国土交通省航空局はこのほど、空飛ぶクルマの離着陸場となるバーティポートの整備指針を発表した。国際基準が規格化されるまでの暫定的ガイダンスとして、国内開発・整備を推進する狙いだ。
大阪・関西万博を旗印に実用化に向けた取り組みが進められている空飛ぶクルマ。機体の開発同様、重要インフラとして早急な整備が求められるバーティポートに関する指針を見ていこう。
▼バーティポート整備指針
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001711020.pdf
▼「バーティポート整備指針」の制定及び「地方航空局における場外離着陸許可の事務処理基準」等の一部改正について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000259346
記事の目次
■バーティポートの整備指針
暫定的指針で早期整備を加速
バーティポートは、航空法施行規則第75条に規定される陸上ヘリポートのうち、垂直離着陸が可能なVTOL機専用のものを指す。いわば、空飛ぶクルマ専用の離着陸場だ。
高い安全性などが求められるバーティポートの整備にあたっては、国内基準を制定する必要があるが、準拠すべき国際基準の規格化は2028年ごろが見込まれているという。2025年開催予定の大阪・関西万博を皮切りに実用化・サービス化を目指す日本としては、整備検討に向け暫定的なガイダンスを策定する必要がある。
そのため、国交省は現時点で公表されている欧米のバーティポートに関する技術ガイダンスを参考に、離着陸場ワーキンググループにおける民間側からの意見を踏まえ、空の移動革命に向けた官民協議会に設置した離着陸場ワーキンググループにおける民間側からの意見を踏まえ、パイロットが操縦し有視界飛行方式(VFR)で運用される陸上バーティポートを対象とした整備指針を取りまとめた。
正式な国内基準が制定されるまでの暫定ガイダンスとして、バーティポート施設の整備に関する基本的な考え方や留意事項を示している。今後、海外動向や空飛ぶクルマの機体開発などの進展に伴い、適宜改正を重ねていく方針だ。
各施設に求められるべき規格などの考え方を整理
指針では、バーティポートをはじめFATOやTLOF、VTOL機など各用語の定義や、各施設に求められる規格・制限表面などに関する考え方や留意事項などが示されている。以下、要点を解説していく。
■バーティポートの施設
バーティポートを地上と高架の2種に分類
バーティポートは、VTOL機の到着や出発、地上移動などを目的に使用される陸上の一定の区域で、空港などのうちVTOL機専用の陸上ヘリポートを指す。
陸上バーティポートには、地上バーティポートと高架バーティポートがある。高架バーティポートは建物の屋上やその他の地表面を基礎とした立体構築物上にあるものを指し、それ以外は地上バーティポートにあたる。水域を埋め立てなどによって建造したものも地上バーティポートに含まれる。
FATOなどの各施設が必須
バーティポートには、FATO、TLOF、Safety Area、Protected Side Slope、標識施設のうちFATO標識及び風向指示器、消火救難施設の各施設を1つ以上整備することが必要としている。各用語については後述する。
また、バーティポートの立地条件や制約条件、運用方法などにより、スタンドやスタンド保護エリア、誘導路、誘導路帯、その他の標識施設、灯火施設、脱落防止施設、充電設備、その他排水施設や場周柵、道路・駐車場などの整備も考えられる。
各施設は、VTOL機のダウンウォッシュやブラストの影響を考慮した配置とする。高架バーティポートは、安全柵などの脱落防止施設が必要となる。
立地条件は、原則として出発経路や進入経路、場周飛行経路において飛行中のVTOL機の動力装置のみが停止した場合に地上や水上の人、または物件に危険を及ぼすことなく着陸する場所を確保できることが求められている。
FATO
FATOは「Final Approach and Take-Off area」の略で、VTOL機が着陸するための最終進入から接地、またはホバリングへの移行と接地、ホバリング状態から離陸へ移行するために設けられる区域を指す。
バーティポートには最低1つのFATOの設置が不可欠で、舗装などを施し、障害物のない領域を確保すべきとしている。周囲にはSA(セーフティエリア)を配置する。
使用が想定されるVTOL機の着陸やホバリングへの最終進入、離陸開始において、安全運航を確保するために十分な形状や強度、表面を有することとしている。
形状は矩形(四辺形)、円形問わず、VTOL機の飛行規程の寸法または1.5D値(水平面上でVTOL機の投影面を包括する最小円の直径)のどちらか大きい方の値以上とする。表面は、ダウンウォッシュ(ローターやプロペラが高速回転した際に周辺に発生する風圧)の影響を受けにくく、雨水に対する排水性を有することとしている。
高架バーティポートの場合、建築条件などを十分に考慮し、建築基準法や消防法などに適合する安全な構造とすることが求められる。
構築物の屋上付近は乱気流が発生する場合があるため、FATO及びTLOFは、屋上床との間に空間を設けて空気の流通するプラットフォーム方式の構造とすることが望ましく、プラットフォームの嵩上げ高は風況などの環境条件を考慮して設定する必要があるとしている。
ダウンウォッシュなどによる周辺環境への影響を十分考慮する必要があり、影響が懸念される場合はSAの拡張やブラストフェンスの設置といった対策を講じる。影響評価は、無風状態で地上から1メートルの高さでホバリングした際に測定される風速に基づいて評価する。
影響は、バーティポート内の乗客や乗員、バーティポートに隣接する公共エリアの人や車両、エプロン内に配置される機材などを対象に評価する。高架バーティポートの場合、ダウンウォッシュが下方で水平方向へ広域に影響する場合があることに留意する。
SA(セーフティエリア)
