アメリカにおける「自動運転×配達」の実証実験・テストまとめ

スーパーやデリバリー中心に実証加速

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出典:ウォルマートプレスリリース

自動運転技術の商業的実用化において、タクシーとともに注目が集まる宅配事業。小型・大型タイプなどの開発と実証が日々進められている状況だ。特にスタートアップがひしめく米国では、大手小売りや飲食チェーンなどのデリバリー需要と合わせてさまざまな実証が行われているようだ。

そこで今回は、アメリカにおいてどのような企業が実証を進めているのか、まとめてみた。

■スーパー系
ウォルマート:自動運転サービス実証の激戦地に

潜在的な宅配需要が相当数見込める米小売サービス最大手のWalmart(ウォルマート)周辺は、ある意味で自動運転開発企業の激戦地となっている。

2018年7月、米グーグル系で自動運転開発を担うWaymoがウォルマートとの提携を発表し、同社オンラインショップで注文した商品を実店舗で受け取る利用者に対し、自動運転車で送迎するパイロットプログラムを実施することとした。

同年11月には、米自動車大手のフォード・モーターが提携を発表。食品宅配サービスを手掛ける米スタートアップのポストメイツ参加のもと、フォードが自動運転の走行テストを実施しているフロリダ州マイアミで、生鮮食品をはじめとしたウォルマートの商品の宅配サービスを実施することとしている。

2019年1月には、自動運転開発スタートアップの米Udelvと提携し、アリゾナ州フェニックスで自動運転車による商品宅配サービスの実証実験の実施も発表されている。

さらに同年6月には、米カリフォルニア州のスタートアップGatik AIと提携し、アーカンソー州でウォルマートのメイン倉庫からオンライン注文商品を利用者に届けるサービスを実施している。

自動運転開発企業にとって、広範かつ膨大な顧客ネットワークを有し、EC事業にも注力するウォルマートは、より現実に即した形でサービスを実証するのに最適な企業だ。サービス実用化後も有力な顧客となりうるため、今後も提携の話題が飛び交いそうだ。

【参考】フォードとウォルマートの提携については「米フォードの自動運転車、小売大手ウォルマートの商品宅配 実証実験を実施へ」も参照。

クローガー:Nuroと提携し食料品配送を実証

米スーパーマーケット大手のKroger(クローガー)も、ウォルマートに後れを取らぬよう自動運転サービスの導入に力を入れている。

2018年7月までに自動運転スタートアップの米Nuroと提携し、アリゾナ州で自動運転車による食料品配送サービスの実証を行うことを発表した。2019年4月にはサービスを拡大し、テキサス州でも自動運転配送サービスを実施することが報じられている。

Nuroの創業者2人は、グーグルの自動運転車開発チームに所属していた経歴を持つエンジニアで、同社の技術的な信頼度は高い。2019年2月には、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)から約9億ドル(約100億円)の資金調達を行ったことなども発表されている。

【参考】クローガーとNuroの取り組みについては「米スーパー大手クローガー、自動運転車で無人宅配へ 元Google技術者のスタートアップが協力」も参照。

HEB:Udelvと配送サービス実証

米テキサス州に本拠を置くスーパーマーケットチェーンのHEBも自動運転配送サービスに着手するようだ。2019年7月にUdelvとの提携を発表し、自動運転レベル4の車両を活用した配送サービスの実証に取り組むこととしている。

EC部門の強化も図っているようで、今後、地方の中堅小売業界にもこうした動きが広がる可能性がありそうだ。

なお、Udelvはこのほか、カリフォルニア州に本拠を置く食料品チェーンのdraeger’s marketとも提携し、同様の配送サービスを実施している。

■EC系
Amazon:小型ロボット「アマゾン・スカウト」開発

米EC最大手のアマゾンは2019年1月、自社開発した自動運転デリバリーロボット「Amazon Scout(アマゾン・スカウト)」を用いた宅配サービスの実証を開始した。

6つの車輪がついた40センチ四方程度の小型タイプで、アプリと連動し、配達先に到着すると上部にあるカバーが開き、利用者が注文品を取ると自動で閉まる設計という。本体には商品を収納するスペースや、障害物を検知するセンサーなどを備えている。

