トヨタのカート型EV「APM」とは?五輪のラストワンマイルに貢献

1000万人超の観客をどうさばく?



出典:トヨタプレスリリース

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会まで1年を切り、開催に向けた準備作業が大詰めを迎え始めた。大会に参加する選手数は1万5000人超、観客数は1000万人超をそれぞれ見込んでおり、大会期間中は東京を中心に相当数があちこちへ移動する。

こうした移動を支援するのが、ワールドワイドパートナーを務めるトヨタ自動車だ。同社は2019年7月、東京2020大会に向け開発した専用モビリティ「APM」を発表し、ラストワンマイルなどの移動をサポートすることとしている。


今回は五輪におけるラストワンマイルに触れつつ、APMに焦点を当てて解説していく。

■五輪における「ラストワンマイル」とは

東京2020大会では、開会式や閉会式、陸上競技などが行われる新国立競技場をはじめ、選手村など大半の施設が東京都内に位置している。もともと道路も公共交通も飽和状態の首都・東京が、国内外からの観客でいっそう溢れかえり、選手をはじめとする大会関係者の輸送にも困難をきたしかねない状況が懸念されている。

このため、警視庁などは本番に向け首都高速道路に交通規制をかける交通対策のテストを実施し、交通量の低減に向けた取り組みに力を入れているところだ。

東京全体における交通のパンクが懸念されているが、特に問題となるのが各競技会場周辺から最寄り駅までのルートだ。東京2020大会ではこの部分がラストワンマイルとなる。


通勤や通学など日常的な駅利用者に加え、道に不案内な観客がどっと押し寄せることになり、観客目線における円滑な移動サービスの提供が求められる。

会場は東京都内だけで約30カ所設定されており、それぞれで案内の役割を果たすガイドやサイン、安全対策、そして誰もがスムーズに移動できる方法を準備しておかなければならない。

東京都のオリンピック・パラリンピック準備局も、「競技会場周辺の駅から競技会場入口(入場者のチケット等の確認を行うソフトチェックポイント)までの、観客が歩行するルート」を「ラストマイル(ラストワンマイル)」と定義し、必要な措置について検討を重ねているようだ。

■APMの仕様は?

オリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーを務めるトヨタが、東京2020大会をサポートする専用モビリティとして開発したのが「APM(Accessible People Mover)」だ。


トヨタは大会を通じ、すべての人に移動の自由(Mobility for All)を提供することにチャレンジしており、このコンセプトを最大限APMに織り込み、大会関係者や選手のほか、高齢者、身体の不自由な人、妊娠中や乳幼児連れなどアクセシビリティに配慮が必要なさまざまな来場者に対し、ラストワンマイルのソリューションを提供することで、より多くの人が快適に競技会場に足を運べるよう支援することとしている。

一部車両は、夏季大会における会場内の救護活動にも利用予定で、大会期間中は約200台のAPMが競技会場や選手村など、さまざまな大会施設内で来場者や大会関係者の移動をサポートする。

APMはEV(電気自動車)仕様で、航続距離100キロメートル、最高時速19キロメートルの低速型車両だ。全長約3.9×全幅約1.6×全高約2.0メートルの3列シート仕様で、1列目が運転席、2列目が3人掛け、3列目が2人掛けの計6人定員となる。

運転席のシートポジションを高く、またセンターに設けることで、運転手が乗客を見渡し、乗り降りをサポートしやすい安全性に配慮した設計としたほか、乗客席は、両側からのアクセスが可能で両サイドには乗り降り補助バーも設置されている。車いす用のスロープや車いす固定用のベルトも搭載している。

救護仕様として、2列目、3列目の半面にストレッチャーをそのまま搭載でき、救護スタッフ2人分の座席も確保したモデルも用意する。

■トヨタのオリンピックでの他の取り組み

東京2020大会においてトヨタは①すべての人に移動の自由を(Mobility for All)②水素社会の実現を核としたサステナビリティ(環境・安全)③トヨタ生産方式(TPS)を活用した大会関係者輸送支援――の3つをテーマに、従来の車両供給の枠を超えたモビリティソリューションの提供を目指し取り組むこととしている。

各種ロボットをはじめ、搭載したAI(人工知能)により人を理解する技術を備えた「TOYOTA Concept-愛i」や、MaaS専用次世代EV「e-Palette Concept」といったコンセプトモデルもデモンストレーションや移動支援などで活用する予定だ。

このほか、東京の臨海副都心地区、羽田地区の特定エリアにおいて、自動運転レベル4相当の実証実験やデモンストレーションを行い、誰もが自由に移動できる未来を提示することとしている。

【参考】臨海副都心などにおける実証実験については「自工会、東京五輪直前にトヨタ自動車など10社参加の自動運転実証 レベル2〜レベル4相当」も参照。

■【まとめ】東京2020大会契機に交通・移動サービスが変貌

かつての東京オリンピック(1964年開催)では、交通インフラが大きく進化・変貌を遂げた。それから半世紀が過ぎ、交通がある程度成熟した東京2020大会では、交通・移動サービスの質の変貌に注目だ。ラストワンマイルを担うAPMをはじめとするユニバーサルデザインの車両が増えたように、誰もが自由に移動できる環境づくりが進んでいる。

今後は、各交通機関がどのように連携しサービスの利便性を高めていくか、といったMaaSの観点が大きく浮上してくることになるだろう。

東京2020大会はさすがに大舞台過ぎるためか、大々的なMaaSの実用実証などは今のところ計画されていないようだが、APMやe-Paletteといった各モビリティの実証やビッグデータの収集などは行われるものと思われる。

東京2020大会に向けたモビリティ業界の取り組みは、今後も続々発表されるはずだ。この大会を契機に交通・移動サービスがどのように変わっていくのか、今から注目だ。


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