
2025年12月、サンフランシスコの大規模停電で信号が一斉に消え、Alphabet(旧Google)傘下の自動運転企業Waymo(ウェイモ)の自動運転車が市内各所で次々と停止した。立ち往生した車両を動かす羽目になったのは、現場に駆けつけた消防士ら緊急対応要員だ。少なくとも63件で、緊急対応要員が手でWaymoを動かす必要があった。その背景にあるのは、自動運転の安全を定める連邦法が米国に存在しないという制度的な空白である。
米Fortune(フォーチュン)誌は2026年5月4日、中国が一度の大規模な不具合でロボタクシーの新規ライセンス発行を止めた一方、米国は同種の事案が続いても連邦規制が動かないと指摘した。停電時のサンフランシスコだけではない。緊急現場への進入やテスラの衝突など、米国各地で似た問題が噴き出している。共通するのは、安全を担保する連邦のルールがないまま車両だけが街に増えていく構図だ。
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■消防士がロボタクシーを手動で動かす事態、SF停電で何が起きたか
事件が起きたのは2025年12月20日だ。PG&Eの変電所火災により、サンフランシスコ市の約3分の1にあたる約13万軒が停電し、信号機が一斉に消えた。停電した交差点を前に、Waymoの自動運転車が次々と停止する。動けなくなった車両を交差点や車線上から動かす作業に追われたのが、現場の消防士ら緊急対応要員だった。
停電の夜、2分以上にわたる車両の停止が約1,500回発生。そのうち少なくとも63件は、緊急対応要員が現場で車両を手動で動かす必要があった。市の911指令センターはWaymoに31回電話をかけ、ある通信指令員は53分間も保留にされたという。
実際に消防車が現場でWaymoに行く手を阻まれた例もある。市の説明では、少なくとも1台の消防車が、出動先の火災の途中でWaymoに進路をふさがれた。さらに救急車が40分遅れた事例も報告されている。
市当局の受け止めは厳しい。緊急事態管理局のメアリー・エレン・キャロル局長は公聴会で、緊急対応要員がこうした車両のいわば標準の路上支援サービスになりつつあり、それは持続可能ではないと述べた。Waymoは2026年3月の公聴会で停電時の対応を謝罪したものの、不具合車両の移動を引き続き市の緊急対応要員に頼る姿勢を崩していない。便利な移動サービスのしわ寄せが、税金で支えられる緊急対応の現場に向かっている構図と言える。
便利さの裏で緊急対応の現場が事実上の路上支援役を担わされている。連邦の安全基準がないまま、しわ寄せが公的サービスへ向かう構図が浮かぶ。
【参考】関連記事としては「自動運転ロボタクシー、警官の指示を無視?犯罪現場に勝手に突入」も参照。
■銃撃現場・犯罪現場への進入、止まらない米ロボタクシーの事故
緊急現場と自動運転車の相性の悪さは、停電に限らない。2025年12月にはロサンゼルスでWaymoが活動中の犯罪現場に進入し、現場を離れるよう促す警官の誘導に車が対応できなかった。2026年2月にはアトランタで、Waymoが現場のパトカーを無視してそのまま通過した。
さらにその翌月、オースティンでは銃撃事件が発生している最中に、別のWaymoが救急車の通行を妨げた。緊急車両が最優先される場面で、自動運転車がその流れを読めない。人間のドライバーなら当然できる判断が、まだ機械には難しいという現実がある。
車両の挙動そのものが不安定な例もある。テスラのロボタクシーはオースティンでわずか1か月の間に、固定物への正面衝突や後退時の衝突に加え、木やポール、バス、トラックに次々とぶつかった。緊急現場への進入と車両挙動の不安定さという二つの問題が同時に表面化していることは確かだ。
直近でも事案は続く。Waymoは2026年5月、全米で高速道路の走行を一時停止した。ジョージア州やテキサス州で冠水した道路に進入して走行不能になる事案が相次ぎ、サンアントニオでは1台が増水で流された。これを受けてWaymoは3,791台のリコールに踏み切っている。問題が起きるたびに企業が個別に対応する、後追いの繰り返しだ。
【参考】関連記事としては「Googleの自動運転、またバスを無視!直らない「欠陥」」も参照。
■中国は一度の不具合で新規許可停止、際立つ規制対応の差
対照的なのが中国の動きだ。2025年3月31日、武漢でBaidu(バイドゥ)のロボタクシー「Apollo Go(アポロ・ゴー)」100台超が一斉に停止した。車両は高架や幹線道路上で動かなくなり、乗客は最大2時間にわたり閉じ込められたと報じられている。
この一件を受け、中国は数週間のうちに全国で自動運転車の新規ライセンス発行を停止した。Reuters(ロイター)が2026年4月に報じたところでは、この停止により各社は既存の車両を増やすことも、新たな試験を始めることも、別の都市へ展開することもできなくなった。一度の大規模な不具合で、国が一気にブレーキを踏んだ形だ。
ここで誤解してはならないのは、中国の対応が必ずしも正解だというわけではない点だ。新規許可の停止は産業の足かせにもなりうる。問われているのは中身の是非よりも、制度が動くスピードの差である。中国が同種の事案に国レベルで即応する一方、米国では同等かそれ以上に危険な事案が続いても、連邦レベルでの一律の対応が見えてこない。
【参考】関連記事としては「中国で自動運転タクシー100台が公道で一斉停止、大パニックに」も参照。
■連邦法なき米国、SELF DRIVE Actは動き出したのか
米国には現在、自動運転車の安全を定める連邦法が存在しない。あるのは州ごとに異なるパッチワーク状の規制だけだ。だからこそ、停電や緊急現場での問題が起きても、国全体を一律に縛るルールが働かない。
動きがないわけではない。SELF DRIVE Act of 2026(自動運転に関する連邦法案、H.R.7390)は2026年2月5日に下院へ正式に提出され、2月10日には下院エネルギー・商業委員会を12対11の僅差で通過した。法案はNHTSA(米運輸省道路交通安全局)の権限を整理し、自動運転システムを積んだ車両の安全基準づくりを促す内容だ。
ただし、委員会を通過したとはいえ、本会議も上院もまだ通過しておらず、法律としては成立していない。議会情報サイトのGovTrackは、この法案が最終的に成立する確率を3%と試算している。過去2回、2017年と2021年に提案された同名の法案も、いずれも成立に至らなかった。前進はあるが、ゴールは遠いというのが実態だ。賛否も割れている。州の規制を連邦が上書きすることへの懸念は根強く、12対11という票差がその拮抗を物語っている。
【参考】関連記事としては「米国で自動運転の「連邦法」がついに動き出す 爆速普及へ弾み」も参照。
■こうした事例が制度設計の手掛かりに
消防士がロボタクシーを手動で動かす。この一見すると滑稽な光景の正体は、技術の未熟さだけではない。安全を担保する連邦のルールが存在しないまま、車両だけが街に増えていく制度の空白である。個々の停止や衝突は、その空白が表面化した症状にすぎない。
では日本はどうか。日本でも自動運転の社会実装は進むが、道路交通法や道路運送車両法をどう自動運転に適用するかは、これからの大きな課題だ。米国で噴き出している規制の空白という問題は、対岸の火事ではない。ルールづくりを後回しにしたまま車両だけが増えれば、緊急現場が割を割くという同じことが日本でも起こりうる。米国でいま起きている混乱は、日本が先手を打って制度を整える手がかりになるはずだ。













