしており、かつハンズフリー運転をしていたことが分かった。つまり、部分的自動運転機能が作動中であったということになる。

自動運転中の事故については議論が分かれることもあり、判決でドライバーの「免責」が言い渡される可能性もあるのか。

■フォード車の部分自動運転中に

警察の発表によると、2024年3月に事故を起こした人物(女)は飲酒運転による殺人と過失致死を含む複数の刑事責任を問われており、同年9月に入り出頭したという。

事故は州間高速道路95号線で発生した。午前3時頃、何らかのトラブルにより2台のクルマが高速道路の左側に停車し、1台がもう1台を助けていたとみられている。運転手1人がクルマから降りて、もう1人が近くに立っていたところに、容疑者が運転するクルマが停車中の1台に衝突した。最終的に4台が絡む大事故となり、2名の男性が死亡した。


事故当時、容疑者の女は米自動車メーカーフォードのEV「マスタング Mach-E」を飲酒運転していた。フォードのハンズフリーの部分自動運転システム「ブルークルーズ」を使用中で、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が作動していたという。

■ACC作動中の事故の責任は?

ブルークルーズは、特定の高速道路区間でドライバーがハンドルから手を離すと、システムがステアリングやブレーキ、加減速を管理し、外部センサーを用いて車両の周囲を監視することができる機能だ。

なお一般的にACCとは、あらかじめ設定した速度で定速走行、また先行車と適切な車間距離を維持しつつ自動的に加減速を行うといった機能のことを指す。ADAS(先進運転支援システム)の一部ではあるが、「部分的自動運転」とも言えるものになる。


フォードのブルークルーズは、自動運転レベル2に相当する。ハンズブリーを可能としているが、あくまで「運転支援」を行うものだ。ドライバーはハンドルから手を離すことはできるが、目を離すことはできず、すぐに運転に戻ることができる状況でいる必要がある。

今回の事故の被告の弁護人は「この事故におけるブルークルーズシステムの役割は裁判にとって非常に重要である」とした上で、「彼女は推定無罪であり、判断を急がないことが重要である」と語っている。つまり、この事故はシステムに責任の所在があるということを主張したいのであろう。

罪状認否が行われ、被告人は保釈金を支払った。次回の審問は9月17日で、今後の裁判のなりゆきが注目される。

出典:自動車技術会

■ADAS作動中の事故は過去にも発生

ペンシルバニア州警察は「部分的に自動化された運転技術は、連邦の道路を安全に走行するために必要な運転タスクを実行するために放置されるべきではない」とリリースで発表しており、「テクノロジーの進歩はめざましいものではあるが、常に車両を適切にコントロールするよう努めるように」と要請している。

フォードのブルークルーズ機能作動中の事故は、2024年2月にも発生しており、今回で2件目となる。2件の事故で合計3人が死亡し、2人が負傷した。NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)もこの事態を重く見ており、同年4月から調査を開始した。フォードは調査に協力することを発表している。

これまで、テスラのADASである「Autopilot」機能作動中の事故も幾度も起こっており、死者も出ている。自動運転レベル3までの機能は、一定条件下において運転操作をシステムが担うが、状況により人が介入する必要がある。

「自動運転なのにドライバーに責任があるの?」と思うかもしれないが、レベル4または「完全自動運転」とも言えるレベル5ではない限り、ドライバーに責任所在があると解されるのが、現在は一般的となりつつある。今回のフィラデルフィアの事故における警察の見解も同様のものだ。今回の裁判の行方が注目される。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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