官民挙げて精力的な開発が本格化したMaaS(Mobility as a Service)。さまざまな移動手段を一つのプラットフォーム上で統合し、予約から決済までをワンストップで提供する概念だ。
このMaaS構築において肝となるのが、利用者が求める移動に対し、各移動手段を効率よくかつ多彩な選択肢を提供する技術だ。
交通情報の基礎となる部分をどのように結び付け、利用者が望む特定の経路に対する移動手段を提示できるか。このような技術は割と歴史が古く、各社が経路検索・乗り換え案内サービスとしてWEB上やアプリなどで提供している。
今回は、この経路検索を手掛ける各社のサービスとMaaS分野における取り組みを追ってみた。
(※本記事で紹介している企業様以外で、経路検索事業に取り組まれている企業様がいらっしゃいましたら、編集部までご連絡下さい)
記事の目次
■ジョルダン:1994年に乗り換え案内ソフト発表
乗り換え案内「ジョルダン」でおなじみのジョルダン株式会社。その歴史は古く、情報サービス会社として産声を上げたのは1979年にさかのぼる。乗り換え案内サービスは、1994年に「Windows 3.1」向けの乗り換え案内ソフトを発表したのを皮切りにソフトウェアやサービス開発を積み重ねてきた。
ソフトウェア開発やシステム設計、インターネットコンテンツの提供などを主力事業とし、組織としては「連立小会社的中会社」を基本戦略に旅行業などを手掛ける各子会社を束ねている。
乗り換え案内サービスでは、出発地、到着地、経由地、日時などのほか、ICカードの利用や飛行機・有料特急の利用の有無などを指定できるほか、青春18きっぷにおける検索や定期代検索、JR6社が共同運営する有料サービス「ジパング倶楽部」検索、会員向けの有料機能(月額300円)だが、世界の都市間の空路検索・空席を照会できる海外空路検索もある。乗り換え案内サービスの月間検索回数は2億回以上、月間利用者数は約1400万人に上るという。
また、全国各路線の運休や遅延に関する公式情報や、駅のホームにいるユーザーや乗車中のユーザーがリアルタイムな情報を投稿できる「ジョルダンライブ!」といったコンテンツも用意されている。
同社は近年MaaSサービスの提供に向け取り組みを加速しており、MaaS 事業への本格参入のため2018年7月に全額出資の子会社「J MaaS 株式会社」の設立を発表した。乗り換え案内の基盤を活用し、すでに一部公共交通機関のチケット販売や各種旅行商品の予約・販売などを手掛けているが、子会社設立によって実際の移動手段の提供をさらに進め、利便性の向上と新たな収益源の獲得を目指していく方針だ。
2019年1月には、英国の公共交通チケットサービスを提供しているMasabi社と日本における総代理店契約を交わした。各交通事業者がMasabiのシステムを用いることで、利用者はスマートフォン上でチケットの購入から乗車までをシームレスに行うことが可能となる。このサービスを2020年までに複数の交通機関へ導入されることを目指し、交通事業者との連携拡大を図っていくこととしている。
【参考】ジョルダンとMasabiとの取り組みについては「ジョルダン、スマホ向け「電子切符」の提供開始へ 自治体や交通事業者対象」も参照。
同年6月には、愛知県豊田市と連携し、国内の自治体では初となる観光型MaaSのモバイルチケット「ENJOYとよたパス」の提供を9月から開始することを発表。また同月、北九州市交通局とMaaS実現に向け包括連携協定を締結したことも発表した。
8月には、「J MaaS 株式会社」が株式会社野村総合研究所と資本業務提携に向けた基本契約の締結も発表しており、野村が保有する企画力やシステム開発などの協力・協調をさらに進め、MaaSビジネスの拡大を図っていくこととしている。
【参考】J MaaSと野村の提携については「ジョルダン子会社のJ MaaS、野村総合研究所と資本業務提携で基本契約」も参照。
ジョルダン子会社のJ MaaS、野村総合研究所と資本業務提携で基本契約 https://t.co/dYYKQObzZF @jidountenlab #ジョルダン #MaaS #野村総合研究所
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 24, 2019
■NAVITIME:「my route」でトヨタと共同開発
株式会社ナビタイムジャパンが運営する乗り換え案内サービス「NAVITIME」は、2001年にナビゲーション総合サービスとして提供を開始している。2010年にイギリス向け乗換案内サービス、2011年に自転車NAVITIMEや電車や駅の混雑状況をユーザーが投稿することで情報を共有出来るアプリ「こみれぽ」、2012年にバスNAVITIMEやカーナビタイムなど続々とサービスを拡充している。2016年にはトラベル事業となる「NAVITIMEトラベル」もスタートした。
乗り換え案内サービスでは、飛行機や電車、新幹線、高速バス、路線バス、フェリーなど、出発駅と到着駅、出発日時などを指定して検索できるほか、経由地設定や時間優先、運賃優先、乗り換え回数優先などで表示順序を変更できる。このほか、自動車ルート検索では、マップとともに総距離や所要時間、必要なガソリン量、渋滞予測などが表示され、カーナビのように使用できる。
