EV(電気自動車)業界においても、半導体大手の米NVIDIAのシェアは着々と広がっているようだ。同社は2022年3月22日に開催された自社カンファレンス「GTC」の中で、自動運転に適した車載半導体「NVIDIA DRIVE Orin」がEVメーカー25社に採用されていることを明かした。
NVIDIAのソリューションがEV業界でどのように拡大しているのか。その背景に迫っていく。
記事の目次
■NVIDIA×EVメーカーの動向
GTCでは、EV販売台数世界2位の中国BYD(比亜迪)が、次世代フリートに「NVIDIA DRIVE Hyperion」アーキテクチャを導入することが発表された。米Lucid Motorsも、次世代車両にNVIDIA DRIVEを採用するようだ。
Lucidは同社のADAS「DreamDrive Pro」をNVIDIADRIVEプラットフォーム上で実行可能にする。DreamDrive Proは、14台のカメラと1台のLiDAR、5台のミリ波レーダー、12台の超音波ユニットの計32台のセンサーで構成されるほか、革新的なデュアルレール電源システムや高速通信を可能にする独自のイーサネットネットワーク機能を持つ。OTAにより、将来に渡って機能拡張できるように設計されているという。
NVIDIAの強力なソフトウェア定義プラットフォームをベースにすることで、より高度かつ最先端の機能を搭載可能にする。
中国勢のNIOやLi Auto、XPengなども
NVIDIAによると、中国のNIOやLi Auto、XPeng、SAIC(上海汽車)とアリババなどの合弁IM Motors、SAICのEVブランドR Auto Brands、Baidu系のJiDU、Human Horizons、ベトナムのVinFast、WM MotorといったNEV(新エネルギー車)開発スタートアップも、NVIDIA DRIVEを採用しているという。
Human Horizonsは、DRIVE Orinで次世代ADASの開発を進めており、新しいフラッグシップモデルとなるデジタルGT「HiPhi Z」に搭載予定としている。WM Motorは、主力製品のM7スマートカーに4つのNVIDIA Orinを搭載し、1,016TOPSのコンピューティングパフォーマンスを提供すると発表している。
BaiduとGeelyの合弁JiDUは2023年にもレベル4車両の量産化を開始する予定で、第三世代の自動運転プラットフォームとなるApollo Computing UnitにDRIVE Orinを統合し、自動運転機能をはじめコンフィデンスビューの視覚化、デジタルクラスター、インフォテインメント、乗客インタラクションAIをサポートするようだ。
XPengは、バレーパンキング機能などを備えたモデル「XPeng P7」にNVIDIA DRIVE AGX Xavierを採用しており、高度なADAS「XPILOT3.0」を提供している。今後、最先端のインテリジェント機能を搭載予定の「Xpeng G9」に2つのDRIVE Orinを搭載し、シームレスな運転体験を実現するとしている。
NIOはDRIVE Orinを搭載した新たなスーパーコンピューター「Adam」を開発し、2022年3月にデビューしたばかりの最新モデル「ET7」に統合した。NIO Autonomous Driving(NAD)のサブスクリプションサービスも開始し、ADASの高度化を図っていく見込みのようだ。
Li Autoは2022年販売予定のプレミアムSUVにDRIVE Orinを採用すると発表している。2020年の発表では、シングルチップによるレベル2+からデュアルOrinチップによるレベル4までアップグレード可能なソリューションをエンドユーザーに提供するとしている。
■NVIDIAを後押しするソフトウェア・ファーストの潮流
NVIDIAによると、世界の乗用EVメーカー上位30社のうち、20社がAIコンピューティングプラットフォームとして「NVIDIA DRIVE Orin」を採用しているという。推定シェアは60%強に上る可能性がある。販売台数ベースでは70~80%に達する可能性があり、市場を席捲していると言っても過言ではなさそうだ。
自動運転を可能にするほど高度なSoCであるDRIVE Orinが、なぜEV業界でここまでシェアを広げているのか。場合によってはオーバースペックにも感じられる。
その背景には、自動車業界におけるハードウェアからソフトウェアへの開発軸のシフトが挙げられる。業界の潮流となっているCASEにおいて、ADAS・自動運転開発やコネクテッド開発はソフトウェアに依存するところが多い。
比較的更新頻度の長いハードウェアに比べソフトウェアの更新頻度は短く、日進月歩で進化し続けるソフトウェアを随時アップデートすることで自動車を最新の状態に保つ手法がスタンダードとなり始めている。この高度化し続けるソフトウェアを万全の状態で作動させるためには、数年先を見据えた高性能なSoCを導入する必要があるのだ。
EV業界は特にスタートアップが多く、開発面においてソフトウェア・ファーストの傾向が強い。スマート化によって従来の乗用車と差別化を図る向きも強く、ADAS・自動運転開発に力を入れる企業も多く、ゆえに高性能SoCの需要も高くなっているものと考えられる。
■前世代の約7倍のパフォーマンス
SoC「NVIDIA DRIVE Orin」は2022年に生産開始・実用化が始まったばかりの最新チップで、毎秒254兆回の演算能力(TOPS)を誇る。これは、前世代のSoC「Xavier」の約7倍のパフォーマンスに相当するという。
ソフトウェア定義のプラットフォームとして構築されたDRIVE AGX Orinは、レベル2からレベル5車両まで拡張できるアーキテクチャ互換プラットフォームを可能にする。オープンなCUDAやTensorRT APIとライブラリを介してプログラム可能であり、開発者は複数世代のチップを通じて開発を継続することができる。
すでにOrinの後継となる「NVIDIA DRIVE Atlan」も発表されている。Atlanは毎秒1,000兆回以上の演算能力を誇り、2025年の生産を目標に開発が進められている。
■【まとめ】NVIDIAのシェアはまだまだ拡大?
Atlanが実用化される2025年まで、Orinはシェアを伸ばし続ける可能性が高そうだ。今後の3年間は、サービス用途のレベル4車両をはじめ、乗用車におけるレベル3の実用化も大きく進むことが見込まれるためだ。
SoC開発は、NVIDIAのほかインテル系モービルアイや中国Horizon Robotics、日本ではルネサスエレクトロニクスなど各社が開発に注力している。自動車産業のイノベーションを支える技術として、さらなる飛躍に期待したい。
【参考】関連記事としては「拡大を続けるNVIDIAの顧客網!自動車産業、物流・小売業も」も参照。