SA(セーフティエリア)は、FATOからの逸脱によるVTOL機の損傷を軽減するために設けられる区域を指す。
障害物のない領域を確保し、FATOと連続した同一平面上とする。SAの幅は、FATOの縁から3メートルまたは0.25D値の大きい方の値以上とする。
PSS
PSSは「Protected Side Slope」の略で、離着陸時における横方向の不測の挙動に対処するため、離陸方向または着陸方向の側面の空間を保護する表面を指す。
転移表面を不要とする場合、バーティポートには少なくとも1つのPSSを設定する必要がある。
TLOF
TROFは「Touchdown and Lift-Off area」の略で、VTOL機の降着装置の接地または浮上(接地状態からホバリングへの移行)のために FATO 内またはスタンド内に設けられる区域を指す。バーティポートには、1施設以上のTLOFを設置する必要がある。
VTOL機が最終進入後と離陸開始前にFATO内で接地する場合は、FATO内にTLOFを配置する。VTOL機が誘導路上をホバリングで移動してスタンド内で接地する場合は、スタンドにTLOFを配置する。
強度は、使用が想定されるVTOL機の機体性能などを考慮して適切に設定することとし、設計荷重は使用が想定される最大VTOL機の最大離陸重量の1.5倍が2つの主脚に等分された荷重を考慮する。
TLOFを離陸時または浮上時のみに使用する場合は、静止時の荷重に耐える強度を有することとし、設計荷重は使用することが想定される最大VTOL機の最大離陸重量が2つの主脚に等分された荷重を考慮する。また、使用が想定される地上支援車両などの荷重が上記設計荷重を上回る場合は、地上支援車両等の荷重を設計荷重とする。
高架バーティポートにおけるFATO内のTLOFでは、緊急時の強制着陸において生じる衝撃に耐える強度を有することとし、設計荷重は使用が想定される最大VTOL機の最大離陸重量の2.5倍が1つの主脚のみに集中する荷重を考慮する。
誘導路及び誘導路帯
誘導路は、VTOL機の地上走行やホバリングなどによる移動のために設ける区域を指し、誘導路帯は、誘導路の区域と誘導路からの逸脱によるVTOL機の損傷を軽減するために設ける区域を指す。
VTOL機がFATOからスタンドまでホバリングやGSE(トーイングカー)による牽引などによって移動する場合においても、安全性の観点から誘導路を設置することを標準とする。誘導路帯は障害物のない領域を確保し、誘導路と連続した同一平面上とする。
エプロンとスタンド
エプロンは、VTOL機への旅客や貨物の積み卸し、充電、駐留または整備のために設ける区域を指す。スタンドは、エプロン上に定められたVTOL機の駐機に使用するための区域を指す(駐機場)。
スタンドをD値に基づく形状とする場合、スタンドの周囲にはスタンド保護エリアを配置する必要がある。使用が想定されるVTOL機の寸法や性能、運用方法を考慮した上で、直径1.2D値の円以上の寸法、または機体寸法に基づき所定のクリアランスを設ける。
標識施設
標識施設は、標識または標示物によってVTOL機の航行を援助するための施設を指す。VTOL機がFATOや誘導路、エプロン上を運航する際にパイロットに位置などの情報を与えるための施設で、その設計にあたっては形や色などによって標識であることが識別されやすいことや、遠距離から標識の存在や種類を認め判別し得ること、短時間で標識の標示内容を判別できることに留意しなければならない。
バーティポート名標識やFATO標識、TLOF標識、誘導路標識、エプロン標識、風向指示器などが想定されており、標識を設けることが困難なものについては省略してもよいこととしている。
灯火施設
夜間において運航するバーティポートには、安全運航を確保するため灯光によりVTOL機の航行を援助する灯火施設を設置する。
航行中のVTOL機にバーティポートの位置を示すためにバーティポートまたはその周辺の地域に設置するバーティポート灯台や、着陸しようとするVTOL機にその着陸の進入角の良否を示す進入角指示灯、バーティポートに誘導路を設ける場合に設置する誘導路灯、風向灯、FATO境界灯、TLOF境界灯・照明灯、利用可能な離着陸方向を示す飛行経路誘導灯、照準点灯、エプロン照明灯などが想定されている。
バーティポートの制限表面
バーティポート周辺には、VTOL機が安全に離着陸できるよう障害物を管理する表面(制限表面)を設定する。バーティポートの用地選定においては、バーティポート周辺の将来にわたる都市計画や支障となる高層建造物の現況を勘案することとしている。
また、VTOL機の離陸直後や最終着陸の際の直線飛行の安全を確保するために物件を制限する表面である進入表面についても、末端の高さがFATO高さより152.5メートルまで、投影面の長さは原則として1,220メートルとするなど、一定の指針を設けている。
離着陸時における水平方向への安全を確保するために物件を制限する転移表面については、横方向への移動が計画される際に安全のため設定することとされている。
脱落防止施設
高架バーティポートを設置する場合は、VTOL機の脱落や人の転落を防止するため、脱落防止施設を設置することとしている。
■【まとめ】開発各社の動向に注目
バーティポートの開発面では、英Urban Air PortやSkyportsなどを中心に新規参入が相次いでおり、日本でもUrban Air Portとブルーイノベーション、Skyportsと兼松、パーク24、あいおいニッセイ同和損保がそれぞれパートナーシップを交わすなど動きが出ている。さらなる新規参入もありそうだ。
今後、各社がどのような運航を視野にどのエリアにバーティポートを設置するのか、要注目だ。
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【参考】バーティポートについては「バーティポートとは?「空飛ぶクルマ」の離着陸場」も参照。