テスラ事故の運転手逮捕、「自動運転車にも責任ある」と提訴

テスラが提訴される事態に



出典:YouTube

米テキサス州で住宅に突入し76歳の女性を死亡させた米EV大手テスラTesla)のModel 3事故で、運転していた男性が過失致死罪で逮捕・訴追された。事故の前、この男性が運転支援機能FSDを「遅すぎる」とGoogle検索していたことが捜査で判明している。検察はこれを、意図的に速度を上書きした証拠と位置づけた。

事故が起きたのは2026年6月19日の夜。車両データには、アクセルを100%踏み込み、時速117キロで走行し、ブレーキ操作がなかったことが記録されていた。遺族はテスラにも設計上の欠陥があるとして、運転者とともに損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。刑事と民事、二つの責任が同時に問われる展開となった。


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■テスラ運転手「FSDが遅すぎる」とGoogle検索していた

今回の事件を特異なものにしているのは、運転者の携帯電話から見つかった検索履歴だ。米テキサス州ハリス郡の検察は、住宅に突入して女性を死亡させたテスラ(Tesla)のModel 3を運転していたMichael David Butler(マイケル・バトラー、44)を、7月1日に過失致死罪(manslaughter)で訴追した。訴追の根拠のひとつが、事故の数週間前にあたる5月にButlerが行った複数のGoogle検索である。

捜査によれば、Butlerは「テスラ FSDはアグレッシブさが足りない」「街中の運転にはFSDはアグレッシブさが足りない」「テスラ FSDは臆病すぎる」といった趣旨の言葉を繰り返し検索していた。運転支援機能FSDの動きが慎重すぎることへの不満をうかがわせる内容だ。検察はこの履歴を、Butlerが偶発的にではなく意図的に車の速度を上書きしたことを示す証拠として扱う方針を示している。

訴状で捜査官は、五つの根拠を挙げて結論を導いた。事故前後の車載映像、アクセル・ステアリング・速度の動きを記録したブラックボックスのデータ、携帯電話の検索履歴、機械的な故障が見当たらないこと、そして医学的な説明がつかないこと。これらを総合し、ButlerがMartha Avila(マーサ・アビラ)さんの死を無謀に招いたと判断した。検索履歴は、その無謀さを裏づける材料のひとつという位置づけである。

【自動運転ラボの視点】
検索履歴が刑事責任の証拠になる時代に入った。運転支援機能への不満が、そのまま運転者の意図を示す痕跡として法廷に持ち込まれる。自動運転をめぐる責任論は、車のデータと人の行動の両面から問われる段階へと進んだと言える。

 

■アクセル100%・時速117キロ、車両データが示した事故の全容

車両データが描き出した事故の姿は、当初報じられた「車が勝手に暴走した」という印象とは大きく異なる。ブラックボックスの記録によれば、事故の瞬間、アクセルは100%踏み込まれ、車は時速73マイル、およそ117キロに達していた。ブレーキ操作はなく、進路を変えて回避しようとした形跡もない。制限速度の2倍を超える速度で、住宅街を走り抜けたことになる。車両には機械的な故障も見当たらなかった。


Butlerは事故当時、フードデリバリーのDoorDash(ドアダッシュ)で配達をしていた。捜査では、最後の配達を終えた直後に、再びFSDを作動させたとみられている。当初Butlerは、意識を失ったという趣旨の説明をしていた。しかし検査の結果、発作、脳卒中、心臓の異常、薬物やアルコールのいずれについても陰性で、意識を失う医学的な理由は確認されなかった。

過失致死罪はテキサス州では第2級重罪にあたり、有罪となれば禁固2年から20年が科される。Butlerの保釈金は15万ドルに設定された。日本語で「過失」と聞くと軽い印象を持たれがちだが、訴状が用いた表現は「無謀に死を招いた」であり、決して軽い罪状ではない。

■FSDの「上書き機能」で、なぜ責任論が割れるのか

事故の責任をめぐる議論が単純に片づかないのは、FSDの「上書き(オーバーライド)」という仕組みがあるからだ。訴状のなかで捜査官はこの機能をこう説明している。ドライバーがアクセルペダルを踏むと、速度の制御はドライバーの手に移る。一方で、ステアリング、車線の維持、目的地へのナビゲーションはFSDが担い続ける。つまりアクセルを踏んで加速している間も、ハンドルを握っているのは依然としてシステムだという構図になる。


