元研究者・通称「ヤメ研」がいま自動運転領域で重宝されるワケ

研究成果のPR、「論文作成」が近道に





法曹界に「ヤメ検・ヤメ判(検事や裁判官を辞めて弁護士になった人)」という言葉があるように、自動運転業界では「ヤメ研・ヤメ教授」という言葉を耳にする機会がある。大学教授をはじめとした研究者が自動運転業界に転職する例が後を絶たないのだ。







業界からの熱いニーズがあってこそのヤメ研だが、なぜ大学教授や助手ら研究者が業界で重宝されるのか。その真相を探ってみた。

■「ヤメ教授」や「ヤメ研究者」が求められている理由

大幅な需要の増加に伴ってエンジニア不足が慢性化している自動運転業界だが、開発に直接携わるエンジニアとともに需要が増しているのが大学教授に代表されるアカデミック系の研究者だ。

大学教授は先進技術に関する高度な専門知識を有しており、その広範な知識を生かした研究開発に期待を寄せられるのはもちろんのことだが、それとは別に熱望されているスキルがある。「論文作成能力」だ。

自動運転は先進技術の粋を集めた最先端の分野であり、日進月歩で技術が進展する領域である。新規技術や発想を持ったスタートアップが続々と台頭する競争の激しい世界だ。この競争を生き抜くためには、高度な技術開発力は当然のこと、その技術が埋もれずに高く評価されるよう、広く周知する必要がある。

その際に活用されるのが論文だ。自社の研究を論文として世界に発表することで、同業者や関連産業をはじめ広く社会に認知され、技術開発力をピーアールすることができる。

最先端分野における技術開発力は自社の評価に直結するため、論文は世界に向けて研究成果を堂々と発表する機会として自社ブランディングに大きな効果を発揮するのである。

■自動運転分野で発表されている論文の傾向

国立研究開発法人科学技術振興機構が構築した日本の科学技術情報の電子ジャーナル出版を推進するプラットフォーム「J-STAGE」と、国立情報学研究所(NII)が運営する、論文や図書・雑誌や博士論文などの学術情報を検索できるデータベース・サービス「CiNii」でそれぞれ自動運転関連の論文を検索してみると、「自動運転」でヒットする論文などはJ-STAGEで5767件、CiNiiで2381件の状況だ(2019年2月時点)。

自動運転の中でも、どのジャンルの研究論文が多く、またどのような中身が多いかを探るため、「自動運転+α」のアンド検索により自動運転頻出ワードをいろいろと入力してみた。

「自動運転+LiDAR」は161件ヒット

「LiDAR」は、それぞれ110件、51件がヒットした。自動運転技術の概要や課題の中でピックアップしているものが多く、このほか高低差を考慮した走行可能領域検出や点密度を制御可能な広FoV 3D-LiDARの開発、スローライト構造体を利用した非機械式ハイレゾ光レーダーの開発など、専門性の高い研究内容も目立つ。さらに専門性の高いワードに絞ると、LiDARにおけるスキャン方式の一つ「MEMS」ではそれぞれ88件、2件がヒットした。

「自動運転+カメラ」は929件ヒット

「カメラ」は、それぞれ862件、67件がヒットした。自動運転の実用化に向けた取り組みや将来展望といった総括系が多い一方、単眼カメラで撮影した1枚の画像から精緻な距離計測を可能とするカラー開口撮像技術や、脱・赤外光、脱・ToF 検知原理一新の「超LiDAR」レーダーやカメラの技など、専門性豊かな研究も多い。

「自動運転+ADAS」は89件ヒット

「ADAS」(先進運転支援システム)は、それぞれ60件、29件がヒットした。車載カメラの現状などセンサーの開発動向や技術予測、展望に関するものが多いほか、高齢ドライバーの実態と対策や高齢者の高度運転支援のための運転知能の実現など、高齢者に関する研究も多いようだ。

「自動運転+ダイナミックマップ」は41件ヒット

「ダイナミックマップ」は、それぞれ27件、14件がヒットした。ITSや5G(第5世代移動通信システム)と絡めた研究をはじめ、クラウド型自動運転を指向した並列ストリーム型ダイナミックマップや、動的地理情報共有のためのアプリケーションプラットホームとしてのダイナミックマップの役割など広範に及ぶ研究が発表されている。

「自動運転+人工知能」は587件ヒット

自動運転の核技術の一つである「人工知能」(AI)は、それぞれ473件、114件がヒットした。事故発生時の課題や社会受容性と結びつけた研究をはじめ、アルゴリズムやディープラーニング、ビッグデータに特化したもの、リアルタイム情報収集配信技術といったAIの具体的活用に関する研究など、非常に幅広い研究成果が提示されている。

「自動運転+コネクテッド」は50件ヒット

「コネクテッド」は、それぞれ16件、34件がヒットした。総括的なものからプラットフォーム競争戦略や次世代通信システム、ビッグデータなどと絡めた研究が多いようだ。

「自動運転+MaaS」は28件ヒット

「MaaS」は、それぞれ22件、6件がヒットした。モビリティサービスの動向や将来展望などが多数を占めている。

「自動運転+画像解析」は75件ヒット

特定技術に関するワードでは、「画像解析」はそれぞれ72件、3件がヒットした。「ディープラーニングのバイオメディカルデータへの応用」「強力なデータ解析機能を持つ画像データベースIDEALの開発」「衛星画像とプローブカー軌跡を用いたネットワーク交通状態推定のシミュレーション分析」など、専門性の高い研究が多い。

「自動運転+HMI」は146件ヒット

車両制御に関わる「HMI」では、それぞれ108件、38件がヒットした。ナビゲーションの要件と音声認識の活用や、自動走行システムに必要な車々間通信・路車間通信技術の基礎的研究開発、画像センサーによる眠気状態推定とドライバーステータスモニターの開発など、多様な研究が目立つ。

「自動運転+測位技術」は26件ヒット

「測位技術」では、それぞれ26件、0件がヒットした。農業や防災分野の研究をはじめ、「準天頂衛星システムを用いたセンチメータ級測位補強システムの構築」「オープンソースGNSSライブラリを用いた遊歩道環境での自律移動ロボットナビゲーションのための位置推定」といった技術的な研究も検索された。

「自動運転+マッピング」は66件ヒット

「マッピング」では、それぞれ61件、5件がヒットした。「UWBレーダによる2次元環境マッピング法に関する実験的検討」「PMVにおける自動運転システムに向けた環境構築広画角ドライビングシミュレータによる周辺視野刺激に関する研究」などがヒットした。

■論文発表で自社ブランディングへ

各用語による検索精度などに左右される面はあるが、定期的に調べることで、ポピュラーな研究や旬を迎えつつある研究分野など、一定のトレンドがつかめるかもしれない。

ヤメ研ではないが、ティアフォーやフィールドオートといった大学発スタートアップも頭角を現しており、大学関係者の研究開発力は目を見張るものがある。また、その技術を論文にまとめることで、より多くの人が目にする機会が生まれ、引用などの形で自社技術がさらに広がっていくことなども想定される。

逆を言えば、どれほど優れた技術力を持っていても、営業や周知活動をおろそかにすればそれは宝の持ち腐れとなって埋もれてしまい、開発競争の中で他社の追随を許すことにつながる。

自社ブランディングの一環として、論文の有効活用は今後も盛んに行われるだろう。

【参考】自動運転業界の求人動向については「自動運転関連求人、「未経験者歓迎」が増加 2019年1月は3.8%増の1万1065件」も参照。







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