“住めない街”続々…自動運転テスト向け、仮想の”人”も歩き出す?

シンガポール、中国、アメリカ...



自動運転車の走行テスト専用のまち「自動運転タウン」が世界各国で続々と誕生している。通常、公道では安全性の観点などからテスト走行は一定の制限が付されているが、住民のいない自動運転タウンならより思い通りのテスト走行ができるメリットがある。各種メーカーのみならず国家をあげてのプロジェクトに発展してきた自動運転の開発競争は、一から模擬インフラを整備する段階まで来たようだ。

■シンガポール:電波障害実験のためのビル、雨の再現ゾーンも

自動運転車の研究開発に力を入れるシンガポールの南洋理工大学(NTU)は、シンガポール陸上交通庁(LTA)と通商産業省(MTI)の法定機関であるJTCコーポレーションと共同で、自動走行車のテストセンター「Centre of Excellence for Testing & Research of AVs–NTU (CETRAN) 」と2万平方メートルのテストサーキット「CETRAN Test Circuit」を構内の一角に造成した。







南洋理工大学の自動走行車向けのテストコース=出典:同大学リリース

サーキットには公道と同じように交差点や信号機、バス停、横断歩道、電波障害の影響を図るためのビルなどが設置されており、さながら人が住んでいないミニタウンだ。雨や洪水を再現するゾーンも備わっており、異なる気象条件下でのテスト走行も可能だ。

なお、NTUは自動運転シャトルバスの開発を手掛ける仏スタートアップ企業NAVYA(ナビヤ)社と自動運転バスの実用化に向けた提携を2016年から2年間行っており、2018年1月にはスウェーデンのバス製造大手ボルボ・バスと共同で自動運転EV(電気自動車)バスの開発を発表した。2019年初めの実証実験開始を目指している。

中国:至る所にセンサーを設置した国家主導のインフラ協調型”都市”

中国では、信号機や建物などインフラの至るところにもセンサーを設置し、歩行者や障害物、路面状況などを自動車に送信するインフラ協調型の自動運転シティー計画を進めている。国家主導のもと、上海や北京、重慶など主要6都市で計画が進められているという。

上海郊外にある安亭地区では、まず関連企業の集積地が作られ、人が住んでいない地域に試験区域を整備。5キロ平方メートルのテストコースを設けた。区域内での走行実験では、スマートフォンを持った歩行者や自転車の人形を使用し、スマートフォンから送られた位置情報や信号機の情報などを自動運転車が受信し、乗員に注意を促したり加減速を制御したりした。構想では、2019年に100平方キロメートルの範囲での公道実験に移行する予定という。

また、中国では2035年に北京市近郊に新たなまちを開発し、区域内の個人の乗用車を全て自動運転にするといった構想も進められているという。自動運転車を前提にインフラやルールを一から作り上げる都市開発の発想は、自動運転によって新たなイノベーションを起こし世界をリードするという中国政府の本気度を示している。

アメリカ:リアルな街並みを再現したミニタウン「M City」

米ミシガン大学は、ミシガン州政府の次世代の自動車産業拠点構築の意向を受けて「モビリティ・トランスフォーメーション・センター」を設置し、その中核実験施設として市街地や郊外の道路を再現したミニタウン「M City」を建設した。

ミシガン大学構内に作られたミニタウン「M City」=出典:同大学メディアリソース

広さ約13万平方メートル、東京ドーム2.8個分の敷地には、交差点や踏切、信号や道路標識、ロータリー、高速道路の入り口、建物(正面部分のみ)、建設障害物、歩行者を模したダミー人形などが設置されており、あらゆる角度から自動運転車やコネクテッドカーの実証試験を行うことができる。

このほかにも、センサー類の認識テストに役立つよう泥や落書きで汚された道路標識、色が薄くなった車線なども用意されており、実際の街並みと比較しても遜色のない出来栄えだ。パートナー企業は60社に達し、トヨタホンダなど日本の企業も名を連ねている。

■アメリカ:軍用施設跡地を活用した「ゴーメンタム・ステーション」

かつてコンコード海軍武器基地として使用されていたゴーストタウン。荒廃した建物、ひび割れた道路、生い茂る植物、自由に闊歩する野生動物が存在する環境を、自動運転の走行テストに活用しているのが「ゴーメンタム・ステーション」だ。

舗装されていない道路など不確かな環境は、人工知能(AI)やセンサー類の精度を高めるのに非常に有効で、ホンダが公開実験などをおこなっているほか、AIの研究開発を行うトヨタ系列のトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)も同所を利用する契約を締結したという。

■ダミー人形ではなく、いずれ人型ロボットも登場する?

一般の自動車や歩行者が行き交う公道ではなかなか実施できない走行テストをリアルな環境でおこなうことができる自動運転タウン。韓国でも広大な敷地を使った「K-City」の運用が進んでいるようだ。そのうち実証実験向けに置かれたダミー人形の代わりに、AIでさまざまな動きをする人型ロボットがまちを歩き、より現実の環境に近い状態で自動運転車の開発が進んでいくかもしれない。







関連記事