自動運転、次は東北で「なんちゃってレベル4」認可 汎用性に課題感

大型バスで時速60キロは優秀、しかし専用道限定

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出典:JR東日本プレスリリース

国土交通省・東北運輸局は2024年3月、JR東日本らがBRT路線で取り組む自動運転バスについて、レベル4の認可を行ったと発表した。国内4例目で、東北地方では初のレベル4となる。

今回の自動運転のポイントは、走行速度と車両サイズだ。大型バスを時速60キロで無人走行させることに成功した点は非常に大きい。一方、走行路線は専用道で、磁気マーカーを併用したシステムのため、汎用性・普遍性の点では「なんちゃってレベル4」と言える。

無人走行を可能とするレベル4に違いはないが、米Waymoら海外勢の自動運転と比べると、やはり見劣りする部分は否めない。

気仙沼BRTの概要とともに、国内レベル4の現状について解説していく。

■気仙沼線 BRTにおけるレベル4の概要

国内4例目、柳津駅~陸前横山駅間4.8キロでレベル4実現

今回レベル4の認可を受けたのは、気仙沼線BRTの柳津駅~陸前横山駅間約4.8キロを走行する自動運転バスだ。

気仙沼線を運行するBRT車両1台が備える自動運行装置について、道路運送車両法に基づき東北運輸局が保安基準適合性を確認し、走行環境条件の付与を行いレベル4自動運転車として認可した。

国内におけるレベル4認可は、2023年3月の産業技術総合研究所、同年10月のティアフォー及びBOLDLYに次ぐ4カ所目となる。

車両は日野製ブルーリボンを自動運転化したもので、立席含め約80人が乗車できる大型バスだ。車両にはLiDARやカメラなどのセンサーとともに磁気センサーが搭載されており、道路に埋め込まれた磁気マーカー(一部RFID付き)を認識することで自己位置を特定しながら最高時速60キロで走行する。

ドライバーの周辺監視や制御などは不要だが、気仙沼線BRTでは有人でレベル4を実施する計画としている。自動運転区間は気仙沼線BRT路線の一部区間のため、当面はこうした状況が続きそうだ。

今後、同区間における特定自動運行許可(レベル4自動運転車の運行許可)を申請し、レベル4での営業運転実現を目指すとしている。

また、自動運転区間延伸に向けた取り組みも進めており、2024年秋頃を目めどに、柳津駅~水尻川AP間(約15.5キロ)の自動運転走行を目指す方針だ。

【参考】気仙沼BRTにおける取り組みについては「JR東日本が堂々宣言!「自動運転レベル4認証取得を目指す」」も参照。

■気仙沼BRT自動運転の「ここがすごい」ポイント

大型バスで自動運転レベル4実現

まず、大型バスの自動運転化を実現した点が大きい。言うまでもないが、自動運転は自律走行させるボディが小さいほうが制御しやすく、安全を確保しやすい。ボディが大きい分死角が多く、日本の狭い道路空間においては特に注意を要する。手動運転では大型二種免許が必要で、自動運転でも神経を消耗するサイズだ。

また、ボディサイズに比例して重量も重くなるため機敏に動けず、制動距離も伸びてしまう。万が一の際など、AI(人工知能)による判断に基づいて車両の制御を完了するまでに要する時間が長くなるのだ。

大型バスを用いた自動運転実証は各地で行われているが、その多くは実質レベル2にとどまっている。2020年に相鉄バスと群馬大学、日本モビリティが神奈川県横浜市で実施した営業運行実証では、運転席無人だがすぐ隣にセーフティドライバーが同乗し、万が一の際にすぐ対応できるよう安全を見守っていた。

セーフティドライバー不在で監視を必要としないレベル4はやはりハードルが高いのだ。中国ではすでに実用化されているようだが、近年は小型バスの開発が主流となっているようだ。世界的に見ても大型バスの自動運転化はハードルが高いことがうかがえる。

出典:東北運輸局プレスリリース

国内1~3例目はいずれも小型バス・シャトルモデル

なお、レベル4認可1例目となった永平寺町で使用されているモデルは、ヤマハ発動機の7人乗りランドカー「ARー07」を改造したもので、全長3,955×全幅1,354×全高1,837ミリとなっている。

2~3例目のモデルは、GLP ALFALINK相模原構内を運行するティアフォーのモデルは、タジマモーターコーポレーション製のGSM8を改造したもので、全長4,840×全幅1,510×全高2,125ミリとなっている。定員はオペレーター含め10人となっている。

羽田イノベーションシティ内を運行するBOLDLYのモデルは、日本ではおなじみのNAVYA社製「ARMA」で、全長4,750×全幅2,110×全高2,640ミリ、最大定員15人(公道走行時は11人)となっている。

これに対し、気仙沼BRTで使用される大型バスは、詳細モデルは不明だが全長10,555 or 11,255×全幅2,485×全高3,105ミリ相当と思われる。ホイールベース(5,300~6,000ミリ)に他社の自動運転モデルが収まるサイズだ。

車線幅員に対する相対的なサイズも大きく、自動運転の難易度は格段に高いと言える。

最高時速60キロのレベル4も国内初

もう1つのポイントは、最高時速だ。気仙沼のモデルは時速60キロを実現するという。一般公道の制限速度をしっかりと満たすことができる速度だ。

ボディサイズ同様、走行速度も上がれば上がるほど車両制御の難しさは増す。認識すべき外界の範囲が広がり、かつ判断を下してから車両が制御を終えるまでの時間も伸びるためだ。

