Amazonの自動運転タクシー、結局「テスラより先」に一般展開へ

第1弾はラスベガス、オリジナルモデルで

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テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

米アマゾン傘下の自動運転開発企業Zooxが、まもなくネバダ州ラスベガスで自動運転タクシーサービスを一般開放するようだ。不特定多数を対象とした継続的な無人サービスとなれば、米国で3番目の本格的な自動運転タクシーとなる見込みだ。

自動運転タクシーに関しては、テスラがロボタクシー向けの新型車両を8月に発表予定だったが、最近、10月に発表を延期したことが話題になった。いずれにしても、その車両を使って自社展開を計画している実サービスの展開はもっと先になりそうで、サービス展開ではテスラより先となることが確実だ。

【自動運転ラボの視点】
ちなみにテスラのイーロン・マスクCEOは過去に、2019年に自動運転タクシーを実現すると発言していたが、結局は自動車会社でもないAmazonに実サービスの展開時期で負けるという結果になりそうだ。関連記事としては「名言?迷言?自動運転、テスラのイーロン・マスクCEO発言5選」も参照。

アマゾンとしては企業買収から4年越しのサービス実現で、モビリティ分野においてグーグル(Waymo)と覇権を争う一手となる。アマゾン傘下のZooxとはどのような企業なのか。その全容に迫る。

■Zooxの概要

2024年後半にサービス開始か

出典:Amazonニュースリリース

アマゾンによると、Zooxの自動運転タクシーはまもなくラスベガスで一般の乗客に提供されるという。詳細は明かしていないが、2024年後半のサービスインを目指しているようだ。

Zooxの自動運転タクシーはサービス実証段階に達しており、現在ラスベガスのアマゾン従業員を対象に運行しているほか、カリフォルニア州フォスターシティ(サンフランシスコ)のZoox本社近くでも同様に従業員を対象にサービスを提供している。

ODDは約8キロの区間

ラスベガスでは、ホテルやカジノなどのリゾート施設が立ち並ぶ約5マイル(約8キロ)の区間をODD(運行設計領域)とし、自動運転走行するという。最高時速は 45 マイル(約時速70キロ)で、小雨や夜間での運転も可能にしている。

【参考】関連記事としては「自動運転のODD(運行設計領域)とは?(2024年最新版)」も参照。

同社の実証は、2017~2018年ごろにサンフランシスコで始まった。翌年ラスベガスでもテストを開始し、2021年にワシントン州シアトル、2024年夏にテキサス州オースティンとフロリダ州マイアミ――と順調に拡大を図っている。現在この5都市でテスト走行を重ねている。

サンフランシスコとラスベガスは早くから他社が実証を進めていたこともあり、サービスを実現しやすい環境が整っている。ラスベガスの次はサンフランシスコでのローンチを計画している。シアトルはアマゾンの本社所在地であり、オースティン、マイアミも自動運転実証が盛んな都市だ。

政策・規制担当シニアディレクターを務めるRon Thaniel氏は、これらの都市に共通することとして「これらの都市はオンデマンド配車サービスが確立されている。イノベーションを歓迎しており、世界においてテクノロジーの先進都市として知られることを望んでいる」と話す。

自動運転実証が盛んな州や都市は、やはり規制当局や都市自体の受け入れ態勢がしっかりと確立されているようだ。

同社はこうしたエリアを選択し、低速走行や車線変更を伴わないルートなどからじっくりとODDを拡大していく手法を採用している。

ラスベガスでは、2019年からトヨタのハイランダーを改造したモデルでマッピングなど初期の自動運転実証を行い、データ収集を重ねている。2023年に無人のオリジナル車両の走行許可を取得し、まずは自社の周囲 1 マイルをループするルートからスタートし、徐々に拡大していったという。

【参考】Zooxの取り組みについては「Amazon子会社Zoox、「自動運転専用」ポッドで乗客送迎に成功」も参照。

Amazon子会社Zoox、「自動運転専用」ポッドで乗客送迎に成功

■Zooxの概要

当初からオリジナルモデルを開発

Zooxは、スタンフォード大学でコンピューターサイエンスの研究を進めていたジェシー・レビンソン氏(共同創業者兼CTO)と、デザイナー兼起業家のティム・ケントリー・クレイ氏らが2014年に設立した。

