自動運転サービス導入の採算・コストは?関連費用などを解説

採算ラインはどの程度?

B!

技術が一定水準に達し、実用化の芽が大きくなり始めた自動運転。各地で実用化を見据えた実証も本格化しているが、ここにきて導入にかかるコストや採算性への注目が高まってきた。一部自治体では、国の補助が途切れたことを理由に実証を中止する動きも出ている。

自動運転サービス導入においては、どれほどのコストを覚悟しなければならないのか。将来的な採算性はどのように試算されているのか。自動運転サービスの実態に迫る。

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■モビリティDX検討会等提出資料

1人対10台の遠隔監視実現で年間コスト60%減少

モビリティDX検討会、自動運転移動・物流サービス社会実装WG、RoAD to the L4プロジェクト推進委員会合同会議で提出された事務局資料によると、自動運転車を1台1年運用した際の概算費用は、運転手が乗車する状態の2025年で3,217万円、1人対10台の遠隔監視が実現する2035年で1,259万円になるという。約60%のコスト減だ。

2025年の内訳は、車両改造費1,463万円、ハード保守504万円、ソフトウェア540万円、車内保安要員670万円、その他40万円となっている。一方、2035年の内訳は、車両改造費655万円、ハード保守504万円、ソフトウェア0万円、車内保安要員40万円、遠隔監視者40万円、その他20万円となっている。やはり、人件費削減効果が大きいようだ。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

経済産業省が作成した自動運転移動サービスの経済性試算によると、年間収支は通常のドライバーによる運転が収入2,806万円、支出1,170万円で収支1,636万円、レベル4モビリティは2025年時点で収入2,806万円、支出4,833万円で収支は-2,027万円、2030年時点では収入3,709万円、支出2,552万円で収支は1,157万円、2035年時点では収入3,709万円、支出1,719万円で収支は1,990万円としている。

収入には、運賃のほかいずれも補助金1,300万円が含まれる。車両本体購入費はいずれも460万円で、改造費は2025年1,463万円、2030年979万円、2035年655万円としている。

また、初期投資のコストとして、2025年はインフラ設置費710万円(信号機1基、路側機2基)を計上したほか、車内保安要員670万円、遠隔監視者400万円なども計上した結果、収支が大幅悪化している。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

2030年は1人対3台の運行が可能と仮定すると、車両改造費などとともに人件費も抑えることができ、収支は改善した。2035年は1人対10台が実現し、収支は人間のドライバーによるサービスを上回った。

量産効果や人件費削減効果は徐々に大きくなり、2030年時点ではまだ収支面で手動運転に及ばないものの、1人対10台が実現する2035年には手動運転を上回る――という見立てだ。2035年以後も効率性が向上する余地は残っており、採算性はさらに上向くものと思われる。

手動運転より収支が悪化する初期の実装期をいかに乗り切るか……が重要と言えそうだ。

資料では、普及台数を積み上げて初期設計や開発費を希釈し、調達ロットの拡大や発注量のコミットにより調達単価を引き下げることが自動運転システム費用の低減に有効であるとしている。

LiDARなどのセンサーや冗長化に必要な部品は、調達規模を増やすことで原価低減が可能で、ソフトウェア開発費も搭載台数に応じて配賦額が決まるため、販売予定数が多くなれば1台あたりの負担を抑えられる。 初導入時は初期設計費用が発生するが、長期間の運行や複数台の投入を前提にすると、年度単位の負担を最小化することができる。

保守サービスについても、日本全国に自動運転車両が普及し、システム提供事業者が保守サービスによる収入を定常的に確保できるようになれば、システム自体の初期提供価格を抑えることができるとし、仮に年商10億円を目標とする事業者が200台程度以上の車両の保守サービス契約を有すると、バスの運転手と同水準の価格で自動運転システムを提供できると試算している。

人件費率高いバスやタクシーに自動運転は有効

商用車分野では、バスやタクシーは営業費に占める運送人件費の比率が高く、無人化の効果がより大きいため、投資負担力が高く普及の早期化を見通すことができる。トラックは旅客輸送よりも収益力が高く、長距離のインフラ整備と連動して30年代から本格的に普及するとしている。

