自動車業界における覇権を争うトヨタ。その競争は、自動運転をはじめとした次世代モビリティの登場によって異業種を巻き込む形で拡大の一途をたどっているが、その開発領域は道路にとどまらず、空にも及んでいる。
この記事では、空飛ぶクルマをはじめとした「空の領域」におけるトヨタの取り組みに迫る。
<記事の更新情報>
・2023年4月25日:Joby Aviationの型式証明の申請について追記
・2022年10月3日:記事初稿を公開
記事の目次
■Joby Aviationとパートナーシップ締結
トヨタは2020年1月、eVTOL(電動垂直離着陸機)開発を手掛ける米Joby Aviationとの協業を発表した。Joby Aviationに3.94億ドル(約450億円)を出資するほか、自動車事業で培った強みをeVTOL開発・生産に生かし、将来的な空のモビリティ事業への参入を検討する。
eVTOL開発・製造における技術は、電動化や新素材、コネクテッドなどの各分野において次世代環境車の技術との共通点が多く、eVTOLは自動車事業との相乗効果を生かした新たなモビリティ事業に発展する可能性があるという。
こうした観点から、協業においては生産技術の見地で設計や素材、電動化の技術開発に関わるとともに、トヨタ生産方式(TPS)のノウハウを共有する。最終的には、高品質で信頼性、安全性、厳しいコスト基準を満たすeVTOLの量産化を目指す構えだ。
3.94億ドルの出資は、Joby Aviationの総額5.9億ドルに及ぶ資金調達Cラウンドにおけるもので、トヨタがリードインベスターを務めた。出資に伴い、トヨタの友山茂樹副社長がJoby Aviationの取締役会に加わることも発表されている。
Joby Aviationはその後、2020年12月に米Uber Technologiesの空飛ぶクルマ開発事業Uber Elevateの買収を発表したのを皮切りに、2021年6月にはスカイポートの開設に向け駐車場オペレーターのREEF Technologyと提携、同年12月にはレーダー開発を手掛けるオーストリアのInrasの買収をそれぞれ発表するなど、技術の向上や実用化に向けた取り組みを着々と進めている。
2022年2月には、韓国でのエアタクシーサービス導入に向け、通信大手のSK Telecomと提携したことを発表している。日本では、トヨタのほかANAホールディングスともパートナーシップを結ぶなど、グローバルな展開を見据えている。
Joby Aviationは2021年にニューヨーク証券取引所への上場も果たしている。トヨタは、主要株主として開発・製造面のみならず多方面で同社のeVTOL実用化を推進する役目として期待が寄せられるところだ。
【参考】Joby Aviationについては「Joby Aviationとは?「空飛ぶクルマ」で世界をリード(2022年最新版)」も参照。
Joby Aviationの型式申請を受理
Joby Aviationに関しては、国土交通省が2022年10月に同社の空飛ぶクルマの型式証明の申請受理を発表したことを知っておきたい。このケースは、「外国製」の空飛ぶクルマとしては日本初のことで、国内外を問わない場合、SkyDriveに続いて2例目となっている。
以下の国土交通省の発表資料からは、申請した機体の概要を知ることができる。機体には、主翼に4つ、機体後部に2つ、向きを変えることのできる電動推進ユニットが搭載されており、胴体の長さは7.3メートル、翼幅は10.7メートル。パイロット1人と乗客4人が搭乗できるスペースがあり、航続距離は約240キロとされている。
▼米国Joby Aviation からの空飛ぶクルマの型式証明の申請受理について
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001517719.pdf
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ、すでに3件の型式証明が申請されていた!」も参照。
■豊田鉄工などがSkyDriveに出資
国内においては、トヨタグループの豊田鉄工がSkyDriveに出資しているほか、子会社のトヨタテクニカルディベロップメントがサポーターに名を連ねている。
SkyDriveの前身となる有志団体CARTIVATORはトヨタ出身の福澤知浩氏らが開発をリードしており、福澤氏はSkyDriveのCEOを務めている。CARTIVATOR時代はトヨタをはじめとするグループ各社が支援を行っていた。
SkyDriveの出資企業の中にトヨタは入っていないが、今後同社の開発機やサービスの具体化とともに相乗効果を生み出すパートナーシップの道が拓かれる可能性も十分考えられそうだ。
【参考】SkyDriveについては「空飛ぶクルマベンチャーSkyDrive、「2025年の事業開始」へまた一歩前進」も参照。
