近年、ロボット技術が物流や介護などさまざまな業種に波及し、人に代わって専門業務を担うべくあらゆる観点から開発が進められているが、ロボット技術に自動運転技術を付加した新たなロボットが警備業に押し寄せている。
屋内、屋外を問わず周辺の監視を行う警備ロボットは、国内でもこの1年間で新製品の開発や実証が急速に進められており、近い将来、空港や商業ビル、まちなかなど、至るところで警備ロボットを見かける機会が増えそうだ。
物流分野と同様人手不足が叫ばれている警備業の救世主となるかもしれない警備ロボットについて、現在の開発状況をまとめてみた。
記事の目次
- ■【ALSOK】REBORG-Z(リボーグゼット):屋内外問わず警備や施設案内も(日本)
- ■【セコム】セコムロボットX2:成田国際空港で導入 放置物やゴミ箱の点検も(日本)
- ■【セコム】セコムドローン:自立飛行するドローンタイプの警備ロボットも開発(日本)
- ■【SEQSENSE】SQ-2:国内スタートアップが開発 三菱地所本社で運用中(日本)
- ■【TIRIなど】Perseusbot:2020年実用化に向け駅構内で実証実験(日本)
- ■【Knightscope】「K」シリーズ:屋外用や屋内用などシリーズ化 広大な敷地をパトロールする新タイプの開発も(アメリカ)
- ■【SMPロボティクスシステムズ】「S」シリーズ:屋外仕様のオフロードタイプ 侵入者の一斉追跡機能も(アメリカ)
- ■【Cobalt Robot】AIがセキュリティプログラムを強化(アメリカ)
- ■【Showsec】Nimbo:乗車可能なセグウェイタイプの警備ロボット(イギリス)
- ■【京東(JD)】スマートパトロールロボット:グループ総出でロボット化推進(中国)
- ■【中国国防科学技術大学】AnBot:警察直通の連絡が可能 中国の空港で運用(中国)
- ■【まとめ】検出能力の一部は人間をしのぐ 警備ロボットの進化に期待
■【ALSOK】REBORG-Z(リボーグゼット):屋内外問わず警備や施設案内も(日本)
綜合警備保障(ALSOK)が2019年3月に発表した警備員協働型警備ロボット「REBORG-Z」は、30年以上にわたり研究開発を進めてきた自律移動型ロボット技術を活用したもので、高度化した犯罪への対応と常駐警備の効率化を実現する。
これまでに開発してきたロボットと比べ防水・防塵性の向上や外国語対応、火災検知・初期消火機能など、「移動性能」「コミュニケーション・案内機能」「警備機能」をそれぞれ強化しており、ロボットにできる仕事やロボットの方が得意な仕事をREBORG-Zに任せ、人間はより知的な業務に専念できるという。
ショッピングモールや空港、オフィス、工場など施設の特性に応じたカスタマイズが可能で、屋外でも巡回走行することができる。各種センサーにより、不審者や特定人物の早期発見ができる。警戒ラインを越えた際に警告を発したり、威嚇灯を点灯させることなども可能だ。
顔認証機能や異常音検知、ガス検知、火災検知機能のほか、タッチパネルを活用してさまざまな情報を多言語表示し、音声での案内が可能な施設案内機能なども備えている。
サイズは高さ約150×幅70×奥行き70センチで、重量は180キロ。最高時速4.6キロで、フル充電で連続4時間の走行が可能。
【参考】REBORG-Zについては「ALSOK、最高時速4.6キロの自律走行警備ロボット「REBORG-Z」を開発 自動運転で省人化」も参照。
■【セコム】セコムロボットX2:成田国際空港で導入 放置物やゴミ箱の点検も(日本)
セコムは2019年5月、自律走行型巡回監視ロボット「セコムロボットX2」のサービス提供を6月から開始すると発表した。第1号の契約先として、成田国際空港で導入されている。
セコムロボットX2は、2005年に販売開始した「セコムロボットX」の機能を進化させた巡回監視用ロボットで、レーザーセンサーにより自己位置を特定しながら敷地内の巡回ルートを自律走行し、搭載したカメラによりさまざまな場所で画像監視を行う。
巡回後は定められた監視ポイントで停止し、周囲の監視を行うほか、ロボット上部に搭載された赤外線センサーや熱画像センサー、金属探知機を内蔵したアームによって、巡回中に発見した放置物やルート上に置かれたゴミ箱などを点検することもできる。
サイズは高さ約123×幅84×奥行き112センチで、重量は約230キロ。最大時速10キロで、約12キロメートルの移動が可能という。