前3例のモデルは、永平寺町の産総研モデルが最高時速12キロ、ティアフォーモデルが同15キロ、BOLDLYモデルが同12キロとなっている。低速走行することで安全性を高めているのだ。

これらの前例に対し、時速60キロを実現したのは大きなポイントと言える。しかも重量のある大型バスだ。大型モデルをより速い速度で自律走行させる技術は特筆に値する。

■気仙沼BRT自動運転の「なんちゃって」ポイント

専用道限定

気仙沼モデルの優れた点を紹介してきたが、汎用性・応用性に優れた自動運転モデル――という観点から見ると、マイナスポイントもある。

まず、走行路線が「バス専用道」であることだ。気仙沼BRTは、東日本大震災で被災したJR鉄路の跡地を活用したバス専用道で、原則一般車両をはじめ、自転車や歩行者も通行することができない。

つまり、自動運転システムとは別にインフラ面で高い安全性が保たれているのだ。専用道だからと油断することはできないが、前提として他の交通参加者がいない点は大きい。だからこそ時速60キロを実現できると言っても間違いではないだろう。

もちろん、専用道とは言え気仙沼線には一般道との交差点も存在する。注意を払うべきポイントは残されているのだ。また、気仙沼線は前谷地から気仙沼まで営業区間は72.8キロに上る。この全区間を完全無人で走行することができれば、一定の技術波及も見込める。

国内では、地方を中心に赤字路線が増加傾向にある。国土交通省によると、地域鉄道の輸送人員はピーク時(1991年度)と比べ2019年度には22%減少している。2019年度における地域鉄道事業者95社の鉄軌道事業のうち、74事業者が赤字という。

廃線議論が活発化する中、鉄道跡地を活用した自動運転BRTは有力な選択肢となるはずだ。成功例として、同路線のシステムが全国に波及していく可能性は十分考えられるだろう。

磁気マーカーシステム使用

もう一点、磁気マーカーシステムを使用している点も「なんちゃって」ポイントに挙げられる。専用道上に設置した磁気マーカーの情報を、車両に搭載した高感度磁気センサー(MIセンサー)で読み取ることで自車位置を特定し、正確な走行を実現する技術だ。気仙沼線では、2メートル間隔でマーカーが埋め込まれている。

自律走行を高める有用な技術だが、同システムを実現するには走行経路に磁気マーカーを埋め込む必要があるため、汎用性の点で疑問符が付く。道路にくまなく手を加えなければならないのだ。

一定経路を走行する自動運転バスであればよいが、一定エリア内を柔軟に走行する自動運転タクシーの場合、その敷設は大変な作業となる。

もちろん、停車場所における正着制御用途や、カメラなどのセンサーだけでは対応しづらい豪雪地帯の自動運転においては非常に優れたセンサーとなる。積雪で道路の形状が変わっても、埋め込まれたセンサーを読み込むことができれば自車位置を正確に把握することができるためだ。

【参考】磁気マーカーシステムについては「抜群の安全性・堅実性!磁気マーカ自動運転で愛知製鋼がロゴ制定」も参照。

1~3例目にも課題あり

なお、1例目の永平寺町のレベル4も磁気マーカーを使用しており、走行ルートは廃線跡地を活用した自転車・歩行者専用道(永平寺参ろーど)だ。純粋な混在空間ではない。

2~3例目のティアフォーとBOLDLYは磁気マーカーを使用していないが、それぞれ道路交通法が適用される敷地内通路となる。

ティアフォーによると、GLP ALFALINK相模原の走行ルートは歩行者と一般車両が混在する環境という。BOLDLYは、羽田イノベーションシティ内の全周約800メートルを走行するとしている。

不特定多数の一般車両や歩行者が行き交う純粋な公道ではないが、サービス拡大に向けた一歩と言える。両社とも自動運転サービス実装に向けた取り組みを加速しており、今後の展開に期待が寄せられる。

【参考】永平寺町のレベル4については「自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ」も参照。

【参考】ティアフォーとBOLDLYのレベル4については「自動運転レベル4、関東初認可は「決められたルート」型」も参照。

■海外の事例

海外は普遍性高い自動運転タクシーが先行

自動運転分野で先行する米Waymoや中国勢が力を入れているのは、自動運転タクシーだ。車体こそ自家用車を改造したものだが、一定エリア内を柔軟に走行することができる。

事前マッピングなど準備は必要だが、こうした自動運転システムであれば原則どこにでも拡張していくができる。汎用性が高いのだ。中国の百度は2030年までに国内100都市での自動運転サービスを目標に掲げているが、こうした目標を達成するには汎用性・普遍性は必要不可欠だ。

バスであれタクシーであれ、日本でもまずは純粋な一般公道におけるレベル4実現を望みたいところだ。

■【まとめ】汎用性に優れた自動運転システムの登場に期待

国内でも、ティアフォーやBOLDLYなどの実証が大きく加速しており、おそらく2024年度中にも一般公道におけるレベル4認可の動きが出てくるのではないだろうか。

国は2025年度をめどに50カ所程度で無人自動運転移動サービス実現を目標に掲げている。目標達成には専用道や磁気マーカーなどが近道となりそうだが、これでは50ヵ所達成は厳しい。やはり汎用性に優れたシステム構成で一般公道を走行可能なモデルの登場が必須となる。

2024年度、各社はどのように攻勢を仕掛けるのか。その動向に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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