空飛ぶタクシーとは? 3つのタイプや世界の開発企業を紹介

実用化は2020年代前半が目途?

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アウディがエアバスなどと開発する「空飛ぶタクシー」=出典:アウディプレスリリース

自動運転技術やドローン技術の進展により、現実味を増してきた「空飛ぶクルマ」。未来を描いた一昔前のアニメやSF映画のように、個人の移動手段が陸主体から空主体に代わるのはもはや空想の話ではない。

実用化に際しては、大半が個人や数人単位の手軽な移動・輸送を目的としており、自動運転における実用化と同様、まずタクシーとしての利活用を検討しているケースが多く、「空飛ぶタクシー」や「エアタクシー」、「フライトタクシー」などさまざまな呼称が飛び交っている。

今回はこの空飛ぶタクシーに着目し、各社の開発状況などをまとめてみた。

■空飛ぶタクシーの形態

「空飛ぶクルマ(空飛ぶタクシー)」と聞くと、大半の人がクルマをベースに車輪や翼・プロペラなどを備え、道路を走ることもできれば空を飛ぶこともできる空陸両用機をイメージするのではないかと思うが、現在のところ空飛ぶクルマに明確な定義はない。

一般的に「電動かつ自動で垂直に離着陸する移動手段(eVTOL:電動垂直離着陸機)」を指す場合やパイロット不在で運行可能なタイプが多いが、クルマをベースに格納式のプロペラを搭載したものや、ドローンなどの無人航空機(UAV)をベースにしたもの、既存の航空機をベースに手軽な個人利用を可能にしたものなどさまざまな形態があり、開発者が何かしらの要素をもって「空飛ぶクルマ」と主張すれば、それが「空飛ぶクルマ」のカテゴリーに入るのが現状だ。

多くのスタートアップらの参入により、さまざまな技術や発想に基づいた多種多様な機体が開発されているため年々ジャンル分けが困難になっているが、大まかに3タイプに分けて説明する。

ドローン改良タイプ:最も開発が盛んなタイプ

ドローンを大型化して人を搭乗可能にしたタイプ。既存のドローン技術を応用できるため、このタイプを開発している企業は多い。電動で遠隔操作や移動制御、またはジョイスティックなどで簡単に操作ができるものが多い。ヘリコプターに近いものも、技術的にはこのタイプに含まれる。

タイヤを備えて陸路の走行を可能にしたモデル開発なども進められているが、軽量化を図る上でネックとなるため、空中移動を主としているモデルが多数を占めている。

空陸両用のクルマタイプ:地上走行と飛行を切り替えスムーズな移動を確保

通常は自動車として地上を走行しているが、格納型のプロペラや翼などを備え、空を飛ぶこともできるタイプ。自動車メーカーが関わる空飛ぶクルマ開発に多い。

アウディが2018年11月に発表したプロトタイプは、車体部分となるモジュールと人が搭乗するモジュール、空を飛ぶためのモジュールの3つに分けられ、搭乗モジュールをどちらかと連結させることで走行・飛行を可能にしている。このような分離連結型も開発が進められているようだ。

軽飛行機型:電動エンジン搭載、ハイブリッド的なモデルも

プロペラを備えず、電動エンジンなどを動力に垂直離陸を可能とするタイプ。一見すると小型の軽飛行機のようなタイプが多いが、エンジンの向きを可変することでホバリングなどを可能にしている。

また、翼を格納して地上を走行可能なモデルや、電動エンジンに加えプロペラを備えたハイブリッド的なモデルなども開発されているようだ。

■空飛ぶタクシーの開発企業
Uber(米):ウーバー社が目指す空飛ぶタクシー、2023年にも実用化へ

空飛ぶタクシー分野における急先鋒が、ライドシェア大手の米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)だ。同社は2017年に米航空宇宙局(NASA)と提携を結んだほか、米スタートアップKarem Aircraft社など協業を拡大し、2020年の試験飛行と2023年の商用運行のスタートを目指すこととしている。

2018年5月にロサンゼルスで開催した「Elevate Summit」では、最新のコンセプト機を発表。電動の4基のローターで垂直離陸が可能で、高度約300~600メートルまで浮上でき、巡航速度は最高時速322キロメートルに達するという。

最大4人の乗客が乗れるように設計されており、都心のさまざまな拠点にスカイポートを設置することでタクシーとしての活用を実現させていく構えだ。

また、試験飛行を行う最初の都市を国際的に公募することも発表しており、予定済みのダラスとロサンゼルスのほか、一部メディアの報道によると、日本も候補の一つに入っているという。

ボーイング(米):無人試験飛行実施、貨物輸送向けなども開発中

航空機世界大手の米ボーイング社も空飛ぶタクシーの開発を進めており、自動運転技術や遠隔操舵技術などを搭載した無人試験飛行を成功させたことを2019年1月24日までに発表している。

