【前編】自動運転業界、2024年の振り返りと2025年の展望|自動運転ラボ主宰・下山哲平

米中と日本の自動運転の現在地は?日本独特の保守性の影響は?

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自動運転ラボ主宰の下山哲平=撮影:自動運転ラボ

2024年が終わる。自動運転業界では、アメリカのGoogle/Waymo陣営が無人タクシーサービスを拡大した一方、AppleやGMは事業停止を発表。テスラがロボタクシー専用車両を発表したことも、ワールドワイドに大きな注目を集めた。中国では特定エリア内で自由なルートで走行する無人タクシーがどんどん増えている。

一方の日本。今年は残念ながら、海外からその取り組みにスポットライトが当たることがほとんど無かった。「世界のトヨタ」、そして、レベル3の市販車の販売では「世界初」の冠を得たホンダなどを擁する日本だが、このまま自動運転の世界市場において存在感が小さくなり続けるのか。

今回は、自動運転ビジネスの専門家であり、自動運転ラボを主宰する下山哲平が、2024年の振り返りと2025年の業界展望を語った内容を前編・後編の2本立ての記事で紹介する。

前編となる本記事では、2024年における海外と日本の自動運転タクシーの開発・実用化状況の比較や、無人デリバリーにおける課題の表面化やUberのもくろみ、日本独特の保守性が自動運転関連サービスの展開に与える影響などについて語った内容をお届けする。

▼【後編】自動運転業界、2024年の振り返りと2025年の展望|自動運転ラボ主宰・下山哲平 「勝つ」とは何を意味する?株価上昇の時期は?
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記事の目次

■「世の中にとって『ドラえもんの世界』がリアルな話になってきた」

Q 2024年が終わります。今年1年を振り返ると?

今年に入ってから、テレビも含めたマスメディアからの取材協力やインタビュー出演が増えました。これまでは、ややニッチなニュース枠への出演や監修など特殊なものが多かったですが、今年はいわゆる夕方の帯番組の報道ニュースや、大手経済紙から監修や意見、出演、取材を求められることがすごく多かったです。

自動運転は自動運転タクシーが一番の本命ですけど、アメリカと中国の自動運転タクシーが、去年までと比べると相当進んだかなと思います。ただし、ポジティブニュース、バッドニュースの両方あるのですが。

Q 「進んだ」というのは具体的には何を指している?

中国やアメリカでは無人のタクシーが街中で実際に普通に走っているっていう状態が、かなり増えました。実証実験のキャンペーンで「1週間だけ」「1カ月だけ」運行しているとかではなく、恒常的にこのエリアはずっと無人タクシーが定期的に何十台か解き放されていて、自然と無人タクシーが来ますよっていう状態が、かなり2024年は進みました。

アメリカや中国で実際に、無人タクシーが田舎だけではなく、都心でも走っている。中国だったら北京の市街地で、アメリカでもサンフランシスコで、商用サービスとして普通に走っています。業界関係者や事前に抽選でエントリーした人が試しに乗るといったテスト的なものではなくです。

そうなって何が起こるかというと、一般人の自動運転車の乗車体験が得られるので、SNS上でこんなことがあったあんなことがあったと、街中にいる人たちがスマホで写真を撮ってXにあげるなど、ポジ・ネガ含めた話が出てきます。普通のリアルな意見がX上でたくさん出てきますし、リアルに無人で走っているので、正直相当トラブルも多くなります。

自動運転が良くも悪くも、ポジティブに走っている姿と、事故を起こしたり立ち往生をしたりなどトラブルを起こしているというネガティブに走っている姿、このポジ・ネガ両方がSNS上で拡散されることが、圧倒的に増えたのが2024年でした。

一気に世の中への拡散が増えることで、世の中の関心も増しますよね。そうすると「海外では本当に実現しているらしいよ!日本は全然やってないよね。日本とアメリカの差って何なの?」みたいなことが、一般の方々も注目するカジュアルなニュースで取り上げられるようになってきました。海外でメジャーになって情報が流通するようになり、そのことを日本のメディアも注目するようになったわけです。

「未来のドラえもんの世界」だと思われたことが、「結構リアルな話なんだな」というように、まだまだ認知は薄いものの、広がり始めたのが2024年からだなと思います。

■「ライドシェアの規制緩和が進む土台がようやくできた」

Q 日本のモビリティ業界というマクロ的な視点で見た場合、盛り上がったテーマは?

