国土交通省は2020年7月23日までに、「ラストマイル自動運転車両システムのガイドライン」を策定したことを発表した。最高時速が12キロ以下であることや、自動運転中であることを周囲に伝達するための「外向き表示」を備えることなどが、ポイントとして紹介されている。
このガイドラインは、ラストマイル自動運転車両の開発・実用化・普及を促進することを目的に産学官の関係者で構成される「先進安全自動車(ASV)推進検討会」により議論が進められ、策定されたものだ。
以下、このガイドラインについて解説していこう。
記事の目次
■「ラストワンマイル自動運転」とは
このガイドラインの名称の中でも登場する「ラストマイル自動運転」とは、目的地までの1マイル(約1.6キロ)程度の限定された範囲内を、自動運転レベル3(条件付き運転自動化)もしくは自動運転レベル4(高度運転自動化)の車両で移動するサービスのことだ。
そもそも「ラストマイル」(※ラストワンマイルとも呼ばれる)とは、交通業界では最寄り駅などから自宅などへの区間のことを指す。この区間で自動運転車両による移動サービスが運行されることで、その地域における移動の利便性向上や公共交通機関の維持が期待されている。
すでにこうした趣旨で実施されている実証実験の事例が全国各地で増えており、今回のガイドラインでは、自動運転車の安全基準への適合性確保に向け、車両設計時に留意すべきポイントがまとめられている。
■ガイドライン発表に合わせ、2つの資料を公開
国土交通省は今回のガイドラインの発表に合わせ、「ガイドライン概要」と「ラストマイル自動運転車両システム基本設計書」の2つの資料を公表している。それぞれのURLは以下の通りだ。
▼ガイドライン概要
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001354516.pdf
▼ラストマイル自動運転車両システム基本設計書
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001354517.pdf
■ガイドラインの概要と主なポイント
ガイドラインの概要では「走行環境の具体例」と「自動運転車の安全基準への適合性確保にあたって設計時に留意すべきポイント」が紹介されており、以下がそれぞれの内容だ。
走行環境の具体例
- 線路跡等の限定された空間を走行
- 電磁誘導線等で予め設定された経路を走行
- 最高速度12キロ以下で走行
- 大雨時を除くなど、周辺監視センサが十分に機能する天候のみ走行など
上記のように走行環境の具体例としては、線路跡などの限定された空間や電磁誘導線などで事前に設定された経路、時速12キロ以下での走行などが挙げられている。
自動運転車の安全基準への適合性確保にあたって設計時に留意すべきポイント
- 歩行者等と安全な間隔を確保し又は徐行すること
- 急な進路変更をしないこと
- 車内事故に留意した減速度で減速すること(緊急時除く)
- 自動運転継続が困難な場合や、システム故障検知時には自動安全停止等をすること
- 乗客・乗員の使用を想定した運行停止手段を車内に設置すること
- 自動運転中であること等を周囲に伝達するための外向き表示を備えること
- サイバーセキュリティシステムについて代替の安全確保策が講じられることを前提に基準緩和認定制度の活用を可能とすること
このガイドラインでいう「安全基準」とは、2020年4月に施行された「改正道路運送車両法」に伴う新たな基準のことを指す。
【参考】関連記事としては「自動運転車の「安全基準」を徹底解説!国交省、ステッカーデザインも策定」も参照。
この安全基準への適合性確保に向けては、急な進路変更をしないことや、歩行者などと安全な間隔を確保するか徐行すること、自動運転中であることなどを周囲の歩行者や車両などに伝えるため「外向き表示」をすること、などが挙げられている。
■【まとめ】安全技術の向上とともに緩和傾向に?
今回発表されたラストマイル自動運転車両システムのガイドラインについては、かなり安全性に配慮された内容だと感じる。走行方法や走行環境などの具体例が電磁誘導線での誘導や限定された空間などとされている上、最高速度も12キロ以下と抑えられているからだ。
現時点ではこうした点は安全への配慮を考えれば妥当なラインと考えられるが、最高時速が12キロ以下だと利便性は高くなりにくいため、自動運転における安全技術やその技術に対する信頼性の向上とともに、こうしたガイドラインの具体例やポイントが緩和傾向になることも今後考えられるのではないだろうか。
▼ガイドライン概要
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001354516.pdf
▼ラストマイル自動運転車両システム基本設計書
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001354517.pdf
【参考】関連記事としては「自動運転ロボ、最適化…ラストワンマイルに挑む新興企業まとめ」も参照。