トヨタの純利益4兆円、「自動運転時代」に向けたグループ解体・再編の原資に?

好調の今こそ、CASE時代見据えた組織改編を



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

トヨタ自動車は、2024年3月期第3四半期決算を発表した。4~12月の3四半期における営業利益は4兆2,402億円となり、過去最高を記録した。通期見通しでは、ダイハツの出荷停止を受け前回の見通しから販売台数の減少を予想しているものの、営業収益は4兆9,000億円へ上方修正するなど、記録的な1年となりそうだ。

為替変動などの影響も大きいが、グループで年間1,000万台超を販売し、4兆円の利益をはじき出すその経営手腕は敬服の念に堪えない。


これまで歩んできた戦略・路線が正しかった証左と言えるが、いずれ社会が自動運転時代を迎えることは確実である中、好調の今だからこそ行うべき変革もあるはずだ。グループ内で相次ぐ不祥事の対応とともに、自動運転時代に向けた組織改編を行うことでトヨタが目指すモビリティカンパニーへの道が開かれる。

4兆円という純利益を原資に、グループの解体・再編による変革は起きるのか。トヨタの現況を参照しながら、モビリティ業界における変革の必要性に触れていく。

■トヨタグループの概要
トヨタグループは700社超で構成

トヨタグループは、本丸となるトヨタ自動車を筆頭に、世界トップクラスのティア1サプライヤーデンソーをはじめ、源流に位置付けられる豊田自動織機、豊田通商、ジェイテクト、アイシン、愛知製鋼、豊田中央研究所などビッグネームがずらりと並ぶ。

国内自動車メーカーのダイハツ工業、日野自動車もトヨタの子会社だ。スバルも議決権20%を保有する持分法適用関連会社となっている。


このほかにも、愛三工業や豊田鉄工、東海理化電機製作所、小糸製作所などトヨタを筆頭株主とする企業群は非常に多い。金融系ではトヨタファイナンシャルサービス、情報通信系ではトヨタコネクティッドやトヨタシステムズ、トヨタマップマスター、研究開発を司るウーブン・バイ・トヨタ、サービス系のトヨタモビリティサービスやKINTOなど、その数は膨大だ。

さらに、豊田自動織機やデンソー、豊田通商、アイシンなど各社はそれぞれグループを形成し、自社事業を推進している。

2023年3月期の有価証券報告書によると、子会社569社、関連会社・共同支配企業168社の計737社がグループに名を連ねている。その数は年ごとに増減しているが、おおむね700~850社で推移しているようだ。裾野は非常に広大かつ多岐に及んでいるのだ。

出典:トヨタプレスリリース
グループ全体の統治体制が重要に

トヨタグループという山は非常に高く大きく育ち、世界に誇るべき日本を代表する山となったことは誰もが認めるところだろう。最高峰のトヨタを筆頭に、デンソーなど各社が複数の峰を形成しているイメージだ。


ただ、山が大きくなればなるほど、山頂から全ての裾野を望みにくくなる。山頂に位置するトヨタが、関連する全ての企業の経営状況や内情を把握するのは困難となるのだ。ともすれば、トヨタを真下で支える八合目、九合目に位置する企業の内情を把握することも難しくなる。

ダイハツや日野、豊田自動織機における不正はまさにこの八、九合目での出来事だ。一定の独立性や信頼性が成立しているからこそ監視の目は緩くなり、問題発覚時には大規模事案と化してしまうのだろう。

山が大きくなり過ぎれば、そのどこかで崩落が起こる可能性も必然的に高くなる。グループ全体のガバナンス・統治体制を見直し、場合によっては重要な峰であってもしっかりとメスを入れなければならない。これはトヨタに限ったことではないだろう。

変革迫られるCASE時代が到来

さて、百年に一度の大変革期と言われるCASE時代においては、注力すべき事業領域が多岐に及ぶ。各社がこれまで従事していた事業領域が今後も通用するとは限らず、各社がそれぞれ山の形を変化させていかなければならない時代が到来した。

【自動運転ラボの視点】
ちなみにCASEとは「コネクテッド」「自動運転」「電動化」「サービス/シェアリング」の4つを示す造語で、このうち自動運転以外の3要素はすでに商用展開のまっただ中にいるが、いずれ自動運転技術が本格的に普及する時代もやってくる。だからこそ、いまのうちから自動運転時代を見据えた取り組みを強化しておくことが、各社の将来において非常に重要になってくる。

EV(電気自動車)分野では、米テスラ中国BYDを筆頭とする新たな勢力が台頭し、大きな山を築き上げた。自動運転分野では、グーグル系Waymoや中国の百度をはじめとする新興勢が各地で地殻変動を巻き起こしている。

コネクテッドやサービス面では、他社とのパートナーシップなどで山を山脈化していく場面も多くみられるようになった。

業界地図の更新はすでに始まっており、自動運転開発企業を介する形で自動車メーカー同士が協業するような場面も散見される。テクノロジー企業の台頭も著しく、電子機器大手の台湾フォックスコンのように、EV車両製造に向けた一大プロジェクトを立ち上げる例も出始めている。

世界的なEVブームは過呼吸気味で一息つきそうな感を受けるが、この潮流が完全に止まることはない。遅かれ早かれEV全盛の時代が到来するのだ。

エンジン車がいつまで主力を張れるのかは何とも言えない状況だが、10年、20年後には時代が一新されている可能性が高い。FCV(燃料電池車)にイノベーションが起こる可能性もある。

