ライドシェア運転手、配車拒否ならタクシー会社が「指導」 国の想定案判明

改善しない場合、契約終了もあり得る



ライドシェア解禁に向けた国の議論に動きが出た。国土交通省の交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会で自家用有償旅客運送制度の見直しなどに関する意見聴取や審議が行われ、現時点における国土交通省の考え方・方針が示された。


2024年4月開始予定の新制度を「自家用車活用事業(仮称)」とした上で一般ドライバーの業務態様関連など一定の案を示しており、合理的な理由なく配車依頼を承諾しない場合のドライバーへの指導や、改善しない場合の契約終了などに言及する内容となっている。

また、6月をめどに議論を進めるライドシェア案についても、これまで出された意見をまとめた考え方が示された。

同部会の提出資料を基に、ライドシェア導入をめぐる最新動向に迫る。

▼自家用車活用事業(仮称)のドライバーの働き方|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001722464.pdf


■「自家用車活用事業(仮称)」制度に関する考え方
遠隔点呼で一般ドライバーをチェック

会議では、地域の自家用車や一般ドライバーを活用する制度を「自家用車活用事業(仮称)」と称し、一般ドライバーの働き方に対する見解をまとめた案が示された。業務態様関連では、既存タクシー運行管理者に求められる業務前後の点呼や健康状態のチェックなどの代替案をはじめ、勤怠管理や採用時研修などについて案が示されている。

既存タクシー事業者は、営業所において運行管理者が各ドライバーに対し対面点呼(健康状態、アルコールチェック、使用する車両の運行前点検実施の確認)を実施し、必要に応じて安全運行上必要な指示を出すが、一般ドライバーの場合は「出社」という概念がない。

このため、自宅または車内にいるドライバーに対し、乗務前に営業所にいる運行管理者が「遠隔点呼」によって健康状態やアルコールチェック、使用する車両の運行前点検実施の確認を行うとした。通信機器やモニターなどを活用し、安全管理を行う仕組みだ。常務後も遠隔点呼を行い、運行状況の報告やアルコールチェックを行う。

乗務中は、配車アプリから複数の配車依頼を受けとった場合、どの配車依頼を受けるかドライバーが選択・判断し、指定された迎車地に向かう。


出典:国土交通省公開資料
配車依頼に応じる必要性に言及

同事業はタクシー不足を補うことが目的であるため、配車依頼に一定以上の割合で応じる必要があるとしている。合理的な理由なく配車依頼を承諾しない場合、契約を踏まえて業務怠慢とみなし、タクシー事業者による指導を行う。

指導を徹底しても改善されない場合は、契約書に記載がある「勤務成績・態度が十分ではない」とみなし、契約の終了をすることもあり得るとしている。

なお、ゲリラ豪雨や台風時における安全な場所での待機や帰庫指示、冠水情報の共有、突発的な体調の変化が発生した際の待機指示など、安全に運転を継続できない恐れがあるときは、運行管理者などから指示を受ける。

管理するタクシー事業者の役割としては、既存タクシー事業同様、採用時の研修やドライバーへの日常の教育、必要なドライバーを確保するためのシフト作成などが考えられる。

遵守しなければならない法令をはじめ、主要ターミナル・大型商業施設などの入構ルールの把握、急ブレーキや急ハンドルといった危険な運転操作を行う傾向にあるドライバーへの改善指導、配車アプリ経由でクレームが上がった際の接客態度などの指導などが例に挙げられている。

出典:国土交通省公開資料
一般ドライバーも一定の責務を負う形に

ライドシェアは、ウーバーイーツの配達員同様「好きなときに好きなように働く」イメージがあるかもしれないが、今回の事業は「タクシー供給が足りないときにその不足分を補う」ことが大前提となるため、依頼を断り過ぎると意味がない。

パート雇用の関係や請負による関係などさまざまな形態がありそうだが、特定のタクシー事業者の名のもとでサービスを提供することに変わりはなく、一定の責務を負う形になりそうだ。

