拝啓トヨタ 豊田章男会長。不正問題は自動運転強化の好機です

モビリティー・カンパニーへの進化のきっかけに



出典:トヨタプレスリリース

拝啓トヨタ様。2023年のグループ別新車グローバル販売台数が4年連続で世界一となりましたこと、心よりお祝い申し上げます。

半導体供給の回復や為替変動、資材高騰、紛争などさまざまな要因の影響を受けつつも、グループが一丸となって競争力強化に努めてきたことが結果に結びついているのでしょう。







一方で、2022年に日野自動車によるエンジン認証の不正、2023年にダイハツの長期間にわたる認証試験の不正、豊田自動織機の排出ガス性能に関する国内認証における法規違反――と、グループのコンプライアンスが疑われるような事案が相次いで発覚しました。

日野、ダイハツという自動車メーカーに加え、トヨタグループの源流でもある豊田自動織機における不正は、グループの根幹を揺るがすことになりかねません。

こうした事態を受け、御社の豊田章男会長は当初予定を早め、グループが進むべき方向を示したビジョンを発表しましたね。豊田会長の前線復帰的なムードとなっているますが、このことは自動運転事業の強化につながる好機かもしれません。

■その手腕はお世辞抜きで称賛に値するもの
出典:トヨタプレスリリース

章男様は、「トヨタグループ全体の責任者は私」とし、「私がやるべきことは、グループが進むべき方向を示し、次世代が迷ったときに立ち戻る場所をつくること。すなわち、グループとしてのビジョンを掲げることだと考えた」とおっしゃいました。

また、グループ17社の株主総会全てに出席し、「一度株主の立場として、それぞれの会社を見て勉強させていただく」といった意向も示されました。

章男様は、トヨタ自動車の社長職を2023年に降り、役職上経営トップながら第一線を退くような形で会長職に就任致しましたが、改めて前線に復帰し、グループを総括する立場で陣頭指揮をとるべきときなのかもしれません。

思えば、章男様がトヨタ自動車の社長に就任した時は、リーマンショックの影響で初めて赤字に転落したタイミングでした。その後も大規模リコールが追い打ちをかけるなど、混迷を極めた時期でした。

あれから14年。おごることなく経営環境や開発・生産体制などをしっかりと見つめ直し続け、世界トップのグループとしての地位を再び確立されました。その手腕はお世辞抜きで称賛に値するものと思います。

■新社長がトヨタ単体の運営に集中するためにも
出典:トヨタプレスリリース

バトンを引き継いだ佐藤恒治社長も、章男会長の思いやビジョンを引き継ぎ、しっかりとかじ取りを行ってくれるものと思います。

あえて懸念を挙げるとすれば、グループの統括面ではないでしょうか。エンジニア畑の佐藤社長は、さまざまな開発現場が抱える課題を的確に把握し、解決に導く能力に長けているものと推測しますが、各社の経営状況や置かれた立場を総合的に勘案し、全体の企業価値を最大化しつつも管理監督していくグループガバナンスの手腕については未知数です。

まだ社長に就任されたばかりで、新体制に移行したトヨタ自動車単体の運営に集中したい面もあるのではないでしょうか。

こうした状況下、グループ全体を統括できるのはやはり章男会長ではないでしょうか。章男会長が今一度グループ全体の手綱を握り、各社の実態をその目で見定めながら全体をリードしていくことが必要ではありませんか?

こうした体制の見直しは、管理面にとどまらず連携面を見直す上でも有用なことと思います。連携強化は、トヨタ様が目指すモビリティ・カンパニーへの転換に欠かせないものと存じます。

■見直しはCASE領域でも功を奏するのでは

また、こうした見直しは、自動運転をはじめとしたCASE領域でも功を奏するのではないでしょうか。CASE領域におきましては、従来の垂直統合型の組織では賄いきれない新たな開発領域が散在しています。

主要17社に加え、章男様が社長に就任した以後も、中国の開発拠点トヨタ自動車研究開発センター(現トヨタ知能電動車研究開発センター)や北米開発拠点のトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)、国内開発拠点のTRI-AD(現ウーブン・バイ・トヨタ)、モビリティサービスを担うKINTOなど、さまざまな組織が立ち上がり、次世代に向けた研究開発やサービスの実装を進めています。

