ついに「空飛ぶクルマ」に改名論!ぱっと見「ヘリ」「ドローン」の声多数

万博での取り組み契機に疑問の声増加



出典:大阪府公開資料

2025年開催予定の大阪・関西万博で大々的にお披露目される予定の空飛ぶクルマ。万博までに実用域に到達すべく開発各社が取り組みを加速している真っ只中だ。

ただ、進捗としては余裕があるとは言えない状況のようだ。報道によると、開発陣の一社SkyDriveは万博で旅客運送は行わず、デモフライトにとどめる方針を明らかにしたという。各社の一挙一動に関心が集まるところだ。


また、このように空飛ぶクルマが話題になるたびにSNSを中心にトピック化されるのが「空飛ぶクルマ」という呼称をめぐる問題だ。機体が公開されるたび、「え?クルマじゃないじゃん!!」といった声が散見される。

この呼称問題は、遅かれ早かれ解決しなければならない日が訪れるのではないだろうか。空飛ぶクルマの最新動向に触れつつ、呼称問題について一考してみよう。

■空飛ぶクルマの呼称をめぐる問題

空飛ぶクルマは大型ドローン?

空飛ぶクルマは、現行の航空法上、固定された翼で揚力を得て飛行するものは「飛行機」、ヘリコプターのように回転翼により動力推進を得るものは「回転翼航空機」として整理されているが、素人的にはよくわからない。

誤解を承知で言えば、国内で導入予定の空飛ぶクルマは、すべてドローンを大型化したような形状に見えてしまうのだ。


総じて自動車を想起させるようなモデルではないため、一見した人から「なんでクルマ?」「地上も走行できるの?」「って言うかドローンじゃん」……といった声がもれ聞こえる。

なお、国土交通省はドローン(等)について、「飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの」と定めている。

多くの人がイメージする回転翼を3つ以上備えたドローンはあくまで一形態に過ぎないことを付記しておく。


万博契機に疑問の声が増加の一途

当初はこうした声が多かったが、最近では「だからクルマじゃないでしょ!!」的な突っ込みも多くなってきた。

近々では、吉村洋文大阪府知事の万博関連の投稿に対し、以下のような声が寄せられている。

「空飛ぶ車ってことは陸も走行可能で尚且つ空も飛べるってことですか?」
「どこが空飛ぶ車なんですか?空飛ぶヘリですよね?もしくはドローンですよね?車輪が無い車なんて車とは呼べない」
「分類上は航空機😑」
「陸は走れないが空は飛べる車にしてください」
「楽しみ、ですか? 何が笑えるって、ドローンの何処がどう「空飛ぶクルマ」なんすかね🤣🤣🤣」
「いい加減「空飛ぶクルマ」というのやめろよ。広辞苑の「くるま」の定義貼っておきます。車輪の回転によって動く仕掛けじゃないと「くるま」と呼べないようやで?仮にも知事を名乗るなら日本語は正しく使え。」
「車じゃないよ。ただのドローン。墜落したらどうするの?危険過ぎて乗れないでしょ?」
「まだ言うてる😂 車の定義を満たしてないのに「空飛ぶ車」😂😂😂😂 空飛ぶ車はどれ?😂😂😂」

万博がトラブル続きということもあってか、徐々に批判・非難じみた物言いが増えている印象だ。吉村知事が「空飛ぶクルマ」と命名したわけではないが、万博の顔役であり、情報発信力があることからある意味やり玉にあげられているようだ。

海外企業の「〇×カー」ネーミングが影響?

