ボルボがCASE分野の独自ツールを「無償公開」する真の狙い

インフォテインメント向けAPIやLiDARデータも公開



出典:ボルボ・カーズ公式サイト

スウェーデンのボルボ・カーズは2021年2月3日までに、「Volvo Cars Innovation Portal(ボルボ・カーズ・イノベーション・ポータル)」の開設を発表した。

同社がこれまでに開発したさまざまなリソースやツールを無償公開しており、外部の開発者が新しいサービスや車載アプリを開発できる環境を提供している。







イノベーション・ポータルでは具体的にどのようなリソースなどが公開されているのか。ボルボ・カーズの狙いとともに概要を解説する。

■イノベーション・ポータル開設の狙い
CTO「最高の人材とのコラボレーションを実現」

ポータル開設に伴い、同社CTO(最高技術責任者)を務めるヘンリック・グリーン氏は「ボルボ・カーズの車両はスマート化、コネクテッド化が進み、オーナーからアプリやサービスに対する需要が高まってきている。これらのリソースを公開することで、社内外の開発をサポートし、それぞれの分野で最高の人材とのコラボレーションを実現する」と述べている。

同社は2025年までに世界販売台数の50%をBEV(バッテリー式電動自動車=エンジンを搭載しない完全な電気自動車)に、残りをハイブリッド車を含むEV(電気自動車)とする目標を掲げており、2020年10月にはBEVの最初のモデルとなる「XC40 Recharge」の生産を開始している。

一方、コネクティビティ分野では、スマートフォンを活用してクルマのさまざまな機能を遠隔操作・確認できる「Volvo On Call」を提供するなど、サービスの拡充を図っている。

スマート化と密接な関係にあるEV化やコネクテッド化を推し進める同社だが、こうしたCASE領域の取り組みは各自動車メーカーが標準化に向けベクトルを合わせており、さらなるサービスの充実・高機能化に向け日進月歩の開発体制が求められている。

特にコネクテッド領域は開発創成期を脱し、実用化が始まった5Gの普及などと合わせて今後ハード・ソフト両面でイノベーションが加速していくことが予想される。

第三者による改良や新たなサービス創出を奨励

ソフトウェア領域の開発においては、これまでに開発・蓄積してきたソースコードや各種データをオープンソース化する動きが相次いでいる。データを広く公開することで、第三者による改良や新たなサービス創出を奨励することが可能なほか、シェア拡大や業界全体の研究開発を促進する効果もある。

ボルボ・カーズも各種リソースを公開することで、優れた開発力を有する外部の企業・人材と自社サービスを結び付け、新たなサービス創出を図っていく構えだ。

■イノベーション・ポータルのコンテンツ
コンテンツ①:APIやエミュレーター

イノベーション・ポータルでは、ボルボ・カーズの最新車両などで使用されている「Android Automotive Operating System」やGoogleアプリを再現したエミュレーターが含まれている。開発者は自身のコンピューターを活用し、車内のGoogle Playで機能するアプリを設計、開発、テストし、製作したアプリをPlayストアで公開することもできる。

また、このプラットフォームには、ボルボ・カーズが一般に初めて提供する「Extended Vehicle API」が搭載されている。開発者はこのAPIを使用することで、車両所有者の同意のもと各車両の走行距離や燃料レベル、窓、ドア、屋上、サンルーフの開閉状況、接続されているライトのステータスなどのダッシュボードデータにリモートアクセスし、新サービスの構築や提供に利用できるようになる。

なお、Android Automotiveは、グーグルやインテル、ボルボ・カーズらが共同開発したAndroidベースの自動車向けOSで、2018年にボルボ系EVメーカーのPolestarが採用して以来、ルノー・日産・三菱アライアンスや米GM、フォードなどが自車への搭載や開発面でパートナーシップを結ぶなど、社会実装が加速している。

プリインストールされたAndroidアプリケーションをはじめ、セカンドパーティやサードパーティのAndroidアプリケーションを実行することができる拡張性の高いOSとなっている。

