人の移動を担う自動運転車に負けじと、モノの移動を担う配送・宅配ロボットの取り組みも熱を帯び始めたようだ。
この1年の取り組みを中心にピックアップし、開発企業の動向とともに2021年の展望に触れていこう。
記事の目次
- ■ZMP:国内宅配ロボットのパイオニア 商用プログラムもスタート
- ■パナソニック:小型低速ロボット開発 藤沢市で実証
- ■ティアフォー:小型自動搬送ロボット開発
- ■QBIT Robotics:異種ロボット連携による館内配送サービス実証へ
- ■ソフトバンク×佐川急便:ロボット開発や社会実装に向け実証スタート
- ■ヤマトホールディングス:陸と空の両面でラストマイルを無人化
- ■日本郵便:国内初の公道配送実証を実施
- ■楽天:ロボット配送プロジェクト進行中
- ■エニキャリ:デリバリーインフラの構築に向けエネオスと共同研究に着手
- ■アイシン精機:パーソナルモビリティ「ILY-Ai」活用し実証
- ■京セラコミュニケーションシステム:ロボットシェアリング型配送サービスを実証
- ■TIS:ロボットシェアリング型配送サービスを実証
- ■【まとめ】2021年は宅配ロボットの存在が波及し、実証加速
■ZMP:国内宅配ロボットのパイオニア 商用プログラムもスタート
国内宅配ロボット開発のパイオニア・ZMPは、2017年に宅配ロボット「CarriRo Delivery(現DeliRo/デリロ)」の実証に着手して以来改良を重ね、大学キャンパスやオフィスビル内、韓国の住宅地など数々の実証を行ってきた。
2020年8月には、JR東日本が主催するTakanawa Gateway Fest内フード&クラフトマーケット芝生広場でデリバリーサービスの実証を行ったほか、9月には日本郵便による国内初の公道走行実証にデリロを提供している。
デリロは約96×66×109センチのボックス型の車体に最大8個のロッカーを搭載した宅配ロボットで、最大50キロまで積載可能。最高時速は6キロで、満充電で約12時間走行できる。ユーザー用・店舗用のアプリなどもパッケージ化されており、実用域に達している。
マップ作成やルート設定、現地チューニング、実証実験をセットにした商用プログラムも2020年5月にスタートしており、国産宅配ロボットでは大きくリードしている印象だ。
機運に乗り、2016年に一度取り消した東京証券取引所への新規上場に向けた取り組みなども再燃するか、こちらも注目だ。
【参考】デリロについては「宅配、1人乗り、警備…自動運転技術でZMPが「三兄弟」発表」も参照。
■パナソニック:小型低速ロボット開発 藤沢市で実証
パナソニックは国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に参画し、遠隔・非対面・非接触を実現するための自動走行ロボットの技術開発に本格着手した。神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウンで自動配送サービスの技術開発や異業種パートナー企業と連携したサービス実証に取り組んでいる。
自社開発したロボットの詳細は明かされていないが、歩道を走行可能な小型低速タイプで、管制センターとロボットをインターネット網で接続し、管制センターのオペレーターがロボット周囲の状況を常時監視する。ロボットは障害物を回避しながら自律して走行し、自動回避が困難な状況では管制センターから遠隔操作に切り換え走行するという。
藤沢市の実証は2021年3月までを予定しており、フェーズ1で公道走行時の技術検証や課題を抽出し、フェーズ2では新たな配送サービス体験に対する受容性を検証する。
【参考】パナソニックの取り組みについては「パナソニック、住宅街で自動運転配送の実証実験!小型・低速型ロボットで」も参照。
■ティアフォー:小型自動搬送ロボット開発
自動運転開発を手掛けるティアフォーは2020年12月、遠隔監視・操縦機能を搭載した小型自動搬送ロボット「Logiee S1(ロージー・エスワン)」の開発を発表した。
Logiee S1は屋内・屋外ともに走行可能な小型タイプで、車両上部に脱着可能なモジュールを装着してモノを運ぶ。自動運転機能と各種サービス機能がモジュールとして分離されていることが特徴で、自動運転機能は共通のベースモジュールとして提供し、各種サービス機能モジュールはパートナーのニーズに合わせて作製することが可能だ。
すでに岡山県玉野市で国内初となる遠隔監視・操作による小型自動搬送ロボットを活用した公道での実証実験に着手しており、今後全国各地で行われる実証への提供を進めていくという。
玉野市での実証にはAIルート最適化サービスなどを手掛けるオプティマインドもルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」を提供するなど、新たな取り組みが本格化しているようだ。
