トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立

日本より先にビジネスが確立する可能性

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出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

自動運転開発スタートアップの中国Pony.aiは2023年8月4日、トヨタの中国統括企業と広汽トヨタとともに合弁を設立すると発表した。新会社がトヨタブランドのBEVをPony.aiに提供し、自動運転タクシーを量産化していく方針だ。

トヨタはPony.aiと合弁を介し、中国市場での自動運転ビジネスを徐々に本格化させていくことになる。場合によっては、本拠地である日本より先にビジネスが確立する可能性も十分考えられるだろう。

Pony.aiとの取り組み概要をはじめ、中国におけるトヨタの動向に迫っていく。

■Pony.aiとの取り組み概要
Pony.aiと中国トヨタ、広汽トヨタが合弁設立

合弁を設立するのは、Pony.aiとトヨタ自動車(中国)投資有限公司(TMCI)、広汽トヨタ自動車(GTMC)の3社だ。TMCIは中国事業を統括するトヨタの法人で、広汽トヨタは広州汽車集団(GAC)とトヨタの合弁だ。総投資額は10億元(約198億円)以上を見込んでいる。

3社は2023年中に新会社を立ち上げる。レベル4開発に適したトヨタの冗長システムを搭載したBEV(バッテリーEV/純電気自動車)をPony.aiに提供し、自動運転システム「PonyPilot+」を統合していく。

具体的には、GTMCが生産するトヨタブランドのBEVをベースに、プレ-トヨタの知的運転支援システム「T-Pilot」などを搭載するとともに、トヨタ生産方式のメリットやGTMCのサービス運営体制を最大限発揮し、Pony.aiの自動運転タクシー構築を強力にバックアップする。

TMCIは、電動化・知能化推進を中国に根付かせるための重要な施策として、新たに設立する合弁を通して高度な自動運転技術の大規模商用化を推進するほか、大衆化についても協議するという。

出典:Pony.aiプレスリリース
上田執行役員「中国での技術革新を実現するための重要な施策」

TMCI会長でトヨタの中国本部本部長を務める上田達郎執行役員は「中国の自動車市場は前例のないスピードで発展しており、電動化と知能化が新エネルギー車産業の発展方向となっている」 とし、Pony.aiとの自動運転タクシーの取り組みを「中国での技術革新を実現するための重要な施策」と位置付けている。

一方、Pony.aiの彭軍CEOは「自動運転技術は完全なシナリオ実装の段階に入っている」とし、「Pony.aiはこれまで自動運転分野でトヨタと良好な協力関係を築いてきた。トヨタ中国、広汽トヨタ、Pony.aiによる合弁は、自動運転タクシーの無人化・大規模・大量生産をリードする。安定した輸送能力を提供し、高度な自動運転の商用化と持続可能な開発を促進し、産業の発展を支援する新たなステージに入り中国社会に貢献する」と述べている。

■Pony.aiとトヨタの関係
レクサスやシエナに自動運転システム統合、フリートは計200台に

Pony.aiは中国において百度やWeRide、AutoXなどと並ぶ有力な自動運転開発企業だ。北京、広州、深セン、上海で自動運転タクシーを運行しており、このうち北京と広州では完全無人による自動運転走行の運行許可を取得している。車両のフリートは計200台に及ぶ。

ベース車両には自動車メーカー各社が採用されており、トヨタ関連ではレクサス「RX 450h」をはじめ、Autono-MaaSモデル「シエナ」も第6世代の自動運転システムが統合され、北京や広州で公道実証を進めているという。

その実力は折り紙付きで、トヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」が「中国のクルマ事情」の一環としてPony.ai製自動運転車を取り上げたほどだ。動画には、上田氏とトヨタイムズでキャスターを務める富川悠太氏がPony.aiの自動運転車に乗り込み、公道を円滑に走行する様子が収められている。

トヨタとPony.aiの提携は2019年に始まり、2020年までに4億ドル(約440億円)の出資も行われているが、これまでトヨタサイドからのプレスリリースでPony.aiに言及するものは基本的になかった。

開発面でどのような連携・協業を行っているのか不明で、「実はPony.ai向けに車両を提供するだけ?」――といった印象を持たれてもおかしくないほどだった。

しかし、トヨタイムズが取り上げたことで、改めてトヨタとPony.aiの関係に脚光が浴びせられる格好となった。具体性は乏しいものの、両社が開発面でもしっかりと連携していることが示されたのだ。

トヨタがこれまで培ってきたクルマづくりや自動運転に関する技術・経験が、Pony.aiの自動運転開発にしっかりと盛り込まれていることは確かだ。

【参考】トヨタイムズでの配信については「トヨタ出資先の自動運転AI、中国の「カオスな道路」ゆえの驚異的進化」も参照。

■日本と中国の自動運転事情
公道実証実績で大差、開発速度にも影響?