同社は2017年、無人航空開発を手掛ける米オーロラフライトサイエンス社を買収するなど空飛ぶクルマ・タクシーの開発に力を入れており、2018年1月には200キログラム超の荷物を運ぶことができる貨物ドローンの試作機なども発表している。

空飛ぶタクシーの試作機は、全長約9.1メートルで幅約8.5メートルで、飛行機のようなドローンのような形状をしたタイプ。今回のフライトは垂直離着陸の試験が主で、今後、水平移動技術や動力性能などを高め、2023年を目途に実現を目指す構えだ。

【参考】ボーイング社の取り組みについては「米ボーイング、「空飛ぶタクシー」の試験飛行に成功 自動運転技術を搭載」も参照。

Bell Helicopter(米):ヘリコプター大手も空飛ぶタクシーに参戦

ヘリコプター大手の米Bell Helicopter(ベルヘリコプター)は、ラスベガスで2019年1月に開催されたCES2019でeVTOLタイプの航空タクシー「Bell Nexus」を発表した。

最大5人が搭乗可能なビッグサイズで、可動式の6つのローターで垂直離陸や移動を可能にする仕組みだ。オスプレイの開発ノウハウなどが生かされているという。2023年までに飛行試験を開始することとしている。

Kitty Hawk(米):ニュージーランドで飛行試験実施

米カリフォルニア州に本社を構えるスタートアップのKitty Hawk(キティホーク)は2018年3月、空飛ぶタクシー「Cora」の試験飛行をニュージーランドで開始したことを発表している。

Coraは2人乗りで、翼幅約11メートルの翼に計12個の独立型ローターを備える、翼を広げたドローンのような形状をしている。航続距離は約100キロメートルで、速度は時速180キロメートルを出すことができ、地上約150メートルから約900メートルの間で動作するという。

ニュージーランド政府の協力のほか、ニュージーランド航空と航空タクシーサービス提供に向けた提携を交わしており、航空規制の状況を見守りながら開発・設計をさらに進めていく構えだ。実現時期は明らかにしていない。

なお、同社にはグーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏も出資しているようだ。

Joby Aviation(米):トヨタやインテルが出資、eVTOL開発スタートアップ

米カリフォルニア州を拠点とするスタートアップのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)は、NASAとの共同研究などを経てeVTOLの試作品を製造し、飛行試験も行っている。

2018年には、資金調達Bラウンドでトヨタ自動車系列のベンチャーキャピタルファンド「Toyota AI Ventures」や米インテルなどから総額1億ドル(約110億円)を調達したことが発表されているほか、2017年には米軍からも出資を受けているという。同社は、これらの資金をもとに試作機の検証などを進めている。

アウディ(独):3つのモジュールが分離・結合するフライングタクシー公開

独自動車メーカーのアウディは、独政府や航空機メーカーの仏エアバス、自動車デザイン会社の伊イタルデザインなどとともにフライングタクシーの実現を目指す「アーバン・エアモビリティ・プロジェクト」を立ち上げている。

2018年11月には、プロトタイプとなる「Pop.Up Next(ポップ・アップ・ネクスト)」を初公開し、飛行デモや走行デモを行った。自動運転機能を備えたEV(グラウンドモジュール)と利用者が乗り込むパッセンジャーカプセル、フライトモジュールを組み合わせた仕様で、パッセンジャーカプセルをグラウンドモジュールに乗せれば自動運転車として、またパッセンジャーカプセルをフライトモジュールに連結すればフライングタクシーとなる画期的なモデルとなっている。

今回のプロトタイプは実際の4分の1スケールだが、アウディは次のステップとして「実物大のプロトタイプを飛行・走行させる」としており、早ければ10年以内にフライングタクシーのサービスを提供する構えだ。

Volocopter(独):2020年代前半に商用化目指す

ドイツに本拠を構えるスタートアップのVolocopter(ボロコプター)は、2017年にドバイで飛行試験を実施するなど開発する空飛ぶタクシーの完成度は高く、2020年代前半の商用機製造・販売を目指す構えだ。

開発を進めるのは2人が乗車可能な有人マルチロータードローンで、ヘリコプターのような形状をしている。

同社は独ダイムラーや米インテルなどから支援を受けており、2018年には大型の資金調達計画の話なども流れている。

Lilium(独):テンセント出資、プロペラ不要のVTOL開発

空飛ぶタクシー開発に向け2015年に設立された独スタートアップのLilium(リリウム)は、プロペラを備えず電気ジェットエンジンで垂直離陸を可能としたVTOLの開発を進めている。滑走路を使った離陸も可能という。