■QBIT Robotics:異種ロボット連携による館内配送サービス実証へ
ロボティクス事業を手掛けるQBITもNEDOの事業採択を受け、大規模オフィスビル向けの異種ロボット連携による館内配送サービスの実現に取り組んでいる。
多数台のさまざまな種類の低価格自動走行ロボットと協働ロボットアームを連携させたシステムを開発し、大規模オフィスビルで実証実験を行う方針だ。
具体的には、各種宅配業者が行き交う荷受場から、画像コードで指定されたオフィスや店舗内へ配送する一連の流れにおいて、複数種のロボットを活用する。
現時点でのイメージとしては、荷物の状況から協働ロボットアームが利用可能なロボットを呼び出して荷物を積み込む。積込み後、ロボットが指定された配達先に移動・通知する。配送後は適切な場所に移動して待機する。
ロボットのみによる配送や、人とロボットの協働作業による配送など各種データを取得し、ロボット活用による人的リソース削減や、人的接触低減による感染リスク低減の可能性について検証を進めていく。
実証は森トラストが管理するビルで2021年9月まで行う予定。
■ソフトバンク×佐川急便:ロボット開発や社会実装に向け実証スタート
ソフトバンクと佐川急便は、NEDOの事業採択を受け、東京都の竹柴エリアで実証を進めている。実証には、東急不動産やアスクル、MagicalMoveが協力し、屋外と屋内の2つの配送シナリオに沿って技術面やサービス実用性についての検証・評価を行う。屋外では、自動運転ロボットと信号機の連携システムを開発し、ロボットが信号機の表示に従って交差点を横断し、公道を走行しながら荷物を配送する実証を行う。
一方、屋内ではソフトバンクの新本社となるオフィスビル「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」でロボットと館内エレベーターの連携システムを導入し、ロボットがエレベーターに乗降して各フロアへ荷物を配送する実証実験を行う。
ソフトバンクはロボットの開発や信号機との連携システムの開発、配送プラットフォームの環境構築などを手掛け、佐川はロボットの屋外配送の有効性や配送プラットフォームの有効性などについて検証する。
また、ソフトバンク系列で宅配サービス事業「Scatch!(スキャッチ)」を手掛けるMagicalMoveは、自動走行ロボットと連携可能な新たな配送管理サービス「Scalle(スケール)」の提供を開始した。宅配ロボットに必要な基本機能を備えており、ロボットの実用化に向けた実証実験などの取り組みをスムーズに実施できるという。
これまで人型ロボット「Pepper」や清掃ロボット「Whiz」などを実用化してきたソフトバンクグループがこの分野に本格進出する格好となり、今後の動向に要注目だ。
■ヤマトホールディングス:陸と空の両面でラストマイルを無人化
ロボネコヤマトの取り組みからしばらく音沙汰がなかったヤマトホールディングスは2020年12月、配送ロボットの開発を手掛ける中国スタートアップのYours Technologiesに出資することを発表した。同社と技術交流を図り、国内における自動配送ロボットへの活用に向け検討を進めていく方針だ。
Yoursは2018年創業と日は浅いが、同社のロボットはすでに北京のショッピングモールや歩行者天国なで50カ所以上で導入契約を結んでおり、技術力には定評があるようだ。
ヤマトは空の輸送にも力を入れており、2018年に米テキストロン傘下のベルヘリコプターとeVTOL(電動垂直離着陸機)を活用した将来の新たな空の輸送モードの構築に向けた協力を行っていくことで合意したと発表している。
また、2020年12月には、物流eVTOLへの装着や地上輸送手段への搭載の両方が可能な大型貨物ユニット「PUPA(ピューパ)8801」の空力形状を宇宙航空研究開発機構(JAXA)と開発したことも発表している。
エアモビリティや宅配ロボットを活用し、陸と空の両分野で次世代ラストマイル配送の実現を目指していく構えのようだ。
【参考】ヤマトの取り組みについては「ヤマトCVC、中国Yoursへ出資!自動運転配送ロボットを開発、すでに多数の導入契約」も参照。
■日本郵便:国内初の公道配送実証を実施
日本郵便は2017年以来配送ロボット実用化に向けた可能性を検証するため実証を行っている。2020年3月には、ロボットとエレベーターの連携を核に始点から終点まで自律した配送を行うことを目的に大手町本社ビルで社内便配送の実証を行った。
同年9月には、ZMPのデリロを使用し、国内初の公道(歩道)における輸配送実証実験を行うことを発表した。実証は東京の麹町郵便局周辺で実施され、10月末には加藤勝信官房長官も視察に訪れたようだ。
NEDOの事業採択も受けており、今後関東近郊でセキュリティマンション向けに複数台のロボットによるラストワンマイル配送サービスの実証も行われる予定となっている。