トヨタは、日本国内においては多目的用途の自動運転モビリティ「e-Palette」を活用した実証が徐々に増加し始めているものの、自社主体の継続的な公道実証はあまり行っていない印象が強い。そもそも、国内では中国や米国に比べ自動運転タクシー実用化に向けた取り組みそのものが活発ではないのだ。

米中では、各開発企業が数台から数十台規模のフリートで公道実証を連日重ねており、走行距離が数百万キロ 数千万キロに達した企業も少なくない。Pony.aiは2023年4月時点で走行距離が2,100万キロ超に達し、ドライバーアウトテストも100万キロを超えたという。

国内では自動運転バスの実証・実用化が主体となっており、ソフトバンク子会社のBOLDLYが茨城県境町などで定時運行(実質レベル2)を行うなど意欲的だ。その実績は国内トップクラスだが、BOLDLYでも累計走行距離は推計50~100万キロの範囲と思われる。その大半はセーフティドライバー付きだ。

これも立派な数字に違いないが、資金が潤沢で大きなフリートを有する米中スタートアップと比較すると、やはり埋めきれない差がある。

BOLDLYは自動運転システムそのものを開発しておらず、運行にまつわる各種サービスや課題解決を軸に据えた事業展開を行っているためあくまで参考となるが、一般的に公道実証による経験値は自動運転システムの向上と比例する。

本質的な実証環境に差はないはずだが、開発競争による空気感の違いだろうか。米中と日本では自動運転に対する企業の姿勢や周囲のバックアップなどに差があるのだろう。

■トヨタの自動運転戦略の考察
自動運転ビジネスは中国で先行?

さて、ここからが本題だ。では、日本の企業が国内で自動運転タクシーを早期実現するにはどうすればよいのか。そのヒントは、トヨタからもたらされるかもしれない。

トヨタの自動運転開発における公道実証は、日本国内よりおそらく米国内の方が盛んだ。米カリフォルニア州車両管理局(DMV)のデータを参照すると、2020年12月〜2021年11月の1年間で、同州内においてトヨタ系のToyota Research Institute(TRI)が公道実証を行った走行距離は2万2,465キロだ。

中国内におけるPony.aiに遠く及ばないばかりか、Pony.aiがカリフォルニア州で走行した距離49万キロにも大きな差を付けられている。

しかし、そのPony.aiと自動運転開発において密に連携しているとなれば、話は別だ。Pony.aiの実証成果はトヨタにもフィードバックされ、トヨタの糧となるためだ。

Pony.aiの自動運転システムに対する権利関係などは不明だが、トヨタも多くの経験を積み重ねていることに間違いはない。

その意味では、トヨタは中国法人とPony.aiを通じ、まず中国で自動運転タクシーをはじめとした自動運転ビジネスを模索・構築していると言える。中国で培った技術を同国内でまずは実用化し、Pony.aiを通じて、あるいは別個にサービス経験を積み重ねていく可能性が考えられる。

現時点における技術開発状況や社会受容性などを踏まえれば、中国の方がサービスインしやすい環境にありそうだ。

中国で培った技術を日本へ?

ただし、中国でのサービス化は現地企業との新たな合弁設立などが必須条件となるかもしれず、また政府の意向にその都度振り回される恐れもある。安定感を考慮すれば、中国に依存するわけにはいかないだろう。

それ故、中国で経験を重ねつつ、時期を見計らって日本国内に軸をシフトする手も考えられる。中国で培った技術やサービス経験を日本向けに修正し、一足飛びで日本でのサービス実装を推し進める戦略だ。

日本の道路環境や交通ルールに適合させる必要はあるものの、歩行者の急な飛び出しへの対応や周囲の走行車両への注意など、共通する部分は当然多い。

中国で育て、日本に持ち帰る――といった手法も「アリ」ではないだろうか。

■【まとめ】ガーディアンと他社システム併載で世界展開も?

こうした手法は、ホンダと米Cruiseの関係と類似する。ホンダは米GM、傘下のCruiseと自動運転分野で協業しており、Cruiseを中心にカリフォルニア州などで培った技術を日本に持ち寄り、国内でのサービス化に向け日本仕様への置き換えを進めている。

トヨタはPony.aiのほか、米Aurora InnovationやMay Mobilityなどとも手を結んでいる。将来、ガーディアン搭載車両に協力各社の自動運転システムを併載した自動運転車両を構築し、日本をはじめとした世界展開を一気に推し進める可能性も考えられそうだ。

【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダに米国から「自動運転車」届く 無人タクシー実現へ試験開始か」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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