当初からハンドルなどを備えないオリジナルの自動運転専用モデルの開発を心がけており、2015年には早くもプロトタイプ第1号となる「VM1」が完成している。2016年に構築したVM4では、前後の区別がない車両を完成させた。

自動運転システム関連では、2017年にカリフォルニア州のメンローパークでドライバーの介入なしのレベル3走行を成功させたという。

2018年にフォスターシティに正式な本社を置き、ステルスモードから脱却した。

2020年にアマゾン傘下へ

2019年には、インテルでCSO(最高戦略責任者)などを歴任したセネガル出身のアイシャ・エバンス氏をCEO(最高経営責任者)に迎え、事業戦略面も本格化させた。この頃、サンフランシスコで行っていた公道実証をラスベガスにも拡大している。

2020年には車両の生産工場が稼働開始し、最初の量産モデルVM6の量産に着手した。また同年、エバンスCEO主導のもとアマゾン傘下に収まることが発表された。買収額は13億ドル(約1400億円/当時)と言われている。

このアマゾンによる買収後、まもなくして量産モデルを公表した詳細は後述するが、前後の区別がない双方向モデルで、ハンドルなどの手動制御装置を備えない完全自動運転モデルだ。

安全性能要件を自己認証する取り組みも

Zooxは2022年7月、連邦自動車安全基準(FMVSS)に定められた安全性能要件を自己認証したと発表した。

従来の安全性能要件・保安基準は、ハンドルやサイドミラーなど人間のドライバーを前提とした仕様となっている。一方、Zooxがゼロから開発を進めるモデルは無人サービスを前提に設計されており、従来の枠に収まらないものとなる。

開発にあたり、当初からFMVSS要件に準拠した形で設計を進めており、一連の物理テストやコンピューターシミュレーション、エンジニアリング分析、技術マイルストーンを通じて規制の変更や免除申請などを要することなく専用車両を自己認証した。

FMVSSの要件を満たすだけでなく、従来の乗用車では利用できない100以上の新たな安全技術を搭載したとしている。例えば、独自の馬蹄形エアバッグの搭載などだ。

安全機能はこれまで前部座席の乗客を中心に設計されてきたが、Zooxのロボタクシーは専用の前部座席や後部座席といった区別がない対面方式となっている。エアバッグを展開するためのダッシュボードがないのだ。そこで同社は、前方・側面衝突から保護する独自の馬蹄形エアバッグを開発したという。

また、Zooxのロボタクシーはコンパクトに設計されているためクラッシャブルゾーンを設ける余地がほとんどなかったという。解決策として、限られたスペース内に駆動モジュールとモーターをすべて収め、そのアーキテクチャを使用して衝突エネルギーが車内の人に到達する前に消散させる技術を開発・搭載した。このアーキテクチャは、自動運転車だけでなく輸送業界全体で初めてという。

なお、自動運転時代を見据え、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は手動制御装置を備えない自動運転車を対象とした乗員保護安全基準に関する最終規則を公表している。

【参考】自動運転専用設計については「自動運転車の解禁、世界で加速!米当局、ハンドルなし車両を認可へ」も参照。

自動運転車の解禁、世界で加速!米当局、ハンドルなし車両を認可へ

カリフォルニアではDMV、CPUC双方から許可取得

Zooxは2024年2月、カリフォルニア州公益事業委員会 (CPUC))から無人自動運転パイロット許可を取得したと発表した。これにより、カリフォルニア州道路管理局(DMV)が承認済みのフォスター シティの ODD 内において、専用車両で一般人を運賃なしで運送することが可能になった。

同州においては、WaymoとCruiseが2022年までにDMV、及びCPUCの許可を取得し、有償サービスを実現している(Cruiseの許可は現在停止中)。

DMVが公道走行許可を出し、CPUCが事業化・商用化に向けた許可を出すようなイメージで、無人サービス実現には両者からの許可が必須となる。

こうした許認可をベースに考えると、Waymo、Cruiseに次ぐ3番手はZooxなのかもしれない。

急ブレーキ事故でNHTSAの調査も

順風満帆に思われるZooxだが、近々ではNHTSAによる事故調査が行われているようだ。Zooxの試験車両が予期せぬ急ブレーキをかけたため、後続車(バイク)が追突する事故が2件発生したという。

これを受け、2024年5月にNHTSAがZooxのロボタクシー500台の調査を開始したことが報じられている。しっかりと改善を図り、Waymoに続いてもらいたいところだ。

