大手参入相次ぐ!空飛ぶクルマ市場本格化、関電もSOMPOも

多方面から各社がアプローチ



出典:国土交通省

2025年の商用運航実現に向け、熱気を帯びてきた空飛ぶクルマ業界。機体開発企業以外の参入も相次いでおり、業界の裾野は拡大の一途をたどっているようだ。

2023年3月に開催された「空の移動革命に向けた官民協議会」では、民間11社がプレゼンを行い、それぞれの立場からのアプローチを発表した。中には、関西電力や損害保険ジャパン、双日といった各業界の大手も名を連ねている。


各社はどのようなアプローチで空飛ぶクルマ事業に関わっていくのか。それぞれの取り組みに触れていこう。

■関西電力の取り組み
EV関連事業のノウハウを空飛ぶクルマ領域でも発揮

関西電力は、空飛ぶクルマ産業において、以下の5事業の提供を計画している。注目は、充電器(充電ステーション)やEMSだ。

  • ①充電器
  • ②EMS(エネルギーマネジメントシステム)
  • ③電力アドバイザー
  • ④受変電設備・電気工事
  • ⑤電力小売

充電ステーションは空飛ぶクルマの重要インフラに位置付けられるが、機体の開発メーカーごとに最適な充電ステーションの仕様や充電方式は異なり、また高出力の充電に対応したケーブルやコネクタ、冷却システムの開発が必要という。

導入・運用面では、高出力の充電器を複数台同時に使用することで離発着場の電力デマンドに影響を与える可能性があり、受電設備費用と電気料金が高くなる。また、充電ステーションの充電スケジュールと運航スケジュールが紐づいていなければ、運航スケジュールの実現可能性に影響が及ぶ可能性も指摘している。


空飛ぶクルマには、EV(電気自動車)向け充電ステーションよりも高出力が求められるため、これに応じた安全対策や運用方法の検討なども必要という。

そこで関電は自社の強みを生かし、空飛ぶクルマの充電ステーションをはじめ、充電状況の見える化や充電の出力制御、充電スケジュールの自動作成などを行うEMSの開発を進めるほか、国内法令や関連規制に対する規制改革要望の提案を行っている。

関電は現在、商用EV向けに車両・充電・インフラ整備工事・EMSを一元パッケージ化したサービスを提供しており、空飛ぶクルマにおいても、EVで培ってきたノウハウ・技術力を駆使して貢献していく構えだ。

出典:経済産業省/空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料(※クリックorタップすると拡大できます)
大阪で充電設備の仕様など想定した実証に着手

実証関連では、「空飛ぶクルマの大阪ベイエリア航路実現性の調査事業」に参画している。グロービングやSkyDriveをはじめとした民間10社と大阪公立大学、大阪府市による共同事業だ。


出典:経済産業省/空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料(※クリックorタップすると拡大できます)

同事業では、ポート候補地となる大阪港周辺や桜島周辺の風況・地盤等の調査や、大阪・関西万博会場周辺の想定飛行経路における風況・気象データなどの取得・分析、空飛ぶクルマの機体や運航スケジュールに応じた最適な充電設備の設計、ポート全体のエネルギーマネジメントを含む運用方法の検討などを行う。

関電は、ポート候補地で最適な充電設備の仕様想定と運用方法の検討を進めている。

▼空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/009_06_04.pdf

■損害保険ジャパンの取り組み
リスクアセスメントやサイバーセキュリティにも注目

損害保険ジャパンは新領域での事業として、自動運転事業やMaaS関連事業、AI(人工知能)・データの活用、ドローン、エネルギーの各分野にも取り組んでいる。

自動運転関連ではティアフォーと資本提携し、実証に向けたワンストップパッケージの開発や、遠隔操作に対応したサポートセンター「コネクテッドサポートセンター」の開設、自動運転向け保険商品の開発などを行っている。MaaS関連ではDeNAと合弁DeNA SOMPO Carlifeを立ち上げ、クルマ定額サービスを行うなどモビリティ領域における事業を拡大している。

ドローン関連では、有人地帯で補助者なしの目視外飛行を行うレベル4の社会実装に向け、「産業用貨物輸送ドローン・トータルプラン(保険パッケージ)」や「リスク評価ガイドライン適合支援サービス」をリリースしている。

