自動運転、信号に革新は必要?警察庁、トヨタらにヒアリング

ジレンマゾーンの解消にV2IやV2N技術が活躍



自動運転車の安全かつ円滑な走行をサポートする路車間連携(V2I)システム。中でも、交差点における信号機関連の情報は有益だ。


新たな交通インフラ整備に向けた検討は各所で進められており、警察庁は「協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会」を設置し、有識者による議論を進めている。

2022年度3回目の検討会では、信号情報関係について各企業などを対象にヒアリングした結果が示された。この記事では、ヒアリング内容を通じて次世代の信号インフラに求められる技術や現状における課題に迫っていく。

▼ヒアリングの結果について|令和4年度協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会|警察庁
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/02-3_kaigishiryou.pdf

記事の目次

■信号に関する取り組み
V2IやV2Nシステムの構築目指す方針

信号に関する交通インフラ整備においては、官民ITS構想・ロードマップで「現状の車両自律センシング技術において、信号灯色を認識できるのは車載カメラのみであることから、これを補完するため、路側インフラやクラウドなどから信号情報を提供するシステムを構築し、高度な自動運転の実現」を目指す方針が記載されている。


また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)においても、車載カメラのみに頼らない路側インフラやクラウドなどからの信号灯色や信号残秒数などの信号情報の提供について、有効性の確認や技術開発に必要な実証が行われてきた。

具体的には、700MHz帯のITS無線路側機を活用した路側インフラを通じた信号情報の提供(V2I)や、警察庁信号情報集約システムや信号情報センター(仮称)事業者サーバーなどを介して信号情報を提供するクラウド型(V2N)だ。

V2NはLTEなどの携帯電話通信網を活用し自動運転車に対して信号情報を提供する仕組みについて検討を進めており、これまでに都道府県警察モデルシステムの仕様検討や構築・検証、信号情報センターの検討、信号情報の精度向上に関する検証などが行われている。

自動運転車は車載カメラで信号情報を認識できるが、強い西日や天候状況など認識精度に影響を及ぼすこともある。このため、V2IやV2Nによって冗長性を高めたり、先読み情報で円滑な運行を可能にしたりする検討が進められている。


統一規格化やセキュリティなどが課題に

課題としては、灯色切り替わり時の情報誤差や、信号灯色と配信情報の一致を確認し、異常発生時には即時に車両へ通知するフェールセーフ機能、さまざまな信号制御方式において信号情報提供を実現することなどをはじめ、周波数や通信の規格化、セキュリティの確保などが挙げられている。

信号機の設置や管理は公安委員会及び警察が担っており、このため警察庁は「協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会」を設置し、次世代モビリティに対応した交通信号の在り方について検討を進めている。

■検討会におけるヒアリング内容

2022年10月に開かれた協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会では、自動車メーカーや交通管制メーカーなどを対象に実施したヒアリング結果をもとに議論を進めた。

ヒアリング対象は、自動車メーカー3社、自動運転開発企業などの関連事業者3社、交通管制メーカー6社、都道府県警察10都府県となっている。

出典:警察庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

以下、主なヒアリング内容について紹介していく。

信号情報についてどのようなユースケースを想定しているか?

「車載カメラとの冗長性を持たせ補完的に利用することを想定」「ジレンマゾーン回避や交差点を渡り切れるかの判断に利用することを想定」「自律走行が基本だが、信号情報の性質次第では利用することも想定」「信号情報を利用するには、地図情報と紐付くことが必要」といった回答があった。

ジレンマゾーンは、信号が黄色に変わった際に通過すべきか停止すべきか判断を迷うタイミングにおける葛藤を指す。V2Iにより信号情報を先取りすることで、こうしたジレンマの解消に期待が寄せられる。

また、高精度3次元地図などのマップと紐づけることで、交差点までの正確な距離や経路検索に役立てることもできるようだ。

自動運転車の開発やサービスを運行する上で、信号情報はどのような位置付けか?

「カメラでは100%の精度で認識できる訳ではないため不可欠」「時間帯によっては灯色を認識しにくくなるため有益」「複雑な交差点などであればインフラ協調が必要となる可能性があるため有益」といった回答があった。

ただし、外部から情報を車両に取り込むこと必要が生じることから、サイバーセキュリティ上の問題を懸念する意見も出ている。

信号情報を提供する側として、V2IとV2Nのどちらの手法が望ましいか。またそれ以外の手法を考えているか?

「V2Iについては、760MHz帯無線通信に限らず他の通信手段も選択肢になる」「760MHz帯は世界的にはニッチな周波数帯であり、ユーザー視点に立つと専用受信機の導入はハードルになる」「V2Nは汎用の受信装置を使用できるため普及しやすい」「信号情報以外のさまざまな情報を提供することを考えるとV2Nが適している」などの回答があった。

汎用性や拡張性に優れたV2Nのメリットが評価される一方、「V2Nは、情報の精度、セキュリティ等の課題がある」「V2Nは、管制センターなどを経由すればするほど伝送遅延が生じリアルタイム性が損なわれる」といった課題も指摘されている。

自動運転車の普及促進などのため、現行の信号制御の方法を見直すことについて期待や考えはあるか?