そもそもなぜ「空飛ぶクルマ」という通称が定着してしまったのか。少し歴史を紐解いてみよう。

空飛ぶクルマの開発は20世紀にすでに始まっているが、一ジャンルとして世界的に開発熱が高まったのは21世紀に入ってからだ。

eVTOL( electric Vertical Take-Off and Landing aircraft/電動垂直離着陸機)の注目が高まり、電動で垂直離着陸可能なモデルの開発が急伸し始めた。スタートアップも多く参戦し、遠隔操作や自律飛行機能など無人化技術に着目する企業も続々登場した。

開発モデルの多くは、クルマのような自由でパーソナルな移動を視野に入れていたため、開発各社は「フライングカー」や「エアカー」、「スカイカー」など独自の呼称を使用した。このほか、「Urban Air Mobility(アーバン・エア・モビリティ/UAM)」や「Advanced Air Mobility(アドバンスト・エア・モビリティ/AAM)」といった呼称もあり、海外の公的機関の多くはこうした語を使用しているようだ。

海外で思い思いの呼び方がされていたわけだが、日本勢がいざeVTOL開発を進めるとき、「eVTOL」や「UAM」「AAM」などの呼称を使用しても理解が広がりづらいのは明白だ。「〇×カー」という名称の方がキャッチーであり、どういったものを開発しているか想像しやすい。

ゆえに、「フライングカー」の日本語訳となる「空飛ぶクルマ」という表現の使用が始まり、広がっていったものと推測される。誰が最初に空飛ぶクルマと表現したかは定かではないが、SkyDriveの前身となるCARTIVATORなどは早い段階から空飛ぶクルマと表現していた。

なお、海外では空陸両用モデルの開発も一部で進められている。翼を内蔵し、滑走路で加速して飛び立つ非eVTOLモデルや、複数のローターを内蔵しており垂直離陸を可能とするモデルなどさまざまだ。

将来的には、こうしたモビリティを「空飛ぶクルマ」と呼称し、通常のeVTOLと区別すべきなのかもしれない。

v2VJD”>【最新版】CARTIVATOR(カーティベーター)が開発する「空飛ぶクルマ」とは? 実現いつ? 誰が運営?

自由で気軽な移動が背景に?

日本国内に話を戻す。一つ言えることは、空飛ぶクルマという名称を最初に持ち出した人も、現在その言葉を通称として用いている官民団体・企業も、空飛ぶクルマが自動車の一種とは思っていない。

陸地における自動車のように、空を自由かつ気軽に移動することができるモビリティという意味を込めて空飛ぶクルマと呼んでいるだけだ。「車輪がどうの~」「陸上走行がどうの~」といった定義の類は端から関係がないのだ。

こういった意向は説明されずとも理解できる。それゆえモビリティ業界関係者から「名称がおかしい!!」とする声は上がらなかった。

万博反対派が空飛ぶクルマにも噛みついた?

しかし、万博をきっかけに状況が変わってきた。空飛ぶクルマが、予備知識を一切持たない一般の方の目耳に触れる機会が一気に増え始めたのだ。

開発動向や背景を知らない人が「空飛ぶクルマ」と聞いて、「陸上走行するクルマが空も飛べる」モビリティを想像することはおかしくない。むしろ当然だ。そして、羽が生えた自動車を思い浮かべた人がドローンのような姿をしたeVTOLを見て「……え!?」となるのも仕方のないことだろう。

本来、こうした先入観のようなものに基づく印象の差異を気にする必要はないが、空飛ぶクルマの場合、何とも言えない残念感のようなものが漂う。想像していたモビリティとの落差を感じてしまうのだ。これは、空飛ぶクルマのイメージダウンにつながりかねない。

言い難いことにも言及すると、万博反対派のやり玉にあがることで必要以上のイメージダウンが図られる懸念もある。根強い万博反対派の中には、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」層が一定数存在し、叩くことができる情報を見つけてはけなす行為を続けている。万博の目玉の一つに数えられている空飛ぶクルマも当然のようにやり玉にあげられている。

そのうち、万博中立派や賛成派の中にもこうした過剰反応につられてしまう人が出てくる。「空飛ぶクルマはクルマじゃない」的な論が徐々に「空飛ぶクルマは期待外れ」的なイメージにすり替えられ、漠然とマイナスイメージが形成されていく恐れがあるのだ。

こうした印象が一般化する前に、空飛ぶクルマという呼称を改め、今一度eVTOLがどのようなものかその機能やロードマップとともに周知し直すのも一手ではないだろうか。

AAMは総称?……愛称公募してみては?

