批判殺到!ライドシェア「1乗車20キロ以内」案 タクシー団体が検討か

長距離輸送は「プロ限定」になる?



2024年度にも解禁が予定されている日本版ライドシェア。タクシー事業者による運行管理のもと、一般ドライバーによる自家用車を活用したサービスの提供が可能になる見込みだ。







日経新聞によると、東京ハイヤー・タクシー協会(川鍋一朗会長)は一般ドライバーによる1回あたりの旅客輸送を最長20キロ程度に制限する案を検討中という。長距離輸送は「プロ」限定とする案だ。

日本版ライドシェア実現に向け国が示した案は、タクシー事業者に配慮し過ぎた「骨抜き案」とする意見が多く聞こえるが、一般ドライバーへの制限を強め過ぎれば人は集まらず、望むような効果を得ることはできなくなる。

最終的な指針・ガイドラインは2023年度中に示される見込みだが、どのような形で決着をつけるのか。日本版ライドシェアをめぐる動向と課題に迫る。

■東京ハイヤー・タクシー協会の独自指針案
長距離輸送はプロ限定

日経新聞による1月26日付の報道によると、東京ハイヤー・タクシー協会がライドシェア導入に向けたガイドライン策定を進める中で、一般ドライバーによる運行を1回あたり20キロ程度に制限する案が検討されているという。

公式発表は出されていないため真偽のほどは不明だが、報道を受けSNS上では「美味しい長距離はタクシーで独占」「長距離のおいしいお客様はタクシーで、短距離のそんな儲からないお客様はライドシェアで、て事か」「長距離はタクシー業界が支配します。ライドシェアに参加する奴は小銭を稼げと言う事らしい。これでは普及するはずもない」――といった批判が上がっている。

そもそも、タクシー事業者による運行管理のもと導入する仕組みそのものに残念感が漂っていたが、さらなる制限を付すことで火に油を注ぐような形となったようだ。

ライドシェア導入案に関しては、「タクシー業界はよりサービス、安心安全に特化した商売したらいいだけ。必要であれば今後も残るし、ライドシェアで十分って思われたら淘汰される」「日本版ライドシェアの導入による影響については、割と楽観的。あれだけ色々縛りがあると、ライドシェアというよりパート勤務のタクシー」「あからさまに働く人間を奴隷扱いで募集する神経が驚異的」――といった意見がSNSで散見される。

NewsPicksでは、空間シェアサービスを展開するスペースマーケットの重松大輔社長が「長距離はタクシードライバーしかマッチングしないという事か。レビューの良いライドシェアのドライバーより、タクシー高齢ドライバーに当たった方が危険な気がする」とコメント。ほかにも「タクシーだから20km以上は安全という理屈が理解できません」といった意見が書き込まれている。

▼ライドシェア1回20キロまで、都タクシー団体が独自案 – 日本経済新聞|NewsPicks
https://newspicks.com/news/9504766

年齢制限やドラレコ設置も検討

朝日新聞による1月10日付の報道によると、東京ハイヤー・タクシー協会は同日、報道向けに指針案を発表したようだ。

これによると、運転手はタクシー事業者が雇用することとし、ドライバーは第1種運転免許の取得後1年以上の20歳~70歳未満とする。事故やトラブル防止のため、車両には衝突被害軽減ブレーキや通信型ドライブレコーダーの設置なども求める。

運行想定時間帯は、東京23区などで平日午前7~11時、金曜日は午後4~8時、土曜日は午前0~4時と10時~午後2時を想定しているという。

こうした案を見る限り、ライドシェアを希望する一般ドライバーは何らかの形でタクシー事業者と雇用契約を結ぶことが前提となっている。パートやアルバイトのようなイメージだろうか。年齢条件なども設けている。

国が示した案には、こうした細かな要件まではまだ示されていない。安全を担保するうえで、タクシー事業者にどこまでの裁量が委ねられるのか今のところ不明で、今後どのような指針が公表されるか注目が集まるところだ。