パブリックコメント案

自家用車活用事業導入に向けたパブリックコメント案も公表されている。主な許可基準や許可に付する条件など、以下の案が想定されている。

  • 対象地域や時期、時間帯並びに車両数タクシーが不足する地域、時期及び時間帯並びにそれぞれの不足車両数を、国土交通省が配車アプリなどのデータに基づき指定していること
  • 一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けていること
  • 運行管理、車両の整備管理や研修・教育を実施する体制が整えられていること
  • タクシー事業者が対人8,000万円以上及び対物200万円以上の任意保険に加入していること
  • タクシー事業者ごとに使用可能な車両数が地方運輸局長などが通知する範囲内であること
  • 自家用車活用事業であることを外部に表示すること
  • ドライバーに対し事前の研修(大臣認定講習を含む)や教育を受けさせること
  • ドライバーに対し運転者証明を携行させること
  • 利用者(客)とタクシー事業者間で運送契約が締結され、タクシー事業者が運送責任を負うこと
  • 運送引受け時に発着地が確定していること
  • 自家用車が配車されることについて利用者の事前承諾を得ていること
  • 運賃は事前確定運賃により決定し、支払い方法は原則キャッシュレスであること
  • 発着地いずれかがタクシー事業者の営業区域内に存すること
  • 許可期間は2年とすること

▼「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱い」に係るパブリックコメントの実施について|国土交通省物流・自動車局
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001722466.pdf

このほか、国土交通省が各地方運輸局長宛に送る通達案では、自家用車ドライバーは第1種または第2種運転免許を保有し、自家用車活用事業に従事する前の2年間において無事故かつ運転免許の停止処分を受けていないこと――といった文面もみられる。

▼法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱い
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001722467.pdf

客は、配車アプリを使用する際に本職のタクシードライバーか一般ドライバーかを選択できるようだ。また、事前確定運賃やキャッシュレス決済を前提とすれば、電話による配車依頼はなじまず、アプリの使用が前提となる。

「自家用車活用事業であることを外部に表示すること」も重要だ。白ナンバーの自家用車でサービスを提供する場合、第三者目線では「白タク」に見えるため、しっかりと区別する必要がある。

一般ドライバーは雇用形態?請負や委託もあり?

労働上、ドライバーをどのように取り扱うかも課題だ。厚生労働省によると、労働基準法により労働者は「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定されており、労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われているかどうか――といった使用従属性を基準に判断されるという。

自家用車活用事業においては、ドライバーとタクシー事業者がどのような契約を結ぶかによって判断が分かれそうだが、請負契約や委任契約であったとしても、契約の内容などを総合的に判断した結果労働者とみなされることもある。

規制改革推進会議地域活性化WGでは、以下の意見が出されている。

  • ドライバーが運営主体に雇用される形態で副業を行う場合、本業と副業の労働時間を通算して所定の労働時間を超えた場合は割増賃金の支払いが必要となること、解雇規制などの適用関係が不明確であることなどから、業務委託形態を認めることによりドライバー確保が進む
  • ライドシェアは自分の希望する時間に希望する場所で希望する時間だけ働けるものであり、ドライバーには仕事の諾否の自由があるため、使用従属を前提とする雇用契約には馴染まない
  • 労働基準法上も運行管理などの実施のみでただちに雇用契約と解釈されるものではなく、ドライバー自身も必ずしも雇用契約を望むわけではないことに留意すべき
  • フリーランスと事業者間取引適正化法の適切な執行などによるドライバーとの取引適正化や就業環境の整備は同時に実施されることが重要

タクシー事業者との雇用関係を前提とすべきなのか、あるいは請負や委託形式を認めるべきなのか。一般ドライバーにどこまでの自由や待遇を担保し、どこまでの責務を求めるべきか。事業の成否を左右する重要な要素だけに、慎重な議論を望みたいところだ。

■ライドシェア新法に関する考え方
自家用車活用事業はあくまで暫定措置?

規制改革推進会議地域産業活性化WG委員による考え方をまとめた資料によると、自家用車活用事業とは別にライドシェア新法の制定に向けた意見も出されている。

自家用車活用事業は、通達レベルのルールに基づく暫定的措置であり、移動難民を解消する制度設計としては不十分と指摘し、全国での実施を可能とするとともに悪質ドライバーを徹底排除する厳格な法律上の規制を設定することが必要としている。2024年6月までに新法の内容をとりまとめるべく検討を進めている段階だ。

新法制定に必要となるライドシェア業の定義に関しては、乗客に対する最終責任をライドシェア事業者に負わせることが重要であるため、乗客と直接契約を締結させるべきとし、そのためライドシェア業は「仲介」業ではなく「有償の旅客運送」と位置づけ、乗客に対し直接提供する事業とすることが考えられるとしている。