ライドシェアでした。規制改革に伴い、2024年4月に日本版ライドシェア(自家用車活用事業)がスタートし、タクシー会社しかサービスを展開できないという制限付きですが、有償ライドシェアが解禁されました。ただし、この制限付きの解禁に関しては、政権に対して「規制改革できていないんじゃないか!」と批判するメディアも多く、今年の春ぐらいはこのテーマに関してメディア出演することも多かったです。

「海外ではさらに先のビジネス分野とも言える自動運転タクシーですら規制改革が進んでいるのに、日本だと人間が運転するライドシェアですら全然駄目だね・・・」という対比がされた。「無人どころか有人化ですらつまずいていて、自由化が進んでない・・・」みたいな。

業界関係者的にいうと、結局は世論です。車であれタクシーであれ、ユーザーがお金を使って使うサービスなので、お金を払う側が求めない限りは、規制緩和は進まないじゃないですか。「鶏が先か」「卵が先か」の話になるのですが、ユーザーが求めるようになったら、必然的に緩和されていくはずです。ただ、民意があんまりはっきりせず、ユーザー側の声がそこまで大きくないがゆえに、サービスを提供している業界側、その業界と近い政権側の人間といった強い側の意見がロビー活動を通じて通りやすい状況です。

ただ、こうやって規制改革が進んでいない状況で「けしからん!」といった論調がメディアで強くなってくると、「けしからんものを守っている」という見え方が政治的には良くないので、政府の中にもさらに改革を推進しようという機運が若干ですが存在する。こういうことを繰り返して、結果的に改革や規制緩和が進んでいくと思います。その土台が2024年にようやくできた感じです。世界から見ればめちゃくちゃ遅いのですが。

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■「2024年を表すなら『動』と『見えない』、両極端の1年だった」

Q 2024年を感じ1文字で表すと?

「動」ですかね。動いた1年でした。

日本では無人タクシーがローンチしたわけでもないし、せいぜい昔から全然レベルがさほど上がってないバスの自動運転の実証実験が増えたといった程度ですが、SNSで海外の自動運転タクシーのリアルな話や評判が拡散されたことなどで、日本人が日本と海外との差に気づき始めた。この認識の変化を含めて「動」なのかなと思います。

カジュアルなニュースで「動」に絡む話でいくと、テスラが無人タクシー車両として10月に「サイバーキャブ」を発表し、いわゆる完全無人車両サービスの構想を改めて大々的に発表した。テスラの知名度が高いこともあり、いよいよ無人ロボットタクシーが目の前の世界に近づいてきたことを印象づけるニュースでした。

ただ業界人側から見ると、世界では動きに富んだ1年であった一方、日本では全く動きがなかった1年だとも思います。「都心×無人」で自動運転タクシーが実証実験も含めて展開されたこともなく、ホンダが2026年のサービスインを発表したものの、車両が一般向けに広くお披露目されることもなかった。

そういう意味で言うと、1文字ではないですが、「見えない」ということも2024年の特徴の一つかと思います。「動」と「見えない」。両極端とも言えます。

■「無人デリバリーは、やればやるほどギャップが見えやすくなる」

Q 自動運転をビジネスで大きく分けると、人の移動に関するモビリティサービスと、物を運ぶ宅配物流系の2つに分かれます。宅配物流系に関して2024年を振り返ると?

出典:Uber Eats Japan 合同会社プレスリリース

宅配物流系でいうと、UberEatsが大阪で無人でデリバリーの実証実験をかなり短い限られた距離の中でやり、デリバリーの方は動きが結構あったと思います。

ただこの領域においては、結局人間が運ぶことに圧倒的にメリットがある。フードデリバリーの場合、早く来ないと冷めるし、タワーマンションに住んでいる方だったら上まで上がってきてくれないと嫌ですよね。

結局さっきのタクシーの話と一緒で、最後はユーザーが求めないことには普及しない。そしてユーザーが求めるレベルでのローンチは相当ハードルが高い。ただ、Uber側は将来的には無人で運ばないと高い収益性を実現しにくいので、将来を見据えたパフォーマンス的な位置づけになっているのですが、タクシーよりもより便利さに対してのギャップが、やればやるほど見えやすくなる。

Uberが全く運ばれてないエリアに、「無人ロボットを使うことで運べるようになりました」だったらユーザーメリットがあるじゃないですか。Uber対象じゃない地域に運んでくれるので。でも、すでに人がスピーディーに運んでくれる場所に無人で運ぼうとすると、単純に人と比べると不便だったねっとなる。そういう見せ方の難しさみたいなところは、客観的に見ていてあるのかなと思います。