コンテンツ②:LiDARデータセット

LiDARデータセットは、LiDAR開発を手掛ける米Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)と米デューク大学と共同で公開している。ルミナーの高性能LiDARセンサーで作製したもので、開発者が長距離LiDAR検出に関連するアルゴリズムを改善するのに役立つという。

ルミナーの開発向けLiDAR「Hydra」でデータ収集した「Cirrusデータセット」には、6,285ペアのRGBやLiDARガウス、LiDARユニフォームフレームが含まれている。250メートルのLiDAR有効範囲全体にわたって車両や自転車、歩行者など8つのオブジェクトカテゴリに対し注釈が付けられているほか、高速道路と低速都市道路の両方のシナリオも含まれている。

コンテンツ③:3Dシミュレーター

3Dコンテンツ作製プラットフォームを提供する米Unityと共同開発した3Dカーモデル・シミュレーターも用意されており、ボルボ・カーズのEV「XC40 Recharge P8AWD」の3Dテンプレートにアクセスすることができる。

UnityHubのプレビューで利用できる「AutoShowroom Sample Template」などを活用し、ライトの設定や車のペイントマテリアル、シェーダーを調べたり、レンダリングテクニックをテストしたり、さまざまな環境設定で独自のカーコンフィギュレーターを作成したりすることができる。

VR、シミュレーターリグなどでシナリオを構築し、センサーデータをテストして自動運転車のアルゴリズム構築に役立てることもできるそうだ。

近日中には、物理的なセンサーのデジタル複製を含んだ3Dモデルとシミュレーターも公開予定としている。

■国内外でオープンソース・オープンデータ化を図る取り組み続々

近年、自動運転業界では開発したソフトウェアのソースや収集したデータなどを一般公開する動きが増加傾向にある。

国内では、ティアフォーの取り組みが代表的だ。同社が開発した「Autoware」は世界初とも言われるオープンソースの自動運転OSとして広く公開されている。現在、Autowareの権利は非営利団体「The Autoware Foundation(AWF)」が有し、業界標準化を目指し開発企業の導入をサポートしている。

なお、ティアフォーは2019年にも東京大学などと共同で画像データなどのラベリングツール「オートマンツール(Automan Tools)」をオープンソースとして無償公開している。

【参考】ティアフォーの取り組みについては「オープンソース「歴史上必ず勝る」…自動運転OSの第一人者・ティアフォー加藤真平氏」も参照。

また、トヨタ系のウーブン・アルファ(旧TRI-AD)も、オープンなソフトウェアプラットフォームとして自動地図生成プラットフォーム「AMP」の開発を進めている。高精度地図の実装や更新、アプリケーション開発を促進する狙いだ。

海外では、自動運転タクシーで業界をリードする米Waymoや配車サービス大手の米Lyft、トヨタの米国法人Toyota Motor Sales USAなどが、公道走行で取得したデータセットを研究者向けに無料開放しているほか、コネクテッドカー向けオープンプラットフォームの共同開発プロジェクト「Automotive Grade Linux(AGL)」なども設立されている。

■【まとめ】オープン化の流れはまだまだ続く

オープンソースやオープンデータの公開は、多くの開発者の自発的参加を促す。その結果、自社ソフトウェアやサービスの改良、新規サービスの創出が図られるのだ。OSの場合は、付随したさまざまなサービスが誕生し、シェアを拡大する効果もある。

一方、こうしたオープンソースなどを活用することで、後発の開発者も開発期間を短縮したり、汎用性のあるアプリ開発などに役立てたりすることが可能になる。無償公開は、大きな社会的利益を生み出すのだ。

自動運転分野では、自動運転システム構築に向けたセンサー画像データや高精度地図作成に向けたデータなど、膨大なデータが必要とされている。

また、コネクテッド分野では、コンピューター化・データ化された自動車の各機能をどのように生かすか、通信機能を活用しどのようなサービスが可能かなど、デジタル領域での開発が加速中だ。

こうした背景から、自動運転分野においてはまだまだデータの共有化やソースの公開などが続いていくものと思われる。業界全体の開発力強化、そして社会実装の加速に期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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