■日本版ライドシェアをめぐる動向
全国ハイヤー・タクシー連合会は「タクシーの規制緩和で課題解決可能」

ライドシェア導入やタクシー規制に関する議論は、内閣府の規制改革推進会議(地域産業活性化ワーキング・グループ)で進められている。

会議では、一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会は、イコールフッティングが達成されるよう規制改革がなされるべきとし、二種免許教習の効率化や取得期間の短縮、法定10日間研修の半減、二種免許試験の多言語化及び特定技能1号へのタクシー乗務員の追加、地理試験の廃止などを要望している。

また、運転手不足に関しては乗務員数が増加トレンドにあるとし、その理由として乗務員の月収増加や労働環境の改善が大きな後押しとなっているほか、運賃改定やアプリによる生産性の向上、パートタイム雇用の拡大など働き方の柔軟化、規制緩和による採用ハードルの撤廃などにより、この傾向を維持できるとしている。

パートタイム副業ドライバーとして登録する日本版ライドシェア案に対しては、現在でも2種免許保持者であればパートタイムで副業として勤務することが可能で、実際に一部の事業者はこの形態による運行を行っているという。

タクシー事業の規制緩和により、現在の需給不均衡に対応可能というスタンスだ。

タクシーの需給バランスについては、都市部では供給不足と言える状態は月に数回程度に留まっており、極端な供給不足とまでは言えないとしている。

観光地でも、ハイシーズンの時間帯によってはマッチング率が崩れているが、オフシーズンは良好な水準を維持している。他営業区域からの応援によって一時的に供給対策を行う通称「ニセコモデル」といった取り組みも進められている。

過疎地においては、最低車両数5台で専用施設が必要という営業所の設置要件があるため、5台分を下回る需要が乏しいエリアにおいては経営判断として撤退を余儀なくされてきたという構造的問題を指摘している。

なお、2023年11月にこの設置要件の規制緩和は実現し、1台から別施設との併用でも可能となっており、既存事業者の撤退抑制やミニ営業所の復活などに期待がもたれるという。

【参考】活力ある地方を創る首長の会については「ライドシェア推進派の政治家一覧」も参照。

デジタル行財政改革会議が中間とりまとめ案公表

関係者の意見を踏まえ、デジタル行財政改革会議は中間とりまとめ案として、タクシー事業に係る規制緩和や自家用有償旅客運送制度の改善案などを示した。

▼デジタル行財政改革 中間とりまとめ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/chukan_honbun.pdf

タクシー事業に関しては、法定研修の期間要件の撤廃や地理試験の廃止、第二種免許試験の多言語化、白タク行為の取り締まり強化などに言及し、年度内に実施する方針だ。

また、現状のタクシー事業で不足している移動の足を補うため、地域の自家用車や一般ドライバーを活用したライドシェアを導入し、タクシー事業者の運行管理の下で新たな仕組みを創設することとしている。

タクシーの供給不足に関しては、配車アプリで客観指標化したデータに基づいてタクシーが不足する地域や時期、時間帯の特定を行う。このデータに基づき、タクシー事業者が運送主体となって地域の自家用車やドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月に開始する計画だ。

この新制度創設に向け、ドライバーの働き方については安全確保を前提に雇用契約に限らず検討を進める。また、従来の自家用有償旅客運送制度についても、地域の声を踏まえて2023年度中に使いやすい制度へ大幅改善を図っていく。

同制度の適用対象となる交通空白地に夜間などの時間帯の概念を取り込むほか、対価の引き上げ(クシー運賃の約8割を目安)やダイナミックプライシングの導入などを実施する方針だ。地域公共交通会議などにおける協議においても、地方自治体の長が判断できるよう改善を図る。

また、実施主体からの受託によって株式会社が参画できるようにし、多様な主体の参画を促す。加えて、道路運送法の許可や登録対象外の無償運送についても、アプリを通じたドライバーへの謝礼の支払いが認められることを明確化する。

各種方策について順次開始し、実施効果を検証するとともに、タクシー事業者以外がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度についても2024年6月を目途に議論を進めていくとしている。

配車アプリの利用増がまず課題に

当面はタクシー事業者のもと一般ドライバーが参画する形となるが、課題はまだまだ山積している。例えば、タクシーの需給状況を客観指標化する配車アプリだ。機械的に指標化できる一方、利用率がまだ低く、実態を正確に捉えているとは言い難い。