また、日本産業用無人航空機工業会(JUAV)から、型式認定を受けたドローンの販売や機体点検と連動した保険制度の引受保険会社に指名されたほか、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)とブルーイノベーションとの連携のもと、ドローン専用アプリ「SORAPASS care」に保険をセットした仕組みを発表している。

空飛ぶクルマ関連では、実証の計画策定時に必要となる地域・フィールドの特性検証をはじめ、予想されるリスクに対する対策やマニュアル作りなど、一貫したコンサルティングサービスの提供を検討している。

空飛ぶクルマの運用においては飛行前のリスクアセスメントが重要となるが、同社は想定される実証におけるリスク要因や危害シナリオを策定し、各危害シナリオの「危害の程度」と「発生頻度」を独自基準に基づいて点数化し、それぞれのリスク評価を行う。

また、今後はドローン・空飛ぶクルマ領域においてもサイバーセキュリティ対策が重要になるとし、ISMS認証・Pマーク取得企業向けサイバー保険の提供など同分野における取り組みにも注力していく構えだ。

出典:経済産業省/空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/009_06_05.pdf

■双日の取り組み
BETA Technologiesに出資、国内展開目指す

総合商社として、自動車や航空産業・交通プロジェクトなどモビリティ領域における実績が豊富な双日は、ヘリコプターの遊覧飛行事業などを手掛けるAirXや空飛ぶクルマ開発を進める米BETA Technologiesに出資するなど、エアモビリティ領域における取り組みにも積極的だ。

eVTOL関連では、安全性と技術力を担保したOEMとの連携、知見ある運航パートナーとの協業、安全性と事業性を考慮した確実な導入計画──の3点を重視している。

BETA Technologiesとの協業では、安全かつ事業性の高いeVTOLの日本市場への導入モデルの構築を目指す。機体開発メーカーの技術情報と国内航空業界の知見を生かし、国内オペレーション事業の最適化を図り、BETA Technologiesと国内事業者とのネットワークを形成してユースケース実現を目指していく構えだ。

eVTOL展開としては、物流課題に対応し貨物市場での導入を優先する。貨物輸送での運航実績を重ね社会受容性を形成し、旅客領域への展開を図っていく。また、顧客のニーズに合わせて医療や防衛、チャーター輸送などの特定輸送領域も視野に据えている。

出典:経済産業省/空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼空の移動革命官民協議会プレゼンテーション資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/009_06_10.pdf

■空飛ぶクルマ市場に参入する大手
裾野の拡大を続ける空飛ぶクルマ市場

商社関連では、丸紅が英Vertical Aerospaceと業務提携契約を交わし、日本市場への導入可能性を検討しているほか、米LIFT AIRCRAFTとともに大阪・関西万博に向けた実証実施候補者として採択されている。

兼松は、バーティポート構築に向け英Skyportsと資本業務提携を交わし、国内パートナー候補との関係構築などを進めている。

建設コンサルタントの長大はIHI運搬機械などと手を組み、バーティポートの環境基準づくりや最適配置に向けた評価、企画・設計、運営に至るまでを視野に収め、事業展開を行っている。

日本工営もバーティポートの適地選定や管制システムの検討など、幅広く空飛ぶクルマ領域に関わっていく構えだ。

三菱地所もバーティポートに注目し、都市計画の観点から周辺施設との相乗効果などさまざまなユースケースを想定し、ビジネスエコシステムを模索している。空港運営などを手掛けるオリックスグループもバーティポートの事業化を検討しているようだ。

保険関連では、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険の各社が空飛ぶクルマ領域にアプローチし、リスクマネジメントや保険商品の開発などを進めているようだ。

■【まとめ】空飛ぶクルマ市場の裾野はまだまだ拡大

機体開発そのものはスタートアップをはじめとした専門企業が担っているが、充電ステーションやバーティポートをはじめとしたインフラ構築や運航サービスの具体化など新規参入する余地が大きく、さまざまな観点から各社がアプローチしているようだ。

各界を代表する大手の参入は、空飛ぶクルマ市場の実現を強烈にプッシュし、その裾野をさらなる拡大へと導いていく。

今後、どのような企業が新たに参入し、どのようなアプローチを仕掛けてくるのか。業界の動向に要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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