北京冬季五輪、「自動運転オリンピック」的様相へ トヨタe-Paletteは運行せず

ロボタクシーや配送ロボなど登場か



出典:IOC(国際オリンピック委員会)プレスリリース

東京2020オリンピック・パラリンピックが終わったばかりの印象が強いが、2022年2月には中国の首都・北京で「北京冬季オリンピック」が開幕する。

東京大会では運営のさまざまな部分に自動運転技術が導入されたほか、大会を目標に大規模実証を行う計画などが持ち上がっていた。コロナ禍の影響もあり予定通りとはいかなかったものの、最新技術をお披露目する場として五輪の舞台が有用であることは間違いない。







こうした考えは、中国も同様のはずだ。北京大会では、どのような技術・サービスを導入するのか。北京冬季オリンピックにおける自動運転関連の取り組みに迫ってみる。

■北京冬季五輪の概要

北京冬季オリンピックは2022年2月4~20日、同パラリンピックは3月4〜13日の日程で、北京市を中心とした会場で開催される。

当初予定では、国内在住者に限り観戦を認める方針を示していたが、オミクロン株の流行などを背景に、大会組織委員会は一般向けのチケット販売を取りやめた。観戦は一部招待客などに限られるようだ。

その意味では、東京2020オリンピック・パラリンピックと類似した環境となる。当初導入を予定した自動運転サービスなども、変更を余儀なくされたものがありそうだ。

過去の報道などを見ると、当初は路線バスなどにも自動運転車を導入する計画が持ち上がっていた。2017年に開催された中国自動車技術移転大会において、清華大学自動車工学学部の楊殿閣氏が冬季五輪で自動運転路線バスや自動運転配送車を登場させる計画を明かしている。

2019年には、北京冬季五輪サービスロボット革新製品評価・選抜コンクールが行われたようだ。選手村における案内や客室サービス、警備、輸送など9つのシーンを想定したロボット開発を促進し、大会への導入を目指す計画のようだ。

■北京市における自動運転実用化に向けた取り組み
自動運転タクシーの実証が加速

北京では現在、公道走行許可のもと自動運転タクシーなどのモビリティが実用実証を重ねている。2020年末時点で14社に走行ライセンスが発行されており、実証向けに設定されたエリア内で走行している。

北京市内では、特に百度(バイドゥ)とPony.aiが力を入れている様子で、百度は2020年8月に乗客を乗せるサービス実証に着手し、10月には経済技術開発区で自動運転タクシーサービス「Apollo Go」を開始した。

また百度は2021年4月に、首鋼公園で中国初となる有料の完全無人ロボタクシーサービスを5月から一般公開すると発表した。5月に実現したかは不明だが、同年11月に北京市から有料による商用利用の許可が正式に付与されている。各種報道によると、セーフティドライバー同乗のもとサービス提供しているようだ。並行してセーフティドライバー不在の無人公道実証も進めている。

百度は冬季五輪を見越したサービスを構想

なお、百度は2021年4月の発表の際、「北京冬季オリンピックの訪問者は通常の交通手段としてロボタクシーに乗ることができる」とアナウンスしている。北京松港公園から、スポーツホールやコーヒーショップ、ホテルなどに移動できるようにし、冬季五輪ではアスリートとスタッフにシャトルサービスを提供すると発表している。

一般観客不在ではあるものの、計画通りに進めば五輪期間中に会場付近で自動運転タクシーサービスを提供する可能性も十分ありそうだ。

なお、商用利用のライセンスはPony.aiなども取得しており、こちらの動向にも注目だ。

【参考】北京の取り組みについては「百度、北京経済技術開発区で自動運転タクシーを商用展開へ」も参照。

https://twitter.com/jidountenlab/status/1464036184120725514

自動配送ロボットの実証も

自動走行ロボット関連では、2021年5月までに京東集団、美団、Neolix(新石器)が公道走行ライセンスを取得している。実証の初期段階ではオペレーターがロボットの近くを随行し、緊急時の対応を行う。また、政府のクラウドコントロールプラットフォームとリアルタイムでデータ交換し、同プラットフォームが日常的な監督管理を行うこととしているようだ。