【参考】セコムロボットX2については「空港初!成田に自動運転の警備ロボット導入 セコムが開発」も参照。
■【セコム】セコムドローン:自立飛行するドローンタイプの警備ロボットも開発(日本)
セコムは、ドローンを活用した警備システムの開発も進めている。画像技術やセンシング技術、防犯・飛行ロボット技術を駆使した自律型飛行監視ロボット「セコムドローン」のサービス提供を2015年に発表しており、2018年3月には、山口県美祢市にあるPFI刑務所「美祢社会復帰促進センター」で運用を開始している。
同年11月には、KDDI、テラドローンとともにLTEで通信する「スマートドローン」の実証実験も行っており、通信方式などの技術確立を進めているようだ。
■【SEQSENSE】SQ-2:国内スタートアップが開発 三菱地所本社で運用中(日本)
自律移動型ロボットの開発を手掛ける2016年設立の国内スタートアップSEQSENSE(シークセンス)が開発した自律移動型のセキュリティロボット。自己位置特定と3Dマップを作成するLiDAR(ライダー)や360度カメラ、高解像度カメラ、サーモセンサーなどを搭載しており、画像認識技術やセンサー技術など高度なテクノロジーを駆使して警備タスクを行う。
施設利⽤者がロボットの上部に設置されたセンサーに⼿をかざすと、警備拠点の警備員との対話も可能という。
2019年8月からは、同社とともに導⼊に向け検証を重ねてきた三菱地所が、本社が⼊居する⼤⼿町パークビルディングで運用を行っている。
全長約130センチで、重量は65キロ。フル充電で最大10時間稼働可能という。
■【TIRIなど】Perseusbot:2020年実用化に向け駅構内で実証実験(日本)
Perseusbot(ペルセウスボット)は、東京都立産業技術研究センター(TIRI)とアースアイズ、日本ユニシス、西武鉄道が、駅構内の安全性向上・駅係員の業務負荷軽減の実現を目的に共同開発した警備ロボット。西武鉄道の西武新宿駅構内において、2018年11月から実証実験が行われている。
東京都立産業技術研究センターが開発中の自律移動型案内ロボット「Libra(リブラ)」と、屋外用大型ロボットベース「Taurus(トーラス)」を組み合わせ、自律移動可能でAI監視カメラを搭載した警備ロボットを開発した。
実証実験では、駅構内でのロボットによる巡回警備を通して、踏破力の確認や不審者、不審物検知の精度などを検証し、駅係員や警備員の負荷軽減度合いを確認する。この結果をもとに、2020年の実用化を目指す構えだ。
■【Knightscope】「K」シリーズ:屋外用や屋内用などシリーズ化 広大な敷地をパトロールする新タイプの開発も(アメリカ)
2013年設立の米スタートアップKnightscope(ナイトスコープ)社は、屋外用のK5をはじめ屋内用のK3、据え置き型のK1と製品をシリーズ化している。4輪自動車タイプで農場などの非常に広大な敷地をパトロール可能なK7も現在開発を進めている。
K5は高さ150センチほどの丸みを帯びた円錐型で、重量は約180キロ。時速4.8キロの自動走行が可能だ。カメラを通じてリモート監視できるほか、熱異常検知やナンバープレートの自動認識などさまざまな機能を搭載している。
米国内のさまざまな施設で実用化が進んでおり、多種多様な場面における経験値も積み重ねている。これまでに、噴水に飛び込んで溺死(故障)した個体や、 ロボットに暴力をふるってきた酔っぱらいを警察に通報し逮捕に至った例など、さまざまな武勇伝が語られているようだ。
■【SMPロボティクスシステムズ】「S」シリーズ:屋外仕様のオフロードタイプ 侵入者の一斉追跡機能も(アメリカ)
米国で自律走行型車両ロボットの製造を手掛けるSMPロボティクスシステムズは、警備ロボット「S」シリーズを展開している。国内では、アルテック株式会社が販売代理店契約を締結し、2017年から取り扱っている。
Sシリーズは主に屋外向けの全天候型で、4輪のオフロードバイクのような形状をした自立走行モデル。あらかじめマッピングされたルートを巡回し、ビデオカメラによる周辺情報の記録をはじめ、工場や倉庫、変電所などの巡回警備、鳥害対策、害虫駆除、ガス漏れ・放射性物質の検知など、さまざまな用途に対応したモデルが用意されている。
侵入者を検知すると、侵入者への最適経路に沿って追跡しながら目標の座標を他のロボットに送信し、侵入者に最も近いロボットの一群が侵入者を追跡する機能なども備えている。
