自動車データ収益化の世界市場、2028年に10兆円規模!どんなデータが売れる?

カメラ映像、道路の劣化情報、気象情報……



米調査会社のEmergen Researchがこのほど、世界の自動車データ収益化市場の予測を発表した。同社によると、コネクテッドカーの急増などを背景にCAGR(年平均成長率)38.5%の伸びを見せ、2028年に869億1,000万ドル (約10兆円)に達するという。


コネクテッドカーがスタンダードな存在になるであろう近い将来、自動車が生み出すデータは多様化し、日々膨大なデータを生成する。こうしたデータに付加価値を見出すことができれば、それは新たなビジネスへとつながっていく。

この記事では、収益化が見込める自動車データについて解説していく。

■収益化が見込める自動車データ
車載カメラのデータで自動運転技術を進化

自動運転技術の要素技術の1つとして、パーセプション=認識技術が挙げられる。車載カメラやLiDARが捉えた映像に映し出された物体が何かを判別するAI(人工知能)技術だ。

自動運転開発企業は、車両や歩行者、信号機など道路や周辺のあらゆる物体を識別するため、膨大なカメラ画像をもとにAI学習を重ねる。認識精度を少しでも向上させるため、自動運転システム完成後も引き続き作業を継続するのが一般的であり、ある意味で終わりのない作業と言える。


業界全体における開発加速に向け、米WaymoなどのようにAI学習用のデータセットを開発者向けに無償公開する動きが相次いでいるが、有償コンテンツとしてビジネス化する動きも当然ある。

自動運転開発に欠かすことのできない重要データである反面、データの収集そのものは容易なことから、新たな自動運転開発向けのビジネスとして収益化を見据えた取り組みが本格化する可能性もありそうだ。

【参考】データセットについては「自動運転分野、センサー企業は「データセット提供」でも戦える」も参照。

車載カメラのデータを高精度3次元地図の作製に活用

自動車が収集するデータにおいて、今後注目が高まるのがカメラやLiDARが取得したデータで作製されるマップ関連データだ。自動運転や高度ADASで使用される高精度3次元地図向けのデータを提供するのだ。

高精度3次元地図は、道路の車線や周辺の構造物、標識などを高精度に網羅した自動車向けのマップで、自動運転車などは、このマップをもとに走行レーン単位で進路を決定したり、走行先の情報を入手したりするほか、車載カメラやLiDARが取得したデータやGPSなどの衛星測位システムのデータと照合することで、高精度に自車位置を推定し、安全走行に役立てる。多くの自動運転システムが必須とする情報インフラだ。

この高精度3次元地図は、一度作製すれば終わりではない。道路インフラは短期的に激変する類の情報ではないが、わずかな変化が走行に支障を及ぼす可能性があるため、定期的に情報を最新のものへと更新する必要がある。

こうした高精度3次元地図の作製や更新に資するデータとして、走行中の自動車が車載カメラやLiDARなどで随時取得するデータが有用となる。ドライブレコーダーのカメラデータからマップを作製する技術開発なども進められており、将来的には自家用車からも有用なデータを提供することが可能になるかもしれない。

【参考】高精度3次元地図については「自動運転向けの高精度3D地図とRTK測位で、除雪作業の安全性向上」も参照。

ダイナミックマップ関連データも

車載カメラからは、ダイナミックマップを構成する各種データも取得可能だ。ダイナミックマップは、交通規制や道路工事、事故情報、渋滞情報、周辺車両や歩行者情報など、リアルタイムの動的な情報を高精度3次元地図に付加したものだ。こうしたリアルタイムのデータは、道路上を走行する自動車から入手するのが最も効果的だ。

こうしたデータから作製されたダイナミックデータは、自動運転車に限らず一般的な自家用車や商用車にも有益な情報となるため、本格的なビジネス展開に期待されるところだ。

道路の路面情報を保守点検に活用

車載カメラなどが取得したデータは、集積してビッグデータ化することでさまざまな価値を生み出す。例えば、道路の路面情報だ。

路面の亀裂や凹凸といった劣化情報を集積することで、道路の保守点検に有効活用することができる。広範に渡る道路の路面情報を網羅すれば、各道路の劣化の度合いなどを一元管理することが可能になり、保守点検の優先度をスムーズに決定することができる。

従来、目視や測量など手作業で行っていた労務を効率化できるため、自治体をはじめとした道路管理者向けに販売する動きがすでに始まっているようだ。

プローブ情報を有効活用

自動車が走行したルートや速度、ブレーキやワイパーの使用状況といった各種プローブ情報も、さまざまな領域で活用可能だ。

代表格はテレマティクス保険だ。各車両の走行距離をはじめ、速度やブレーキ・アクセルワークなどをもとに安全走行の度合いを判断し、料金に反映させることができる。車種別に安全走行の傾向などを細かく分析することも可能なため、より効果的に保険料を算出することもできそうだ。

また、位置情報とプローブ情報を結び付け、道路交通の安全を図る取り組みも進められている。例えば、道路の特定の場所で多くの車両がブレーキを踏んでいる場合、道路に大きな陥没があったり、街路樹の影響で見通しが悪かったりするなど、その場所に何らかの原因があると推定される。こうした原因を早期に突き止め、事故予防を図るための有益な情報として活用することも可能だ。

災害や防災にも

災害時における自動車のデータ活用も進んでいる。大規模災害が発生した際、各所で道路が寸断されることも珍しくないが、実際に走行した車両のデータを収集することで、リアルタイムで通行可能な道路情報を広く提供することが可能になる。避難や緊急車両の円滑な通行、被災地域への支援活動などにおいて有用だ。こうした情報は、トヨタホンダがすでに無償提供を行っている。

収益化の面では、防災に役立てられるデータの構築がカギとなる。災害時の車両の動きをビッグデータ化し、その動向を分析して次の災害時に備えたり、日常的な交通量をもとに的確な避難経路を策定したりするなど、さまざまな面でデータを活用できる。

気象情報への活用も

プローブ情報関連では、気象情報への活用も進められているようだ。トヨタは2019年、気象情報大手のウェザーニューズとワイパーの稼働状況や気象データをもとに道路や周辺の気象状況を把握する実証実験を行うと発表した。気象観測・予測の精度向上やドライバーの安全向上を目指す狙いだ。

こうした気象情報は、車載カメラのデータも活用できそうだ。リアルタイムの降雨状況や降雪・積雪情報なども収集することが可能になりそうだ。

MaaSデータの活用

さまざまなモビリティを結び付け、スムーズな移動を可能にするMaaS(Mobility as a Service)も情報の宝庫だ。バスやタクシーをはじめとしたエリア内の移動サービスデータを取りまとめることで、人の流れなど商業に資するデータを提供することができる。

各商業者がMaaSをもとにサービスを考案したり、新たな出店に結び付けたりすることで地域が活性化し、移動サービス利用者も増加する。MaaSデータは、エリア内における好循環を生み出す大きな武器となり得るのだ。

日本では、移動サービスとエリア内の観光施設や飲食店をはじめとした商業を結び付ける取り組みが進んでいる。不動産や医療など、異業種と積極的に結び付けていく動きも活発で、あらゆる角度からMaaSデータを収益化することが可能になりそうだ。

【参考】MaaSについては「MaaS解説(2022年最新版)」も参照。

■【まとめ】10兆円市場めぐる取り組みはますます過熱

こうしたデータビジネスの誕生は、クラウドサービスなどにも派生し、よりマーケットを拡大していくことが予想される。

急成長が予想される10兆円市場をめぐる各社の取り組みは、今後ますますヒートアップしていきそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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