また、既存のタクシー・ハイヤーと異なり、ライドシェアは普通免許のドライバーが自家用車を利用し、ドライバーや車両の安全確保をデジタルによる遠隔管理で行う。そのため、ライドシェアに対してはタクシーなどと異なる配慮が必要であり、新法上厳格な規制が必要となる。

こうした点を踏まえ、一例としてライドシェアを「デジタル旅客利用運送事業」とした際の定義が示されている。

  • 一定の要件を満たす自家用自動車を使用する一般ドライバー(二種免許保有者ではない者)による運送を利用して行う有償の旅客運送
  • デジタル技術を利用し、その安全のために適切な運行の管理や車両の管理、その他乗客の安全のために必要な措置を行う事業
  • 運送の引受けをライドシェア事業者の営業所のみにおいて行われるもの(配車のみ)

なお、あくまで移動の足に困る利用者起点で考えることを前提とし、既存のタクシー産業への悪影響を回避する制度設計に向け最大限の工夫を行い、タクシー産業との「共存共栄」を図ることにも言及している。

制度設計に向けては、ライドシェアに対する不安を払しょくするため世界最高レベルの安全を目指すべきであり、ライドシェア事業者には徹底的な安全対策の義務を課すことが必要としている。

最低限導入すべき規制としては、犯罪歴や事故歴などに基づくドライバーの事前審査や本人確認義務、苦情の適切な処理やレーティング機能搭載の義務付けといったドライバーの事後審査、ライドシェア事業者が事故責任を負うこと、デジタル機器を利用したアルコール検査や稼働時間の管理などのドライバーの運行管理、車検証や点検整備記録簿のデータ管理、衝突被害軽減ブレーキや車内外のドライブレコーダーなどの技術による安全担保、性犯罪対策などを挙げている。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2024年最新版) 仕組みは?サービス一覧も紹介」も参照。

【参考】世界におけるライドシェアの動向については「ライドシェアの法律・制度の世界動向」も参照。

■関係団体などの意見
交通事業者らはライドシェア新法をけん制

全国ハイヤー・タクシー連合会は、どこでタクシーが足りないのか類型ごとに客観的データに基づく議論を強く要望するほか、米国型ライドシェアは事故・犯罪が多く働き手の保護が不十分なため、日本社会になじまないことを強調している。

タクシーの規制緩和を背景とした自助努力と自家用車活用事業の結果を見てから、データドリブンで慎重かつ丁寧な判断を求めるスタンスで、新法によるライドシェア導入をけん制している。

全国自動車交通労働組合連合会もライドシェアは不要というスタンスで、タクシー事業者以外がライドシェア事業を行うことへの懸念と議論不足を指摘している。一方、供給不足に関する利用者からの厳しい声があった事実を受け止め、タクシー業界として前進していくことにも触れている。

全国知事会によると、「第1種免許での旅客運送には慎重な検討が必要」「公共交通人材の育成・確保に対する支援を継続・充実すべき」「タクシー事業者の支援強化が必要」「タクシー会社に限らずアプリ運営事業者や運転代行業者など幅広い事業者を対象とすべき」など、各知事からさまざまな意見が出されているようだ。

■【まとめ】6月めどのライドシェア新法案の行方に注目

2024年4月に導入予定の新制度「自家用車活用事業(仮称)」は、あくまで現行法にのっとった制度であり、WGの議論においては、やはり6月をめどに議論を進めているライドシェア新法が本命のようだ。

ライドシェアという観点に立てば、自家用車活用事業が骨抜き案であることは一目瞭然で、タクシー事業の新たな形態に過ぎない。

一方、6月をめどに取りまとめる案はまさにライドシェアそのものだ。米国や東南アジア系の規制の緩いTNCサービス型ではなく、一定の要件を課すPHVサービス型がベースになるものと思われるが、今後はこの新法に向けた議論が中心となる。仮にこの新法が成立し、これに基づくサービスが始まれば、自家用車活用事業は早くもその役割を終えることになるのかもしれない。

反対勢力の活動も活発化することが予想されるため、新法制定まで時間を要する可能性が高い。国会内でも反対論は根強く、ごり押しは通用しない。

反対勢力を納得させるような案を短期間でまとめることができるのか。今後の議論の行く末に要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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