サイズは、S5が高さ約160×奥行き137×幅80センチで、重量は約110キロ。最大速度は時速9キロで、最大走行距離は35キロとなっている。
■【Cobalt Robot】AIがセキュリティプログラムを強化(アメリカ)
2016年設立の米スタートアップCobalt Robotics社が開発した警備用ロボット。指定されたルートに沿って自動運転し、不審者や異常などを検知するとセキュリティチームに連絡を入れる。異常検出にはAI・機械学習技術が生かされており、検知すべき異常の種別や誤報情報などを分析し、既存のセキュリティプログラム強化していくようだ。
360度カメラをはじめサーマルカメラや超音波センサー、LiDAR(ライダー)、煙や一酸化炭素などを検知する環境センサー、深度カメラ、赤外線カメラなど各種センサーを搭載しており、障害物回避をはじめ、不審者の検知や事故発見など、さまざまなケースに対応できる。
サイズは高さが約155センチ、幅53センチの円錐型で、重量は約68キロ。最大時速は約10キロとなっている。
■【Showsec】Nimbo:乗車可能なセグウェイタイプの警備ロボット(イギリス)
英国のセキュリティ企業Showsec社が開発した、人が乗ることもできる警備ロボット。オーストラリアで製品化されているようだ。
セグウェイのような形状で、人が乗って移動することができるほか、自動走行によって自動巡回することもできる。AIが不審者や不審物を検知し、通報や警告などを行う。
高さ66×奥行き58×幅28センチで、重量23キロと非常に軽量だ。最大時速4.8キロで、乗車時は最大16キロ。フル充電で最大10時間稼働することができる。
■【京東(JD)】スマートパトロールロボット:グループ総出でロボット化推進(中国)
中国EC大手の京東集団も警備ロボットの開発・実用化に力を入れており、系列でファイナンス事業を手掛ける京東金融がスマートパトロールロボットの導入を発表している。
各種センサーやロボットアームを搭載しており、データセンターなどで警備員の務めを担うほか、深層学習のアルゴリズムなどを活用してエラー修正なども可能という。
また、京東集団は物流分野においてもスマート化を進めており、2017年に入庫や検品、梱包、出庫などの全行程をスマート化した「無人倉庫」を立ち上げたほか、2019年には「5Gスマート物流モデルセンター」の建設を発表している。
5Gスマート物流モデルセンターでは、5G技術を活用し、センター内の無人機械・無人車両による巡回検査と人的警備を融合するなど、さまざまな役割をロボットが担うことになりそうだ。
【参考】5Gスマート物流モデルセンターについては「京東グループ、中国初の「5Gスマート物流倉庫」建設 自動運転技術やAR眼鏡も導入」も参照。
■【中国国防科学技術大学】AnBot:警察直通の連絡が可能 中国の空港で運用(中国)
現在も利用されているかは不明だが、中国国防科学技術大学(National University of Defense Technology)が開発した警備ロボット「AnBot」が、2016年に深センの国際空港で稼働している。
高さ140センチほどの丸みを帯びた円錐形で、最高時速18キロの走行が可能という。自動走行するほか、警察直通の通報ボタンや、助けを呼ぶ声を検知して警察に通報する機能、さらには電気棒やテーザー銃(電極を飛ばすスタンガン)も搭載しており、カメラ画像をもとに警察官が遠隔操作できる仕組みのようだ。
このほか、観光客への対応もできるそうだが、近寄りがたい気もする。
■【まとめ】検出能力の一部は人間をしのぐ 警備ロボットの進化に期待
警備ロボットは、宅配ロボットなどに比べ走行区域が明確で低速走行も可能なため、自動運転技術としては実用化しやすいジャンルと言えるだろう。各社の警備ロボットが出揃い始めた今、警備能力を競うコンテストなどを実施しても面白いかもしれない。
現時点では、人間による柔軟で的確な警備能力をロボットに求めるのは困難だが、補佐的な役割のほか、各種センサーによるデジタル的な検出能力は人間をしのぐ部分も多い。
また、付加的な役割として観光案内や施設案内などさまざまな情報を扱うこともできるため、導入を期待するシーンも思いのほか多そうだ。
【参考】関連記事としては「【日本版】自動運転開発を手掛ける主要企業・会社総まとめ 自動車メーカーからベンチャー・スタートアップまで、LiDARやカメラ開発も」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)