「黄色の時間を長くすることが望ましい」「自動運転車は右折判断が難しいため、右折矢印信号があることが望ましい」「歩車分離式制御が望ましい」「横断歩道を渡る自動配送ロボットが検知された場合、青時間を延長することを期待」といった回答があった。

黄色を長めにしてジレンマゾーンに対応しやすくする観点や、右折矢印信号の設置などが求められているようだ。

押ボタン式制御式の交差点では、ボタンを押下してから信号が黄色に変わるまでの間に一定の間を入れる実験を行ったところ、自動運転車にとっては有用であったとする意見も出されている。

適用する通信方式について希望はあるか?

「単一の通信方式が良く、世界標準の規格に適合するのが望ましい」「全ユーザーが容易に受信可能な携帯電話通信網が望ましい」「すでに実用化されている760MHz帯が望ましい。5.9GHz帯はWi-FiやETCとの干渉が問題」「760MHz帯は汎用性が低く、世界的な視点では5.9GHz帯が望ましい」などの回答があった。

関連して、制度上警察のみに許可されている760MHz帯の無線機の使用については、「整備数が少なく、整備に係るコストが高いことが課題」「760MHz帯の将来性が不透明」など、否定的な意見が目立った。

信号情報の利用に費用が発生する場合でも利用したいか?

「警察の予算での整備には限界があるため、受益者負担を考える必要がある」「広い範囲でコスト負担すべき」「公共的な課題解決につながるため、自治体等が費用負担すべき」「ビジネスモデルが成立するのであれば、費用が発生してでも利用したい」などの回答があった。

利用に係る費用負担を警察のみに求めるのは確かに理にかなわない。受益者負担には、自動運転サービスを提供する事業者や自治体が利用料を支払う手法や無線機ごとに利用料を支払う手法、自動運転車両の価格に反映させる手法、自動運転サービスの運賃に反映させる手法など、さまざまな考えがあるようだ。

交通規制情報提供は、自動運転車の開発やサービスを運行する上でどのような位置付けか?

「計画した経路で走行できるか検討するため静的な交通規制情報は不可欠」「動的な交通規制情報が必要」「交通規制情報を地図に埋め込むために有益」などの回答があった。

また、利用したい情報として、工事や事故、イベントなどに伴う交通規制、一方通行、速度規制、ゾーン30のエリア・時間帯、車幅規制・車高規制、時間帯の右折禁止、大型車の進入禁止が挙げられている。

交通規制情報に登録誤りや標識建柱前情報などの現場状況と相違のある情報が含まれている場合、車両側ではどのように対応することとなるか?

「遠隔監視者が判断することになると思う」「各種センサーで確認した上で安全に走行する措置を取る」「現時点では考えていない」といった回答があった。

通信で得た情報と実際の現場の状況に相違がある場合、一律に判断することは難しい面がありそうだ。また、こうした際に差分情報を提供するといった協力面での意見も出されている。

信号機の灯火、一時停止や規制速度などの標識、停止線などの標示について、現在の技術でどの程度認識できるか?

「昼間で一定程度の距離であればカメラによる信号灯火の認識率は100%に近い」「当面、カメラの認識率100%にすることは困難」「認識率が99.9%としても1,000回に1回間違えることは問題」「道路標識などの情報はマップに埋め込んでおり、カメラによる認識はしていない」などの回答があった。

認識率は100%に近くとも100%は達成できず、そこに課題意識があるようだ。今後どこまで認識率の向上を図っていくべきかといった問いに対しては、「認識率の向上を追求するよりも現在の技術でどう工夫するが重要」「継続的な画像認識精度の改良が必要」「現在のカメラ認識率であればサービスカーの走行への支障は特に無い」といった意見が寄せられている。

事業計画において海外の動向はどの程度影響を与えるか?

「異なる法規制、道路環境、自動運転の需要にそれぞれ対応したい」「分けて製造するよりは共通的に製造したい」「欧州では既に地図と交通規制情報を連動させたサービスが展開されており、このような動向は重要」「海外展開は考えていないが国際基準については影響を受ける」といった回答があった。

V2IやV2Nの信号情報提供手法や無線機による信号情報提供が可能となった場合、信号情報の生成や提供及び利用に関し、関係者間における責任分界の検討に当たって留意すべき点は何か?(都道府県警察向け)

「信号制御機が信号情報を生成するまでが都道府県警の責任範囲で、無線接続装置以降の信号情報の伝達やその正確性の担保は警察以外の民間事業者の責任範囲であると考える」といった回答があった。

自動運転車の発展・普及などを見据えた交通安全施設整備における課題について(都道府県警察向け)

「交通安全施設の整備、維持管理に関する県費・国費予算の確保や低コスト化」「自動運転車に対応する信号制御機などの仕様、設置方法などの統一化」「信号機の右折車両分離方式などの歩車分離への改良」「信号情報及び交通規制情報の提供手法の確立」などの回答があった。

■【まとめ】信号情報はコネクテッドカーにも有益

警察庁によると、信号機の総数は2021年3月末時点で約20万7,000基という。将来的にこのすべてが新規格に対応すること、また可能な限りグローバルに通用する仕組みを構築するには、簡単に結論を出すわけにはいかないのだろう。

無線や通信規格、セキュリティ対策など課題は多そうだが、信号情報はコネクテッド化が進む一般の手動運転車にも有益な情報であり、安全かつ円滑な道路交通に貢献する技術となる。

自動運転サービスの実装がまもなく本格化する中、どのような形で方式を決定し、導入を図っていくのか。今後の動向に要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転車、信号機なしで走行!NTTが技術確立」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事