空と陸のモビリティの統合を図っていくプロジェクトが愛知県で始動したようだ。同県の革新事業創造戦略の枠組みによる第1号の革新プロジェクトとして、産業用ドローン開発を手掛けるプロドローンが提案した「空と道がつながる愛知モデル2030」が採択されたのだ。
空と陸のモビリティの統合とは、どのようなものなのか。プロジェクトの概要に迫っていこう。
記事の目次
■「空と道がつながる愛知モデル2030」の概要
愛知県の革新事業創造戦略のもとプロジェクト化
愛知県は2022年12月、新産業の創出や既存産業の高度化などを目的に革新事業創造戦略を策定した。革新性、必要性、共創性、実現性、インパクトの5つの視点から高く評価できる提案を「革新事業」として採択し、官民連携プロジェクトとして推進を図っていく内容だ。
重点的に取り組むべき政策分野として、グリーン・トランスフォーメーション(GX)やデジタル・トランスフォーメーション(DX)など7分野を導出し、イノベーション創出に向けた枠組みとして、産学官金など多様な主体からの提案を受け付ける「革新事業創造提案プラットフォーム(愛称:A-idea(アイディア)」を構築した。
A-ideaは、革新事業創造アイディアの提案、技術・研究シーズ、支援施策をデータベース化し、オープンイノベーションの機会提供に向けマッチングを図っていく。
こうした枠組みのもと、2023年2月までに18件のアイディアが寄せられ、このうち10件が審査を希望したという。その結果、第1号プロジェクトとして採択されたのが「空と道がつながる愛知モデル2030」だ。
空と陸のモビリティを同時制御
プロジェクトでは、ドローンや空飛ぶクルマといった空のモビリティの早期社会実装や、自動運転車両との同時制御による運行など、人やモノの移動に境界がなくなる愛知発の新しいモビリティ社会の構築を目指す。
2030年までにドローンや空飛ぶクルマ、自動運転車両が安全かつ同時に自動管制によって制御され、人やモノの移動に境界がなくなる新しいモビリティ社会の構築を目指す方針だ。
取り組み例としては、重さ50キログラムの荷物を50キロメートル先まで運べる革新的な物流ドローン(=空飛ぶ軽トラ)をはじめ、新たなモビリティで物流クライシスの解決を図っていくことや、空モビリティと陸モビリティが安全かつシームレスにつながる交通環境の構築、愛知県基幹的広域防災拠点と連携し日常的に使用しているドローンが災害時に活用できる仕組みの構築などを挙げている。
2024年度に空飛ぶ軽トラ、2026年度に空飛ぶクルマを社会実装
実現に向けたロードマップとしては、2023~2025年を「『空』モビリティの社会実装」、2026~2027年を「空と道がつながるモビリティ社会のビジネスモデル構築」、2028~2030年を「空と道がつながるモビリティの社会実装」、2031年~を「社会実装した愛知モデルの発信」をそれぞれ進めていく方針だ。
「空飛ぶ軽トラ」ドローンは、実証実験を経て2024年度にも実装を開始し、空飛ぶクルマは2026年度の実装を目指す。
また、具体的なユースケースを想定した革新的ビジネスモデルの検討を経て確立に向けた「空」モビリティの導入支援を進め、革新的ビジネスモデルの本格社会実装に踏み込んでいく。
並行して、ルール作りや技術開発をはじめ、より便利に利用可能な機体開発や、ドローンや空飛ぶクルマが自由に安全に飛べる空のルールづくりに向けた取り組みの実施運用方法の検討なども進めていく。
ジェイテクトや名古屋鉄道なども参画
プロジェクトの具体化・推進に向け、革新事業創造戦略会議内に「空と道がつながる愛知モデル2030」を推進するプロジェクトチームを設置する。
プロジェクトチームには、愛知県と提案者のプロドローンのほか、ジェイテクトと名古屋鉄道がコアメンバーとして加わる。プロドローンによると、このほかVFR、SkyDrive、テラ・ラボも加わるという。
VFRはドローンや付随するソフトウェア開発などを手掛ける企業で、SkyDriveは空飛ぶクルマの開発を進めているスタートアップだ。テラ・ラボもVTOLをはじめとした無人航空機の設計や開発を手掛けている。
モビリティメーカーなどの参加も想定しており、今後自動運転開発企業やサービス関連企業などさまざまな企業が参画する可能性も高そうだ。
■プロドローンの取り組み
ドローンによる重量物の長距離輸送などに注力