Uberは米国で上場している会社なので、上場するときの目論見書にもはっきりと書いてあるんですけど、ドライバーにおおよそ売上の7割以上を支払っています。だから儲かりません。でも、自動運転に置き換えるとこれが0円になります。もちろん事前に開発する大量の車両購入や運行管理に関するオペレーション体制の確立など巨大な投資は必要だけれども、1回1回のデリバリーにおいては、100億円の売り上げがあったらこれまで70億円の直接原価を払っていたのが、これがなくなって粗利ベースでは丸儲けですという話です。

だから「最終的には全部自動運転に入れ替えていくことを前提としたビジネスをやっています」と、世の中にプレゼンテーションしているわけです。企業側からすると「無人運転に徐々に近づいています」というパフォーマンスは、示していかなきゃいけない。

でも、ユーザー側からするとその途中のパフォーマンス過程においては、逆に期待値が下がっちゃう。このギャップがフードデリバリーはリアルに実証実験をやればやるほど見えてきて、この課題感にぶち当たろうとしている1年かなっていう感じです。

■「今の日本では、最初の先頭バッターに立った人が損する」

Q 人の移動に関するモビリティサービス、中でも自動運転タクシーに関して言うと?

さっき言った通り、「やってない」ということに対する危機感が醸成されつつありますので、逆に言えば今後はちょっと期待できるかなと思いますね。今の日本の実証実験は大体アメリカの6年遅れぐらい。ただ、技術レベルが6年遅れているのかっていうとそうではなく、技術レベルは正直日本の方が上回っている部分も多いと思います。結局は「安全・安心」が重要視されるので、そのクオリティは日本企業の方が高い。

では、なぜ日本はそんなに遅れているのか。それはやっぱり日本国民特有の保守性みたいなところですね。結局、完璧になってからじゃないと新しいものを受け入れられず、あら探しをしてしまう。タクシーだったら毎日のように何らかの事故が起きている。時には死亡事故のような重大な事故も起きるでしょう。でもそのような事故が起こった際に「タクシー会社なんて滅亡しちゃえ!」「あんな危険な乗り物を止めるべきだ!」「今すぐ明日から運行停止すべきだ!」みたいな話にはなりません。

でも自動運転の無人タクシーが日本で大きな事故を起こしましったら、しかもそれが仮にトヨタがいずれ展開するであろう「トヨタ・ザ・ライド」みたいな自動運転タクシーだったら、必ず翌日から運行を一時停止するでしょう。「全ての安全をもう1回確認できてからしか走らせられません」という話になってしまうと思います。

でもそれってすごくおかしいことです。テスラの自動運転レベル2の作動時に大きな事故がこれまで何度も起こっていますが、すぐに出荷停止しますとはなっていない。もちろん改善はされていきますが、必ず事故は起こる。要は今の日本では、日本特有の最初の先頭バッターに立った人が損する仕組みになっています。

そういう要因から出遅れたことによって、結果、リアルな走行データが取れてないので、AIにデータを勉強させてどんどん賢くさせていく実践ができていない状況です。つまり世界から見て出遅れているという状況と言えます。そういう意味でも海外、特にアメリカや中国との差がすごく出た1年でした。

Q 自動運転モビリティの業界で最終的に勝つのはどんな企業か?

歴史が証明しているのですが、スマートフォンと一緒で、世の中の社会インフラになるようなものって、最終的には技術自体はコモディティ化して、いつかは皆同じになっていきます。自動運転の技術そのものを競うのは今だけです。将来は結局、自動運転は誰かが実現して技術提供してくれるようになり、モビリティサービスのプラットフォームがその技術や仕組みを安く仕入れて大量にさばき、自動運転の業界で世界最強になっていく。そういう世界線なのかなと思います。

結局は、モビリティプラットフォーマーとしてどこが覇者を取るのかという戦いです。極論すると、タクシーやライドシェアが無人になるかどうかはユーザーからはどうでもいい。ユーザーは無人サービスを展開しているからUberを使うのではなく、普段からUberを使っているからUberを使い、そしてUberがどんどんバージョンアップして無人になっていく、という流れです。つまり、自動運転技術が完全に確立する手前で勝負は決まっています。

■「燃やされたことが重要ではなく、世間が無人で走っていることを知ったことが重要」

Q 2024年で印象に残っている自動運転業界のニュースは何でしょうか?