訴状によれば、FSDはそもそも、危険な速度や過度な速度では走行しないように設計されている。ただし例外がある。ドライバーがアクセルを踏んで速度の制御を奪ったときだ。Butlerのケースは、まさにこの上書きが起きた場面だと捜査当局は結論づけている。

テスラ側はこの点を強く主張する。テスラでAIソフトウェアを統括するAshok Elluswamy(アショク・エルスワミ)は、車両データはドライバーが事故の前後にアクセルを100%踏み込み、手動でシステムを上書きしたことを示していると述べた。CEOのイーロン・マスクも、FSDは住宅街を低速で走行するものであり、これほどの高速衝突ならFSDが作動していたはずがない、という趣旨の投稿をしている。

もっとも、ドライバーがアクセルを踏んだことと、テスラに責任がないことは同じではない。刑事上の責任がドライバーに問われることと、民事上の責任がテスラに問われることは両立しうる。だからこそ、責任論は割れている。

マスク氏はこの事故について、FSDは住宅街を低速で走るのだから高速の衝突が起きるはずがない、という趣旨をX上で述べている。

 

■遺族がテスラを提訴、根拠は「前例の2億4,300万ドル評決」

Avilaさんの遺族は、Butlerだけでなくテスラも相手取って民事訴訟を起こした。原告はAvilaさんの娘と娘婿にあたるJennifer(ジェニファー)・Justin Barbour(ジャスティン・バーバー)夫妻で、被告はテスラとButlerの両者だ。請求額は100万ドル超。訴えは、FSDの設計に欠陥があったこと、危険を十分に警告しなかったこと、エンドユーザーであるドライバーに過信を植えつけたことを主張している。

この訴訟が下敷きにしているのが、2025年8月にフロリダ州で下された評決だ。キーラーゴで起きたテスラの運転支援機能をめぐる死亡事故で、連邦陪審はテスラに33%の責任を認めた。ドライバー側の過失が明白であったにもかかわらず、である。総額はおよそ3億2,900万ドルにのぼり、内訳は懲罰的賠償が2億ドル、補償的賠償が約4,300万ドルで、このうちテスラが負担する分が約2億4,300万ドル(現在のレートで約380億円)とされた。2026年2月には連邦判事がこの評決を支持している。

フロリダの評決で陪審が重く見たのは、テスラのマーケティングと、ハンドルの操作だけに頼る弱いドライバー監視が、車にできること以上の期待をドライバーに抱かせたという点だった。ドライバーの誤用と、テスラの責任は両立する。今回の遺族の訴えは、まさにこの論理の延長線上にある。「自動運転車にも責任がある」という主張は、ここに根拠を置いている。

【参考】関連記事としては「テスラ、ロボタクシー事故を「黒塗り」で隠蔽?」も参照。

テスラ、ロボタクシー事故を「黒塗り」で隠蔽?

■「自動運転車にも責任ある」問いが突きつけるもの

この事故は、刑事、民事、そして連邦当局の調査という三つの流れが同時に走る事案となった。米運輸省道路交通安全局NHTSAと国家運輸安全委員会NTSBは、いずれも特別調査を開始している。ドライバーの刑事責任は車両データから見て動かしがたい。だが、それだけで話が終わるわけではない。

ある専門メディアは、FSDの本質的な問題は「臆病さ」ではなく「一貫性のなさ」にあると指摘する。制限速度以下で慎重に走るモードもあれば、制限速度を大きく超えて走るモードもある。どちらが出るか読めない不安定さが、ドライバーに自分の足をアクセルに置かせ、車の速度を「直そう」とさせる。これはあくまで同メディアの論評だが、今回のような上書きが起きる背景を言い当ててはいる。

「自動運転車にも責任がある」という問いは、単なる一件の事故の責任配分を超えて、運転支援システムの設計、マーケティング、そしてドライバー監視のあり方そのものに向けられている。この問いにどう答えるかは、米国だけの話ではない。自動運転タクシー市場やロボタクシー市場の実用化が進む日本にとっても、責任をどう分け合うかという議論は、遠からず自分たちの課題になる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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