では、どのような呼称が最適なのか。「空の移動革命に向けた官民協議会」では、2023年3月に発表した「空飛ぶクルマの運用概念 Concept of Operations for Advanced Air Mobility (ConOps for AAM)概要案」の中で、空飛ぶクルマを「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」と説明・定義している。

その上で、諸外国では「Advanced Air Mobility(AAM)」や「Urban Air Mobility(UAM)」と呼ばれることが多いため、国際協調の観点から同文書の中では空飛ぶクルマを「AAM」と呼ぶこととしている。

また、AAMのうち主に都市部で行われる短距離・低高度のAAM運航を「Urban Air Mobility(UAM)」、より長距離を飛行するAAM運航を「Regional Air Mobility(RAM)」と分類している。

これを踏まえると、AAMが最も適切に感じられる。ただ、eVTOL同様AAMやUAMでは意味が分かりにくい。

AAMを日本語に訳すと「高度なエアモビリティ」「先進エアモビリティ」といった感じだ。意味合いとしては問題ないが、漠然とし過ぎているような気がする。通称と言うよりただの総称になってしまう。

AAMはあくまでこれら次世代エアモビリティの総称と位置づけ、その上で目下のeVTOLに対しキャッチーな愛称を考えた方が良さそうだ。

社会受容性向上を目的に、国土交通省か経済産業省あたりが公的に愛称を募集してみてはどうだろうか。

【参考】AAMについては「UAM・AAMとは?空飛ぶクルマの略称表記解説」も参照。

UAM・AAMとは?空飛ぶクルマの略称表記解説(2023年最新版)

■空飛ぶクルマ関連の最新動向

SkyDriveはデモフライトに切り替え、他3陣営は今のところ変更なし

近々では、冒頭で触れたようにSkyDriveが万博で旅客運送を行わず、デモフライトにとどめる方針を明らかにしたことが報じられた。

このニュースを受け、SNSではさっそく「吉村知事、客を乗せないなら「空飛ぶクルマ」じゃなくて、単なるドローンだな? ↓進次郎、アンタの頭が空を飛んでいる!万博」――といった揶揄も投稿されている。

ただし、万博での飛行を予定しているのはSkyDriveだけではない。ANAホールディングス×米Joby Aviation、日本航空×独Volocopter、丸紅×英Vertical Aerospaceの計4陣営が運航事業者に選ばれている。SkyDrive以外の3陣営は今のところ大きく計画を変更するようなアナウンスを発していない。

当初計画では、離発着地点となるバーティポートを会場近傍の湾岸エリアや関西国際空港、大阪都心部などに設置することとしているが、最終的にどこに設置されるかはまだ決定していない。飛行ルートも気になるところだ。

空飛ぶクルマ運航時の交通管理に関しては、万博限定の交通管理ルールを策定し、飛行計画の調整や情報提供・共有などを行っていく方針だ。

■【まとめ】愛称公募してみては?

社会受容性の観点から、空飛ぶクルマ(仮称)の呼称問題は早期解決すべき……という結論に達した。正式名称(総称)のAAMやeVTOLといったものとは別に、愛称があると馴染みやすさが生まれる。これといったアイデアがなければ、公募しても良いのではないだろうか。

万博関連では、世界が注目する晴れ舞台で空飛ぶクルマ(仮称)がしっかりと飛行・運航されることを望みたい。技術開発面や運航体制、運航ルールなどまだまだ課題が多いものと思われるが、関係者にはいっそう力を発揮していただきたいところだ。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?日本や世界の開発企業・実用化状況は?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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