2017年には、資金調達Bラウンドで中国テンセントなどから総額9000万ドル(約100億円)を調達。さらに仏航空大手のエアバスや独アウディの幹部を招き入れるなど、開発スピードを上げていく構えだ。2019年に有人飛行試験の開始を予定しているという。

Vertical Aerospace(英):2022年までにサービス開始へ、エンジニア大量引き抜き

空飛ぶタクシーの開発を進める英国のスタートアップ企業Vertical Aerospace(バーティカル・エアロスペース)は、2022年までにサービスを開始することとしている。

2016年創業の同社は、ボーイングやエアバスなど大手航空会社からベテラン航空エンジニアを引き抜いて開発を進めており、すでに英国内で試験飛行も実施し、約800キロの飛行に成功している。

無人運航機を開発しているが、航空規制に合わせるため、2022年のサービス提供時にはパイロットを同行させる有人飛行とさせる考えのようだ。

【参考】バーティカル・エアロスペースの取り組みについては「空飛ぶタクシー、2022年にサービス提供開始 イギリスのバーティカル・エアロスペース社」も参照。

AirX(日本):空中版MaaS? 空の移動サービス開発へ

Maas(Mobility as a Service)の概念が早くも空にも及び始めた。ヘリコプター遊覧やチャーターなど航空サービスを展開するAirX(エアーエックス)と近鉄グループの旅行業を統括するKNT-CTホールディングスは2019年1月、空飛ぶタクシーをはじめとするエアモビリティ市場の構築を目指し業務提携することで合意したと発表している。

直接機体を開発するわけではないが、次世代のモビリティ市場を見越しいち早く空の移動サービスの開発を進めていく構えだ。

ダッソー・システムズ(仏):開発作業を高効率・迅速化するソリューション提供

空のMaaSに着手した企業もあれば、空のプラットフォーマーを目指す動きなどもあるようだ。ソフトウェア開発大手の仏ダッソー・システムズは、航空モビリティの構想から試作に至る一連のプロセスをカバーする製造業向け開発ソリューション「リインベント・ザ・スカイ」の提供を2018年7月に発表している。

スタートアップ企業や航空モビリティ分野に新規参入する企業、小規模OEM開発企業などを念頭に据え、業界標準に基づいたセキュアな単一環境から、デジタル設計やシミュレーションなどの各アプリケーションに、クラウドベースでスケーラブルにアクセスできるソリューションで、軽飛行機やUAVの試作機の開発時間を50%短縮することが可能という。

■空飛ぶタクシーの実現時期

現在は開発各社が飛行試験を進めており、航続距離や有人飛行など徐々にテストの中身を濃いものにしている段階だ。目途として、2023~2025年の実用化・商用化を掲げる企業が多い。

ただ、自動運転車と同様、実現には法改正や新たなルールづくりが必要となるため、世界各地で本格的にサービスが実現されるにはまだ時間がかかりそうだ。もちろん、自動運転レベル4のように、限定された領域・条件下で飛行が許可される可能性は高く、実用化第一号がどのメーカーでどこの国なのか……といった点などは注目の的になるだろう。

空飛ぶクルマや空飛ぶタクシーに関する調査を実施した株式会社AQU先端テクノロジー総研は、「2020年の東京五輪、2024年のパリ五輪、2028年のロサンゼルス五輪という世界的なイベントとともに、段階的に拡大成長してゆく」とする見解を発表している。

日本で空飛ぶクルマの開発を手掛ける「CARTIVATOR(カーティベーター)」も、独自目標として2020年の東京オリンピック開会式における聖火点灯デモを掲げている。こういった大きな舞台でのデモンストレーションの効果は限りなく大きく、また官民ともに大舞台を目指して実用化を図る動きも確かに多そうだ。

また、実証的な意味合いも込め、物流分野で先行する可能性も高い。積載量として人間が搭乗できるレベルの技術を確立できれば、格段に実証が進むものと思われる。

■2020年代前半に実用化なるか、五輪舞台での活躍にも注目

さまざまなタイプが開発されているが、一番の関心事はやはり実現時期だろう。多くの開発企業が2023~2025年を目途としているが、その間の2024年にフランス・パリでオリンピック・パラリンピックが開かれる。

フランス政府が、五輪の「目玉」として空飛ぶタクシーの実現を目指す可能性は決して低いものではない。また、それより先に実現する企業・国が現れる可能性も十分考えられる。

限定条件下における先行サービスなど試験的な導入が当然先になるが、意外と早い時期に実用化され、自動運転レベル4(高度運転自動化)の自動車で陸地を走行し、空飛ぶタクシーに乗り換えて空中を移動……など、さまざまな想像を掻き立てられる。モビリティの変革はすぐそこまで近づいているのだ。

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