
ブリヂストンが開発を進める空気不要の次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」の実用化がついに始まったようだ。滋賀県東近江市が運営するグリーンスローモビリティ自動運転サービス「奥永源寺けい流カー」への正式採用が決まった。
乗り心地や将来的な価格などが気になるところだが、従来のタイヤに比べメンテナンス性に優れることから、無人の自動運転車との相性が良い点が大きなポイントだ。今回の実用化を機に注目が高まり、Waymoが採用に動く――といったことになれば、自動運転業界の標準が変わる可能性もある。
パンクでJAFを呼ぶ必要がなくなるAirFree。ブリヂストンの取り組みを深掘りしていこう。
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■自動運転とタイヤ
東近江市の自動運転車に正式採用
ブリヂストンは2026年7月、空気充填を必要としない次世代タイヤ「AirFree」の全国初となる実用化を、東近江市が運営するグリーンスローモビリティ自動運転サービス「奥永源寺けい流カー」で開始すると発表した。
同市とブリヂストンは2025年1月、道の駅「奥永源寺渓流の里」を拠点とした自動運転サービスに関する連携協定を締結した。自動運転車両にAirFreeを装着し、その特性や機能、提供価値を検証するとともに地域社会のモビリティを支える協力を行っていく内容だ。
同様の協定は、ブリヂストン創業の地である福岡県久留米市や富山県富山市とも結んでいる。グリーンスローモビリティでの実証を重ね、ついにAirFreeが社会実装のステージへと移行した……ということだ。
現状、タイヤのインチサイズや車重、走行速度などに制限があるかもしれないが、徐々に対象を拡大していくものと思われる。一般市販され、自家用車に搭載可能となる日がいつごろ訪れるのか楽しみだ。

【参考】関連記事「ブリヂストン、自動運転車に「空気なし」タイヤ!公道実証も実施」も参照。
自家用車では100年以上も空気入りタイヤが主流
自動車発明初期においては、ホイールにゴムの帯を巻いただけのタイヤが用いられていた。しかし、1880年代にダンロップが空気入りタイヤを発明して以降瞬く間に標準仕様となり、乗り心地が重視される自家用車においては100年以上経った今も主流となっている。
なお、産業系車両では、多層ゴムタイプやウレタン注入タイプなどの空気なしタイヤが活躍している。乗り心地よりも耐久性、耐荷重性などが重視されるためと思われる。
空気入りのタイヤは、ゴムの中に空気が充填されることで車重を支え、路面からの衝撃を吸収する。空気がクッションのような役割を担うことで、乗り心地がよく安定した走行を実現しているのだ。
しかし、空気入りのタイヤにもデメリットが存在する。メンテナンス性だ。中の空気は完全に密封されているわけではなく、空気漏れを完全に防ぐことはできない。空気が抜け、空気圧が低くなると走行性能が低下し、最終的に走行不能に陥る。
定期的に空気圧をチェックし、表面に異物が刺さっていないかなどタイヤの状態をしっかりと把握しておかなければならない。また、しっかりチェックしていても、走行中にくぎを踏むこともある。
有人運転の場合、異音や乗り心地の変化などで気付くこともあるが、無人の自動運転車の場合、特別なセンサーなどを装着していなければなかなか気づけない。乗客が異変に気付いても、即座に対応することはできない。
そう考えると、空気を必要としないエアレスタイヤは自動運転車に適していると言える。サービス車両の場合、毎日の点検は欠かせないがメンテナンス性は格段に向上する。万が一の際のリスクも激減するはずだ。
構造を補強することでパンク後もしばらく走行可能なランフラットタイヤに近い効用を持つイメージだが、それぞれの乗り心地やコスト、メンテナンス性などを踏まえると、しばらくは静観する動きが続くかもしれないが、新構造のエアレスタイヤには未知のポテンシャルがありそうだ。
■ブリヂストン「AirFree」の概要
改良重ねAirFreeは第3世代に
