構想発表から8年3カ月!テスラ、ついに自動運転タクシーを発表へ

発表日は「10月10日」濃厚、再延期となるのか?

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出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

米EVメーカー・テスラによる自動運転タクシー発表会の日程が、10月10日に決まったようだ。関係者筋の話として米ブルームバーグが報じている。内容に関する詳細は不明だが、当初予定から2カ月の延期を経てどこまで中身を充実させたのか気になるところだ。

Xデーに備えるべく、テスラのロボタクシー構想をおさらいしていこう。ちなみに詳しくは後述するが、テスラのロボタクシー構想が最初に判明したのは2016年7月とされており、2024年10月に発表されるとすれば、構想が判明してから8月3カ月が経つことになる。

■テスラの最新のロボタクシー構想

10月にサイバーキャブ発表予定

テスラCEOのイーロン・マスク氏は2024年4月6日、SNS「X」で「Tesla Robotaxi unveil on 8/8」と投稿した。「テスラはロボタクシーを8月8日に発表する」といった内容だ。しかし、準備が整わないことを理由に10月への延期を改めて発表していた。

大筋では、自動運転タクシー向けに開発した「Cybercab(サイバーキャブ)」をお披露目する場になるものと思われる。このサイバーキャブのデザイン変更などが要求されたことでプロトタイプの製作に時間を要し、一度延期された経緯がある。

このサイバーキャブは、サイバートラックのように度肝を抜く斬新なデザインとなるのか。どのような車内空間を設え、どのような機能で利用者のUXを向上させるのかなど、期待が高まるところだ。

また、どのような形でサービスを提供するのか。マスク氏が以前から提唱していたオーナーカーを利用した形態が本当に採用されるのか。注目すべきポイントは盛りだくさんだ。

■テスラのこれまでのロボタクシー構想

2016年のマスタープランパート2で・・・

マスク氏は、2016年7月に発表した「マスタープランパート2」の中で自動運転車を活用したシェアリングサービスについて触れている。

同プランによると、真の自動運転が規制当局に承認されれば、ほぼどこからでもテスラを呼び出すことができるようになり、目的地に向かう途中で眠ったり読書をしたり、その他のことをしたりすることができるとしている。

そして、テスラのスマートフォンアプリをタップし、マイカーをテスラの共有フリートに追加することで、仕事中や休暇中に収入を得ることができるようになるとしている。これがオーナーカーによる自動運転タクシーサービス構想だ。正確に言えば、自動運転ライドヘイリング(ライドシェア)サービスとなる。

多くのオーナーは1日の5~10%しかクルマを使用しないことにも言及しており、遊休状態のマイカーを有効活用しながら自動運転サービスで収入を得ることで、高額になりがちな自動運転車の月々のローンやリース費用を相殺することができるという。

実質的な所有コストが大幅に下がり、ほぼ誰でもテスラを所有できるようになり、自動運転車の基本的な経済的効用は数倍になる可能性があるとしている。この独自案こそがマスク氏が掲げるロボタクシー構想の原型だ。

2019年にロボタクシー構想を正式発表

マスク氏が正式にロボタクシー構想を発表したのは、2019年に開催した投資家デーだ。オーナーは、FSD(Full Self Driving)を搭載した自動運転車をリース契約して所有し、使用しない時間帯にテスラの配車サービスプラットフォーム「TESLA NETWORK(テスラネットワーク)」に登録することで、マイカーをロボタクシーとして無人で稼働させることができる――といった内容だ。

テスラの試算によると、オーナーは1マイル(1.6キロメートル)あたり0.65ドル(当時のレートで約71円)を得ることができるという。

9万マイル(約14万5000キロメートル)走行すれば3万ドル(同約330万円)得ることができ、この分をリース料金と相殺できる。事故の際の責任はテスラが負い、リース契約終了後は車両をテスラに返却する。

マスク氏は当時、自動運転技術を2019年末に完成し、2020年末に実現すると豪語していた。自動運転タクシーも2020年中に100万台以上稼働させるとしていた。

【参考】2019年時点のロボタクシー構想については「米テスラ、2020年に100万台規模で自動運転タクシー事業」も参照。

2022年決算説明会では「ロボタクシーの量産を2024年ごろにスタート」

2022年第1四半期(1~3月)決算説明会では、ハンドルもペダルもないロボタクシーの量産を2024年ごろにスタートし、市場化する計画を発表したようだ。これがオーナーカーを指すものなのか、純粋な商用車を指すものなのかは不明だ。

マスク氏は、ロボタクシーの導入によって今まで以上に低コストな移動手段を顧客に提供できることを強調し、乗車料金はバスや地下鉄の切符より安く済む水準になると考えているようだ。

ロボタクシー車両は自動運転を念頭においてゼロから設計しており、その外観は未来的で、ハンドルやペダルを排除することで設計の自由度を高めるとしている。

【参考】2022年時点のロボタクシー構想については「マスク氏「2024年までに自動運転タクシー」 運賃はバス並み」も参照。

FSDは自動運転の域に?ハードウェアも最新バージョンに移行

2024年第1四半期の決算報告資料でもロボタクシーに触れている。「Our purpose-built robotaxi product will continue to pursue a revolutionary “unboxed” manufacturing strategy.」とあり、直訳すると「当社のロボタクシー製品は革命的な“unboxed”製造戦略を追求し続ける」となる。

「Unboxed=箱なし」をどう意訳すべきか難しいところだが、生産効率を高めていくようなニュアンスが込められているものと思われる。

FSDに関しては、2024年初めにバージョン12をリリースしており、今後も継続的にトレーニングを強化する。AIインフラストラクチャのキャパシティは今後数カ月以内に向上し、第1 四半期に推論が強化された最新の車載コンピュータとなるハードウェア4.0へ移行するとしている。

将来的に利用可能となる配車機能に取り組んでおり、配車サービスをテスラアプリにシームレスに統合していくという。ロボタクシー向けのアプリを指しているのかもしれない。

■テスラの自動運転タクシーが抱える課題

自家用車ではなく専用の商用車?

テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

当初のマスク氏のロボタクシー構想は、オーナーカーを利活用するものだった。しかし、2022年の発表ではハンドルなどの手動制御装置を備えない車両開発に言及しており、自家用車ではなく自動運転サービス専用の商用車にシフトしたのかもしれない。

もちろん、マスク氏の性格を考えれば、手動制御装置のない自動運転自家用車の可能性も否定できないが、レベル3ですら未到達であることを踏まえると、さすがに……といった感じだろう。

テスラが目指すレベル5は現状許認可がおりない?

自動運転自家用車であれ商用車であれ、気になるのは自律走行可能な対象エリアの設定だ。テスラ(マスク氏)の目標はあくまでレベル5であり、走行エリアや速度、道路条件、気象条件などのODD(運行設計領域)は原則設けないことを信条としている。

高精度3次元地図にも頼らず、原則としてどこでも自動運転可能な技術の確立を目指しているのだ。この信念を貫いた状態で自動運転タクシーを実用化した場合、利用者はどこまでも移動することが可能になる(営業区域の規制がなかった場合)。素晴らしいサービスだ。

しかし、現状商用許可は下りないだろう。規制当局としては、ODDを指標にその自動運転システムが安全かどうかを判断する。「〇×の条件下で自律走行が可能」――という個別の条件が設定されているからこそそれが正しいかどうかを判断できるのだ。

しかし、こうした制限が設けられていない場合、つまりレベル5のケースでは、想定されるあらゆる条件下で安全に走行できる保証が必要となるが、常識的に現時点では不可能な領域と言える。各州の法律をはじめ、米国としての明確なルール作りも間に合わない。レベル5は時期尚早過ぎるのだ。

自動運転サービス実装には戦略の転換が必須に

また、当然だが現実問題としてそこまで技術も追い付いていない。テスラのFSDは現状レベル2に留まり、レベル3ですら未達の状況だ。

仮に、レベル5を見据えたうえでレベル3から許可を得て実装する場合、自動運転タクシーとしては成立しない。万が一に備えドライバーが同乗する必要があるためだ。走行対象エリアに定めがなければ、ドライバーレスを達成するハードルも格段に上がり、レベル4への道も開けない。

つまり、テスラが自動運転タクシーを早期実装するためには、許可取得上、自律走行可能な条件、特にエリアを明確に定める必要があるはずなのだ。

もちろん、マスク氏であれば「テキサス州全部」「カリフォルニア州全部」など宣言してもおかしくはない。こうした場合に当局はどのように対応するのか。また、ODDを明確にし、徐々に拡大していく方針にマスク氏が転換するのかなど、こうした点にも注目したい。

車両デザインや付加価値にも注目

車両のデザインや付随サービスなどにも注目したい。ハンドルなどを備えない自動運転専用設計であれば、その形状は従来の自家用車的なものである必要がなくなる。トヨタe-PaletteCruiseのOrigin、Zooxなどのように、車室空間にゆとりを持たせたボックス型がスタンダードとなりつつある。

しかし、型破りなテスラであれば、想像の斜め上を行く未知のデザインを用意しているかもしれない。ゆえに発表が延期された可能性もある。サイバートラック発表時を上回るインパクトで話題をかっさらうことになるか、こちらも要注目だ。

また、テスラであれば、ただ移動するためだけのサービスに留まらず、何らかの付加価値を提供する可能性も高い。

■【まとめ】テスラはゲームチェンジャーとなるか?

現時点でテスラが純粋な商用サービスとして自動運転タクシーに着手するのか、あるいは当初の計画通りオーナーカーを活用した新たなサービス形態を目指すのかは不明だ。

詳細は公式発表を待つほかないが、テスラの自動運転タクシー参入は、先行するWaymoらの脅威となり得るのだろうか。

一般的な商用サービス形態であれば、純粋に自動運転システムの能力と付加サービスの勝負となるかもしれない。これまではODD設定の相違など土俵そのものが大きく異なっていたが、推定レベル4で同じ舞台に立った場合、Waymoとテスラのどちらに軍配が上がるのか。先行するWaymoが有利であることは間違いないが、テスラの追い上げが気になるところだ。

また、オーナーカーによるサービス形態の場合、技術的な課題を度外視すればWaymoのみならず既存のタクシー事業者らを含むすべてのサービス事業者にとって脅威となる。技術的な問題さえクリアすれば、テスラオーナーの意向次第で世界各地でサービスが展開されることになるためだ。

このサービスがライドシェアに当たるのかタクシーに相当するのかなど、規制面で各国当局も対応を求められることになるだろう。

絶大な影響力を持つマスク氏が率いるテスラ。自動運転分野におけるゲームチェンジャーとなるか、その第一歩目に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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