MaaS関連では、2019年3月にJapanTaxi株式会社と連携し、NAVITIMEとタクシーアプリ「JapanTaxi」のAPI連携を開始した。この連携により、NAVITIMEのルート検索結果からそのままJapanTaxiアプリに加盟するすべてのタクシーを呼ぶことができるようになったほか、タクシーの乗車位置を変えると所要時間を短縮できる場合に通知する新機能なども追加された。
同年4月には、学生による交通に関する研究・開発を促進し、業界全体の取り組みの活性化を図ろうと、ルート検索や地図表示などの機能をAPIとして提供するサービス「NAVITIME API」を活用した、学生向けの研究・開発コンテスト「NAVITIME APIチャレンジ」の開催を発表している。
【参考】学生向けコンテストについては「集え学生!「NAVITIME APIチャレンジ」の参加者募集 MaaSなどの交通テーマのアイデア求む」も参照。
5月には、シェアサイクル・レンタサイクル検索アプリ「どこでもサイクル」の提供を発表。複数のシェアサイクル・レンタサイクル事業者に対応し、ポートの位置やリアルタイムな貸出可能台数の表示や、事業者での絞込検索やポート検索、事業者提供のアプリに移動し、予約することなどを可能にしている。
6月には、KDDI株式会社とともに両社が保有する通信・交通ビックデータや経路探索エンジン、IoT・AIを活用し、共同でMaaS領域の取り組みを推進していくことに合意。7月には、トヨタ自動車が福岡市で実証を進めているマルチモーダルモビリティサービス「my route」において、マルチモーダルルートをトヨタ自動車と共同開発することを発表するなど、MaaS関連の取り組みを加速しているようだ。
【参考】NAVITIMEとトヨタとの連携については「ナビタイム、トヨタのMaaSアプリ「my route」にルート検索機能を提供」も参照。
ナビタイム、トヨタのMaaSアプリにルート検索機能を提供 きめ細かな案内情報の表示が可能に https://t.co/KsfSxCiCBX @jidountenlab #ナビタイム #トヨタ #MaaS
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) July 21, 2019
■駅すぱあと:小田急電鉄と「MaaS Japan」を共同開発
1976年創業の株式会社ヴァル研究所が運営している乗り換え案内サービス「駅すぱあと」。同社は、パソコンの普及もまだ進んでいない1988年、MS-DOS版の路線・運賃早わかりソフトを発売するなど、先駆的に取り組んできた一社だ。
1998年にYahoo! JAPAN検索サイトで経路検索サービスを開始したほか、「駅すぱあと 通勤費管理システム」や「メールde駅すぱあと」など、さまざまなサービスを展開してきた。乗換案内ポータルサイト「駅すぱあと for web(旧称Roote)」は2013年に提供開始している。
MaaS関連では、2018年9月に小田急電鉄株式会社とともに、神奈川県、小田急電鉄、江ノ島電鉄が実施する自動運転バスの実証実験にあわせてMaaSのトライアルを実施。自動運転バスのルート検索や乗車予約へのリンクをはじめ、周辺の話題のカフェ情報などのサービスを提供した。
小田急電鉄とは同年12月、「小田急MaaS」の実現に向け、システム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力することにも合意しており、タイムズ24株式会社、株式会社ドコモ・バイクシェア、WHILL株式会社とともに、目的地までの移動をはじめ、目的地での楽しみ方の提案から飲食や宿泊などの予約・決済までをアプリで一括して提供するネットワークの構築を目指すこととしているほか、2019年4月には、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan(商標登録出願中)」を共同で開発することにも合意している。
2018年10月には、オンデマンド・リアルタイム配車サービス「SAVS(Smart Access Vehicle Service)」を提供する株式会社未来シェアと、ナビゲーションサービスの共同開発において業務提携を交わしたほか、2019年2月には、株式会社MaaS Tech Japanと地域モビリティのMaaS分野向けの新たなサービス開発を目指すプロジェクトを開始することを発表している。
同年7月には、日本初となるMaaS向け複合経路検索API「mixway API」の提供を開始した。多様な交通サービスを組み合わせた複合経路検索を、アプリやWebサイトなどに簡単にカスタマイズして実装できるAPIで、デマンドモビリティの経路検索やフリーパスの料金計算も実現可能にしている。
【参考】「mixway API」については「MaaSレベル2に対応!ヴァル研究所が日本初の複合経路検索API」も参照。
また、アウトソーシングサービスを提供するアディッシュプラス株式会社と業務提携し、MaaSアプリや実証実験のカスタマーサポートを一次受けし、ユーザビリティ向上とMaaS事業者の負担を軽減するMaaS向けサポートセンターの共同開設を目指すことも発表している。