ブリヂストンの次世代タイヤ「AirFree」は、空気の代わりに青色のスポークで荷重を支える仕組みだ。パンクの心配がなく、資源生産性の向上やメンテナンスの効率化を実現する。また、スポーク部分の配色は、薄暗い時間帯においても視認性を最大化できる青色「Empowering Blue」を採用しており、安心・安全な移動を支えるという。

このエアレスタイヤの研究開発は、2008年に「エアフリーコンセプト」のもと幕を開けた。開発当初の第1世代は、製品機能として空気なしで「安心安全に荷重を支えること」、「リサイクル可能であること」に挑戦した。ぱっと見では、現在モデルの原型がほぼ出来上がっている印象だ。
第2世代(2013年~2022年)は、モビリティの多様化に伴う「乗り心地」といったタイヤ性能向上にも挑戦したという。デジタル技術の適用範囲の拡大や、ゴム空気入りタイヤ技術の知見を活用することで、硬く強固な素材とひずみを分散させる構造に進化し、さまざまな人とモノの移動へのニーズに対応したとしている。
現在モデルとなる第3世代(2023年~)は、より高度なシミュレーション技術や、多様な使用環境を想定した構造設計により、強くてしなやかな素材とひずみを制御し適切にひずませる構造へと進化させた。
また、従来の製品機能に加えて「社会価値の提供」に挑戦し、安心安全・サステナブルな技術で「地域社会のモビリティを支える」をミッションに掲げ、社会実装に向けた公道実証を開始した。
このAirFreeの技術は、月面探査車用のタイヤにも活用されているという。ブリヂストンは2019年から月面探査車用タイヤの研究開発に取り組んでいる。
極限環境下の月面では、空気を使わずに支えること、激しい気温差や放射線に耐えられる金属製であること、砂地でも沈み込まずに走行できることを基本に据え、第1世代では金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置するコイルスプリング構造のタイヤを開発した。
第2世代では、より厳しい走破性と耐久性に対応するため、新たな骨格構造としてAirFreeの技術を活用したスポーク構造を適用している。新たに薄い金属製スポークを採用し、トレッド部を回転方向に分割することで、岩や砂に覆われ真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる極限の月面環境下においても、走破性と耐久性の高次元での両立を目指すとしている。
AirFree技術が月でも通用するのか、非常に興味深い取り組みだ。
【参考】関連記事「トヨタ、自動運転技術を「月面」で強化へ!月をテストフィールド化」も参照。
日本での実用化が呼び水に?
実用化が始まったAirFreeに対する自動運転業界の反応にも注目したい。サービス実装済みの自動運転各社は、今のところ特別なタイヤを採用した――といった話題はなく、ほぼ全社が既製タイヤを使用しているものと思われる。
自動運転サービスの現場では、日常的な点検・メンテナンス業務の省力化・無人化にも大きな注目が集まっており、こうしたエアレスタイヤに興味を示す開発企業は少なくないものと思われる。
今回の実用化が呼び水となり、Waymoなどが関心を寄せれば、新たな潮流が生まれるかもしれない。Waymoクラスの開発企業が採用すればAirFreeの知名度は一気に世界レベルとなり、引く手あまたに……といった展開も十分考えられるだろう。
自動運転車向けのソリューションにはまだまだ商機が眠っている。そこにいち早くベットしたブリヂストンの取り組みが今後どのようにビジネス化されていくか、注目が集まるところだ。
■【まとめ】100年越しのイノベーションなるか
エアレスタイヤはこのほか、TOYO TIREが「noair」、ミシュランが「UPTIS」など、各社が開発を進めている。エアレスタイヤと相性が良さそうな自動運転車から搭載を開始し、いずれは自家用車へ――といった流れができるかもしれない。
タイヤ市場に100年越しのイノベーションが実現するのか、大きな注目が集まるところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、実証実験の報告書・レポート・事故まとめ」も参照。