こうした組織も、例えばトヨタ自動車研究開発センターが2023年、トヨタ知能電動車研究開発センターに改称するとともに、一汽トヨタや広汽トヨタなどのエンジニアを同社主導の開発プロジェクトに投入できるよう体制が変更されました。

国内における先端開発を担うTRI-ADは2021年、ウーブン・プラネット・ホールディングス、ウーブン・コア、ウーブン・アルファの新体制へ移行し、事業領域を超えた新たな価値創造に向けた取り組みを強化しました。

2023年にはウーブン・プラネット・ホールディングスの社名をウーブン・バイ・トヨタに変更し、さらには完全子会社化するなど体制強化を図っています。

時代の波に対応すべく、トヨタ様直下企業でさえ再編が著しく、その都度人事や開発領域なども変遷しているのではないでしょうか。

■そのような動きは主要17社も同様

こうした動きは、主要17社も同様です。デンソーは2017年、半導体IPの開発などを担うNSITEXE(エヌエスアイテクス)を設立しました。同社は2024年、デンソーの半導体基盤技術開発部に統合されるようですね。

2019年には、ジェイテクトなど4社で自動運転・車両運動制御に向けた統合制御ソフトウェアを開発する合弁J-QuAD DYNAMICS(ジェイクワッド ダイナミクス)を設立しました。

同年には、トヨタ様との共同出資のもと次世代車載半導体の研究開発を担うMIRISE Technologies(ミライズテクノロジーズ)も設立されました。ミライズ以外は間接的な関わりとなりますが、開発体制はどんどん変化しているように感じます。

このほかにも、トヨタ様とデンソーは次世代半導体の国産化を目指すRapidus(ラピダス)にも出資されております。こうした出資やパートナーシップもCASE領域では大きく拡大しています。

■役職を超えた実績とカリスマ性を持つ人材が必要

自動運転関連では、中国Pony.aiや米国のMay Mobility、Aurora Innovationなどと懇意にされていることと存じます。こうした各社への日常的な対応はおそらく中国法人や米国法人などが担っていることと推測しますが、このようなパートナーの動向をトヨタ様はどこまで把握されておりますか?

CASE領域におきましては、外部のパートナー企業を含め非常に複雑な関係があちらこちらで形成され、かつ変化し続けます。

トヨタ様の規模でその全てを網羅するのは非常に困難なことと想像しますが、新たなチャレンジとなるCASE領域では、こうした各社の連携の密度や広さが重要性を増していくことになるものと思います。

組織が複雑になればなるほど、縦割りの問題なども表面化することでしょう。例えば、トヨタ本体における開発とウーブンにおける開発が重複するようなケースはありませんでしたか?ウーブンとデンソーではどうですか?関連企業全体を把握・統括するには、役職を超えた実績とカリスマ性を持つ人材が必要となります。

この重責を担うことができるのは、章男様以外にいないのではないでしょうか。章男様が改めてグループの最前線に立つことで、各社のガバナンス面の把握・管理はもちろんのこと、大局に立ってグループ全体の動きを把握し、効果的な連携を図っていくことができるものと思います。

連携の成果は、自動運転をはじめとした次世代領域に必ず表れてくるものと信じています。ホンダをはじめとしたライバルが攻勢をかける中、どっしりと構えて機が熟するのを待つばかりではその差は開く一方です。差が開き過ぎれば、トヨタ様といえども巻き返しは容易ではありません。

これを機に章男様が改めてリーダーシップを発揮し、佐藤社長との2枚看板でグループ全体を押し上げてみてはいかがでしょうか。

敬具

【参考】ウーブン・バイ・トヨタの動向については「トヨタ章男氏、ウーブン株の売却リターン「たった2%」の1億円 企業価値低迷か」も参照。

■トヨタの自動運転に関する動向

・・・というように、トヨタへの応援メッセージを自動運転ラボの視点で書かせて頂いた。不正問題に揺れるトヨタではあるが、このことはある意味、先進モビリティ分野で事業を加速させるためには、好機なのかもしれない。

ここからは改めてトヨタの自動運転関連の動向を振り返っていこう。

足元を見つめ直すきっかけに

日野やダイハツ、豊田自動織機における認証不正の要因が、トヨタグループにあるかどうかは不明だ。ただ、各社が業績に対するプレッシャーを感じていたのは間違いなく、現場の余裕は次第に失われていったのではないだろうか。