自動運転バスの将来展望としては、現在の輸送規模を維持した場合、2024年に2万1,000人、2030年に3万6,000人のドライバーが不足する予測となっている。試算では、自動運転シャトルは2035年に460台、市場規模322億円に到達するが、輸送規模を維持するためには、2030年代の自動運転バス・シャトルのさらなる普及が欠かせないとしている。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転トラックに関しては、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力が2024年に14.2%、2030年には34.1%不足する可能性を指摘している。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転タクシー関連では、タクシーの運転手数は2013年からの8年間で35%減少している一方、今後、ライドシェアをはじめとするMaaS車両が2035年には58万台を超え、自動運転タクシーなどのレベル4車両も1万7,000台程度まで伸びると予測している。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼モビリティDX検討会などの資料
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/jido_soko/pdf/r502_syakaiwg_jimukyokushiryou.pdf

■KPMGによる分析

タクシーは50%、バスは40%、輸送トラックは30%コスト減の可能性

KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームは、現在のタクシーや路線バス、輸送トラックのコストを100とした場合、それぞれのサービスを自動運転化した際のコスト水準と内訳についてシミュレーションした結果を発表している。

タクシーにおいては、完全自動運転を導入することで総コストは48.3%の水準まで下がるという。従来、73.1%を占めていた人件費が5.1%まで低下する効果が大きい。一方で、車両維持費は5.2%から11.4%、車両償却費が1.9%から12%に上昇している。

その結果、差し引きで総コストが約半減するという。労働集約型サービスほど自動運転のペイオフが大きいことを証明している。

出典:KMPG作成・公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

同様に、バスは完全自動運転導入により総コストが60.6%の水準となる。人件費率は57%から5.1%に低下するが、車両維持費・車両償却費が上昇し、トータルで約4割減となる試算だ。

輸送トラックは、総コストが68%となる。人件費率は56.2%から10.3%に低下する一方、長距離用車両の大型センサー冗長化が割高となって車両維持費・車両償却費が上昇し、約3割減となるようだ。

なお、このシミュレーションには遠隔監視オペレーターのコストや追加保険料などは織り込まれていない。留意すべきポイントとして、電動化などと組み合わせることによる燃料費削減効果や、さらなる量産効果・技術発展による減価償却費の低減の可能性を挙げている。

▼KPMGの解説はこちら
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/07/auto-intelligence-transportationcost.html

■自動運転ビジネスモデル検討会提出資料

安価なカートタイプ導入も一手?

やや古いが、国土交通省所管の中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転ビジネスモデル検討会において、自動運転サービスの採算性の検討事例に関する資料が2018年に提出されている。

ある市の例として、6人乗りのカートタイプと牽引車両を1台購入し、インフラとして電磁誘導線を上下6キロにわたり敷設した。運行体制は、乗車して運行監視を行う乗務員1人、遠隔監視などを行うオペレーター1人で、人の移動やモノの輸送サービスを有償で提供する。

試算の結果、一般車両における年間運行コスト870万円が、有償ボランティアを活用した自動運転車の場合560万円となり、年間収入430万円との差額130万円の赤字に縮小可能――とする例だ。

車両購入費は、一般車両350万円に対し自動運転車両395万円となっており、差額はほとんどない。電磁誘導線タイプで、最低限の周囲監視しか行わないモデルなのかもしれない。なお、電磁誘導線は耐用年数25年で整備費4,800万円としている。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

今となっては参考にしづらいデータだが、一般的な自動運転車に比べ低額なカートタイプは、イニシャル負担が大きい初期の自動運転実装期に活躍するかもしれない。

初期実装期の負担の重さに音を上げる自治体も出始めている。自動運転に取り組みたいものの費用負担が心配な自治体は、一時的な「様子見」としてカートタイプの導入を検討するのも一手かもしれない。

▼国土交通省の資料はこちら
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/automatic-driving/pdf06/02.pdf

■アーサー・ディ・リトル・ジャパンによる試算

車両関連コスト爆上がりも人件費ゼロで収益性改善

アーサー・ディ・リトル・ジャパンが2019年に発表した「モビリティサービスの事業性分析」は、自動運転タクシーや無人バス事業 のビジネスモデル・収益構造にも言及している。

自動運転タクシー事業を行う場合、車両関連コストが従来の10倍程度になったとしても、ドライバーの人件費がゼロになることで収益性が大きく改善する可能性があるとしている。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転関係のコストとして、車両維持費や車両償却費が従来のタクシー車両の10倍になると想定し、タクシー配車システムの導入に伴いシステム導入費や運用費がかかること、ドライバーの人件費をゼロとしたうえで試算したところ、損益分岐点が従来の一日当たり輸送人員15.6人から11.5人に下がるという。

自動運転バス事業も同様に、自動運転関連コストとして車両維持費10倍、車両償却費3倍で試算したところ、損益分岐点が従来の一日当たり輸送人員199人から177人に下がるとしている。

