EV(電気自動車)大手の米テスラが、ADAS(先進運転支援システム)の安全性について米国で調査されることになった。
テスラは「FSD(Full Self-Driving)」というADASを提供中だが、このシステムの欠陥により死亡事故が起きた可能性が高いと予測されている。この問題を重く見た米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が、調査を開始したことを2024年10月23日までに発表した。これまで米国で販売したテスラ車のほとんどが調査対象となるという。
今月ロボットタクシーの詳細を発表し、自動運転開発の波に乗っていると思われたテスラだが、同社の安全性への信頼に暗雲が立ちこめてきた。NHTSAが「危険判定」を出したら、株価の暴落は避けられない情勢だ。
【参考】関連記事としては「自動運転車の事故一覧(2024年最新版) 日本・海外の事例を総まとめ」も参照。
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■NHTSAによる調査内容は?
NHTSAによる調査は、FSDが霧や太陽の光などにより道路上の視界が悪くなる状況においても、安全に機能するかを評価するといった内容になる。FSDを使用していたテスラのドライバーが歩行者をはねて死亡させた事件や、道路の見通しが悪くなった状況下でFSDが関わったとされる衝突事故を受けてのものになる。
米国の連邦自動車安全規制当局は、テスラのオートパイロットやFSDのような自動車メーカーが開発したADASを使用中の衝突事故について追跡調査を行っている。2024年10月1日時点で、NHTSAは衝突から30秒以内にテスラのADASが作動した事故を1,399件追跡しており、そのうち31件で死亡事故が発生しているという。
またNHTSAは、FSDの「OTA(Over the Air):無線ソフトウェア更新」についても、更新のタイミングや目的、機能、安全性への影響を調査するという。
【参考】関連記事としては「Over The Air(OTA)技術とは?(2024年最新版)」も参照。
今回の調査は「予備評価」と呼ばれ、米国の道路を走る約240万台のテスラ車がその対象となる。具体的には、2016〜2024年に生産された「モデルS」と「モデルX」、2017〜2024年に生産された「モデル3」、2020〜2024年に生産された「モデルY」、そして2023〜2024年に生産された「サイバートラック」が含まれるようだ。
■FSD(Full Self-Driving)の概要
FSDはテスラの有料プレミアム運転支援オプションで、同社は「部分的運転自動化システム」とも呼んでいる。かつて米国で全てのドライバーを対象に1カ月間の無料トライアルを提供していた。
テスラは2020年10月に、一部のオーナーを対象にFSDベータ版の提供を開始した。技術の進化に合わせてOTAでアップグレードし、自動運転に徐々に近づけていく計画だ。また、対象者も徐々に拡大を図っている。
同社は2022年7月にFSDによる累計走行距離が3,500万マイル(約5,600万キロ)を超えたことを、同年12月にはFSDのパッケージ販売が北米で28万5,000台に達したことを発表している。
「FSD(Full Self-Driving)」は、直訳すると「完全自動運転」となるため勘違いされがちだが、実際はドライバーの監視が必要な自動運転レベル2のADASに過ぎない。2023年に入り、米カリフォルニア州で改正自動車法が施行されたことにより、FSDという名称が実質的に使用できなくなったとの現地メディアによる報道があった。ただしテスラはFSDという名称を取り下げることを発表しておらず、現在に至るまで使用し続けている。
【参考】関連記事としては「テスラの自動運転技術・Autopilot/FSDを徹底分析(2024年最新版)」も参照。
■自動運転車の販売はますます先に!?
2024年10月10日に自動運転タクシー計画を発表したテスラ。同社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏は、2024年中に米テキサス州とカリフォルニア州でモデル3とモデルYで「監視なしのFSD」を始動させる予定であることを明かしている。
これまでマスク氏は何度も「自動運転は近く実現する」といった主旨の発言を繰り返している。しかしテスラから自動運転車はいまだ発売されていない。それどころか、今回の調査でADASの安全性にも不安が出てきた。調査結果次第では、EVの販売台数のほか同社の株価にも大きく影響が出てくるだろう。
この問題にテスラはどう対処していくのだろうか、注視していきたい。
【参考】関連記事としては「テスラ株に「50%下落」余地?難易度S級の「カメラだけ自動運転」に頓挫リスク」も参照。