
2026年6月14日、スイスのジュネーブで開かれた主要7か国G7サミットへの反対デモで、駐車中の米EV大手テスラ(Tesla)の車両1台が放火され、炎上した。デモ隊は国連機関の窓も割り、警察は催涙ガスで応戦した。
デモにはおよそ2万人が参加した。当初は平和的な行進だったが、一部の参加者が資本主義の象徴とみなした対象を狙った。テスラが標的になった背景には、同社を所有するイーロン・マスクが前週に世界初の兆万長者になったことへの反発がある。
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■G7反対デモでテスラ車が炎上、金持ちへの怒りが向かった理由
放火されたのは、路上に駐車されていたテスラ車1台だった。ジュネーブ警察は6月14日、車に火を放ち国連機関の窓を割ったデモ隊に対し、催涙ガスを発射した。参加者は路面のレンガを剥がして警官に投げ、催涙ガスが立ちこめる中で子どもが泣いたと、現場のロイター記者は伝えている。
行進そのものは2万人規模で、出発時は平和的だった。流れが変わったのは、一部の参加者が資本主義と多国間主義の象徴とみなした対象に矛先を向けてからだ。標的になったのが、駐車中のテスラと国連事務所だった。デモ参加者の一人Pippa Saugy氏はロイターに、富裕層がさらに豊かになり貧しい人々が取り残される構図を改めて示す、金持ちの会合だと語った。
テスラが燃やされたのは、製品への評価ではなく所有者への反感ゆえだ。技術ではなく富の象徴として狙われた点に、この事件の本質がある。自動運転を牽引する企業が政治の標的になる構図は重い。
【参考】関連記事としては「テスラとSpaceXが合併?544兆円の帝国誕生で自動運転とAIの覇者へ」も参照。
■イーロン・マスクが世界初の兆万長者になった翌週という巡り合わせ
怒りの直接の引き金は、デモの前週に起きていた。マスク氏が、世界で初めて純資産1兆ドルを超える兆万長者になったのだ。
ただし到達の主因はテスラ株ではない。マスク氏が率いる宇宙開発企業SpaceX(スペースX)が、米株式市場Nasdaq(ナスダック)に新規上場したことが決め手だった。
報道によれば、6月13日にSpaceX株は公開価格135ドルを上回る150ドルで取引を開始し、マスク氏の資産が史上初めて1兆ドルを突破した。富を生んだのはSpaceXであり、燃やされたのはテスラという別の会社という構図だった。
■炎上だけではない、テスラを取り巻く三つの逆風
ジュネーブの炎上は、Teslaが直面する逆風の一つにすぎない。放火、販売減、規制調査。性質の異なる三つが同時に押し寄せている。
まず放火は単発ではない。車両や販売店、充電設備への放火と破壊は2025年初頭から米国と欧州で相次いできた。背景にあるのは、マスク氏のトランプ米政権への深い関与だ。同氏は米政府効率化省DOGEの中心人物として大規模な人員削減を主論し、それを機に反発が目に見える資産であるTeslaへ向かった。販売店への銃撃、車両への火炎瓶、ナチスを連想させる落書き。ただし米連邦捜査局FBIなどは、これらの攻撃が組織的に調整されている証拠は見つからなかったとしている。
次に販売だ。テスラの2025年の納車は164万台で、前年から9%減った。2年連続の販売減である。米AP通信は、その一因にマスク氏の右派的な政治姿勢への顧客の反発を挙げた。世界最大のEVメーカーの座は、中国のBYDに明け渡している。放火が過激な形の反感なら、買い控えは静かな形の反感だと言える。
三つ目が規制だ。米運輸省道路交通安全局NHTSAは、テスラの完全自動運転ソフトFSDをめぐり、約320万台を対象とする技術調査に格上げした。視界が悪い状況でシステムが正しく機能するかが焦点で、専門家からはリコールの一歩手前との指摘も出ている。テスラの企業価値の柱である自動運転に、規制の影が差している。
【参考】関連記事としては「テスラ「自動運転」を中国で諦めた?「支援運転」に改名へ 抱える2.3兆円の訴訟爆弾」も参照。
■金持ちへの怒りがテスラに向かう、その先にあるもの
テスラは自動運転タクシー市場の最前線に立つ企業の一つだ。ロボタクシーの実用化を競い、技術では世界の注目を集めてきた。そのテスラが、製品の出来とは別の理由で燃やされ、買い控えられ、調べられている。
ジュネーブで炎上した一台が示したのは、テスラがもはや純粋な技術企業として見られていないという現実だ。世界一の富豪の名を背負い、その富への怒りを一身に受ける標的になった。金持ちへの怒りがテスラに向かう構図は、マスク氏が兆万長者になったことで新たな燃料を得た。次の焦点は、この反感がテスラの自動運転事業をどこまで侵食するかだ。
技術で先行しても、所有者への感情が商品の評価を覆い隠す。自動運転タクシー市場の象徴であることが、テスラにとって強みであると同時に重荷になっているようだ。