同社は自動運転開発やクラウドサービスに力を入れており、クラウドサービス「AWS」を活用した1/18 スケールの自動運転レース「AWS DeepRacer」なども開催している。また、2019年2月には、自動運転開発スタートアップの米オーロラ・イノベーションに出資したことも報じられている。

オーロラは米電気自動車(EV)大手テスラとグーグルの元社員がタッグを組んで2016年に創業した有力スタートアップで、独フォルクスワーゲン(VW)や韓国の現代自動車とも提携を交わしている。

オーロラの技術により、アマゾンは小型のアマゾン・スカウトのほか、道路を走行可能な大型の無人自動運転による宅配サービスも視野に入れているのかもしれない。

米国のEC系ではこのほか、ウォルマートのオンライン部門など実店舗を持つ小売業や食料品のデリバリーサービスに特化した企業の躍進が目立っているようだ。

■配達・宅配系
udelv:地元スーパーやウォルマートと実証実験

2016年にカリフォルニア州で設立されたスタートアップのudelvは、自動運転技術の開発や自動運転配送サービスの実現に向け、ラストワンマイルの実証実験などを積極的に進めている。

2018年1月に自動運転配送トラックの公道テストをカリフォルニア州で開始。屋根の上にLiDAR(ライダー)やカメラなどのセンサーを配置した自動運転レベル4のトラックで、食料品チェーンのDraeger’s Marketやラストマイル運送を担うDelivery Guysとパイロットプログラムに着手するなど実績を重ねている。

2019年1月には、ウォルマートと提携し、アリゾナ州で商品宅配の実証実験も行っている。

また、2018年12月には、日本の商社丸紅が傘下の特定目的会社MAIHO IIIを通じてudelvに出資したことを発表している。

今後、自動運転車両の改良を重ね、カリフォルニア州だけではなく、オクラホマ州やテキサス州へもサービスエリアを拡大していく予定で、テキサス州では、丸紅がMAIHO IIIの子会社であるXL Partsを通じて展開するアフターマーケット向け自動車部品卸販売事業における実証実験も計画しているという。

【参考】丸紅からの出資については「丸紅、自動運転配送の米スタートアップudelv社に出資」も参照。

ドミノ・ピザ:飲食系デリバリーで先行、Nuroと提携

飲食系デリバリーで自動運転に力を入れている代表格が、宅配ピザチェーンのドミノ・ピザだ。2016年に宇宙関連開発などを手掛けるオーストラリアのスタートアップMarathon Targetsと世界初となる商業用無人自動運転宅配ロボの宅配実証実験を行ったほか、2017年にフォードと自動運転車を活用した宅配実証実験を実施している。

2019年6月にはNuroと手を組み、Nuroが開発したラストワンマイル向けの自動運転車両「R2」を用いた無人配達事業をテキサス州ヒューストンで行うことを発表している。

【参考】Nuroとの取り組みについては「米Nuroの自動運転モビリティ、2019年内にドミノピザの配達開始へ」も参照。

Uber:デリバリー部門でマックとドローン実証へ

自動運転開発にも力を入れるライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズ。同社が展開する料理宅配サービス「ウーバーイーツ」において、ハンバーガー大手のマクドナルドの配達をドローンが担う実証実験が2019年6月までに始まったようだ。

ドローンがハンバーガーを目的地の近くまで届け、これを受け取ったウーバーイーツの配達員が顧客に届ける仕組みで、トータルで顧客の待ち時間を減らせるようにするという。

オンライン注文による飲食系デリバリーは市場規模を伸ばしており、日本国内においても都市圏を中心に拡大している。ライドシェアで培った配達員ネットワークやプラットフォームサービスでシェアを広げる同社だが、将来的には自動運転技術を駆使した宅配サービスに本格参入する可能性が極めて高い。

Robomart:自動運転無人車両が小型店舗ごと宅配

カリフォルニア州に本拠を置くスタートアップのRobomartは、小売店舗と化した自動運転車が顧客のもとへ訪れる「Robomartプロジェクト」が注目を集めている。

温度制御が可能で車内にラックなどを完備した店舗型の自動運転無人車両を、スマートフォンの専用アプリを用いて呼び出し、アプリでドアを開けて欲しい商品を取り出せば自動的に買い物が終了する仕組みだ。