自動配送ロボット各社はコロナ禍をきっかけに注目が高まっており、Neolixはすでに量産段階に入っている。同社は150台以上のロボットを導入し、コンビニエンスストアとしてサービスを開始する計画を明かしているほか、モジュール方式を採用することでロジスティクスやパトロール、パブリックサービス、コーヒー販売、金融サービスなど、あらゆる用途への応用を構想している。

公式アナウンスはないものの、五輪会場内外で同社のロボットによるさまざまなサービス実証が行われることも考えられる。

https://twitter.com/jidountenlab/status/1400251219969417220

■北京冬季五輪関連の取り組み
首鋼地区が自動運転サービスモデルエリアに

冬季五輪組織委員会が所在する首鋼地区では、冬季五輪を目下の目標に据え、自動運転サービスモデルエリアの建設が早くから進められてきた。開発各社の参画のもと、冬季五輪では100台以上の自動運転車を導入する計画が過去に発表されている。移動サービスをはじめ、無人清掃車や無人配送車など自動運転技術を活用したさまざまなサービスやビジネス展開を想定しているようだ。

5G環境も整備され、センチメートル級の高精度測位システムのもと、2021年の時点で実際に自動運転シャトルバスなどがパーク内を走行しているようだ。各会場からの映像をつなぐクラウド中継センターも設置されており、コネクテッド技術が全面に生かされているようだ。

各種報道によると、組織委員会パーク内において、通信事業者のチャイナ・ユニコムと中国銀行が無人スーパー・無人販売機で五輪関連商品の販売などを試験的に行うという。

検温ロボットや表彰ロボットなども登場?

「北京冬季五輪サービスロボット革新製品評価・選抜コンクール」の成果は大会でしっかりと導入されるようだ。物流ロボットや表彰を行うロボット、スマートレストラン、消毒ロボットなどをはじめ、移動しながら体温が高い人を検知し、注意を促すとともに管理者に通知する検温ロボット、健康情報やワクチン接種状況などの個人情報を即座にスキャンし、円滑なゲート通過を可能にする防疫ロボットなどが活用されるようだ。

鉄道や地下鉄も続々と自動運転化を果たす

北京市と河北省張家口市を結ぶ京張高速鉄道では、中国初のスマート高速鉄道として時速350キロで自動運転可能な「北京冬季五輪列車」が登場したようだ。

全自動で列車の発車や停車、ドアの開閉などを行う自動運転技術が備わっているほか、5Gを活用した放送スタジオも設置されているそうだ。

一方、地下鉄も無人化を果たしている。燕山地区と房山区を結ぶ北京地下鉄燕房線が2021年6月に全自動システムによる完全無人化を果たし、12月には運転室も撤去したという。

北京市全体のスマート化が大きく進展しているのは間違いなく、動機・目標の1つとして冬季五輪が役立てられているのだろう。

■ワールドワイドパートナーのトヨタの動向

ワールドワイドパートナーとして、東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村や競技会場などで自動運転シャトル「e-Palette」や各種ロボットを導入し、大会をサポートしてきたトヨタ。

北京冬季五輪でもワールドワイドパートナーを務めており、東京大会同様e-Paletteなどの導入に期待が寄せられていたが、報道によると運行しない方針を示したようだ。車両展示などは行う予定という。

東京大会の選手村で起こした事故の影響か、コロナの影響か、はたまた政治的な背景によるものなのか要因は定かになっておらず、「総合的な判断」としている。

【参考】東京大会におけるトヨタの活躍については「海外メディア「五輪の栄光はトヨタの手に」 自動運転e-Paletteをどう評価?」も参照。

https://twitter.com/jidountenlab/status/1426695003917623297

■【まとめ】五輪契機にスマート化を促進

公式アナウンスなど一次情報が乏しく断片的な情報を集める形となってしまったが、中国も冬季五輪を1つの契機に自動運転やスマートシティ化を推し進めている印象が強い。

五輪の開催はインフラ整備・再整備の色合いも濃いが、アナログ的な整備にとどまらず、未来に向けスマート化を図っていく21世紀型の再開発が今後大きなテーマになりそうだ。その意味では、人やモノの移動に変革をもたらす自動運転技術は五輪と密接な関係にある。

北京冬季五輪ではどのような技術が活用されるのか。「自動運転オリンピック」の観点でも注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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