自動運転で親代わり…子供の「見守りロボ」、待たれる実現

自動運転の要素技術が見守り機能とぴったり合致



日本国内で最も有名なロボットは何だろうか。ホンダが開発したASIMOだろうか。それとも一世を風靡したソニーのAIBOだろうか。


アニメや漫画を含めると、鉄腕を誇る人型ロボットや鉄人、機動戦士……など非常に多彩で、夢溢れる未来感が各時代の子どもの心をわしづかみにした。あえて固有名詞は避けるが、「ド」で始まるあの猫型ロボットも代表格だろう。

この猫型ロボットを現在の技術レベルで具現化すると、その用途として「見守りロボット」が想定される。今回は、この見守りロボットの実現性について論じてみよう。

■ロボット開発の今

ロボット工学が発展し、AI(人工知能)や自動運転技術などが大きな進化を見せている昨今、開発の方向性は宅配や警備、掃除、案内、災害救助……など特定のタスクを担うロボットが中心で、ビジネスを見越した需要や社会的要請の強い分野に主眼が置かれている。今後も開発の裾野は広がり、より高機能で汎用性の高いロボットの出現が世界を騒がせることになるだろう。

現実路線では、まず宅配や警備などの本格実用化に期待するとともに、新たなタスクを担うロボットの登場にも注目したいところだ。次に登場するロボットはどのような用途を満たすのか。


AIや自動運転技術の有効活用を図りながら、現実的に製作が可能で社会的ニーズも高そうな分野……と考えていくと、一例として前述した「見守りロボット」が候補に挙がる。自動運転開発などで培われた各種技術は、この見守りロボットに必要とされる技術と合致する部分が実に多いのだ。

以下、自動運転技術がどのように見守りロボットに応用されていくかを解説していこう。

■見守りロボットに求められる機能

見守りロボットは、常に見守る対象者のそばにおり、必要に応じてコミュニケーションを図る機能をはじめ、さまざまな危険要因から対象者を守る機能が求められる。また、対象者の代わりに荷物を運ぶ機能なども付加されると便利だろう。

これらの動作を円滑に行うためには、まず対象者を識別する機能をはじめ、自律走行して追随する機能が必須となる。また、音声認識技術で対象者の言葉を正確に解析する能力や、外部の危険因子をセンサーで特定して判断する能力、危険に対してどのような方法で対象者を守るかを判断・行動する能力などが求められることになる。


■見守り要素技術その1:画像認識技術

自動運転で活躍する要素技術に画像認識技術がある。カメラなどのセンサーが捉えた画像に写っている人やモノなどを判別したり、対象物までの距離を測ったりする技術で、自動運転において「目」の役割を担っている。

また、車内においてもドライバーの状態を判断するドライバーモニタリングシステムに活用されるほか、乗員を識別してパーソナルサービスを提供する技術などにも利用されている。

この画像認識技術によって、見守りロボットも対象者を識別・特定することが可能になる。さらに、後ろ姿であっても特定できるよう、その日その日の服装や背格好、仕草などをもとに判別するAIシステムなどがあると、対象者が一瞬カメラから消えた際にもすぐに見つけることができるだろう。

簡易的な技術としては、対象者の前後左右にマーカーを付けることで、そのマーカーをセンサーで認識することで対象者を見分ける方法などもある。

さらに、対象者の表情を読み取ることで、疲れや不安などをいち早く察知することも可能になる。歩行状況なども踏まえ、疲れていそうな場合は「休憩しませんか?」と最寄りの休憩可能な施設を案内することや、腹部に内蔵した三次元ポケットから飴玉を出して機嫌をうかがうことなども可能だろう。

■見守り要素技術その2:自動運転機能

対象者を特定した後、次に必要となるのは対象者に追従する機能だ。これは自動運転システムそのもので、特定した対象者の横や後方1メートルを走行するように設定すればよい。

センサーで常に対象者を監視しながら、周辺の道路や障害物、往来する人などを検知し、なるべく対象者から離れないように自らの走行ルートを作成するのだ。

なお、こうした追従走行技術はすでに実用化レベルに達しており、配送ロボットの開発を手掛ける独Deutsche Postや仏Effidenceなどが開発を進めている。

国内でも、ソフトバンクグループのリアライズ・モバイル・コミュニケーションズとココネットがDeutsche Postの「Post BOT」やEffidenceの「EffiBOT」を活用し、荷物を搭載して買い物客の後を追従する実証実験を行っている。

また、東京2020オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーを務めるトヨタは、大会においてさまざまなロボットを投入して運営補助や来場者の支援などを行うが、投入するロボットの一つ「FSR(Field Support Robot/フィールド競技サポートロボット)」は、陸上投てき競技などにおいて、運営スタッフの追従走行や障害物回避走行を実施しながら、槍やハンマーなどの投てき物の回収・運搬を行う予定だ。

こうしたロボットは荷物を搭載する機能も有するため、対象者の荷物を積載することも当然可能になるだろう。

■見守り要素技術その3:コネクテッド技術

対象者に自動追従中、例えば対象者が転んで動けなくなったらどうするか。また、不審者が現れたらどうするか……など、有事の際の対応も求められることになる。こうした際に活躍するのがコネクテッド技術だ。

対象者が転んで動けなくなった際などは、その動向を見守りながら保護者やオペレーター、病院などに連絡をとる。また、不審者が現れた際は、警告音を発しながら警察署に連絡を入れるといった具合で、通信機能を活用して臨機応変に対応することが可能だ。自動車でいうところの「ヘルプネット」機能だ。コネクテッド機能により、情報の伝達や共有を瞬時に図ることが可能になるのだ。

また、ロボットに搭載されたカメラなどを通じて保護者が直接ロボットの視界となる映像をリアルタイムで見たり、テレビ会議の要領で直接対象とコミュニケーションを図ったりすることもできるだろう。これらの機能は、実証が進む警備ロボットにすでに搭載されている。

このほか、対象者が迷子になることも想定される。目的地の位置が分からなくなった場合や家に帰ることができなくなった場合など、ロボットが目的地や自宅、最寄りの交番に対象者をナビゲートする機能があると良さそうだ。

社会的に賛否が分かれそうだが、不審者に立ち向かう機能なども搭載可能だ。中国国防科学技術大学が開発した警備ロボット「AnBot」は、警察直通の通報ボタンなどを備えるほか、電気棒やテーザー銃(電極を飛ばすスタンガン)も搭載しているという。

【参考】警備ロボットについては「自動運転の警備AIロボット11選!空港で街で当たり前の時代へ」も参照。

■【まとめ】自動運転技術の進展が見守りロボットの誕生を予感させる

見守りロボットに必要とされる技術の多くは、自動運転技術をはじめ宅配ロボットや警備ロボットなどですでに開発が進められている技術であることがわかった。つまり、実現性が極めて高いのだ。

実需がどれほどあるかは正直なところ不明だが、仮に実用化が進めば、ロボットたちが主人となる子どもを学校に送迎し終えた後、充電施設を備えた公園に集まり、「うちの主人は扱いがひどくて……」など愚痴をこぼしあう井戸端会議を開く日が訪れるかもしれない。

現実路線では、個人所有ではなく特定の学区など地域で活躍する警備・見守りロボットとして、不審者のチェックや子どもの様子を見守る使い方なども想定される。

社会における見守り対象は、子どもだけでなく高齢者、場合によっては女性なども対象となる。社会的な需要があるのは確かだ。

こうした需要に対し、進展を続ける自動運転技術から見守りロボットが誕生する可能性は、決して低いものではなさそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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