やはり人件費の削減効果は大きく、需要が一定の輸送人員を上回れば収益改善への道が拓かれるようだ。

▼アーサー・ディ・リトル・ジャパンの資料はこちら
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20190408_04.pdf

【参考】関連記事については「【資料解説】タクシー、自動運転化で「営業収益が25%向上」」も参照。

■BOLDLYによる試算

車両価格5分の1の水準×10年運用で既存サービス水準に

BOLDLYがデジタル庁所管のモビリティワーキンググループで発表した「自動運転時代の市場創生」によると、自動運転車を導入して1年間運用する際のコストは現在2億2,000万円という。このうち、車両本体1億500万円、マップ・ルート設定、充電設備、バス停、ラッピング、各種調査、手続き、人材教育にかかる費用が計5,200万円で、イニシャルコストは計1億5,700万円となる。システム利用料やメンテナンス、人件費などの維持費・ランニングコストは6,300万円だ。

対する既存公共交通は、手動バス(EV)がイニシャル4,580万円+ランニング1,680万円の計6,260万円、手動バスがイニシャル2,080万円、ランニング1,650万円の計3,730万円、オンデマンドバスがイニシャル1,320万円+ランニング1,440万円の計2,760万円という。1年間だけの運用で見れば、自動運転バスは既存バスの3~8倍ほどの水準となる。

しかし、車両価格が量産効果によって5分の1に下がり、10年間運行したケースでは、自動運転バスの総コストは1億7,600万円で、手動バス(EV)2億1,380万円、手動バス1億8,580万円、オンデマンドバス1億5,720万円と変わらない水準となる。

BOLDLYは「重要な鍵となるのは2025~27年量産開発を推進すること」としている。量産効果を早期に生み出し、実証含め公道走行を推進することでより技術は磨かれていく。産業として、早期に軌道に乗せていく重要性を示している。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼BOLDLYの資料はこちら
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/6936350f-a070-42d7-8ab1-3bbd9471bba8/44733a3c/20250128_meeting_mobility-working-group7_outline_03.pdf

■自動運転実証の動向

財源の88%が国費頼み、補助が途切れると事業停止に

財務省による予算執行調査によると、自動運転社会実装推進事業107事業を対象に調査したところ、財源の88%が国費補助で、地方費補助1%、自治体等負担10%、運賃収入など1%だったという。国補助無くして事業を行えない状況なのだ。

和歌山県和歌山市は2025年度、国の公募事業において不採択となり、補助を受けられないため路線バスの自動運転実証を停止した。同様に、徳島県那賀町も不採択となったため本年度の自動運転実証を中止するとしている。

大分県佐伯市も自動運転社会実装推進事業の中止を発表している。同市はこれまでに離島の大入島でカートタイプの自動運転車によるサービス実証を約1カ月間実施し、利用者アンケートから自家用車タイプの車両導入が必要との見解を得た一方、自家用車タイプの導入コストが高額であるため断念したという。

長期にわたり安定して交通手段を維持するためには、市の財政に過度な負担をかけないことが重要――と判断した。今後、技術革新やコストダウン、国の補助制度の動向などを注視し、改めて導入の可能性を探っていく構えだ。

【参考】関連記事については「自動運転実証、補助金受け「走行たった200m」 財務省が指摘」も参照。

自動運転実証、補助金受け「走行たった200m」 財務省が指摘

■【まとめ】採算性を意識した新たな目標設定を

国は現在、自動運転サービスに対する需要を推定する方法の検討や事業採算性の検証などを進めている。自動運転バスの継続運行地域の拡大に向け、自治体の事業コスト低減と継続的な予算確保の観点で施策を検討しているという。

自動運転実装初期に多額のコストがかかるのは必然だ。イニシャルコストの高い車両を導入する上、しばらくは無人化を果たせず、オペレーターなどの人件費も積みあがっていく。既存公共交通サービスよりも採算性が悪いことは言うまでもない。

どのタイミングで車両代がどれほど低下し、どのタイミングでオペレーターの数も減少し始めるのかが明示されなければ、導入を考える側も疑心暗鬼に陥りかねない。

厳密なシミュレーションは難しいが、目標数値を設定し、ロードマップに盛り込むのも一つの手ではないだろうか。限られた財源の中、国も補助金を永遠に垂れ流すことはできない。採算性を明確に意識した新たな目標を策定し、自治体などに希望の光を灯してほしいところだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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