自動運転開発を手掛ける中国スタートアップのAutoXはこのほど、自動運転タクシーが1,000台を超えたと発表した。中国、米国で実用実証を重ねる同社にとって記念すべきマイルストーンとなったようだ。
一部報道によると、1,000台規模の自動運転タクシーは世界最多という。先行する米Waymoの正確なフリートの規模を把握できないため断定はできないが、世界最大級であることは間違いなさそうだ。
この記事では、躍進を続ける同社の動向に迫る。
記事の目次
■AutoXの動向
実証含め、米中5都市で自動運転タクシーを展開中
AutoXは2022年2月、自動運転タクシーのフリートが1,000台を超えたこととともに、米サンフランシスコに新たなオペレーションセンターを開設し、実証の規模を拡大させたと発表した。
同社は2022年2月現在、深セン、上海、広州、北京とサンフランシスコで自動運転タクシーの実証やサービスを展開している。研究開発拠点は5カ所、自動運転タクシーフリートの業務サポートや車両からの膨大なデータ収集を行うオペレーションセンターは計10カ所運営している。技術メンバーも1,000人を超えている。
深センでは、1,000平方キロメートル超のサービスエリアで自動運転タクシーを運用しており、このうち168平方キロメートルのエリアではドライバーレスの無人走行を可能にしている。セーフティドライバーを要するエリア、無人運転が可能なエリアともに拡大を続けているという。
この5都市に1,000台の車両がどのように振り分けられているかは不明だが、単純計算でも1カ所あたり平均200台となる。新興企業によるタクシーサービスとして考えれば、その規模の大きさがよくわかるのではないだろうか。
なお、サンフランシスコが所在する米カリフォルニア州の道路管理局(DMV)によると、2021年における同州での自動運転車の公道実証向けにライセンスを付与されたAutoXの車両は44台で、このうち6台が実働していた。無人走行ライセンスも取得しているが、実際に無人走行した報告は提出されていないようだ。
深センでは無人サービスも実現
AutoXは2016年にシリコンバレーで創業し、わずか60日で初めての公道自動運転パイロットテストを実現したというやり手のスタートアップだ。2018年に深センに本社を開設し、中国と米国の両方で研究開発を進めている。
米国ではカリフォルニア州、中国では広東省・香港・マカオ都市圏エリアの粤港澳大湾区や上海市、広州市、深セン市、北京市で公道走行ライセンスを取得し、それぞれ走行実証やサービス実証を行っている。
自動運転タクシーサービスは、カリフォルニア州で2019年にサービス運営許可を取得してサービス実証を進めているほか、中国では2020年8月に上海でのサービスインを発表し、数カ月以内に深センなど公道実証中の他都市にも拡大していく方針を明かしている。当時、上海では100台の運行許可を取得したようだ。
同年12月には、深センで無人自動運転タクシーのパイロットプログラムを公開するなど、非常に早い開発・実装スピードでサービス化を推し進めている。
このほか、自動運転デリバリーサービスや2拠点間を結ぶシャトルサービスの実証などにも取り組んでいる。
自動運転システムは第5世代に
同社の自動運転システム「AutoXDriver」は、さまざまな車体プラットフォームに統合できるよう開発が進められており、現在第5世代にあたる「Gen5(ジェネレーション5)」が実装されている。
計2億2,000万ピクセル/秒をキャプチャーする28台のカメラと、1,500万ポイント/秒を提供する6つの高解像LiDAR、車両の周囲360度を含む0.9度の解像度を持つ4Dレーダーなど計50個のセンサーと、演算能力2,200TOPS(1秒当たり2,200兆回)を備えた車両制御ユニットで構成されており、グローバルな機能安全基準を満たす電気/電子アーキテクチャで構築されているという。
生産面では、レベル4の自動運転タクシーを生産する「工場」の建設を2021年12月に発表している。需要が急増しているためすでに生産ラインをロールオフしているという。
1,000台はあくまで通過点であり、今後加速度的に台数を増加させていく可能性が高そうだ。
【参考】自動運転タクシー専用生産施設については「中国初!アリババ出資のAutoX、レベル4自動運転車の製造ライン完成」も参照。
https://twitter.com/jidountenlab/status/1475692990551060481
中国系自動車メーカーのほかFCAやホンダとも提携
AutoXはこれまで、上海汽車や東風汽車、アリババグループ、半導体開発のMediaTekなどから出資を受けている。自動車メーカー各社の車両への自動運転システム統合や、サービスプラットフォームにアリババグループのAutoNaviアプリを使用するなど、しっかりと互いのメリットを生み出している。
自動車メーカー関連ではこのほか、技術見本市「CES 2020」でFCAとのパートナーシップを発表し、Waymo同様パシフィカに自動運転システムを統合している。
2021年4月には、ホンダの中国法人「本田技研科技」と提携し、アコードとインスパイアにGen5を搭載した自動運転フリートをリリースすると発表している。
自社の自動運転システムを統合可能な車体プラットフォームも続々と増加しているようで、専用生産施設の稼働と相まってますます台数を増加させていくことになりそうだ。
■ライバル各社の動向
自動運転タクシーで先行するWaymoのフリート規模は明らかになっていないが、車体プラットフォームとして活躍するクライスラーパシフィカは、過去600台規模の納入契約が交わされており、その多くがアリゾナ州での自動運転タクシーサービス「WaymoOne」に導入されているものと思われる。
Waymoはアリゾナ州のほか、2021年にサンフランシスコでもパイロットプログラムに着手し、サービスエリアを拡大し始めた。同市では主にジャガーI-PACEが使用されているようだ。
なお、2021年にカリフォルニア州DMVからライセンス付与されているWaymoの車両は、驚異の693台だ。あくまで実証向けの数字ではあるものの、資金調達を本格化させたWaymoが今後攻勢に転じる可能性は極めて高い。
このほか、自動運転タクシー関連では百度(Baidu)も複数都市でサービス展開しており、相当規模のフリートを誇っている。
自動運転の実用化競争においては、近い将来、こうしたフリートの規模でマウントを取り合う展開が予想されるところだ。
■【まとめ】有力企業が続々社会実装フェーズへ移行
自動運転タクシーの実用化で先頭グループを形成するWaymoやAutoXだが、今後GM系のCruiseやインテル傘下のMobileyeといった有力勢も本格的な社会実装フェーズに移るため、開発競争はますます過熱していくことが予想される。
世界各国の法規制や運用ルールなども着々と整備が進み始めており、しばらく目が離せない状況が続きそうだ。
▼AutoX公式サイト
https://www.autox.ai/ja/index.html
【参考】関連記事としては「トヨタのクルマ、中国で自動運転タクシーとして2023年から活躍へ」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)