産業用ドローンシステムの研究開発やサービス化に取り組むプロドローンはこれまで、物資輸送や不法投棄監視手法の実証などさまざまな事業を進めている。
2022年7月には、50キログラムの荷物を積んで50キロメートル先まで運搬できる大型ドローン=50/50ドローンの開発に向け運搬デモを実施したと発表した。
医薬品、日用品を含むさまざまな物資を運搬する「空の軽トラ」がこの50/50ドローンだ。同社が開催した「DRONE EXPO 2022 in Aichi」の会場で、50/50ドローンに向け検討している「12枚大型試作機(XPD12B)」で43キログラムのポリタンクの運搬デモを実施したという。
2023年2月には、鹿児島県薩摩川内市で行われた「甑島地域ドローン物流コンソーシアム」の実証で、薩摩川内市から上甑島に至る約26キロメートルの海を渡る医薬品ドローン配送を実施した。長時間飛行可能なドローンによる本土からの直接輸送の実証だ。
2023年4月にはジェイテクトから出資を受けたことを発表し、空飛ぶ軽トラをはじめ社会課題を解決する産業用ドローンの開発をいっそう推進するとしている。
重量物の長距離輸送は、離島や山間部などで大きな効果を発揮する。自社自らが取り組むこうした領域と、空飛ぶクルマや陸地の自動運転車などをどのように連携・統合していくのか、今後の取り組みに要注目だ。
【参考】プロドローンについては「トヨタ軍団も注目!謎の「空飛ぶ軽トラ」にジェイテクトが出資」も参照。
トヨタ軍団も注目!謎の「空飛ぶ軽トラ」にジェイテクトが出資 https://t.co/gkz1sdQ3NG @jidountenlab #トヨタ #空飛ぶ軽トラ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 27, 2023
■他社の取り組み
茨城県境町やつくば市などで実証
空のモビリティと陸のモビリティを連携させる取り組みは、各地で広がり始めているようだ。仏Navya製自動運転バス「ARMA」の定常運行でおなじみの茨城県境町では、2022年10月から新スマート物流の実用化に向けた実証を行っている。
境町とエアロネクスト、セイノーホールディングス、BOLDLY、セネックの5者が連携協定を締結し、ドローンや自動運転バス、トラックなどの既存物流と組み合わせて物流を最適化する取り組みを進めているようだ。
一方、茨城県つくば市では、2023年1月から3月にかけてドローンやロボットでPCR検体を模した物資や食品配送を行う実証が行われたようだ。
KDDI、KDDIスマートドローン、ティアフォー、Psychic VR Labの4社が協力し、「有人地帯における補助者なし目視外飛行=レベル4飛行」による運航を想定して病院屋上から検査機関までドローンで物資輸送を行ったほか、ドローンにおける「空の道」をXRコンテンツで示し、ドローンを視覚的に認識できる仕組みの構築や、ドローンと配送ロボットを組み合わせたフードデリバリーなども実施した。複数のドローンで食品を配送し、公道を走行する配送ロボットが個人宅まで商品を届けたという。
【参考】茨城県境町の取り組みについては「陸&空の連携!茨城県境町、配送革命へ実証 自動運転バスやドローンを活用」も参照。
【参考】茨城県つくば市の取り組みについては「空と陸で「ダブル自動運転」!物資配送、完全無人化へ一歩」も参照。
空と陸で「ダブル自動運転」!物資配送、完全無人化へ一歩 https://t.co/BROpl1NAjj @jidountenlab #自動運転 #物資配送
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 2, 2023
■【まとめ】空陸連携はスタンダードなものへ
ドローン物流や空飛ぶクルマによる人の移動などはまもなく実現する見込みだが、こうしたサービスの効果を最大化するには、陸のモビリティと結び付け、きめ細かな移動や配送を実現しなければならない。
まだまだ先の話に思えるかもしれないが、移動や輸送にイノベーションが起こった未来では、こうした空陸連携はスタンダードなものへと変わっていくはずだ。
愛知県やプロドローンが今後どのような事業を具体化していくのか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転バス、愛知県「再現できるビジネスモデル」確立へ」も参照。