MM総研が2023年7月に発表したモビリティサービスに関する調査結果によると、タクシー配車アプリの認知率は53.9%と過半数を超えたものの、実際の利用率は11.6%にとどまっている。アンケートは東京都・大阪府・愛知県に住む15~79歳の男女1万7,809人と都市圏が対象となっている。

利用率は増加し続けているものの、現状の数字で考えると、需給を正確に捉えているとは言い難い。都市部や観光地のタクシープールで行列をなしている需要を捉えられていないのだ。

こうした点を踏まえると、現状において需給状況を客観指標化するには別の手立ても必要となる。また、アプリの利用を促進する方策も別途推進しなければならないのではないだろうか。

ゴーサインは誰が出す?

例えば東京都内でタクシー供給が不足し、ライドシェアを導入する場合、誰がゴーサインを出すのか判然としない。客観的指標をもとにタクシー事業者自らが導入を判断するのであれば、拒否することも可能になるのではないか。

多くの需要が見込める都市部や観光地などでは、時間帯などにより需給バランスが崩れるが、同エリアのタクシー事業者が対応しなければライドシェアは実現せず、問題は解決しない。

何らかの方法でタクシー事業者のライドシェア導入を義務付けるか、第三者が介入可能な仕組みを構築しなければならない。

その1つがタクシー事業者以外による運行ルールの整備となりそうだ。タクシー事業者以外の参入が可能になれば、タクシー事業者は否が応でも対応を迫られることになる。

タクシー事業者以外による運行は過疎地では必須に?

タクシー事業者以外による運行は、過疎地においても重要なものとなる。現状の「タクシー事業者による運行管理」を前提とすると、タクシー事業者がいない、あるいは撤退済みの過疎地ではライドシェアが実現不可能となるためだ。

実施済みのタクシー営業所の設置要件緩和に加え、タクシー事業者以外を主体に運行可能な制度作りを実現しなければ過疎地でのサービス提供は難しい。

6月までに議論を進めるタクシー事業者以外によるライドシェア事業がどのような内容となるか、注目だ。

このほか、運転経験や年齢など、国として一定のガイドラインを設けるのか、タクシー事業者などに委ねるのかなど、明確にすべき点はまだ残されている。

配車プラットフォーマーは準備着々

日本交通系のGOは1月12日、東京ハイヤー・タクシー協会のライドシェア開始表明を受け、配車サービスを含む日本型ライドシェアへの対応を決定したと発表した。専用の相談窓口を設けるとともに、ドライバー向けアプリの開発・提供やタクシー事業者・自治体向け管理システムの開発・提供、ドライブレコーダー等の機器類の提供などを行っていく。

1月26日には、自社が運営する求人サイト「GOジョブ」を通じて日本型ライドシェアの担い手となるドライバーのプレエントリー受付を開始した。各エリアによるタクシー事業者の募集が始まれば、両者をマッチングし導入を支援していく方針だ。

Uber Japanは1月25日、タクシー事業者によるライドシェアへの参画を発表し、提携タクシー事業者と4月にサービス開始し、順次全国展開を進めていく方針を明かした。運送サービス導入を希望する全国のタクシー事業者と協議を進めていくとしている。

DiDiモビリティジャパンは1月26日、乗客向けアプリの開発やドライバー向けアプリの開発、導入を検討しているタクシー事業者向けのプロダクト開発などの支援を開始すると発表した。

S.RIDEは今のところ公式発表を出していないが、対応について協議しているものと思われる。

【参考】関連記事としては「GO、タクシー会社の「ライドシェア運転手」採用を支援」も参照。

■【まとめ】「ライドシェア」という言葉から離れてみては……

がっかり感が強い日本版ライドシェア案だが、タクシー事業者が倒れてしまっては元も子もないのも事実だ。タクシー事業者や安全性に配慮しつつ、新たな仕組みを導入して需給バランスを整える折衷案としては妥当な線かもしれない。

「ライドシェア」という言葉から離れ、タクシー事業における新制度と捉えれば、特に批判は上がってこないだろう。

何はともあれ、近々取りまとめられる正式なガイドラインがどのようなものとなるか注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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