配車やデリバリープラットフォーム事業を手掛ける米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)が、自動運転サービスの社会実装に本腰を入れている。最近では、最大2,000台の自動配送ロボットを導入する計画が発表された。
ライドシェアに代表される移動サービスやデリバリーサービスなどのマッチングプラットフォームとして世界最大規模を誇るUber。このプラットフォームを活用した自動運転サービスが本格化の兆しを見せているのだ。
Uberのサービスをめぐる自動運転の動向をもとに、今後の展望に迫ってみよう。
記事の目次
■Serve RoboticsがUberとのパートナーシップを拡大
最大2,000台のロボットを配備
今回Uberと新たな契約を交わしたのは、米スタートアップのServe Roboticsだ。同社はUber傘下のPostmatesから派生した自動配送ロボット開発企業で、2021年に独立した。資金調達シードラウンドでは、Uberや7-Venturesから出資を受けている。
2021年11月にUberと提携を交わし、2022年中にもオンデマンドロボット配達サービスを開始すると発表した。2022年初頭には、半導体大手の米NVIDIAのAIプラットフォーム 「NVIDIA Jetson」を活用し、米OusterのLiDARを搭載したレベル4ロボットの商用化を発表している。
同年5月にUberのプラットフォーム上でのサービスを開始し、ロサンゼルスの一部地域でUber Eatsアプリからの注文をServe Roboticsのロボットが配達する取り組みがスタートした。
ロボット配送を選択した顧客は、アプリ上でロボットの動向を追跡することができ、アプリを使用してロボットのロックを開いて商品を取り出す仕組みだ。
一年が経過した2023年5月には、Uberとのパートナーシップを拡大し、同社のプラットフォーム上に最大2,000台のロボットを配備する計画を発表した。現在、ロサンゼルスの200軒超のレストランが利用可能で、利用者からは数千件に上る肯定的評価が寄せられているという。
このパートナーシップの拡大で、UberとServe Roboticsは全米の複数の都市でロボット導入を図っていく計画だ。
【参考】UberとServe Roboticsの取り組みについては「Uberなどが大口顧客に!?自動配送ロボ開発Serve Roboticsの有望性」も参照。
■Uber×自動運転の取り組み
自動運転の自社開発は断念、他社との協業に注力
かつては自らが積極的に自動運転開発を進めていたUber。開発部門Uber Advanced Technologies Group(ATG)を米Aurora Innovationに売却し、自社開発は断念した様子だが、その後は開発各社とパートナーシップを結ぶなど、依然として自動運転サービス実用化に向けた取り組みに力を入れている。
【参考】自動運転開発部門の売却については「Uber、自動運転技術の自社開発を断念!?技術開発部門の売却へ交渉」も参照。
MotinalがUberに急接近
Uberは2021年12月、自動運転開発を手掛ける韓国ヒョンデと米Aptivの合弁Motionalと提携を結んだ。Motionalのレベル4自動運転車で配達を行う計画で、2022年中にカリフォルニア州サンタモニカでサービスを開始すると発表している。
その後、2022年5月に試験運用を開始したようだ。ロボット同様、アプリを介して車両のドアロックを解除し、後部座席に乗せられた商品を受け取る仕組みだ。
同年10月には、自動運転タクシーサービス導入に向けた契約も交わした。ネバダ州ラスベガスを皮切りにサービスを開始する計画だ。Motionalは、前身のAptiv時代からLyftとのパートナーシップのもとラスベガスで実証を重ねており、同市は導入に向けた環境が整っているようだ。2022年12月にサービスを開始し、2023年中に完全無人サービスの実現を目指す方針としている。
なお、Motionalは、Uber同業のLyftやViaともパートナーシップを結んでおり、Lyftとはラスベガスのほかロサンゼルスでもサービスインしている。Uberとの協業でも、早い段階でカリフォルニア州に進出する可能性が高そうだ。
【参考】UberとMotionalについては「トヨタ、Uberに浮気された?自動運転の相棒はMotionalなのか」も参照。
Waymoもフェニックスで移動と輸送を開始
2023年5月には、UberとGoogle系Waymoの複数年にわたるパートナーシップも発表されている。アリゾナ州フェニックスで人の移動を担うとともに、Uber Eatsにおける配送も行うとしている。
Waymoにとって、フェニックスは自動運転サービス生誕の地だ。同月には、サービス対象エリアを約2倍に拡大したことも発表している。自社アプリにとどまらず、すでに市民権を得ているUberを介してサービスを提供することで、利用者増を図っていく構えのようだ。
自動運転開発の雄・Waymo×世界最大の配車プラットフォーマー・Uberのポテンシャルは計り知れない。両社はかつて、企業秘密をめぐり訴訟沙汰に発展したこともあったが、良好な関係を再構築し本格サービスに乗り出せば、世界各国の開発企業にとって脅威となり得る。今後の展開に注目したい。
【参考】UberとWaymoの取り組みについては「莫大なGoogleの自動運転開発費、Uberと提携し回収に道筋」も参照。
Nuroの車道走行ロボットも導入
車道を走行するタイプの自動配送ロボットの開発を手掛ける米Nuroも2022年9月、Uberとの複数年にわたる提携を発表した。
Uber Eatsの配送に自社ロボットを使用する内容で、同年秋にもテキサス州ヒューストンとカリフォルニア州マウンテンビューで配達を開始するという。
【参考】Nuroの取り組みについては「ついにUber Eatsが自動運転配送!配送車開発のNuroと契約」も参照。
Aurora Innovation×トヨタ勢も追い上げ?
