欧州連合(EU)の欧州委員会は2018年5月17日、完全自動運転社会を2030年代に実現するための工程表(ロードマップ)を発表した。いち早く域内基準を策定することで国際ルールをめぐる世界の主導権争いをリードしていく狙いだ。
工程表では、2018年内に域内各国の自動運転車の安全基準の統一を図るための指針の作成に着手し、2020年代に都市部での低速自動運転を可能にし、2030年代に完全自動運転が標準となる社会を目指すこととしている。欧州委の試算では、自動運転社会への移行で2025年までに8000億ユーロ(約104兆円)を超える市場がEUの自動車と電機業界に生まれるとしている。
国際ルールをめぐっては、国際的な道路交通ルールを定めるウィーン条約が2016年に一定の条件下で自動走行技術の公道での使用を認めるよう改正された。一方で、日本が批准するジュネーブ条約は改正が遅れている。
ウィーン条約を批准するドイツは2017年、特定の時間や状況下でドライバーに代わって運転を引き受けることができる自動運転システムの規定を盛り込んだ道路交通法改正案を可決し、世界に先駆けて自動運転レベル3の市販車が公道を走るための基盤を作った。
日本においては、政府主導のIT総合戦略本部が2017年に発表した「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」の中で、2019年度までに必要な制度改正や運用上の課題検討を進めるとしている。その上で、自家用車は自動運転レベル2相当の「準自動パイロット」を2020年までに、高速道路におけるレベル3相当の「自動パイロット」を2020年代前半に、高速道路におけるレベル4(高度運転自動化)を2025年前後にそれぞれ市場化を目指す方針を打ち出している。
【参考】詳しくはIT総合戦略本部が公表している「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」を参照。自動運転レベルの各レベルの定義については、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準が世界的に広く用いられている。詳しくは「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説|自動運転ラボ」を参照。
アメリカでは、2017年に連邦法「車両の進化における生命の安全確保と将来的な導入および調査に関する法律(SELF DRIVE Act.)」が下院を通過した。メーカーに安全性評価証明書の提出を義務付けたほか、連邦自動車安全基準の見直しや州の権限などに言及している。また、国家道路交通安全局が12項目の推奨ルールを規定した製造者向けのガイドラインの改訂版「自動運転システム2.0:A Vision for Safety」を公表した。
中国は、ウィーン条約、ジュネーブ条約両方を批准していないため国際的な縛りはなく、国策として電気自動車(EV)や自動運転に力を入れている状況だ。これまで無人運転による公道実験は北京や上海で認めていたが、2018年に新たなガイドラインを発表し、どの都市でも公道走行実験が可能となった。
【参考】中国の自動運転に関するガイドラインなどについては「中国、自動運転走行テストのガイドライン発表 非公共ゾーンでの事前試走義務付け|自動運転ラボ 」も参照。