実証実験などに登場する自動運転レベルの高度化に伴い、「ODD」という言葉を目にする機会が増えてきた。今後、このODDは各社が開発する自動運転システムの能力を評価するうえでも明確な指標となるため、しっかりと理解しておきたいところだ。
ODDとは何か。最新情報をもとに、具体例とともに定義・概要について解説していこう。
<記事の更新情報>
・2024年4月15日:セカンダリアクティビティについて追記
・2023年6月29日:ODDのパターンや関連記事について追記
・2019年8月5日:記事初稿を公開
記事の目次
■ODDとは?
ODDは「Operational Design Domain」の略で、「運行設計領域」を表す。設計上、各自動運転システムが作動する前提となる走行環境条件のことで、各自動運転システムによって条件は異なり、すべての条件を満たす際に自動運転システムが正常に作動する。
逆に、何らかの条件が欠けた場合は自動運転に支障をきたす恐れがあるため、安全な運行停止措置や手動運転への切り替えが求められる。
自動運転レベル3(条件付き運転自動化)以上の高度な自動運転システムは発展途上の技術であり、あらゆる道路環境や気象条件下において完全かつ安全な走行を行う技術水準には至っていない。このため、個々の自動運転システムの能力に応じたODDをあらかじめ設定し、走行環境や運用方法を制限することで、自動運転システムが引き起こす可能性がある事故などを未然に防止するのである。
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?」も参照。
ODDの例として、ホンダのレベル3技術「トラフィックジャムパイロット」を例に挙げると、以下のように規定されている。
- 高速自動車国道、都市高速道路及びそれに接続される又は接続される予定の自動車専用道路(一部区間を除く)
- 強い雨や降雪による悪天候、視界が著しく悪い濃霧又は日差しの強い日の逆光等により自動運行装置が周辺の車両や走路を認識できない状況でないこと
- 自車が走行中の車線が渋滞又は渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車及び後続車が自車線中心付近を走行していること
- 自車の速度が自動運行装置の作動開始前は時速約30キロ以下、作動開始後は時速約50キロ以下であること
- 高精度地図及び全球測位衛星システム(GNSS)による情報が正しく入手できていること
- 正しい姿勢でシートベルトを装着していること
- アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの運転操作をしていないこと
▼トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)
https://www.honda.co.jp/factbook/auto/LEGEND/202103/P07.pdf
【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転戦略」も参照。
また、ODDの範囲内において運転手・人間に許される行為・行動・動作のことを「セカンダリアクティビティ」と呼ぶ。例えば、テレビや映画鑑賞、食事、睡眠、会議、ゲームなどが許容されるかが明確化される。
【参考】関連記事としては「自動運転の「セカンダリアクティビティ」とは?」も参照。
■ODDにおける「条件」
道路条件
高速道路(自動車専用道路)と一般道の区別や車線数、車線や歩道の有無、自動運転車の専用道路など、走行する道路に関わる条件。
地理条件
都市部や山間部、仮想的に線引きした地理的境界線(ジオフェンス)内など、道路の状況だけではなく周辺の環境も含んだうえで設定する条件。ジオフェンスは、自動運転車を走行させる範囲を事前に定めることで、規制の緩和やマッピング、インフラの整備など、自動運転を行いやすい環境を構築することができる。
環境条件
天候や日照状況(昼・夜の区別)などがこれに当たる。豪雨時や降雪・積雪など、車載センサーの精度に影響を及ぼす可能性がある場合などに設定する。
その他の条件
速度制限や信号情報などのインフラ協調の有無、特定の経路のみに限定した運行、保安要員の乗車要否、連続運行時間などがこれに当たる。
■開発メーカーの義務
開発各社は、ODDを明確に設定して安全を確保するとともに、ODDの諸条件を満たさなくなった際に、システムの機能を維持・制限した状態でシステムの稼働を継続させるフォールバック(縮退運転)や、路肩などへ安全に車両を停止させるミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)、手動運転の切り替えなど、引き続き安全を担保する策も講じなければならない。
その過程において、システムの作動状況を的確に運転者らに知らせるヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)技術なども磨かれ、システム全体としての質が向上していくことになる。
【参考】関連記事としては「自動運転とフォールバック」も参照。
【参考】関連記事としては「自動運転における「ミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)」とは?」も参照。
■ODDの考え方や具体的な事例について
ODDに関しては、自動運転ベンチャーのティアフォーが2020年に公開した「Tier IV Safety Report 2020」における考え方も参考にしたい。
【参考】関連記事としては「【資料解説】ティアフォーが公開した自動運転のセーフティレポートとは」も参照。
ティアフォーは同レポートの中で、技術的難易度に応じてODDを類型化し、それぞれのパターンにおいて自動運転技術を導入する際、どのような技術やシステムが必要になるか、把握しやすくしている。
ちなみに「自動走行に係わる官民協議会」が公表した「地域移動サービスにおける自動運転導入に向けた走行環境条件の設定のパターン化参照モデル(2020年モデル)」の資料でも、自動運転事例とODDを組み合わせて説明がされているので、参考にしてほしい。
▼地域移動サービスにおける自動運転導入に向けた走行環境条件の設定のパターン化参照モデル(2020年モデル)|自動走行に係わる官民協議会
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/pdf/model.pdf
■【まとめ】レベル3~4実用化後はODDの差に注目
ひとえに「自動運転レベル3」「自動運転レベル4」といっても、システムによって自動運転能力には差があり、その差がODDに明確に表れることになる。レベル3、レベル4の試験導入や実用化が本格化した後、開発各社のODDに注目が集まり、自動運転システムの能力比較などが行われる可能性が高そうだ。
ともあれ、自動車専用道路限定、敷地内限定、一定の区域内限定、全車速対応……というように徐々に条件を広げていき、最終的には原則一切の条件・制約のない状態で自動運転が可能となる「自動運転レベル5」にたどり着くのだ。
■関連FAQ
「Operational Design Domain」の頭文字をつなげて「ODD」と略される。
日本語では「運行設計領域」という意味だ。自動運転システムがどのような条件下で作動可能かを示す。ここでいう条件とは、道路区間や気象状況、交通状況、自車の速度、運転者の状態、などのことを指す。
ホンダのトラフィックジャムパイロットのODDに関しては、道路区間については「高速自動車国道、都市高速道路及びそれに接続される又は接続される予定の自動車専用道路(一部区間を除く)」、交通状況としては「自車が走行中の車線が渋滞又は渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車及び後続車が自車線中心付近を走行していること」、自車の速度としては「自車の速度が自動運行装置の作動開始前は時速約30キロ以下、作動開始後は時速約50キロ以下であること」とされている。ほかにも気象状況や運転者の状態などでODDが設定されている。
自動運転レベルの最上位である「自動運転レベル5」になると、どこでもどんな状況下でも自動運転が可能になる。そのためODDによる制限を受けなくなると解される。
ODDに関わる仕組みの1つだ。自動運転システムが作動中にODDの条件を満たさなくなった場合、システムから人へと運転の主体が変わらなければならないが、何らかの理由で人が運転を引き継げない場合、システム側が路肩に安全に車両を停止させるといった仕組みが必要となる。その仕組みが「ミニマル・リスク・マヌーバー」(MRM)だ。
(初稿公開日:2019年8月5日/最終更新日:2024年4月15日)
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)