Uberの自動運転開発部門を買収したAurora Innovationも自動運転タクシーの開発を進めている1社だ。オーロラはATG買収時、Uberとの戦略的パートナーシップも発表しており、自社テクノロジーをUberのプラットフォームに導入する計画を発表している。
2021年にはトヨタやデンソーとの提携を発表した。トヨタのAutono-MaaS車両「シエナ」に自動運転システム「Aurora Driver」を統合し、2024年にもUberのプラットフォームに導入していく。
2021年にAurora Driverを搭載したシエナを発表しており、現在公道実証を進めているものと思われる。
また、トヨタも2016年にUberと提携を交わしている。当初はライドシェア領域における協業を検討していく内容だったが、2018年に協業を拡大し、自動運転技術を活用したライドシェアサービスの開発促進と市場投入を進めていくこととしている。
当時はUber自身が自動運転開発を進めており、トヨタのシエナを自動運転化する取り組みが主軸となっていた。この取り組みを実質的にAurora Innovationが引き継いだ格好だ。
【参考】Aurora Innovationとトヨタの取り組みについては「トヨタ×オーロラ、提携の真意は?自動運転ラボの下山哲平に聞く」も参照。
■モビリティプラットフォームをめぐるビジネスモデル
Uber主導?それとも開発企業が主導?
上記のように、Uberは自動運転開発各社とパートナーシップを結んでいる。自動運転の自社開発を断念してから、明らかにその取り組みを加速している印象だ。
ただ、見方を変えれば、Uberはあくまで受け皿であり、自動運転開発企業がUberのプラットフォームにすり寄っているようにも見える。
人の移動やデリバリーをマッチングする世界最大のプラットフォームは、自動運転サービスの実用化にもってこいのソリューションと言える。
Uberにとっては、従来のギグワーカーに依存しない形でサービスを提供でき、自動運転サービス企業は無人車両で報酬を受け取ることができる。
プラットフォームをめぐるビジネスモデルは?
各社共通の疑問だが、自動運転車やロボットがUberのプラットフォームを介して仕事を行った場合、開発企業に報酬が入るのだろうか。あるいは、Uberが車両などをリースまたは購入し、直営する形式なのだろうか。
前者の場合、自動運転開発企業やサービス企業に大きなメリットが生じる。Uberがメリットを見出すには、人力の場合と報酬を区別しなければならない。
一方、後者の場合は両者にメリットが生じる。開発企業は自動運転車を売ることができ、Uberは直営スタイルで無人サービスの収益を得ることが可能になる。
ライドシェアを主体とするUberのマッチングプラットフォームサービスは、まだまだ開発と拡大の段階にあり、完全な黒字体質には至っていない。自動運転導入を契機に業績がどのように変わっていくか、またどのようなビジネスモデルを打ち出していくのか、今後の動向に引き続き注目したい。
■【まとめ】ビジネスモデルの正解は?
プラットフォームサービス×自動運転のビジネスモデルは、構築の仕方次第で収益の行方も変わりそうだ。Uberがどのような戦略で自動運転の導入を図っていくのか、また各開発企業もどのような戦略のもとUberに接近していくのか、各社の思惑が知りたいところだ。
いずれにしろ、世界最大級のモビリティプラットフォームで無人化が進み始めたことに変わりはない。今後、米国以外のサービスエリアにどのように波及していくのか、またCruiseのように独自アプリでサービスを展開している企業にどのような影響が出てくるのか――といった観点にも注目したい。
【参考】関連記事としては「Uberのライバル企業「人の代わりに自動運転車」示唆」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)