同社は、Robomartの車両本体と、米Hevo Powerが開発したワイヤレス充電装置、車両管理システム、オンデマンド注文システムを、小売業者らにライセンス契約していくビジネススタイルの確立を進めており、カリフォルニア州で試験運用を開始することが報じられている。

FedEx:セグウェイ開発者と共同で自動運転配達ロボット開発

物流世界大手の米フェデックスもついに動き出した。2019年3月までに自動運転配達ロボット「FedEx SameDay Bot」を発表し、夏にもテネシー州メンフィスなどで実証を行うこととしている。

ロボットは、電動立ち乗り2輪車「セグウェイ」などを開発したことで知られるディーン・ケイメン氏とともに共同開発した小型タイプで、歩道や路肩を走行しながら顧客の家庭や企業に小型配送物を届けられるように設計されているようだ。

他に類を見ない物流ネットワークを持つ同社の取り組みが、ラストワンマイル配送全体に大きな影響を与えることは必至の状況だ。

【参考】フェデックスの取り組みについては「物流世界最大手のフェデックス、自動運転配達ロボを発表」も参照。

Starship Technologies:3万回以上の配送実績 小型宅配ロボットで先行

Skype開発でも知られるJanus Friis氏らが2014年に設立したスタートアップで、エストニアと米サンフランシスコに本社を構える。

設立以来実証を重ねており、2018年4月に英国のミルトン・キーンズで自動運転ロボットによる商品配送を開始したほか、2019年1月には米ジョージメイソン大学でもサービスを開始しており、同年2月時点で3万回の配送を行ったという。

配送用のロボットは6輪の車輪で動くボックス型で、ボディの蓋を開けると荷物を収納するスペースがあり、重量18キロまでの荷物が配送可能という。利用者がスマートフォンのアプリで注文すると、小包や食料品などが店舗から直接配送される仕組みだ。

実用化域に達しており、小型宅配ロボットとして世界をリードする同社。他社が追い付いてくる前にどこまでシェアを拡大できるか、注目が集まる。

【参考】スターシップ・テクノロジーズについては「米スターシップ・テクノロジーズ、イギリスで自動運転ロボットによる商品配送スタート」も参照。

Robby Technologies:ペプシと共同で大学構内で実証実験

カリフォルニア州に本社を構えるロビー・テクノロジーズは、2016年に第1号となるラストマイル向け宅配ロボ「Robby1」を開発し、現在は「Robby2」の実証を進めている。

Robby2は赤外線カメラやLEDなどを搭載し、夜でも稼働することができるほか、1回の充電で20マイル(約32キロメートル)以上走行可能という。

同社はPepsiCo(ペプシ)と提携し、Robby2をベースに改良したデリバリーロボ「Snackbot」の実証をカリフォルニア州のパシフィック大学構内で行っている。

AutoX:低コストレベル4車両への注目度上昇 ロボタクシーへの活用も

カリフォルニア州と香港に本拠を構える自動運転開発スタートアップのAutoXも、デリバリーサービス向けの取り組みを加速している。食料品の配送を手掛けるGrabMarket (グラブマーケット)と提携し、2018年8月にカリフォルニア州で食料品配送実証を開始することを明らかにしている。

LiDAR(ライダー)を使わず、一般車両を改造することで低コストな自動運転レベル4を実現する同社。CES2019にも出展し、急激に注目度が高まっているようだ。

また、同社が開発した車両は自動運転タクシーへの活用にも注目されており、スウェーデンのEVメーカーNEVSと2019年7月に提携し、欧州でのロボタクシー実用化に向け開発と実証を進めていくようだ。

■【まとめ】開発は成熟期突入か 今後はロボット間連携実証にも注目

小型宅配ロボットは実用実証的な取り組みも多く、技術的には成熟段階に入っている印象だ。法整備などの環境整備次第で、世界的に導入が加速する可能性が高い。

一方、大型宅配車も自動車メーカーのフォードなどを交えながら着々と実証が進んでいる。広大な面積を誇る米国では、大型と小型双方に高い需要が見込め、両者が連携したサービス展開が求められることになりそうだ。今後は、ロボット同士の連携実証などにも注目したい。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル系の物流ソリューション・サービスまとめ」も参照。

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