出典:X(@friscolive415)

世の一般の方々に、自動運転タクシーがリアルに実現しているということを印象づけたという意味では、Waymoの無人タクシーが深夜にチャイナタウンの中の一番危ないと言われているエリアを走り抜けて燃やされるなど襲撃を受けたというニュースです。人間が乗っていたら、絶対にその時間にそのエリアを走らないくらいの危ないエリアです。

でも無人タクシーはそんな情報は知らず、地図ではそこが最短ルートだったのでそこを通ったわけです。お客さんは乗せてなかったのですが、基地に帰ろうとしていたんですかね。深夜の治安の悪い時間に通った結果、ボコボコにされて燃やされた。

このニュースに関しては、燃やされたことが重要ではなくて、X(旧Twitter)などを通じて「本当に無人で走っているんだ」ということを世間が知るきっかけになったのがポイントです。そういうニュースは1年を通じると、大なり小なり合わせて結構多かったです。

【参考】関連記事としては「Google製の自動運転車、火をつけたのは「14歳少年」疑い」も参照。

日本に関して印象に残っているニュースもあります。来年の大阪・関西万博で運行を目指している自動運転バスの実証実験が行われましたが、レベル4での運行を目標しているのに、まさかの道路に埋め込まれた磁気マーカーを使っての走行でした。

磁気マーカーは当然、安全性は高いです。でもゴルフ場の磁気マーカーを使った誘導型のカートなんかは、20-30年前にもう実現している。磁気マーカーを使ってレベル4の実証実験をするということが駄目ではないですが、何の目的でやっているのかってことです。

普通に無人で広大なテーマパークの中をぐるぐる回るバスを作ろうと思ったら、レールを引いたり、磁気マーカーで誘導したりすること自体は目的にかなっています。一番お金をかけずに安全性も担保しやすいので。エリア内だけで無人のシャトルバスを走らせることだけが目的なら、そのソリューションは正しい選択だと思います。

でも基本的に今やっている実証実験は、全て将来、完全自動運転バスになっていくための一歩です。日本がやっている自動運転の実証実験の多くは、将来に直線でつながっていないやり方でやっています。磁気マーカーを将来も使うなら、日本中の道路に磁気マーカーを埋めるつもりですか、という話になってしまいます。

【悲報】万博の自動運転バス、半分以上が「誘導型」 なぜかトヨタは不参加

Q タクシーの無人化に関しては、普及に向けてどのようなブレイクスルーが考えられるか?

「なんちゃってレベル4」(※編注:運転席にドライバーがいて、ハンドルに手を触れない範囲で常にスタンバイして、いつでも介入できるように、実質的に人間が判断に関わっている状態での運行のこと)を良しとするならば、タクシーでそれやってほしいですね。なんちゃってレベル4をタクシーでやっておけば、実質的にトラブルがない限り、運転手が基本的に介入しない限りはレベル4です。

例えば「渋谷〜六本木間」をそれで走って、1万キロを走行した中で人間が実際に介入したのは1%にも満たなかったです、みたいな開示ができれば、「もうほぼ自動運転はできる!」となる。それなら警察や関係省庁も無人の自動運転タクシーを渋谷〜六本木間で許可しましょう、という次の一歩に進みやすい。

なんちゃってレベル4でも、いま言ったようにして「実際にどこまで自動運転ができていたのか」という結果を情報開示していけば、未来につながります。実際には介入率は0%にはならないですけど、例えば最初は介入率が30%もあったのが、20%、10%、1%と減っていく進捗を、現在、世の中に見せられていない。これは非常によくない状況だと思っています。

一般の人たちが、もっと自動運転タクシー普及して欲しいと思わない限りは、規制緩和も進みません。やっぱり情報が下りてこないのが一番問題かなと思います。

■インタビュー内容の続きは記事後編で

本記事はインタビュー内容の前編として、下山が語った内容を紹介した。

記事の後編では、自動運転分野において日米の差が生まれた要因や、自動運転という事業ドメインにおいて「勝つ」とは何を意味するのか、プラットフォーマーの優位性、株価が上昇するタイミング、そして2025年の展望と期待について語った内容をお届けする。

▼【後編】自動運転業界、2024年の振り返りと2025年の展望|自動運転ラボ主宰・下山哲平 「勝つ」とは何を意味する?株価上昇の時期は?
https://jidounten-lab.com/z_51622

下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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