■ブルーイノベーションとパートナーシップ
トヨタは、ドローンやロボット、各種デバイスを遠隔・目視外で自動制御・連携させるデバイス統合プラットフォームの開発を手掛けるブルーイノベーションともパートナーシップを結んでいるようだ。
同社は、2022年6月に開催されたドローンの展示会「Japan Drone 2022」において、パートナー企業との取り組みや業務自動化・DXソリューションを紹介した。この中で、トヨタとの 「ドローンポート&管理システム」も紹介されている。
トヨタが開発を進めているモビリティ連携システムに対し、ドローンの統合管理・制御に強みを持つ同社が開発をサポートし、物流ドローンの社会実装を念頭に置いた試作機を展示したようだ。
ブルーイノベーションは、空飛ぶクルマ向けのバーティポート実用化に向け英Urban Air Portと業務提携を結ぶなど、着々と空の領域における事業を強化している。
将来、空や陸などの各種モビリティを連携させる段階に達した際、こうした取り組みに大きなスポットが当たりそうだ。
【参考】ブルーイノベーションについては「空飛ぶクルマの「空港」が日本にも!?気になる業務提携」も参照。
■空の移動革命に向けた官民協議会に参画
トヨタは2021年から「空の移動革命に向けた官民協議会」にJoby Aviationとともに参画している。プレゼン資料では、ビジョンに「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」、ミッションに「わたしたちは、幸せを量産する」をそれぞれ掲げ、Joby Aviationとのパートナーシップについて紹介している。
参画に向けた主たる目的は公表されておらず、Joby Aviationのパートナーとしての位置付けが濃厚だが、Joby Aviationの日本進出をサービス実装面でもアシストするのかもしれない。
開発者サイドや製造サイドとしての立場だけでなく、空陸を連携させたMaaSを推進する立場としても何らかの動きを見せる可能性がありそうだ。
【参考】空の移動革命に向けた官民協議会への参画については「トヨタが空も制す!?空飛ぶクルマの官民協議会に新たに参画」も参照。
■空飛ぶクルマ関連特許の出願も
空飛ぶクルマの自社開発は行っていないように思われるトヨタだが、米国を拠点に研究開発を手掛けるトヨタモーターエンジニアリングアンドマニファクチャリングノースアメリカ(TEMA)が過去、空飛ぶクルマ関連の技術を米特許商標庁に出願している。
2014年には、「shape morphing fuselage for an aerocar(エアロカーに変形する胴体形状)」や「stackable wing for an aerocar(エアロカー向けに積み重ねることができる翼)」といった技術を出願している。
現在主流の垂直離着陸が可能なeVTOLではなく、自動車をベースに翼を展開・格納可能な仕組みを搭載し、陸上の走行と空の飛行を両立させる技術のようだ。自動車メーカーらしいアプローチと言える。
将来、Joby Aviationとの協業などで得た知見を活用し、空陸両用のオリジナルモデルの開発を本格化することも考えられそうだ。
【参考】トヨタの特許出願については「「空飛ぶクルマ」参入のトヨタ、実は2014年に特許出願していた」も参照。
■Woven Cityでは空飛ぶクルマが飛行?
トヨタが静岡県裾野市で建設を進める実証都市「Woven City(ウーブンシティ)」。同所では、パートナー企業とともに未来都市の形成に向けたさまざまな実証を行う予定だ。
このウーブンシティのプロモーション用メディアキットを見ると、空飛ぶクルマやドローンのような物体が2機飛行していることを確認できる。
あくまで未来のイメージに過ぎないのかもしれないが、ウーブンシティを活用した各種実証が行われる可能性は決して低いものではない。Joby Aviationをはじめ、新たなパートナー企業のウーブンシティへの参画に期待したいところだ。
【参考】Woven Cityについては「トヨタWoven City、住宅は4〜6階の「低〜中層」中心か」も参照。
■【まとめ】海や空のモビリティも視野に
将来、陸や海、空のモビリティが連動する形で効果的なMaaS(Mobility as a Service)を形成し、より効率的な人の移動やモノの輸送を実現することが予想される。
モビリティカンパニーを目指すトヨタにとっては、海や空のモビリティも視野に入れた事業展開が求められるのかもしれない。どのような形でビジネスやサービスを具体化していくのか、今後の動向に要注目だ。
(初稿公開日:2022年10月3日/最終更新日:2023年4月25日)
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)