3社とも、グループの一員として既存事業を進める一方、各社の規模が大き過ぎるため必然的に自律性を養い、良くも悪くもそれぞれがリーダーシップを発揮できる境地に達していたとも言える。トヨタ本体が介することなく経営できる環境だ。

トヨタが口をはさみ過ぎるのも問題だが、自由度が増すほどグループの社風が薄れ、ガバナンスが崩壊しても経営陣が気付きにくい環境が構築されていく。そんなことはなかったのだろうか。

強固な垂直統合型で世界トップクラスの自動車メーカーとしての地位を築き上げたトヨタ。今回の事案は足元を見つめ直すきっかけとして捉え、揺るぎかけた地盤を改めて踏み固め組織の改善を図ってもらいたいところだ。

最先端テクノロジーが求められるCASE領域

さて、ここからが本題だ。自動運転をはじめとしたCASE領域ではソフトウェア開発の重要性が増し、既存の体制では最先端を走ることが容易ではなくなってきている。

各社がソフトウェア開発を担う新会社を立ち上げ、グループにおける開発力強化を進めているものの、対応しきれず試行錯誤を重ねているのが現状ではないだろうか。

自動運転やAI(人工知能)開発領域では、台頭するスタートアップの買収やパートナーシップなどさまざまな手法で開発能力を高めようとする取り組みも珍しくない。

トヨタの場合、AI開発に向けては2014年に国内有力スタートアップのPreferred Networksと手を結び、共同研究を開始している。翌年には、モビリティ事業分野におけるAI研究・開発に向け同社へ10億円を出資した。

2018年には、ビッグデータ分析などを手掛けるALBERTと自動運転技術の先行開発分野において業務提携し、4億円を出資すると発表した。

自動運転関連では、中国Pony.ai、Momenta、米May Mobility、Aurora Innovationとそれぞれパートナーシップを交わし、共同開発を進めている。

また、トヨタが出資する未来創生ファンドを通じて、ティアフォーやWHILL、フィーチャ、ArchiTek、エクスビジョンといった国内新興勢にも出資を行っている。

ウーブン・バイ・トヨタ関連では、自動車向けOSを開発するRenovo Motorsや高精度地図をはじめとした次世代道路情報解析技術を有するCARMERA、配車サービスLyftの自動運転部門Level 5をそれぞれ買収したほか、自動配送ロボット開発のNuro、自動運転車いすを開発するWHILL、フリート事業のDXやIoTオートメーションプラットフォーム開発を手掛けるRidecellに出資を行っている。

天下のトヨタといえども、これだけ多くの新興勢と手を結び、あるいは身内に収めて技術を吸収しているのだ。それだけ最新テクノロジーの進化はすさまじく、特にAI・ソフトウェア領域の重要性は増していると言える。

各社、各事業の連携強化がカギを握る

すでに多くの研究開発組織や部署を抱えるトヨタだが、さらに研究開発を担う組織やパートナーが増えている。中には当然同ジャンルで競合する開発を進めている組織もあるだろう。こういった重複する開発技術が競い合うように進化したりシンクロしたりするのであれば問題ないが、バラバラのまま研究開発を進めているとすれば非効率だ。

CASE領域では、こうした場面がますます増加していくことが予想される。だからこそ、今回の不祥事を契機にしっかりと主要17社を統制する体制を構築するとともに、各開発領域を組織横断的に精査・再編成し、効率的かつ効果的な開発環境を構築していってはどうか。

そして、こうした改革を実行する最適任者は章男会長にほかならないのでは――といった主旨だ。

【参考】トヨタの自動運転戦略については「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

■【まとめ】モビリティー・カンパニーへの進化のきっかけに……

組織が拡大すればするほど理念の徹底や統制管理は難しくなり、事業遂行を優先するがため問題点に目をつむる場面も増えるのだろうか。一度道を外せば、その後の歩みが長ければ長いほど元の道に戻るのに時間を要する。戻ることができない場合もそのうち出てくるだろう。

ガバナンス面での改革が求められるトヨタだが、事業面を含め組織全体を見直す契機とし、再編を進めていくのも良策と思われる。変革期を迎えた今、自動車メーカーグループからモビリティ・カンパニーへ転身するためにも、今一度章男氏に辣腕をふるってもらうのも良いのではないだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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