CASE「AとEは深く関係」 官民検討会、自動運転などに関し意見

人材育成やオーナーカー、安全性評価に関する意見も



自動運転技術の社会実装・ビジネス化に取り組む自動走行ビジネス検討会の会合がこのほど開催された。2021年度の取り組み報告のほか、今後の活動に向け活発な意見交換が行われたようだ。

この記事では、議事要旨の中から各委員の意見をピックアップし、紹介していく。


▼議事要旨
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jido_soko/pdf/013_gijiyoshi.pdf

■各委員から出された意見
自動運転のミスをカバーするのもADAS

「ヒューマンエラーだけでなく、自動運転のミスをカバーするのもADASであり、高性能ADASの集合体が自動運転ではないかと考えている。この考えをベースにして今後もL3、L4の研究・開発を進めて行きたい」

自動運転システムに対するADAS(先進運転支援システム)の存在に言及した意見だ。自動運転システムでは、システムの一部に障害が発生した場合、それをどのようにフォローするかといった冗長性の観点も重要だ。

例えば、モービルアイはLiDAR主体のシステムとカメラ主体のシステムの2つの自動運転システムを備えた「Mobileye Drive」を発表している。トヨタの「e-Palette」は、他社製自動運転システムとトヨタが開発した「ガーディアン(高度安全運転支援)」を搭載可能な仕様だ。


2種の自動運転システムの搭載は魅力的だが、片方をADASとして捉え、効率的に冗長性や安全性を高めるのも有用だ。

CASEのAとEは深く関係

「CASEのAとEは深く関係してきている。クルマの運動性能はバッテリーやモーターを駆使することで大きく進化。電動化の回生ブレーキを使うと車間維持が容易になる。もはや渋滞ではWtoTでCO2は排出しなくなる」

電動化に関する意見が少ない中、A(自動運転)とE(電動化)の関係性に言及する興味深い意見だ。エンジンを廃したモーター駆動により車内設計の自由度も増す。新設計のオリジナルの自動運転車が基本的にBEV仕様となっていることからも、自動運転車と電動化の相性の良さがうかがえる。

ハイブリッド系は動力面で冗長性を確保し航続距離が伸びる一方、コストや設計面での制約が増す。BEVもHVも現時点で一長一短があるものの、将来を見据え本格的な議論を行う時期が到来していることは間違いない。

データ活用ビジネスがポイントに

「ビジネス面では、AD・ADASが普及した後を見据えたデータ活用ビジネスがポイントになる。国内におけるビジネス展開のハードルを明らかにし、適切な法規対応のもと迅速に展開する土壌を整備すべき」

米調査会社のEmergen Researchによると、世界の自動車データ収益化市場規模は2028年に869億1,000万ドル(約10兆円)に達するという。

多くのセンサーを搭載しコネクテッド化されたAD・ADAS車両はデータの宝庫となり、多岐に渡るデータをどのように地域活性化や課題解決に結び付けていくか、またどのような価値を見出しビジネス化を図っていくかが問われる。大きなポテンシャルを有する成長分野の1つだ。

人材育成に関する意見

「人材戦略WGでは、開発人材だけでなく運用人材の検討も開始した。運用人材が必要であることが理解できた一方、開発人材の不足の状況も変わっていない。両者を一緒に検討するのが効率的かどうかも含め議論を進めていただきたい」

「社会実装にはメンテナンス、オペレーションの高度化が必要。専門学校の役割も大きくなることが想定されるため、専門学校活用スキームを検討しては」

これまでは、AIやIT系といった開発人材に大きなスポットが当てられていたが、一部で開発フェーズから実用化フェーズに移行する動きが出始め、サービス実装後を見据えた新たな人材育成の需要が高まりを見せているようだ。

自動運転車のメンテナンスには、機械分野の知識のほか、自動運転システムを主体としたコンピュータ面の知識やセンサーなどの先端機器に関する理解などが求められる。また、オペレーションもアナログ的なものに留まらずIT系の知識が必要不可欠となるケースが多い。

依然として高い需要を誇る開発人材に加え、高度なコンピュータと化した新たなモビリティを効果的かつ安全に運用する人材需要も今後増加の一途をたどりそうだ。

オーナーカーにおけるAD・ADAS関連

「自動運転で培った技術を量産車(オーナーカー)に投入し、技術・安全の底あげをしたいと考えている。そのため、ビジネス検討会によるAD・ADASの普及拡大の取り組みはありがたい」

「L3以上の提供は、コスト、人材面から難しい段階。ただし自動運転が社会実装される未来は確実であり、今後市場投入する車両においては、将来の自動運転車のコスト低減に寄与できるようL2の機能のカバー範囲拡大に努めたい」

「部品関連の技術ではL2~3とL4で求められる技術水準に乖離がみられ、技術の共通化が進まずL2~3の普及や量産効果はL4に波及しないのではないかと危惧している。L4の技術要件が不明確なことも乖離の要因。L4の機能、性能要件を明確にして共通技術や部品の開発を進ることで、コストダウンにつながるのではないかと考えている」

サービス向けのレベル4技術をオーナーカーに転用・応用していくことで、開発・製造におけるコストの低減や市場の活性化、さらには道路交通全体の安全性向上を図ることができる。

また、オーナーカー向けの高度なL2体験により、L3~L4の自動運転への関心が高まるといった主旨の意見もあった。自動運転開発で培った技術をどのようにオーナーカー市場に落とし込んでいくか。こうした観点も今後大きな注目を集めそうだ。

自動運転の安全性評価に関する意見

「安全性評価はシミュレーションでも網羅的な分析が可能となってきている一方、シミュレーションの正確性についてはテストコースでの検証が必要。国際連携も引き続き不可欠」

「一般道での安全性評価は対車両だけでも200以上のシナリオが想定され、優先順位の整理が重要になる。アプローチとしてはRoAD to the L4プロジェクトの40カ所のエリアを限定して開発したシナリオの横展開と、事故・ヒヤリハットデータの活用の2つがある。サービスカーではRoAD to the L4プロジェクトの40カ所をカテゴライズし、シナリオ事例を作成し安全性につなげたい。オーナーカーのシナリオではODDのなかでの評価では不十分であり、ODDを外れた際のリスクアセスメントのフレームワーク構築が必要」

「安全性は一歩たりとも譲れないと考える一方、習熟ドライバーと同程度のL4実現は困難であるという意見も多い。現在の技術で到達できる水準はある程度分かってきたため、視点を広げインフラ協調など車両単体に留まらないアプローチで安全性をサポートすることも必要」

安全性評価に関する意見も多く出されたようだ。各社が開発を進める自動運転車・自動運転システムの安全性を客観的に担保する仕組みは非常に重要だ。日本自動車工業会が「自動運転の安全性評価フレームワーク」を策定するなど業界を通じた取り組みを進めている。シミュレーションの活用を含め、各地で進む実証の成果をどのように取りまとめていくべきか。本格実用化に向け安全性評価の重要性は増す一方だ。

【参考】自動運転の安全性評価フレームワークについては「自工会が「自動運転の安全性評価フレームワーク Ver1.0」公表!どんな内容?」も参照。

■【まとめ】意見がどのように反映されていくか要注目

各委員の意見を通じて、自動運転開発の現場が徐々に開発から実用化のフェーズに移行し始めている様子が感じられる。各委員の意見が今後どのように反映されていくか要注目だ。

また、2022年度はレベル4実現に向けた法改正が予定されており、2023年度に解禁される見込みだ。この解禁に向けたレベル4実証に本格着手することになるだろう2022年度の取り組みも引き続き追っていきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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