■楽天:ロボット配送プロジェクト進行中
国内EC最大手の楽天も、宅配ロボット実用化に向けた取り組みを加速している。2020年8月から約2カ月間にわたり、ロボット配送プロジェクト第3弾となる取り組みを東急リゾーツ&ステイ「グラマラスダイニング蓼科」で実施したほか、12月には、第2弾の舞台となった神奈川県横須賀市で、自動配送ロボットによる商品配送サービスの実現に向けた公道走行実証実験を開始している。
横須賀市では、馬堀海岸地域の住宅地において、同地域から約5キロ離れた場所から自動配送ロボットを遠隔監視し、公道を安全に自動走行できることを実証する。商品は西友の協力のもと、近隣住民の注文に応じて宅配する。
【参考】楽天の取り組みについては「楽天・三木谷氏が狙う「超ドル箱ビジネス」!自動運転ロボ配送、実証実験次々」も参照。
■エニキャリ:デリバリーインフラの構築に向けエネオスと共同研究に着手
小売業を対象としたクイックデリバリーサービスを手掛けるエニキャリは2020年12月、ENEOSホールディングスと無人宅配ロボットを活用したデリバリーインフラ構築に向け共同研究契約を締結したと発表した。
さまざまな店舗の商品配達を可能にする新たなデリバリーインフラの構築を目指す方針で、2021年2月には東京都中央区佃・月島エリアのサービスステーション周辺で実証を行う。ZMPのデリロを活用したデリバリーの仕組みを協同で構築し、本事業の技術的実現性・ビジネス成立性等を検証していく。
■アイシン精機:パーソナルモビリティ「ILY-Ai」活用し実証
アイシン精機もNEDOの事業採択を受け、大型商業施設向け店舗から駐車場への商品自動配送サービスの実現に向けた取り組みを進める。
実証では、自社開発したパーソナルモビリティ「ILY-Ai(アイリーエーアイ)」を活用し、2020年9月から1年間にわたり、トヨタオートモールクリエイトが運営するショッピングセンター「カラフルタウン岐阜」の施設内や駐車場で、自律走行を可能にしたILY-Aiを用いて食品などの商品の配送を行い、技術の向上や事業性の確認を進めていく。
ILY-Aiは、ビークル、スクーター、カート、キャリーの4つの形に変化し、多用な用途に対応するパーソナルモビリティとして開発が進められてきた3輪タイプのパーソナルモビリティだ。これまで自動運転機能は搭載されていなかったものと思われるが、同事業を機に新たな展開が生まれそうだ。
■京セラコミュニケーションシステム:ロボットシェアリング型配送サービスを実証
京セラコミュニケーションシステムもNEDOの事業のもと、工業地域向けロボットシェアリング型配送サービスの実現に取り組んでいく。
小売店の商品や企業間で輸送する貨物などを、無人自動配送ロボットによる地域内シェアリング型サービスで配送する実証を2021年5月から北海道石狩市の石狩湾新港地域の公道で行う。
実証に向け、ヤマト運輸やセコマ、エンパイアーなどと実証研究会を発足し、多様な配送ニーズに応えられるサービス仕様の検討や社会実装に向けた課題の分析などを進めているようだ。
■TIS:ロボットシェアリング型配送サービスを実証
総合ITサービス業のTISもNEDOの事業採択を受け、中山間地域の生活支援向けロボットシェアリング型配送サービスの実現に取り組んでいく。
福島県会津若松市で2021年春をめどに実証に着手する予定で、同社のロボット管理プラットフォームを利用し、メーカーと協力して自動配送ロボットが公道を走行してラストワンマイル配送を行うほか、配送物や収穫物の集荷など地域住民の生活支援サービスの実現に向けた取り組みを進める。
■【まとめ】2021年は宅配ロボットの存在が波及し、実証加速
NEDOの事業などを中心に、宅配ロボットに関わる取り組みが急加速している印象だ。背景には、2020年5月に開催された未来投資会議で当時の安倍晋三首相が宅配ロボットサービスの早期実現に向け取り組みを加速するよう求めたことなどが考えられる。この発言を機に国も大きく動き出し、公道実証に必要な要件などを即座にまとめ公表した。
これまで、宅配ロボットの開発に本腰を入れる国内企業はごくわずかだったが、パナソニックやティアフォーなどが表舞台に躍り出た。実証を行う企業もこれまでは不動産系やEC系、宅配事業者が占めていたが、配送システム開発企業やプラットフォーマーなども登場し顔ぶれが多彩になってきた印象だ。
2021年は、こうした実証の結果が徐々に表れ、宅配ロボットの技術や存在が広く波及していく年になるものと思われる。ロボット開発や各地域の宅配事業者、関連サービス事業者など、新たなプレイヤーが参入し、実証がさらに加速する可能性が高い。
宅配ロボット実現に向けた2021年の取り組みにも要注目だ。
【参考】安倍前首相の発言については「首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)