MaaSを担う企業として他社とともに開発や実証に取り組むほか、APIの提供やサポート体制の構築を進めるなど、プラットフォーマーとしての活躍にも高い期待が寄せられている。
【参考】MaaS Japanについては「「MaaS Japan」という名称に込めた覚悟 小田急電鉄とヴァル研究所、日本初のオープンデータ基盤を開発」も参照。
「MaaS Japan」という名称に込めた覚悟 ライバルも参加OKなデータ基盤、小田急らが開発 起こせ交通イノベーション https://t.co/QDVIAEh5eB @jidountenlab #MaaS #オープン #小田急 #ヴァル研究所
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 4, 2019
■MapFan:ダイナミックマップの開発分野で活躍
パイオニアの子会社で、地図ソリューションビジネスなどを手掛けるインクリメント・ピー株式会社が手掛ける地図検索ソフト。地図データがベースだが、ルート検索や電車やバスの乗り換え案内など豊富な機能を備えている。
同社としては地図情報サービスがメインのため、MaaSよりダイナミックマップの開発分野において活躍しているが、MaaSの発展系として、地図情報を交えたルート案内や乗り換え案内の需要もあることから、将来MaaS分野へ本格進出する可能性も十分考えられるだろう。
【参考】インクリメント・ピーの取り組みについては「自動運転マップ、年内に世界100万kmカバー オランダ地図大手HERE社」も参照。
オランダの地図作成最大手と日中韓の企業が提携 自動運転マップ、年内に世界100万kmカバー オランダ地図大手HERE社 https://t.co/f99Fviv7jh @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 24, 2018
■駅探:付加情報やサービスに大きな魅力
株式会社東芝の乗り換え案内事業を分社化して2003年に設立された株式会社駅探(旧称は株式会社駅前探険倶楽部)が運営する乗り換え案内サービス「駅探」。乗り換え案内サービスのほか、国内ツアーなど旅行情報の提供も行っている。
旅行や観光といった外出の際に、余った時間を有効利用することができる寄り道検索や、決められた時間内に利用者の趣味嗜好に合った観光名所を周遊するルート検索が可能な「旅程検索システム」を2015年に開発したほか、インバウンドビジネスプラットフォーム構築に向け韓国交通情報サービスの最大手「ARO In Tech」と業務提携を結ぶなど、旅行関連のサービス開発が盛んだ。
乗り換え案内、ひいてはMaaSにおいても、このような付加情報やサービスは大きな魅力となる。今のところMaaSに言及した同社の情報はないが、新しいナビゲーションの在り方を武器に本格参入を果たす可能性も否定できないところだ。
■ハイパーダイヤ:日立システムズ運営の乗り換え案内サービス
ハイパーダイヤ(HyperDia)経路検索は、株式会社日立システムズが運営する乗り換え案内サービスだ。
同社によると、ハイパーダイヤはさまざまな情報をクラウドに集約し交通を支援するソリューションで、鉄道・バスなどの交通事業者向けにはダイヤ作成や各種管理、一般の利用者向けには経路検索やデータ配信などの情報システムを提供することとしている。
同社が開発した交通ソリューションの案内を含め、広くサービスを提供している印象だ。
■トレたび:経路検索や時刻表検索機能など備える
「トレたび」は、「JR時刻表」や「旅の手帖」などを発行する株式会社交通新聞社が運営する鉄道・旅行情報満載のウェブサイトで、コンテンツの一つとして経路検索や時刻表検索機能などを備えている。
■【まとめ】新モビリティの統合や付加サービスが次々と求められるMaaS
思いのほか多くのサービスが提供されており、東芝系や日立系なども早くからこの分野に参入していることが分かった。
各移動サービスの運行情報を持つ各社自身がプラットフォーマーとなるか情報提供者となるかで、MaaSにおける立ち位置は大きく変わる。ジョルダンやナビタイムジャパン、ヴァル研究所のように、MaaSを意識した取り組みを加速している企業も多く、交通事業者や自治体などと連携した開発は一層進むものと思われる。
今後は、共通した予約や決済機能をはじめ、カーシェアやサイクルシェアをはじめとしたシェアサービスや、キックボードなどの新しいパーソナルモビリティをどのように結び付けていくかという点や、旅行や観光、地域の飲食情報といった付加サービスをどのように高め差別化を図っていくかなど、求められる要素は多い。
他事業者との連携した取り組みをはじめ、各社が運営する経路検索サイト・サービスがどのように変わっていくのか。要注目だ。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。
【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る https://t.co/wGPYiXnZEg @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 22, 2018