今まさにトヨタの業績を支える要素技術となっているハイブリッドシステムも、いずれ過去のものとなるのは必然だ。当然トヨタもBEVやFCVを含めた全方位で開発を進めており、2026年までにプラットフォームを一新した次世代BEVを発売する戦略だ。

エンジン車とモーター車の比率は徐々に拮抗し、そしてモーター車が主流となる時代が到来する。その過程で淘汰される企業もあれば、頭角を現す企業も出てくるだろう。

出典:トヨタ自動車プレスリリース

自動車のコンピューター化も著しい。制御系統をはじめ自動車の多くの部分にECUが搭載され、電子制御される時代が到来した。

ソフトウェアの更新により自動車の性能・機能を変更することができるソフトウェア・デファインド・ビークルが今後主流となることは間違いない。従来のアナログ的・機械的な自動車がコンピューター化していくのだ。

こうした変化は一気に起こるものではないが、ある時をきっかけに急加速することは多々ある。バッテリー容量や充電技術、モバイル通信技術などにおいてイノベーションと呼ぶべき進展があった場合、各社は戦略を捻じ曲げてでも開発と実装を加速する。

自動運転領域、取り組みの遅れは致命的リスク

自動運転技術も同様だ。現在は自家用車におけるレベル3もサービス分野におけるレベル4も3歩進んで2歩下がるような状況が続いているが、現行技術と一線を画すようなAI(人工知能)による画像認識や判断技術、高速処理を実現するSoCの登場などにより、状況が一変する可能性は十分考えられる。

遅かれ早かれ業界が迎えることになるターニングポイントを見定め、それに向け早い段階から準備を進めておかなければ将来致命的なリスクとなって降りかかってくる。CASE関連は、こうした変革の要素がとにかく多い。ゆえに100年に一度の大変革の時代と言われるのだろう。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

旧態依然の体制から脱却を

CASE時代に備えるためには、開発から製造・生産現場に至るまで、あらゆる面で旧態依然とした体制から脱却し、組織全体をブラッシュアップしていくことが求められる。

トヨタも然りだ。CASE時代に向け組織全体を見直すタイミングが訪れた感が強い。ウーブン・バイ・トヨタに代表される先端技術の研究を進める部門の在り方をはじめ、トヨタ本体内部の体制、側近的主要各社との関係、裾野企業に至る全ての在り方を見直すべき時が来ているのではないか。

どんなに巨大で一枚岩に見えても、組織のメンテナンスを怠れば綻びが出てくる。営業利益4兆円の裏ではさまざまな不正が――と言われるのは本望ではないはずだが、こうした闇の部分を抱えている関連企業がほかにも存在する可能性は否定できない。

好調の今だからこそ改革を断行すべし

グループを統括・統制するようなガバナンスやマネジメントは大変だろうが、一度グループを解体・再編するくらいの気構えで見直しを進めてはどうか。本業が好調な今だからこそ改革を断行すべきではないか。

あわせて先進モビリティにおける開発領域なども整理し、CASE時代・自動運転時代に対応した組織に作り替える好機とすることで、トヨタはまだまだ成長を遂げられるだろう。

豊田章男会長、佐藤恒治社長は果たしてどのような対策で今回の山を切り抜け、そしてさらなる高みを目指すのか。その動向に注目が集まるところだ。

■トヨタの業績
営業利益の通期見通し4.9兆円、不正問題の次期への影響は不透明

2024年3月期第3四半期決算は、9カ月累計の営業収益が前年同期比23.9%増の34兆227億円、営業利益は同102%増の4.24兆円とほぼ倍増した。営業利益の通期見通しは、当初計画の3兆円から上方修正が続き、過去最高を更新する4.90兆円を見込む。

出典:トヨタIR資料
出典:トヨタIR資料

資材高騰の影響により650億円の減益となった一方、為替変動の影響により3,800億円の増益となった。営業面では、ハイブリッド車を中心とした販売台数増加や高収益車種の好調などにより1兆9,900億円の増益となっている。

半導体需給の改善や生産性の向上、為替変動など、外部要因や収益構造改善に向けた取り組みがしっかりと身を結んでいる印象で、利益率も11%を超えている。

4~12月の連結販売台数は前年同期比11.2%増の729万5,000台で、グループ総販売台数は同8.6%増の856万4,000台となった。

通期見通しでは、ダイハツと豊田自動織機の出荷停止の影響を織り込み、連結販売台数は前年同期比1.6%減の945万台、グループ総販売台数は同1.3%減の1,123万台を見込んでいる。ダイハツの出荷停止の影響が大きく、トヨタ・レクサス車は前回据え置きとなっている。

ダイハツや豊田自動織機の影響がどこまで長引くかは不透明な状況で、2025年3月期に影響を及ぼす可能性は否定できないところだ。

■【まとめ】自動運転時代に向け、大規模な改革を

社長在職時にさまざまな改革を断行した章男氏だが、トヨタという巨大な山の内面を含め全てを把握するには至らなかったと言える。章男氏としては悔やんでも悔やみきれないところだろう。

会長職となった今、改めて佐藤新社長とともに全体を統括すべく奔走する姿が目に浮かぶのは筆者だけではないはずだ。グループ再編も含む大規模な改革を進め、モビリティカンパニーの礎を築いてほしい。

【参考】トヨタの組織改革については「拝啓トヨタ 豊田章男会長。不正問題は自動運転強化の好機です」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事