独自の双方向モデル、最高時速は120キロ

出典:Amazonニュースリリース

Zooxのロボタクシーは、トヨタのe-PaletteやCruiseのOriginのようなボックスタイプで、全長3,630ミリ×高さ1,936ミリのコンパクトな車内に4人が乗車できる。前後の区別がない仕様で、対面方式で乗車するスタイルだ。

ハンドルやブレーキといった手動制御装置は搭載せず、乗客は設置されたスクリーンで到着予定時刻やルートの確認、音楽や空調設定などを行うことができる。

スペック上の最高速度は時速75マイル(時速120キロ)と高速走行を可能にしている。これは各社の自動運転車の中でもトップクラスに位置付けられる。

センサー類はカメラ、レーダー、LiDAR、長波赤外線サーマルビジョンカメラ、オーディオセンサーなどを搭載しており、全方向 150 メートル以上先や、コーナーの先まで見通すことができるという。航続性能は133 kWh のバッテリーで16時間走行可能としている。

出典:Amazonニュースリリース

8秒先の未来を予測

最先端のハードウェア、センサー技術、特注の機械学習アプローチを統合することで、周囲の車両や歩行者、動物の軌道など8秒先まで予測可能という。8秒先の未来を予測しながら走行することができるのだ。こうした予測技術は、安全な自動運転の核となる要素と言える。

センサーによる認識技術において、各シーン内の他の車両や歩行者、自転車などをAIがすばやく識別・分類し、各エージェントの速度と現在の軌道を追跡する。これらのデータをZoox Road Networkと呼ぶセマンティックマップに統合し、周囲の環境に関する詳細な情報を随時車両に提供していくという。

また、予測する段階の前に、情報を機械学習用に最適化された形式に瞬時に要約するという。予測機能が最終的に用いるのは、車両周囲すべての動的・静的オブジェクトを機械が読み取り可能な鳥瞰図表現に直したもので、これをベースにニューラルネットワークがどの距離が重要か、エージェント間のどの関係が重要かなどを決定していくという。

アマゾンとの相乗効果は?

Zooxはラスベガスでサービスインした後、それほど間を置かずサンフランシスコにもサービスを拡大するものと思われる。その後、シアトル、オースティン、マイアミなどの展開を見据えることになるだろう。

Waymoなどとの一番の違いは、車両が乗用車ベースではないことだ。CruiseのOriginと同様だが、Originはまだサービス面で実用化されておらず、予定通り進めば専用設計のオリジナル車両による世界初の自動運転タクシーとなる。この点は要注目だ。

アマゾン関連では、自動配送ロボットへの技術応用や、自動運転車両を用いた配送サービスなどの行方にも注目が集まるところだろう。

アマゾンはEC商品配達用途で自動配送ロボット「Scout(スカウト)」の自社開発を進めていたが、業績不振真っ只中の2022年、公開実証を中止し、同事業を大幅縮小することが報じられた。その後、事業を復活させたといった報道も見受けられない。

主に歩道を走行する自動配送ロボットとは勝手が異なるが、Zooxの技術は応用可能なはずだ。本命事業の自動運転タクシーが予定通り進み余力が生まれれば、ロボット分野への新規参入も考えられるのではないだろうか。車道を走行する自動運転車を活用した配送サービスなども考えられる。

アマゾンが自動運転タクシーサービスを抱えるメリットはクラウド部門(AWS)くらいしかなく、それ故自社事業と相乗効果を生み出す奥の手がまだ隠されているように感じる。

アマゾンの自動運転戦略にも改めて注目したいところだ。

【参考】アマゾンの動向については「Amazonが大失着?自動運転部門の縮小は「未来へのリスク」」も参照。

Amazonが大失着?自動運転部門の縮小は「未来へのリスク」

■【まとめ】3番手争いからZooxが一歩抜け出す?

Waymo、Cruiseに次ぐ自動運転タクシーの3番手争いは、ZooxのほかMotionalやAurora Innovationなどが存在するが、Zooxが一歩抜け出すのか注目だ。また、自動運転専用設計モデルによる世界初のロボタクシー事業が実現するかにも注目したいところだ。

一方、親会社となるアマゾンは、戦略上同事業をどのように位置付けているのか。自動運転タクシーの先を見据えていることはほぼ間違いなく、サービスインとともに新たな構想を打ち出してくるのか、こちらも要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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